プロダクトチームが新しいプロジェクトを始めるたびに、圧倒的な長さのタスクリストが作成されます。
強固なデザインプロセスによって、明確な道筋やしっかりとした構造をつくり、プロジェクトの効率もよくなります。チームはまず課題を明らかにし、次に調査・解決策のブレインストーミング、プロトタイプの作成とテストを行い、最後にプロダクトを市場に投入します。シンプルなプロセスのように見えるかもしれませんが、実際は数多くの落とし穴があるのです。
課題発見
課題発見に時間をかけましょう。このフェーズに多くの時間をかけるほど、解決すべき問題が詳しくわかり、より良い解決策が見つかります。
課題発見には機能面での課題発見とデザイン面での課題発見と2通りあります。
機能の課題発見
機能の課題発見はユーザー体験の分析によって実施されます。機能の課題発見の目標はこれから開発するプロダクトの要件をすべて集め、競合を見つけるために市場の現状を調査し、プロダクト開発のための技術を蓄積(プロダクトに利用できる技術を選択)することです。そのためにチームは以下のことを行います。
- ユーザーの期待を分析する
ユーザーのニーズとウォンツは同じではありません。プロダクトチームがその両方に集中した結果、無数の在庫を抱えてしまうことはよくあることです。ターゲットユーザーが誰で何を必要としているかを知らなければいけません。これはターゲットに属する人々へのインタビューを行うことで把握することができます。 - ビジネスの目的を明確に定義する
プロダクトデザインには主な目標が2つあります。プロダクトのユーザーに良質な体験を作り出すことと、ビジネスの目的を達成することです。 - 競争力比較表を作成する
分析した後のチームは、直接間接問わず競合をしっかりと理解できているでしょう。次のステップでは、これから開発するプロダクトの強みと弱みを理解するためにこの情報を活用します。この情報は、ステークホルダーに「競争力比較表」として視覚的に提示することができます。この表はチームとステークホルダーの両方にとって、プロダクトがどの市場に適しているかを明確にしてくれます。
デザインの課題発見
デザインの課題発見はデザイナーによって行われます。ある特定のプロダクトに対して、どのような方向性のデザインが適正かを調査します。
デザインの課題発見の重要なタイミングに制約を課すべきではありません。どのような制約もクリエイティビティにマイナスの影響を与えるので、本当に革新的なプロダクト開発を妨げてしまうでしょう。自由であると感じているときにだけ、真にクリエイティブなデザイン決定が可能なのです。
この発見段階の目標は、この2つの課題発見プロセスで得られた情報をつなぎあわせて、しっかりとしたプロダクトデザインの方向性を作ることです。両チームはそれぞれの活動が完了した後、集まってこのプロセスで得たデザイン決定について話し合うべきです。デザイン決定を統合して、しっかりとしたデザインの方向性を確立します。その際に重要な点をいくつか強調しておきます。
- デザイナーはエンジニアリングチームに盲目的に従ってはいけない
デザインの方向性は、相互の同意の元に決められるべきであり、エンジニアリングチームに強要されるべきものではありません。 - 良いタイミングを見極める
課題発見段階では市場の現状を理解するだけでなく、将来の状況を想像することも大切です。これは2年後、5年後、10年後にプロダクトが置かれるであろう状況に対応したデザイン決定に役立ちます。その結果、プロダクトが将来も市場に求められ、生き延びる可能性が高まるでしょう。
簡単な具体例を紹介します。プレミアムクラスの自動車用のヒューマンマシンインタラクション(HMI)にチームが取り組んでいるとしましょう。
1つ目のチームは、ステークホルダーから要求されるあらゆる仕様を集めます。次にプレミアムクラスの自動車のブランドや、そこで使われている技術、各ブランドが顧客に提供しているソリューションなどを分析します。チームはさまざまなソリューションの長所と短所の両方を分析し、その情報に基づいてプロダクトに実装すべき機能を提案します。
2つ目のチームは、デザインの課題発見をします。機能や技術には意識を向けずに、プロジェクトに実装可能な視覚的なデザイン決定に集中します。例えば、HMIに最適な曲線を見つけるために自動車の形状の分析を行うなどするかもしれません。
アイディエーション
プロダクトデザインについては、「ロードマップ」という言葉をよく耳にします。プロダクト開発を開始する前にロードマップを作ることができ、ロードマップによって間違い(誤ったプロダクト決定)が避けられると考えているプロダクトチームがたくさんあります。しかし実際は、プロジェクト開始時にロードマップ作ることは不可能です。
しっかりとしたロードマップの作成には(洗練されたデジタルプロダクトであれば)数ヶ月または数年を要します。幸いなことに、適切な計画を立てればアイディエーションは効率的に行えます。デザイナーの目標は進路を決める、つまり戦略を練ってプロダクト開発の正しい方向を定めることです。この作業の一部は課題発見段階に可能で、残りはアイディエーションにおこなえます。
アイディエーションでは、ブレインストーミングを徹底的におこなうことが大切です。ブレインストーミングを効率的にするヒントを参照してください。
- プロジェクト構成員のうちもっとも創造的なメンバーに参加してもらう
ブレインストーミングは、できればデジタル空間ではなく物理的に同じ空間で直接顔を合わせておこなうのがいいです。物理的空間では感情を共有しやすいからです。参加者は考えを共有できるだけではなく、ほかのメンバーの身体的な反応が見られます。 - 夢は大きく持つ
アイデアのことであるなら、自分の限界を決めるべきではありません。リラックスして、完璧なプロダクトを思い描いてください。最先端のプロダクトに取り組んでいるのであれば、SF映画で見たデバイスを考えてみましょう。
- アイデアを構造化する
集めたアイデアを構造化しなければ、流れの中で簡単に自分を見失ってしまいます。わたしたちはボードと付箋メモを使っています。各アイデアは付箋メモに記入し、グループごとにまとめます。私たちのチームでは、感情的ニーズ、実行可能、セキュリティ、テンターテイメント、メディア、ナビゲーション、などのグループを使っています。付箋メモの色がアイデアのグループ化の助けになります。 - 技術的な実行可能性を検討する
現在の技術を使ってアイデアをすべて実装できるわけではありません。エンジニアリングチームとアイデアについて話し合うことが大切です。
アイディエーションのヒント
常に全体像を意識してください。アイディエーションの最大の目標はデザイン面での特定の課題に対する解決策を見つけることではありません。この段階の目標はユーザー体験の戦略を立てることです。
プロダクトデザインについて言えば、「なぜそれをやらなければいけないのか?」という問いに対して常に答えられるようにしてください。デザイナーは、ただ単にできるからという理由だけでものを作るべきではありません。「なぜ」に対する明確な答えを持っていることが、余分な作業を避けて、多大な時間を無駄にせずに済む助けになります。
アイディエーションでインスピレーションは重要な役割を果たします。インスピレーションなしですばらしいものを作り出すのは非常に困難です。デザイナーはすぐれたデザイン例を集めて分析できる強力なツールをいくつか持っています。そのひとつ、ムードボードを紹介しましょう。ムードボードはプロダクトデザイナーにとって2つの利点をもたらします。
- 自分のデザインに組み込める美しいものを見つけるのを助けてくれます。たとえば、自然からインスピレーションを得て、写真の中の色をモバイル向けプロダクトのデザインに利用できます。
- ムードボードはデザイナーが同僚やステークホルダーに「なぜ」そのデザインに決めたのかを説明するのに役に立ちます。残念なことに、デザイナーが解決したい明らかなデザインの課題は頻発しますが、そのような問題の適切な解決策をムードボードで見つけることができます。「なぜこれが我々のUIに必要なのか」という質問であれば、ムードボードを見せることでデザイン決定の根拠はもっと明確になるでしょう。
- デザインで感情を伝えましょう。プロダクトのユーザービリティには集中しますが、インタラクションの感情面について忘れてしまうことがとてもよくあります。 感情に則したインターフェイスはユーザーとの結びつきを向上させるので、プロダクトデザインにおいては感情も同じように重要です。
プロトタイピング
同じプロジェクトはひとつとしてなく、プロトタイピングにはそれぞれのプロセスが必要なので、確固としたルールを定義するのは不可能ですが、あらゆるプロジェクトに共通の特性というものはいくつかあります。
- アプリの明確な構造が決まるまでは精巧なモックアップは作らない
実体のあるもの(UI画面とかアニメーション遷移など)を作ろうとするのは、多くのプロダクトチームに共通の問題点です。そうしたい気持ちになるでしょうが、しっかりとした情報構造ができるまでは誘惑に負けない方がよいでしょう。 - プロトタイピングは直線的なプロセスであると考えない
プロトタイピングは直線的なプロセスではありません。反復的なプロセスなのです。初めから完全な解決策を見つけようとしないでください。ベストな解決策を見つけるために異なるアプローチを何通りも試みなければいけません。例えば、わたしのプロジェクトでは、すべての画面について最大10通りのバリエーションをデザインすることもあります。 - 一貫性を保つよう努力する
アプリ内部とアプリ外の両方では機能などを一貫させてください。アプリ内部では、すべての画面は複数ではなくひとりの手によって作られたような外観と機能を持つべきです。アプリ外では、例えばWebサイトやアプリを作成しているなら、その両方で同じような体験が得られるようにデザインすべきです。インタラクションシナリオを作成することでアプリ内部の一貫性をチェックできます。 - プロダクトデザインにステークホルダーを巻き込む
多くのプロダクトチームが、プロダクト開発のプロセスの中でたった2回しかステークホルダーに接触しないという同じ間違いを犯しています。プロダクトの開発段階の初期と精巧なプロトタイプができた後だけです。その結果、プロトタイプをかなり修正したり、完全に作り直すという状況を招くことが多々あります。デザインプロセスの最初からステークホルダーを巻き込んでおくべきなのです。毎週または毎月、認識を揃えるための会議を開き、プロダクト開発の現状を話し合うことが重要です。 - プロダクトデザインのプロセスに開発者を巻き込む
開発者なしでは、あるデザイン決定が実現可能なのかどうか判断するのは難しいでしょう。わたしは、デザインが決定する前にアプリの構造を開発者に伝える、という簡単なアプローチをとっています。 - 細部に注目する
「細部は細部ではない。細部がデザインを作るのだ」(チャールズ・イームズの言葉) 例えばモーションを作成しているときはマイクロモーションの細部に意識を集中します。マイクロモーションが、完成したプロダクトにとって非常に重要だからです。 - スタイルガイドとブランドルールブックを必ず準備する
スタイルガイドとブランドルールブックはデザインの実装プロセスをスムーズにします。
テスト
テスト段階の基本的な考えは、ヤコブ・ニールセンの言葉に完璧にまとめられています。「あなたはユーザーではない」つまり、デザインがどんなにすぐれていても、プロダクトが市場に届けられた後でさらに手を加える必要が生じるだろう、ということです。ですから、以下のような簡単なルールに従うことが大切です。
- テストは早めに何度も行う
これはほとんど呪文のように感じますがどのプロジェクトでも有効です。プロダクトの開発プロセスも含めて、プロジェクトのすべての段階でゲリラテストとドッグフーディング(編注:自社プロジェクトなどを社員が日常的に使用するテスト)を実施することができます。 - 成功を測定するための明確な指標を設ける
常に仮説を立ててテストをおこなうか、成功したかどうかを見定めるための最低基準を持つべきです。それらがなければ、テスト結果を分析したり、そこから実行可能な決定をするのは難しくなるでしょう。
行く手にある落とし穴をはっきりと理解してデザインプロセスを開始することで、成功に向けてチームを編成し、ユーザーのためにすばらしい体験を作り出すことができます。