デザイン思考とは、解決をつねに念頭に置いて問題に対処するデザイン方法論です。この方法は、十分定義されていない、または知られていないような複雑な問題に対処する際にとても役立ちます。デザイン思考には、関連する人間のニーズを理解する段階、人間中心設計から問題をとらえなおす段階、ブレインストーミングセッションで多くのアイデアを生み出す段階、実践的にアプローチを適用するプロトタイピングとテストの段階があります。これらの5段階を理解すれば、会社や国家、さらには地球規模の複雑な問題を解決するのに大いに効果があるでしょう。
この記事では、Hasso-Plattner Institute of Design at Stanford(d.school)が提案した、デザイン思考の5段階モデルに注目します。d.schoolは、デザイン思考の教育分野で他を牽引する存在です。彼らによれば、デザイン思考の5段階は、共感、問題定義、創造、プロトタイプ、テストから構成されています。それでは、それぞれの段階を詳しく見ていきましょう。
1. 共感
デザイン思考プロセスの第1段階は、解決しようとしている問題に共感し、それを理解することです。この段階では、専門家は人々の体験や動機を理解するために、専門家に相談しながら、観察し、関与し、共感することを通して、問題のある場所をより多く見つけ出します。共感は、問題に対してより直接的な理解を深められるようユーザーと同じ物理環境に身を置くことと同じようなもので、デザイン思考のような人間中心設計のプロセスには不可欠です。加えて共感することで、デザインする側は自分の思い込みを捨てることができ、結果的にユーザーや彼らのニーズについてのインサイトを得られるでしょう。
時間の制約に合わせて、この段階で、次の段階で使える相当量の情報を集めることができます。また、ユーザーや彼らのニーズ、製品開発の根底に潜む問題を十分に理解することもできるでしょう。
2. 問題定義
問題定義の段階では、共感の段階で収集し、作り上げた情報をまとめます。デザイナーやチームが特定した重要な問題を定義するために、観察結果を分析し、体系化しましょう。ユーザーを主語にした文章として問題を定義するようにするべきです。
説明する際には、あなた自身の個人的な願望や会社のニーズとして「10代の女性における食品市場のシェアを5%増やす必要があります。」のように問題を定義するのではなく、ユーザーを主語として「10代の女性は、健康や成長を維持するために、栄養価の高い食べ物を食べる必要があります。」などとしたほうが良いでしょう。
問題定義の段階では、チームのデザイナーが問題を解決するための特徴や機能などの要素について、優れたアイデアを収集することができます。あるいは、少なくともユーザーがなるべく簡単に問題を解決できるようしてください。この問題定義の段階から、第3段階「創造」のプロセスは始まっています。「どうすれば10代の女性にメリットを与えつつ、自社の製品やサービスに関連付けられるか?」と問いをたてながら、解決策のアイデアを見つけてください。
3. 創造
デザイン思考プロセスの第3段階は、デザイナーのアイデアを生み出す段階です。共感の段階でユーザーと彼らのニーズへの理解を深め、問題定義の段階で観察結果を分析、体系化してユーザーに注目した文章にまとめました。以上の着実な積み重ねによって、あなたとチームメンバーは、提示した問題文に対する新しい解決策を見つけ出すために「既存の枠組み」から離れ、問題に対する新しい見方を探せるようになりました。ブレインストーミング、ブレインライティング、考えうる最悪のアイデアを出す、SCAMPERなど、アイデアを生み出す方法は数多くあります。ブレインストーミングや「考えうる最悪のアイデア出すこと」は、なにも前提がない状態でアイデアに刺激を与え、問題の領域を広げる方法です。創造の段階の最初では、できるだけ多くのアイデアやソリューションを思いついておく必要があります。そして、創造の段階の終わりまでに、ほかのアイデアを生み出す手法も実施してアイデアを調査しテストしてみることで、問題を解決する最良の方法や問題を回避する要素を見つけましょう。
4. プロトタイプ
この段階では、デザインチームは製品や製品内の具体的な特徴を反映した、低コストで簡単なプロトタイプをたくさん制作します。それによって、これまでの段階で判明した問題の解決策を検証することができます。プロトタイプは、チームや同じ部門だけでなく、ほかの部門のグループにも共有してテストしても構いません。ここは実験の段階ですから、プロトタイプの目的は、これまでの3段階で判明した問題に対する最善の解決策を見つけることです。解決策はプロトタイプに実装され、ユーザー体験と照らし合わせて1つひとつ調査することで、採用されたり、改善されたり、再調査されたり、却下されたりします。この段階の最後には、デザインチームは製品の制約や直面している問題についてより正確な知見を得ているでしょう。また、ユーザーが完成品を実際に手にしたとき、どのように行動し、考え、感じるのかより具体的に思い浮かべることができるはずです。
5. テスト
デザイナーや評価者は、プロトタイプの段階で特定された最善の解決策に基づいて作られた完成品を、厳格にテストします。 これは5段階モデルの最後の段階ですが、テスト段階の結果によっては、1つかそれ以上の問題を定義し直したり、ユーザーや彼らの使用条件、態度、嗜好、感情に対する理解が深まったり、共感したりして、他の段階を反復することがあります。この段階でも、問題を排除したり、製品やユーザーをできるだけ深く理解するために解決策を改善したり見直したりするのです。
デザイン思考の非線形性
ここまで私たちは、ユーザーテストにおいて1つの段階が論理的に完結したら次の段階に進むという、直線的なデザイン思考プロセスをまとめてきました。しかし実際には、このプロセスはより柔軟で、一直線ではありません。たとえば、デザインチームの異なるグループがそれぞれ同時に別の段階の作業をするかもしれませんし、解決策を明確にしたり図示したりするために、デザイナーがプロジェクトを通してずっと情報を集め、プロトタイプを作り続けることもあるかもしれません。また、テストの結果次第では、ユーザーに対する新しいインサイトが明らかになり、もう一度ブレインストーミング(創造の段階)や新しいプロトタイプ(プロトタイプの段階)の開発に戻る可能性もあるでしょう。
5つの段階は必ずしも連続しているわけではないことに注意しましょう。これは直列に並んでいるわけではなく、しばしば並列し、何度も反復します。このように5つの段階は、一連のステップではなく、プロジェクトを達成するための異なる姿勢と見なすべきです。ただ、5段階のデザイン思考モデルが優れている点は、どんなに革新的な問題を解決するデザインプロジェクトにおいても実行されるだろう5つの段階(姿勢)を体系立てたことです。あらゆるプロジェクトには開発する製品に特有の作業が含まれますが、それぞれの段階の背後にある本筋は変わりません。
デザイン思考を、凝り固まった柔軟性のないアプローチとして見なすべきではありません。上記の図に示されている各段階は、実行されるだろう作業のガイドラインです。もっとも正しく知見に富んだ情報を得るために、個々のプロジェクトに応じて、これらの段階の順番を変えたり、同時に実行したりすることもあります。あるいは、解決策の幅を広げるために何度も繰り返したり、もっとも優れた解決法が見つかったら実行しないこともあるでしょう。
上図のように、この5段階モデルの主なメリットの1つは、あとの段階で得られた知識を前の段階にフィードバックできるということです。情報は、問題や解決策への理解を深める際にも用いられるだけでなく、問題を定義し直す際にも用いられ続けます。これによって永続的なループが生まれるため、デザイナーは新しいインサイトを獲得し、製品や利用可能性について新しい視点を見つけ、ユーザーや直面している問題をより深く理解し続けることができるのです。
5段階モデルの起源
ノーベル賞を受賞したHerbert Simon氏は、1969年、独創的な著書『システムの科学(The Sciences of the Artificial)』において、初めてデザイン思考のプロセスをまとめました。 Simon氏のモデルは7つの主要段階で構成され、その下層には多くの段階と作業がありましたが、現在もっとも採用されているデザイン思考のモデルに多大な影響を与えました。21世紀に用いられているデザインプロセスには多くの種類があり、段階の数は3つから7つまで多種多様ですが、すべてSimon氏が1969年に提示したモデルの原則に基づいています。この記事では、Hasso-Plattner Institute of Design at Stanford(d.school)が提案した5段階デザイン思考モデルに注目しました。
まとめ
デザインプロセスは反復するものであり、柔軟性があり、デザイナーとユーザーの協調に重点を置いています。また共感を通して、ユーザーが実際にどのように考え、感じ、行動するかに基づいてアイデアを生み出すことを重視しています。
デザイン思考は以下の段階を通じて、複雑な問題に取り組みます。
- 1. 共感:関係する人々のニーズを理解する
- 2. 問題定義:ユーザーを中心に問題を構成し直し、定義する
- 3. 創造:多くのアイデアを生みだす
- 4. プロトタイプ:プロトタイプを制作して実践的にアプローチする
- 5. テスト:問題に対するプロトタイプや解決策を発展させる