アテンションエコノミーにおける倫理的なデザインの重要性

Samvith Srinivas

Samは、テック企業Arityのデザイン戦略を率いています。倫理的なデザインの重要性を熱心に支持しており、人間中心設計と研究のリーダーとして10年以上の実績があります。

この記事はThe UX Boothからの翻訳転載です。配信元または著者の許可を得て配信しています。

A Strategy for Ethical Design in the Attention Economy

今日までに無数のデジタル製品が作られてきました。そして、その結果として世界中で意図しない悪影響が起きています。韓国では政府がインターネット中毒者のリハビリセンターを設立し、インドでは多くの人が自撮り中に死亡し、アメリカではスマホに気を取られていたせいで死亡した人数が3,477人(2015年)にも上りました。このような調査結果から、スマホがさまざまな場面で私たちの注意を散漫にさせていることがわかるでしょう。

スマホの通知は、複雑なタスクのパフォーマンスに悪影響を及ぼします。また、単にスマホが存在するだけでも、タスクのパフォーマンスは悪化することが実証されています。このタスクには、多くのデザイナーが日常的に行うワイヤーフレームやメール連絡なども含まれるでしょう。

このような注意散漫な状態は、私たちの健康と幸せに悪影響を及ぼします。気が散ったことで失われた時間を補うために、私たちはせわしく働くことになり、より強いストレスとフラストレーションを感じるでしょう。また、注意が散漫になると、心が迷いが生まれ不幸になりやすいことが実証されています。自分から離れたところで電話が鳴ると、血圧、心拍数、不安やフラストレーションの値が上昇するのです。

テクノロジーは人類に悪影響を及ぼしています。デザイナーである私たちの行動は、ユーザーを手助けするよりも傷つけていることが多いです。その結果、デザイナーが意図したものとは反対の結末を迎えます。

ユーザーを害する結末を招いた経緯と理由

このような事態を招いた原因は、影響が出るまで気づかなかったことと、問題に対するデザインの意思決定が後手に回ったことにあります。Tristan Harris氏、Joe Edleman氏などのテック業界内部の関係者は、大手企業やアプリ開発者が恣意的な意思決定をしていたことを語っています。この意思決定の背景には、収益のために人々の関心を集めて維持せよという、アテンション・エコノミー(attention economy)の重圧がありました。加えてTristan氏らは、ユーザーの関心を奪い取ろうとする「テクノロジー・ハイジャック(technology hijack)」についても指摘しています。ハイジャックの例としては、「瞬時の中断」があります。瞬時の中断とは、メールやソーシャルメディアを瞬時にユーザーに通知する設定を、アプリのデフォルトにすることです。

大手テック企業の作り出したこの厄介なトレンドに社会が対抗しようとする中で、Tristan氏と彼のチームは、HumaneTech.comを立ち上げました。彼らは、4つの主要な領域に対する戦略を提案しています。

  1. 大手テック企業に人道的なデザインを奨励し、
  2. 政治的圧力を掛け、
  3. 文化に根付かせ、
  4. 従業員の関心を引きます。

これらの4つは相互に関連しており、どれも知っておくべき重要な領域です。そのため、少なくとも十分な情報を知れるように、彼らの活動についてさらに学ぶことを強くおすすめします。

今回、私はデザイナーとしてできることに注目したいと思います。Tristan氏とそのチームのように、「従業員のエンゲージメントを高める」ための努力についてです。

利益を生み、かつ信頼できる製品を作るために

利益を生み、かつ信頼できる製品を作るためには、以下の戦略が有効です。この戦略には、3つの主要な要素があります。

1.個人的な目的を見つける

あなたにとってもっとも重要な価値観と原則は何ですか? 個人や仕事の悪癖をどうしたいと考えていますか? 力や目的の意識を与えてくれるものは何ですか?

Dacher Keltner氏らの研究によれば、個人はより大きな善意に従事することで力を手に入れられます。善の意識こそが、デザイナーとしての出発点です。

あなたの目的は何ですか? 目的を理解することで、自分の行動がその目的に沿っているかどうかを評価することができます。これが次の戦略の要素に繋がります。

2.個人の目的を会社と製品の目的に合わせる

あなたの個人的な目的を見つけたら、その目的を、働いている会社の目的やデザインしている製品の目的と合わせましょう。

あなたが働いている会社の使命は何ですか? 製品の目的は何ですか?

製品の目的が、会社の目的や使命に適っていることを確認してください。企業がミッションを持つことは珍しくありません。いくつかの例を記載しましょう。

「最高の製品を作り、不必要な害を起こさず、ビジネスを使って環境問題の解決策をインスパイアし、実行します」- patagonia

「私たちの使命は、人々を交通機関でつなぎ直し、コミュニティをまとめることです」- Lyft

「あなたの居場所はどこにでもある。それこそが当社の中心にあるアイデアです。」- AirBnB

あなたが働いている会社を分析し、あなたとチームの行動がその使命に沿ったものであることを確認してください。

3.継続的な分析と普及活動

ここまでで、個人的な目的を見つけて、製品や会社の目的に合わせる努力をしてきました。倫理的なデザインの最後の要素は、製品のデザインが個人的な目的、製品や企業の目的に沿っているかどうかを継続的に評価することです。

もし沿っていなければ、適切なステークホルダーを特定して、伝えたいメッセージを教える必要があります。自分の目的が十分に確立されていれば、この普及させる努力はより効果的になります。

まとめ

上記で記した3つの主要な要素は、典型的なデザインプロセスの一部として実行される、デザインリサーチの補完として行われるべきでしょう。

収益性が高く、信頼できる製品を構築するという目標を追求するときには、この戦略を活用するか、新しい独自の戦略を構築するようにしましょう。どちらを選んだとしても知っておいて欲しいのは、自分には能力があるということです。

デザインコミュニティにいる私たちは、倫理的な製品を構築できる能力と影響力を持っています。利益を生む製品か信頼できる製品のいずれかを選択する必要はありません。私たちには、利益を生み、かつ信頼できる製品を構築できる能力があるのです。

このメッセージを受け入れることで、20年後や30年後にこの時代を振り返ったとき、私たちのコミュニティは、人道に沿った製品を作り、自分たちの大志に応えたと胸を張ることができるでしょう。


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