この記事はChris Risdon氏とPatrick Quattlebaum氏のOrchestrating Experiences: Collaborative Design for Complexityの第2章からの抜粋です。Rosenfeld Mediaより、書籍とeブックが利用可能です。
マーケティング業界の用語である「タッチポイント」が「チャネル」という用語と共に少しずつ企業に浸透しつつあります。従来のマーケティングでは、顧客セグメントごとにキャンペーンを実施することで製品やサービスに対する需要を喚起していました。また多くの場合、キャンペーンにはいくつかの戦略があり、CMやダイレクトメール、バナー広告などを組み合わせて、ブランドに対する認知やオファーを増加させます。こうしたマーケティングによる顧客のやり取りを「タッチ」と呼びます。そして、コミュニケーション自体を「タッチポイント」と言います。
マーケティングチームは、タッチポイントの作成や測定の際にいままで以上に科学的手法を用いるようになりました。ある目的のために、どのチャネルを通じて、どれ位の頻度で顧客とタッチするかという戦略は、顧客関係管理(CRM)のようなアプローチにより可能になっています。いまでは、タッチポイントの監視と測定を行う新しいCRMツールが存在しています。このようにタッチポイントという用語は、ブランディングや顧客体験においてますます一般的なものになっています。そして、顧客のブランドとの接触を数量化し、正確に説明できるようになりました。
ほかの分野、たとえばサービスデザインなどでも、タッチポイントの定義と繋がりに注目が集まっています。レストランにおける店員のサービスや、ドライバーが空港で車のドアを開けてくれる際のインタラクション、またはセラピストとのコミュニケーションなど、多くのタッチポイントは実体のないものです。たとえば、会話は心に残りますが、作られた物体ではありません。また、目に見えないサービスやブランドを強調するために、あえて実体のある証拠を残すこともあります。たとえば、ホテルの枕の上にカードとミントが置かれていることがありますが、これはきちんとベッドメイキングしたというサービスを強調するためのものです。
顧客中心アプローチへの関心の高まりと製品やサービスのデジタル化によって、マーケティングや顧客体験、サービスデザインの用語が生まれました。そして、タッチポイントという言葉はますます一般化しつつありますが、あまり正確ではありません。この曖昧さの原因は、さまざまな部門において微妙に違う意味で同じタッチポイントという言葉が使われていることにあります。同僚の誰かがタッチポイントと言っていたら、その人はモバイルアプリなどのデジタル製品について話しているかもしれませんし、機能(例:パスワードリセット)やチャネル(例:メール)、役割(例:コールセンター)などについてのことかもしれません。
体験を統合するには、複数の分野をまたいだ調整が必要です。異なる時間や空間、チャネルにおけるカスタマージャーニーをサポートする基礎となるのがタッチポイントです。そのため、タッチポイントを定義し共通のアプローチを設定することで、より良い顧客体験につながるでしょう。
タッチポイントに対する共通のアプローチ
ここが、ややこしい点です。体験を統合するためには、2つの異なる視点からタッチポイントを考えなければなりません。
1つ目。顧客は、企業や製品に特定のコンテキスト下で遭遇します。この遭遇は意図的なものかもしれませんし、意図的ではないかもしれません。この遭遇を観察して何が起きているかを描写し、その効果を見極めましょう。この遭遇のことを、タッチポイントと言います。ブランディング担当が言うように、このタッチポイントは、ブランドや製品に触れる顧客の印象に対してポジティブにもネガティブにも影響します。
2つ目。企業は、顧客と接触するモーメントをあらかじめデザインすることができます。企業は、提供したい価値を決めて、顧客と接触するチャネルを設定し、顧客ニーズを満たすように適切にデザインをします。そして、これらの選択がタッチポイントを生み出すのです。タッチポイントには、企業が用意しているものもあれば、その瞬間に顧客と作り上げるようなタッチポイントもあります。たとえば、お店の入り口で出迎えをする人は、週ごとのスペシャルクーポンを手渡しつつ挨拶をするトレーニングを受けているでしょう。オンラインショップでもトップページのコピーライティングで顧客を迎えて、その下にその週のスペシャルオファーを配置できます。これと同様のタッチポイントは、さまざまなチャネルや方法で提供することができます。
タッチポイントは、異なるチャネル、空間、時間における体験を構造化したコンセプトです。企業は、さまざまなコンテキストにおける顧客ニーズを満たすシステム全体を作ることができます。このシステムは、相互に繋がったものあり、新たなチャネルやインタラクションに対応できるように拡張性高いものにすべきです。
このようなエンドツーエンドの体験に対するシステマチックなアプローチでは一貫性が求められます。そのため、組織内においてタッチポイントをきちんと定義する必要があります。あるとき、私の同僚がこのように聞いてきました。
「タッチポイントとはお出迎えをするものではないのですか?」
「Webサイトのウィークリースペシャルは単なる機能ではないのですか?」
店舗運営とプロダクトマネジメントというそれぞれの領域から考えると、答えは「その通り」となります。しかし、体験を統合するためには、言葉を統一しなければなりません。タッチポイントは以下のように定義できるでしょう。
- 特定のニーズに対して明確な目的をもつもの
- それ単体かまたは組み合わせることでカスタマーモーメントを形成するもの
- 多様だが特定の役割を担うもの
- 適切性や効果性を評価・測定できるもの
目的は何か?
チャネルやコンテキスト、インタラクションに応じて、タッチポイントはさまざまな形をもちます。注文に関するお問い合わせ担当者との会話は、電話やオンラインチャット、ビデオ、テキストメッセージ、メールなどでサポートされます。これらのタッチポイントでは、共通した明確な目的を設定すべきです。
同時に、定義や成果物、測定方法に関する共通原則も決める必要があります。このあと説明しますが、一般的に製品やサービスの収益構造には複数のチャネルが存在します。タッチポイントはチャネルごとにそれぞれ個別にデザインされますが、共通点を持ちます。ベースとなる目的を定義することで、異なるチャネルにおいて同じ種類のタッチポイントを特定できるようになります。また、これによってクロスファンクショナルなチームでも、各チャネルにおける体験の一貫性を比較し、改善することができるようになります。
モーメントを作る
個々のタッチポイントの裏側にある目的は、個別に決定してはいけません。個々のタッチポイントを組み合わせて全体の体験をデザインすることで、タッチポイントはより効果的になります。タッチポイントは異なるコンテキストにおいて異なる組み合わせで提供される可能性があるので、カスタマーモーメントにおける役割のひとつとしてタッチポイントを見なすと良いでしょう。
この概念をフレームワークにしたのが下図です。顧客がモーメントからモーメントへと移動すると、そのジャーニーをそれぞれ異なるタッチポイントがサポートします。これらのタッチポイントの中で、そのサービスを特徴づけるカスタマーモーメントを形づくるものはわずかしかありません。そのほかのタッチポイントは、顧客の特定の行動をサポートするものもあれば、より抽象的な役割を果たすものもあります。また顧客の一部のみが触れるタッチポイントも存在します。
異なるモーメント、異なる役割
タッチポイントを定義し始めると、それぞれのタッチポイントの役割や特徴について話しやすくなります。タッチポイントの役割には、主役、ブリッジ、リカバリーがあります。
主役:製品やサービスに関するすべての側面が、顧客へ価値を提供しているわけではありません。主役のように特徴の持つタッチポイントは、顧客との重要なモーメントを作る手助けとなります。このタッチポイントの例には、USAAの業界初モバイル当座預金や、Zappoの簡単返品、Amazon Dashの再注文ボタンなどがあります。
ブリッジ:モーメントからモーメントへ、チャネルからチャネルへと顧客が移動するのを手助けするには、タッチポイントが重要です。ブリッジタッチポイントの中には、中継としての役割を果たすものがあります。たとえば、お問い合わせの電話において窓口担当者がお問い合わせ内容の担当者に上品に会話をつなぐときなどが挙げられます。ほかにも、2つかそれ以上の関連するタッチポイントを繋ぐブリッジも存在します。たとえば、メールに添付されたPDFのコンサートチケットや、プリンターで印刷された紙のチケット、チケットを確認する人間、チケットのバーコードのスキャンなど、これらはすべてチケット購入からショーを見るまでの時間をブリッジするタッチポイントです。
リカバリー:ハッピーな道から顧客がそれてしまったとき、リカバリーのタッチポイントが救出に向かいます。パスワードを忘れたとき、「パスワードを忘れましたか?」というタッチポイントに接触するでしょう。または商品が傷ついていたとき、いくつかのタッチポイントによって交換をサポートします。
これらのものが、タッチポイントが担うもっとも共通的な3つの役割です。この記事を読むことで、あなたはモーメントやタッチポイントを見直して、製品やサービスの体験の中でどのような役割を担うか決定したいと思うでしょう。体験マップやサービス計画を通じてキーとなるモーメントを見るとき、この3つの分類は役に立ちます。
この記事の後編は明日11/28(水)配信予定です。