今回は、Googleが「マイクロモーメント」と呼ぶ概念との関連性を例示するために、マンハッタンレストランの暴言から始めましょう。というのも、モバイルデバイスが生みだした文化が広まったことで、私たちUXデザイナーはかつてないほど必要とされているからです。したがって、ソリューションを考える段階に移る前に、ユーザーの生活を調査する方法やツールを備えておく必要があります。
モバイルデバイスによって私たちの生活は、私たちが認識できるよりはるかに多様な形で変わりました。モバイルデバイスは今や私たちの一部であり、以前どのように暮らしていたのかも忘れています。そのため私たちUXデザイナーは、ある意味人類学者の役割もわずかに果たさなければなりません。つまり私たちは、ターゲットユーザーの文化を理解しなけばならないのです。
このような移り変わりの早い時代では、立ち止まって引き返し、全体像の中で何が起こっているのか見つめることはなかなかできません。スマートフォン1つでこれほど生活が変化したということを考えても、スクリーンを眺めるのをやめて人類全体に何が起こっているのか俯瞰することには、相当の努力が必要なことでしょう。
レストランの食事に携帯電話は「本当に」必要か?
少し前、マンハッタンのミッドタウンにあるレストランでのことです。客がスマートフォンを使うことについてCraigslist(編注:地域ごとのさまざまな情報が寄せられる米国発の老舗のWebサイト)に暴言を吐いた人がいました。オーナーはサービスが遅くなっていることに不満を持っていたので、10年前と今のセキュリティ記録を比較してみることにしました。この録画に基づく「コンテキスト調査」から、レストランは2004年の平均食事時間が65分だったことを発見しました。しかし、わずか10年後の2014年には、食事にかかる時間は115分に増えていたのです。
誰のせいでこうなったのでしょうか? レストランは、客が携帯電話に夢中になっていたせいで、食事の時間が長くなったと述べています。(以下の文章は、Craigslistに書かれた不満のコピーです)
2004年
来店。 着席してメニューを見る。 45人中3人は他の席に移ることを希望する。平均的に、注文を決めてメニューを閉じるまでに8分かかる。ウェイターはすぐに席に行って注文をとる。前菜は6分以内に提供される。当然、面倒な注文にはより時間がかかる。45人のうち、2人は料理を返品する。ウェイターは客の要望に即座に対応できるように、テーブルを注視している。食事を終えると、客はテーブルに料金を置き、5分以内に退席する。
来店から退店までにかかる平均時間:1時間5分
2014年
来店。 着席してメニューを出す。 45人中、18人は他の席に移ることを希望する。メニューを開く前に、彼らは携帯電話を出す。写真を撮っている人もいれば、単に携帯で別のことをしている人もいる(あいにく何をしているのか知る方法はないし、Wi-Fiを何に使っているかも監視していない)。45人のうち、7人がウェイターをすぐに呼んで、携帯で何かを見せる。ここで、ウェイターの時間が約5分割かれる。
最近の出来事だというので、私たちはウェイターに顛末を尋ねてみた。するとウェイターは、Wi-Fiの接続がうまくいかないから助けを求められていたと説明した。ようやくウェイターがテーブルに何を頼むのか聞きに行く。ほとんどの客が、まだメニューを開いてもおらず、ウェイターに少し待ってほしいと言う。客はメニューを開いて、その上に携帯をかざしながら、携帯でさまざまなことをしている。ウェイターが注文が決まったか、何か質問はあるかと客に振り返る。客はまだ待ってほしいと言う。やっと注文が決まる。
着席後してから注文が決まるまでの平均合計時間:21分
食事は6分以内に提供される。当然、面倒な注文にはより時間がかかる。45人のうち26人は、料理の写真を撮るために平均3分を費やす。45人うち14人は、目の前の相手と食べ物を一緒に撮ったり、食べている姿を撮ったりする。その後レビューをしたり、撮り直したりするので、さらに平均4分かかる。45人中9人は、温め直してほしいと料理を戻してくる(スマートフォンの利用に時間をかけていなければ、もちろん食事は冷めなかった。)。45人中27人が、ウェイターにグループ写真を撮るよう頼む。最初の写真が気に入らなければ、このうち14人が撮りなおすよう頼んでくる。
この雑談から撮影写真をレビューするまでのプロセスには、平均5分を要す。さらに、それによってウェイターが他のテーブルのサービスに気を使うことができなくなることは明らかである。もし客が食事中ずっと携帯をいじり続けているありがちな状況では、食事が終わってから勘定を要求するまでに平均20分かかる。加えて、テーブルに料金が置かれてからも、退席するまでに10年前よりも15分長くかかっている。45人のうち8人は、レストランに入退店するときに他の客やウェイターとぶつかっていた。
来店から退店までにかかる平均時間:1時間55分
ありふれた経験のように聞こえませんか? 前回友人とバーやレストランに行ったことを考えてみてください。先程読んだエピソードと似ていませんか? 今度外出した際、人類学者の視点で他人が何をしているかチェックしてるとさらに良いでしょう。客の焦点はどこにありますか? 目の前にあるものでしょうか? 掌にある画面の向こう側でしょうか?
おそらくこの投稿はすぐに都市伝説になるでしょう(初めからそうだったのかもしれませんが)。しかし、携帯の継続使用は、明らかに私たちの生活に影響を与えています。
現実をマイクロモーメントに細分化する?
2015年初め、Googleは「マイクロモーメント」と呼ばれるものについて一連の記事を発表しました。レストランでの話には、自分のスマートフォンを手にしてユーザーが特定のタスクを達成するまでのマイクロモーメントが溢れています。そのほとんどは、現在私たちの日常生活の大部分を閉めている「共有したい」というタイトルに分類することができます。
製品やサービスのデザイナーとして、これまでの経験から新しいタイトルを追加できると思ったとしても、まずはGoogleが定義したカテゴリを見てみましょう。
「知りたい」瞬間
あなたは家で、気持ちの良い自由な夕方を過ごしています。なにをしましょうか? ああ、何か映像を観たい気持ちがします。そこで、観るべき映画を選べる場所に行きたいと思いました。あなたは何よりも答えを知りたいのです。そのため、答えを見るためにインターネットに行きました。
このとき、あなたは「Google主導」で考えています。つまり、現在何が流行っているのかを見つけるために検索して目を通すのです。レビューが下のほうになるにしたがって、あまり人気なものではなくなっていくかもしれません。あなたはそのなかから今夜に1番適切な映画を知ろうとしています。
「行きたい」瞬間
あなたは大ヒットした最新のアクション映画を観ることに決めました。しかしどこで見られるのでしょうか? これは「どこか近場で」映画が観たいと思う瞬間です。
「したい」瞬間
あなたはプロセスやサービス、製品について知りたいと思っているとします。これまでに商品について他の人が何を言っているのか見たい、またはあるタスク(たとえばDIY)の方法を見たいと思ってYouTubeを利用したことがあれば、そこが知ることができる場所です。もしあなたのバイクが動かず、「少しは」何が原因なのかわかっているとしたら、YouTubeで必要なことを知ることができます。どの企業のバイクなのかについて心配するのは次の段階のマイクロモーメントです。
「買いたい」瞬間
最後の「マイクロモーメント」は、たとえば購入する前にもっとも信頼できて価値が高いバイクを絞り込むために、いくつものYouTubeを見ることから始まるかもしれません。映画館に行ったとすると、友人が別の映画の予告編を見せることもあります。そのほうが良いと思ったら、代わりにその映画を観ることを「売られた」ことになります。以上ですべてのプロセスが終了です。
『Tapworthy - Designing Great iPhone Apps』の著者であるJosh Clark氏は、同じようにモバイルでのWebアクセスについて3つのカテゴリを提示しています。
- マイクロタスク:ユーザーが短時間夢中になってデバイスを操作しているとき。たとえば作家が電車の中で立っていると、不意に創造力が湧いて、浮かんだアイデアを書き留める必要を感じるかもしれません。彼はスマートフォンを見ます。辺りはうるさすぎてボイスレコーダーを使うことはできませんが、「エウレカ」と題したサブフォルダにノートを書き留めておき、すでに思いついた次のアイデアのためにアプリを開いたままにしておくことはできるでしょう。
- ローカル:ユーザーが周囲で起こっていることを知りたいとき、スマートフォンは非常に優れたレーダーになります。というのも、スマートフォンはあなたの好みと必要なものを知っているからです。空腹でもハンバーガーは食べたくない人だとしても、アプリは近所で簡単に食べられる場所を適切に絞り込むことができるでしょう。
- 退屈:特にやることがなく、娯楽や気を紛らわせるものを探しているとき。たとえば、Mikeの妻がデパートの化粧室に入ったばかりだとします。Mikeは座っていて、妻が時間がかかることを知っています。スマートフォンを取り出し、彼はゲームを始めて親指を動かし始めました。10分後、彼は退屈し、ソーシャルメディアサイトの奇妙なニュースリソースから最新の奇妙なニュースをいくつかチェックします。
UXがさらに関係してくるとき
私たちUXデザイナーは、ビジネス目標を持つターゲットユーザーと、技術が仲介するこれらすべての瞬間を結びつけ、複数の世界を橋渡ししようとしています。したがって、私たちはユーザーが何をしているのかと企業が何を提供したいのかという両面を見る能力がなければなりません。マイクロモーメントというアイデアがあれば、私たちはカスタマージャーニーの間で考慮し、理解し、デザインするべき新しいタッチポイントを持つことができます。
カスタマージャーニーは、ほとんどの場合ユーザーがカテゴリや製品のことを検討することから始まります。この最初の段階で、ユーザーが何を望んでいるのか、または何を必要としているのかが決まります。もしかしたら彼は空腹で、今夜はピザを頼もうかと考えているかもしれません。あるいは彼女はセールの情報を耳にし、贅沢な香水のプラグインがあるかどうか疑問に思っているしれません。
続いてユーザーは、利用できるオプションを評価し、比較する段階に進みます。そして第3段階は、ユーザーが実際になにかを購入する段階です。そして最後の段階は、究極の真実の瞬間と呼ばれる購入後になります。この段階は、ユーザーが製品やサービスに関わった体験を基にコンテンツを作成し、他人に見せるためコミュニティに公開する時間と定義されます。
以上のジャーニーの中には、マイクロモーメントになりうるタッチポイントがたくさんあります。私たちデザイナーがそれらを特定することができれば、ユーザーの具体的なニーズに応えられるでしょう。また、その瞬間に欲しいものをユーザーがすべて手に入れられるようにするためのコンテンツやツールを作成することもできるはずです。そのために、Googleは以下の行為を提案しています。
- モーメントマップをつくる
- そのモーメントのユーザーのニーズを理解する
- 適切な体験を提供しているコンテンツを使う
- 一連のジャーニーを最適化する
- 重要なすべてのモーメントを計測する
まとめ
過去10年間で、携帯型の電子デバイスが持つ影響力は増加し続け、私たちの人生や生活は多くの点で劇的に変わりました。特にスマートフォンは、私たちの生活の多くの側面に浸透しているせいで、スマートフォンがないと分離不安になる人も多く存在しています。私たちの周りにある世界のほとんどが、手よりも小さな電子の長方形の中で「生じて」いるのです。スマートフォンの使用によって、私たちが現実を処理する方法が部分的に変わりました。以前は、生活の意識の流れはもっと長い期間続いていましたが、今や私たちはマイクロモーメントや、テンポの速い、タスク指向のものとして現実を解釈しています。
Googleは、2015年初めにマイクロモーメントの概念を定義し、スマートフォンはユーザーがもっとも頻繁に注目する「携帯型の画面」であると指摘しました。具体的には、Googleは以下の4つのマイクロモーメントを定義しました。
- 「知りたい」瞬間
- 「行きたい」瞬間
- 「したい」瞬間
- 「買いたい」瞬間
私たちUXデザイナーは、ユーザーが製品やサービスを検討し、類似のアイテムを評価して比較し、そこから1つを選んで購入し、それを永い間幸せに使っていくという過程の中で、たくさんのタッチポイントにアクセスできます。これらの段階の中で、私たちはマイクロモーメントがユーザー体験にどのような役割を果たすのか検討しなければなりません。これを達成するためには、カスタマージャーニーマップを利用して、ユーザーや、ユーザーがその瞬間に必要としているものを理解してください。また、適切な体験を提供するコンテキストを用いて、ジャーニーのすべての部分をできる限り利用し、すべての重要なモーメントを測定しましょう。
携帯型の電子デバイスが持つ社会学的な影響はさまざまな範囲に及んでいます。 ある場合ではそれが危険を生み出し(人がものにぶつかるなど)、ある場合にはコミカルになることもあります(食事にこれだけ時間が掛かるなら、多くの会社が昼休みの長さをどのくらい見積もるべきか再考しなければならないかもしれません)。
しかし1つ確かなことは、ユーザーが今していることをやめて、手のひらサイズの画面に夢中になるほどのニーズや欲求が存在しており、それらの時間をマイクロモーメントとして現実と結びつけて断片的に分割できるということです。マイクロモーメントによって分割されたそれぞれの瞬間のためにデザインし、ユーザーが求めるものを正確に作り出す限り、彼らが求めているものを確実に提供できるようになるでしょう。