プロダクトにユーザーを登録させることは大変です。たくさんの時間、エネルギー、費用が必要なのにもかかわらず、最初の体験の直後に、苦労して得たユーザーの大部分を失ってしまうプロダクトが山ほどあります。Andrew Chen氏の調査では、以下ようなことがわかりました。
平均的なアプリは、インストールしてから最初の3日間でデイリーアクティブユーザーの77%を失う。
企業は新規ユーザー獲得のために多大な投資をしますが、初回訪問の直後に獲得したユーザーの大部分を失ってしまうのです。そのような企業にはなりたくないでしょう。しかし、どうすればより上手くできるでしょうか? そのためには、完璧なオンボーディングプロセスを作りあげ、第一印象を素晴らしいものにする必要があるのです。
オンボーディングというのは人事用語で「新人研修」を意味しており、「登録し、利用してもらう手段」としてUXデザイナーによって取り入れられました。言い換えると、初回ユーザーがフルタイムユーザーとなる可能性を高めるプロセスのことです。
オンボーディングをデザインする際、ユーザーをプロダクトに慣れさせ、価値を感じてもらうための検討事項がたくさんあります。
最初に長々としたチュートリアルは行わない
「見せるものは少なく、提供するものは多く」というシンプルなルールに従うことで、ユーザージャーニーにおけるフリクションを減らしましょう。
市場にあるほぼすべてのアプリは、初めて起動した際にスワイプ形式のチュートリアルを表示します。このチュートリアルは、アプリがユーザーに提供する価値を紹介するのが狙いです。
または、もっとも使用頻度の高いアクションを説明することで、アプリの使い方を教えます。
多くのアプリで見かける、長いスワイプ形式のチュートリアルや価値提案のツアーには、多くの問題点があります。
- スワイプ形式のスクリーンでは、ユーザーの勢いを殺してしまいます。新規ユーザーとアプリの間に、壁を作ってしまうのです。チュートリアルが美しくデザインされていたり楽しそうに見えたりしても、それを最後まで見る忍耐力がユーザーにはありません。なぜなら、ほとんどのユーザーはアプリを自分自身で操作し始めたいからです。ユーザーは最初にアプリとの関係を確立して、アプリがどのようなものかを知りたいと思っています。
- ユーザーがアプリを使い始める前にマニュアルを読むことは、期待できないでしょう。インターフェイスの使い方を学ぶのに時間を費やすためにアプリを起動する人はいません。すべてのユーザーが望んでいるのは、できる限り短い時間でタスクを完了することです。なので、アプリを使うための学習が必要であるとユーザーに感じさせないようにしましょう。
オンボーディングを文脈的にする
最初からユーザーに全部を覚えさせるのではなく、ユーザーの進行に沿ってガイダンスを行うべきです。
最初にチュートリアルを見せることは、ユーザビリティの面でもう1つ問題があります。それは、事前準備が必要になってしまうということです。ユーザーは根気よくすべての情報を読み、その情報を記憶しなければなりません。もしユーザーが使い方を読もうと思ったとしても、大抵の場合はすぐにすべてを忘れてしまうでしょう。(残念ながら、短期記憶はあまり多くの情報を保ち続けることはできません)。
新規ユーザーがプロダクトに登録するのは、UIがどのように機能するかを学習することに心を躍らせているからではありません。新規ユーザーは、提供することが約束されている価値に興味を持つから登録するのです。
コンテキストに沿ったオンボーディングアプローチは、静止画面によるチュートリアルの良い代替案です。このアプローチでは、アクションをしたときに役立つ情報を提供します。提供するガイダンスでは、そのインタラクションにおいて必要な情報だけを表示するようにしましょう。これは単純でありながら効果的なデザインテクニックで、さまざまな方法で実装することが可能です。
サンプルデータ
「ウェルカムボード」は、タスク管理アプリTrelloでユーザーが最初に見るものです。このボードは、既に用意されたタスクリストの項目を含んでおり、各項目ではアプリ内のさまざまなインタラクションや機能を説明しています。このアプローチでは、ユーザーは静止画面のチュートリアルよりも効率的に機能を学ぶことができます。
焦点を当てたヒント
コンテキストに沿ったヒントは、Android向けのYouTubeアプリで見受けられます。アプリは、ユーザーの注意を1つの主要アクションに集中させることで、指示の量を最小限にしているのです。ここでは、馴染みのないインタラクションを説明するオーバーレイを使用しています。これらのヒントは、1つずつ表示されるので、新規ユーザーは関連するセクションにたどり着くことができるのです。
インタラクティブツアー
ユーザー自身が進めていく形式のツアーです。ヒントは、ユーザーがあるポイントに到達したときに表示されます。そのため、ヒントが表示される順番は、ユーザーごとに異なります。Duolingoは、実際に使用しながら学ぶことが最善の方法であると理解してます。そのため、ユーザーの進捗に応じてアプリがどのように機能するかを徐々に明らかにしていくインタラクティブな方法を使用しているのです。ユーザーは、まずアプリに飛び込んでみて、選択した言語の小テストを受けるよう促されます。
ヒント:文章による説明とともに視覚的要素を含めると、じっくり読み込まずともユーザーは基礎的な知識を得ることができます。
コンテンツがない状態を活用する
オンボーディング体験の一部として、初回利用時のコンテンツがない状態を考慮しましょう。
コンテンツこそが、ほとんどのアプリやWebサイトに価値を与えるものです。ユーザーはコンテンツを目的としてアプリやWebサイトを利用します。そのため、体験においてユーザーがまだ把握していない部分である「コンテンツがない状態」をどのようにデザインするか検討することは、非常に重要です。
コンテンツがない状態は、オンボーディングを表示するのに適したポイントです。空白のままにしておくのではなく、誘導や学習、利用促進のため効果的に使用すべき場所です。
良い空白は、なにもない空間を意味のあるものに変えることができる。
ユーザーがうまくプロダクトと関わるように促しましょう。
- 何が起こるか予想させることで、ユーザーを落ち着かせる
- 次のステップへ進むための、明確な手順を示す
たとえば、Instagramの登録後にユーザーが見る最初のページは、空っぽです。ほかのユーザーのプロフィールには、写真やいいね、コメントがあるのに、初心者のアカウントには何にもありません。投稿は0、フォロワーも0、そしてフォロー中も0です。アカウントの活性化を容易にするために、Instagramは「コンテンツがない状態」を学習機会に転換したのです。つまり、通常だと写真が表示されるであろうスペースには、「まだ投稿がありません − カメラをタップして最初の写真やビデオをシェアしてみましょう」という説明があり、カメラのオプションを指す矢印も含まれています。
ヒント:見せるか教えるかどちらかの形式で情報を伝えましょう。サンプルデータを追加して投稿後にスクリーンがどのように見えるか示したり、文章でユーザーに教えたりしてあげましょう。
成功状態を導入する
ユーザーが初めて何かに成功したとき、ユーザーを最高の気分にさせましょう。
ユーザーが大事なタスクを完了した瞬間は、ユーザーとプロダクトの間にポジティブなつながりを生み出す素晴らしい機会です。ユーザーにプロセスの進捗を共有し、順調であることを理解させてください。
成功をユーザーと一緒に祝いましょう。
たとえば、メールを作成し送信するWebサービスのMailChimpは、ユーザーが初めてメールを作成し配信設定を行うまでのプロセスのあらゆる場面で、ユーモアが溢れるポジティブなコメントをユーザーに与えます。
ヒント:タスクが成功したときは、プロダクトの特徴を輝かせる好機となります。
計測する
イテレーションを常に回し、すべてを計測しましょう
現在のユーザーのオンボーディングが成功しているかどうか判断して、改善が必要な場所を探し出す場合に、指標は不可欠です。利用する指標を定め、その指標を真剣に追跡しましょう。新しいオンボーディングプロジェクトを始める前に、「このプロジェクトはどう指標を改善できるか?」と自問してみましょう。
インスピレーションを得る
既存のオンボーディング体験を調査するための素晴らしい資料に、UXデザイナーのSamuel Hulick氏によって作り出されたUserOnboardがあります。彼の人気アプリのユーザーオンボーディングプロセスの詳細な説明を読めば、世界でもっとも成功しているアプリのいくつかが、どのようにユーザーを虜にしているか理解することができます。
まとめ
企業が成功するか失敗するかは、ユーザーオンボーディング体験にかかっているのです。オンボーディングをデザインする前に一度立ち止まり、初めて使うユーザーの体験がどのようなものであるべきか考えてみましょう。
ユーザーの生活を改善するのを手伝うという側面から初めのエクスペリエンスについて考えてみるのが一番良いでしょう。インターフェイスに慣れるために新規ユーザーにクリック・タップさせることに焦点を当てるのでなく、アプリを使用することで彼らのゴールを達成させる手助けになるようにしましょう。