この記事を読んでいるならば、すでにプロトタイピングのポテンシャルの高さを知っていることでしょう。
しかし、プロトタイプについて誤解している人はあまりに多く見受けられます。プロトタイプが企業のカルチャーや時代遅れの技術、政治によって制約されてしまうことも多々あります。その結果、製品がどれほど優れたユーザー体験になり得たのか、誰も知ることができなくなるのです。
プロトタイピングは、完成品に向けて何度も反復するためのツールだと認識している人がほとんどです。この理解によれば、プロトタイプに追加されるものはすべて実用的でなければなりません。また、周囲からプロトタイプについて合意を得たら、その合意された技術スタックで作成しなければなりません。そのため、実用的ではないものや、決して承認されないだろうものをプロトタイピングしても意味がないことになります。
しかし、こういった考え方は、プロトタイプの効果を制約することに直結してしまいます。開発チームが不可能だと判断するだろう、もしくは、経営陣が却下するだろうと予測したせいで、私たちはユーザー体験の品質を妥協し始めるのです。
プロトタイプが技術やステークホルダーによって制約を受けてはいけません。代わりに、それらをより良い体験のビジョンを描くために利用しましょう。
プロトタイプを制限してはいけない
上記のような態度は間違いです。プロトタイプに実用的ではない部分があると判断すると、私たちはさまざまな思い込みをしてしまいます。極論を言えば、作ろうと思えば何でも作ることはできるのです。つまり問題は、どれだけ労力と時間を費やす意思があるのかにあります。
ステークホルダーが何を受け入れ、何を拒否するのかについて、私たちは大きな誤解をしています。その判断は、実際に試してみるまでわかりません。もっとも重要なのは、このような制約がある中でプロトタイピングを実施すると、最初から目標が低くなりすぎてしまうことです。ステークホルダーは、どれほど素晴らしいユーザー体験になり得たのか、決して知ることはないでしょう。
経営陣に最善を示す
ステークホルダーが興奮するような優れたユーザー体験を見せれば、彼らにそれを実現したいという動機が生まれます。体験がどれだけ良いものになり得るのか示されるまで、ステークホルダーは価値を判断することができません。示されて初めて、製品を実現させるために必要な妥協案を考えようと思います。
主張を承認してくれる人が誰なのかという仮説は驚くほど間違っています。アプローチを却下するだろうと思っていた人が、将来性を見出したときに最大の支持者になることもあるのです。
立証責任を転換する
単に素晴らしいプロトタイプを提示するだけで、会話の方向を変えることができます。たとえば、あなたは既存の技術スタックでは実現不可能に思える体験をデザインしたいとしましょう。技術スタック全体を変える必要があると経営陣を納得させられるかどうかは、あなた次第です。険しい戦いになることでしょう。
しかし、技術的な制約を無視したプロトタイプを作成し、経営陣がそれを気に入ったとしたら、技術スタックがそれに対応できない理由を説明するのは開発者になります。立証責任が転換されるのです。
技術スタックの制約の中でデザインしてはいけません。技術の役割は優れたユーザー体験を助けることであり、妨害することではないのです。
最初の目標は高くして、あとから妥協する
完璧なユーザー体験をプロトタイピングすれば、簡単に全員に納得してもらえ、承認してもらえると言っているわけではありません。妥協すべき部分が生まれるでしょう。しかし、高い目標から妥協すべき点を探すことになるので、ユーザーとビジネスが失うものをわかりやすく把握できるようになります。ベストプラクティスの姿を全員に提示しなければ、古い技術スタックや時代遅れの風習のせいで支払われるだろう代償を知ることは決してできません。
プロトタイプを論点として提示する
このアプローチが成功する鍵は、プロトタイプを論点として提示することにあります。プロトタイプを最初に反復する際は、これから構築するものではなく、何ができるのかというビジョンを示しましょう。そうすれば、驚くほど優れた案を承認してもらえます。