デザインスプリントを導入しないほうが良いケースとは

Richard Banfield

この記事はThe UX Boothからの翻訳転載です。配信元または著者の許可を得て配信しています。

What a Design Sprint CAN’T Do (for Enterprise Teams)

この記事は、成功するデザイン活動の方法論にハイライトを当てたInVision’s Enterprise Design Sprints Handbookからの抜粋です


Google Venturesのチームによって有名になったデザインスプリントは、どのような規模の組織でも適用できるものだと思われることもあります。しかし、そのようなことは想定されていません。実際、エンタープライズ向け製品のプロジェクトではうまく運用できないでしょう。デザインチームは、プロトタイピングに応用するためにデザインスプリントを利用していますが、どのような状況でも使えるわけではありません。

エンタープライズ向け製品の開発において、デザインスプリントがあまり役に立たない状況を以下に紹介します。(エンタープライズ向けに限定されたリストであることがポイントです。スタートアップや小規模開発グループであれば、このような状況でもデザインスプリントが適切なツールとなる場合があります。)

既存機能の小さな変更をするとき

プロダクトが既にあり、小さなアップデートを繰り返しているのであれば、デザインスプリントは大げさなツールです。それよりも、デザインスプリントのプロセスの1つを特定の問いに答えるために使いましょう。改善のためのちょっとしたプロトタイプ作りに5日間も必要ありません。ラフなモックアップを作り、その日のうちに顧客に提示しましょう。

フィードバックをもとにプロトタイプを改善するとき

プロトタイプを作り、顧客からのフィードバックを得られているときは、デザインスプリントのすべてのプロセスを踏む必要はありません。問題点を特定し、改善すべきフィードバックを見極めて、それに関連するフィードバックを特定して、プロトタイプを調整するだけでいいのです。正式なデザインスプリントの手順を踏みたければ、最後の3段階である「決定」、「プロトタイピング」、「テスト」だけを実施することを検討してみてください。

調査が実施されていないとき

革新的なプロジェクトを計画しているときは、解決すべき問題についての調査を済ませているのがベストです(第1章参照)。デザインスプリントは、顧客が抱えるペインポイントとソリューションを明らかにするのに役立ちますが、市場の存在を照明しソリューションを見つけるための手法としては理想的ではありません。デザインスプリントを適用する前に、まずは基本的なリサーチが必要です。リサーチをスキップしないでください。市場のないソリューションは失敗する運命にあります。

質の高いデザインを求めているとき

デザインスプリントは、最終的なプロダクトデザインとして使える忠実度の高いデザインを作ることを目的としていません。デザインスプリントの目的は、問いに対する答えを提供し、チームを実行可能なソリューションに集中させることだと忘れないようにしましょう。プロダクトや機能の最終的なデザインは、仮説検証のためのプロトタイプとは異なるものとなるでしょう。プロトタイプのデザインには、あまり期待をしないほうが良いです。

反復的ワークフローの代替として使う

デザインスプリントのワークフローについて考える場合、先に述べたイテレーションにおける既存機能の改善とは少し異なります。機能改善は機能別に行われることが多いですが、反復的ワークフローは方法論の選択の問題です(たとえばリーン生産方式)。デザインスプリントは、機能改善のテストには役立ちますが、日々のデザイン作業や開発タスクの代替にはなりません。ウォーターフォール型を採用している企業にとっては、デザインスプリントのテンポは非常に速く感じられるでしょう。既存のデザインや開発業務と並行してデザインスプリントを実施する限りは問題とはなりませんが、ウォーターフォール型の環境において、デザインスプリントを実施するために通常業務を中断すると混乱をまねく可能性があります。

プロダクトマーケットフィット(PMF)の検証をするとき

デザインスプリントから得られた結果が最終的にプロダクトマーケットフィットの証明となることはほとんどありません。価格テストや競合とのベンチマークテストを実施しないかぎり、プロトタイプにお金を払ってくれる人がいるのか、競合製品から乗り換えてくれるのかを知るのは非常に困難です。新しいソリューションが市場に求められているかを確かめるためには、さらなるテストをおこなったり、MVP(実用最小限の製品)を作成する必要があるかもしれません。

ペルソナやJTBD(Jobs To Be Done)、エクスペリエンスマップなどと同じく、デザインスプリントは、デザイナーやプロダクトチームが利用できるツールのひとつに過ぎません。そのため、デザインスプリントはデザインスプリントに適した業務に導入することが重要です。また、デザインスプリントはアイデアを検証するのに役立ちますが、アイデアを否定する可能性があることを覚えておくのが賢明でしょう。つまり、あなたが望まない答えが出ることもあるということです。

最近、あるクライアントとの仕事で、シニアマネージャーがプロダクトの大規模なリデザインが必要だと確信している状況に直面しました。そのプロダクトは複雑だったため、修正コストは数十万ドルになりそうでした。ところが、スプリントの1日目(理解のフェーズ)に解決すべきはデザインではないことがわかりました。我々は売上に影響を与える本当の問題に焦点を当てました。その問題とは、わかりやすい価値提案とセールスコピー、販促物が欠如しているということでした。

残念な事実

たとえデザインスプリントを正しく実施したとしても、答えが見つかるとは限りません。

この種の調査の本質はまさに、解決すべき潜在的な問題を明らかにすることです。デザインスプリントが調査の最終段階であると考えるのは失望のもとです。その代わりに、調査の過程で扉が開くのを待ち、新たに得たインサイトを使って追加調査とデータ収集の方法を決めましょう。デザインスプリントを通して参加者の期待値をコントロールすることで、スプリントの最後にやっかいな質問を受けることはありません。

デザインスプリントは広く活用できる強力なツールです。しかし、すべての問題を解決するわけではありません。デザインスプリントの実施を考えるときはいつも、本稿の最後の数章に立ち戻り、成功のための準備をしてください。また、デザインスプリントの中の活動はそれぞれ個別に利用できるので、各活動を知ることは役に立ちます。各活動の価値を理解すると、デザインスプリントの全プロセスを実施する必要があるのか、一部の段階だけで十分なのかを判断する助けとなるでしょうか。

わたしはデザインスプリントをスーパーヒーローがつける万能ベルトのようなものと考えるのが好きです。ベルトのすべてのツールが必要なときもあれば、ひとつかふたつだけで間に合うこともあります。第5章ではデザインスプリントベルトの各ツールを詳しく見ていきます。デザインスプリント実施の決定段階からのガイドラインで詳しい実施方法を提供します。


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