「Hyperloop」というものをご存知でしょうか?
Hyperloopは、実業家のイーロン・マスク氏が提唱した超高速輸送システムです。イーロン・マスク氏とSpaceX社は、Hyperloopの技術をオープンソース化することで、企業や学生によるデザインチームが彼らのアイデアを発展させることを奨励しました。
HyperloopデザインコンペをGoogleで検索すると、コンペの優勝チームであるMITを含む、学生チームの提案が出てきます。多くの学生チームの提案は、未来の輸送手段であるHyperloopでどのようなユーザー体験ができるのかについての詳しい説明が欠けていました。これは問題です。
11月の初旬、私はポルトガルのリスボンにいました。そこでWeb Summitカンファレンスに参加し、Hyperloop Oneの創設者であるJosh Giegel氏とShervin Pishevar氏のセッションを聞くチャンスがありました。
Giegel氏とPishevar氏は、Hyperloopプロジェクトがいかに世界中の都市やコミュニティを変える大きな可能性を秘めているのかを話してくれました。Hyperloopプロジェクトは、私たちの交通手段に対する見方そのものを変える力を持っています。Hyperloopは、もはやSFアニメの世界を実現しようとしているのです。
彼らがどうHyperloopをデザインし、ユーザー体験の調査やプロセスを取り入れたかをお話する前に、まずはHyperloop自体について説明しましょう。
参照元: Daily Mail UK
Hyperloopとは?
HyperloopチームはWebサミットでこのビデオを使い、どうやってドバイからアブダビまでたった12分で移動できるのかを説明しました。ビデオのBGMはSF映画で追跡者に追われるときのように激しいものです。このような短い移動時間で済む興奮はHyperloopの核になりますが、Hyperloopではほかにどのようなユーザー体験があるのでしょうか?
Hyperloop Oneでは、Hyperloopを次のように定義しています。
「バス料金と同じ値段で、人や物を飛行機の速さで運ぶ新しい方法です。オンデマンドで、省エネルギーで安全です。移動のためのブロードバント通信のようなものだと考えてください。」
Hyperloopは超高速輸送システムで、人や車、荷物を乗せたカプセルが低圧力のチューブを通り、人々を瞬く間に運びます。Hyperloopで移動に使うカプセルはチューブを静かにすべり、大きく揺れることはないと彼らは主張しています。
「これはエレベーターに乗るような簡単な経験です。お年寄りにも子供にも優しく、酔いません。」-Josh Giegel氏
Hyperloopの背後にある、高い開発コストや工学的なハードル、テクノロジーに関する話は多く語られています。しかし、ユーザー体験やHyperloopのデザインプロセスについてはあまり聞きません。
Hyperloopに懐疑的な専門家もいます。彼らはHyperloopプロジェクトの企画案は、研究コストや地震、停電などの現実的な問題を無視していると主張します。ここでは詳しく語りませんが、もし興味があるのならこちらやこちらの記事を読んでみてください。
人間中心設計
批評家はHyperloopでのユーザー体験が、恐ろしく、不愉快である人もいるのではと心配しています。Hyperloopでの体験は、閉所恐怖症なのに窓のない乗り物に乗って恐ろしく速くと移動するようなものだ、と彼らは主張します。さらにHyperloopの最初のデザインでは、トイレや動き回る場所がないとも言っています。
Hyperloopは人々を運びます。ここで言う人々とはユーザーであり、私たちがUXデザイナーとして、体験をデザインしプロダクトの成功に繋げる必要のある対象でもあります。プロダクトを成功させるためにもっとも効果的なのは、共感やテスト、改善に基づいた人間中心設計の手法です。
人間中心設計の視点からプロダクトをデザインすることで、ユーザー視点に立ち、一時的ではない長く続く成功に繋がるような意味ある改善を行うことができます。
UXデザイナーは、サービスとのタッチポイントにおけるユーザーのモチベーションやゴール、悩みを理解する力を持っています。またユーザー情報を集めて分析し、彼らのインサイトをステークホルダーにわかりやすく共有するスキルを持っています。
ユーザー体験はすべてのタッチポイントで直感的で、機能的で、楽しいものでなければなりません。Hyperloopで移動するときだけではなく、搭乗について調べるとき、モバイルアプリでチケットを予約するとき、Hyperloopの駅に到着するときまで考慮した体験を考える必要があります。
ユーザーの悩みやモチベーション、ゴールを詳しく知るために、ユーザー調査やプロトタイピング、テストや改善に多くの時間を使うことをおすすめします。
ユーザー調査は課題の定義も助けます。HyperloopのUXデザインで使うべきユーザー調査の手法は以下のとおりです。
ユーザー調査の手法1:インタビュー
インタビューによって、Hyperloopユーザーは旅行や移動体験のなにが好きで、なにを望んでいるのかを知ることができます。これはユーザーの悩みやゴールを知るいい機会です。インタビュー時間をHyperloopのコンセプト説明に使い、ユーザーがなにより興奮し、恐れるかを知ることもできます。
インタビューをはじめる前に、インタビュー項目の準備を忘れないでください。インタビュー計画を立てておくと意図したゴールから逸れません。また、質問を深堀する余裕も生まれます。これは、インタビューを実施する際のヒントが書かれた記事です。この記事にある私のもっとも好きな質問内容は「もし魔法の杖を持っていたら、どうしますか?」です。Hyperloopで尋ねるならば「もし魔法の杖を持っていたら、あなたの作る完璧な旅行や移動の体験はどんなものですか?」になります。
ユーザー調査の手法2:共感マッピング
共感は、あなたが別の人の立場に立つのを助けるものです。これはデザイナーが思い込みを捨てて謙虚さを保つ方法でもあります。ユーザー中心設計を用いる人々は、誰のために商品やサービスを作っているのかを理解するのに時間をかける必要があります。
共感マップは、Hyperloopのような新しい超高速輸送システムに対して、人々がどのように感じ、考えるのかを理解する助けになります。共感マッピングはユーザーがどう感じ、なにを考え、なにをして、なにを言っているのかを理解するのに役立つ手法です。これはペルソナとデザインプロセスのギャップを埋めるのに役立ちます。
リアルなデータを使った時に、共感マップはもっとも効果的になります。できるならインタビューやエスノグラフィーなどのユーザー調査後に、共感マップを使ってください。
ユーザー調査の手法3:ペルソナ
ペルソナはユーザーのタイプを表したものです。ペルソナは「誰のためにデザインしているのか」という問いに答えます。これは、特定のユーザーグループに対するストラテジーやゴールの整理に役立ちます。ペルソナはひとりの人として描写されますが、実際に特定のひとりを表すのではなく、現実世界の人を分析し観察し、その特徴を統合して作られたものです。
ペルソナはデザイナーや開発者など、チームのすべてのステークホルダーがユーザーの特徴を捉えるのに役立つ素晴らしい手法です。これは、Hyperloopの潜在的なユーザー数十万人に焦点を当てるよりもずっと役立ちます。
こちらから、ペルソナについてより詳しく知ることができます。
ユーザー調査の手法4:エクスペリエンスマッピング
エクスペリエンスマッピングはあなたのチームが、すべてのタッチポイントでのユーザーの行動・インタラクションを学び、重要な発見をまとめることを助ける手法です。このマップは視覚的に顧客体験のストーリーを語ることで、クリエイターの共感や理解を深めることができる方法です。
エクスペリエンスマッピングに関するAdaptive Path’s のガイドはこちらです。
ユーザー調査後の流れ:プロトタイピング、テスト、改善作業
きちんとしたユーザー調査を行うと、プロトタイピングを作り、テストや改善作業をすることができます。
ここにHyperloopのプロジェクトで、プロトタイピングやテスト、改善を通して問題になった点を挙げます。
- 移動ポッド内での理想の音量はどのくらいか?
- バスルームはあるか?
- 閉所恐怖症の問題に対処する方法はなにか?
- 飛行機のフライトアテンダントと同様に、Hyperloopで移動する間に利用できる顧客サービスはあるか?
- 時速760マイルよりもゆっくり飛ぶべきか?
- 個人の荷物を預けるカスタマーストアはどこにあるか?
Hyperloopのデザインチームには素晴らしい体験を設計するために、技術者や建築家、公共政策関係者や都市プランナー、芸術家などさまざまなバックグランドを持ち多くの学問領域にわたるメンバーが集まっていることが大切です。お互いに補い合う、さまざまな分野のメンバーによるコラボレーションは、チームをより豊かにし成功に導きます。これはリベラルアーツの卒業生を雇うことで得られる素晴らしいメリットに似たものです。