共感を生み出すストーリーテリングのための7つの要素

Rikke Dam

Rikke Dam氏はInteraction Design Foundationの共同設立者でチーフエディターです。

この記事はInteraction Design Foundationからの翻訳転載です。配信元または著者の許可を得て配信しています。

The Power of Stories in Building Empathy

「ストーリーテリング(Storytelling)」はUXデザインとデザイン思考のプロセスの中で大きな役割を担います。

ストーリーテリングはユーザーの物語を説得力のある形で具現化し、それによって私たちデザイナーは彼らのモチベーションやニーズに深い共感を抱くことができます。ストーリーはプロジェクトを通して一貫した共感を形作ることができるので、チームメンバーは常に刺激を受けつつ、集中し続けられます。

ストーリーは、デザインプロジェクトに共感を吹き込むすばらしい方法で、デザイン思考の実践者にとっては非常に役立つものです。この記事では、アリストテレスに教えられたように、上手なストーリーテリングの要素について述べます。さらに、デザインプロジェクトに物語を組み込むために利用できる様々なデザイン手法についても説明しましょう。

デザインとイノベーションの国際的企業IDEOのCEO、Tim Brown氏は、デザイン思考のプロジェクトを改善するためにストーリーを使うよう勧めています。

プロジェクトの初期にストーリーテリングを始め、あらゆる面でイノベーションに織り込むことが重要です。これまで、プロジェクトが完了したあとにプロジェクトの文書化をライターにまかせるのが、デザインチームの一般的なやり方でした。今では、リアルタイムでストーリーを進めるために、初日からライターをデザインチームに組み込むことが増えています。
– Tim Brown著『Change by Design』

デザイン思考プロセスの第1段階である「共感」段階で使われるエスノグラフィー調査手法の多くが、なんらかのストーリーテリングの形式に関わりを持っています。なぜ研究対象の人々についてそれほど多くを学ぶことができるのかを理解し、ストーリーテリングの実力を知るために、古代の物語の師、アリストテレスの教えを参照してみましょう。

アリストテレスによる優れたストーリーテリングのための7つの要素

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プラトンの教え子で、アレキサンダー大王の教師でもあったアリストテレスは、人生や宇宙をはじめ、あらゆることに深い知識をもち、ストーリーを組み立てることについてもこの上なく深い造詣を持っていました。

アリストテレスによる優れたストーリーテリングのための7つの要素は、デザイナーが正しい質問をしてユーザーに対して共感を得るのに役立ちます。正しい質問をすれば、ユーザーのニーズや動機や問題を理解し、本質的なストーリーを作る助けとなります。

もともとは良い演劇の要素として書かれたものではありますが(小説は当時まだ発明されていなかったので)、それにもかかわらず演劇についてのアリストテレスの著述は、ストーリーテリング全般で広く使われています。また、アリストテレスの指摘した点は、デザイン思考のプロジェクトでストーリーテリングがいかに共感を高められるのかということも教えてくれます。

1. プロット(物語の筋)

登場人物は何をしているか? 彼らは何を成し遂げようとしているのか? プロットは、ひとりの人間の幸運から不運または不運から幸運への変化を伝えるものであり、一般になんらかの障害や試練の克服についてのことです。デザイン思考プロジェクトでは、人々がどのように生活を改善する努力をしているかについてプロットが伝えます。

2. 登場人物

登場人物はだれか? 彼らの特徴や性格はどのようなものか? 彼らの背景、欲求、野心、喜怒哀楽はなにか? デザイン思考におけるストーリーテリングは、明らかにデザイナーが人々を理解して共感を得ることと関係しています。ユーザーについてのストーリーを語るとき、外見や収入などの要素を知っているだけでは不十分です。十分に詳細を突き詰めた人物のニーズや動機、喜怒哀楽を深く理解する必要があります。

3. テーマ

デザイン思考のデザイナーは、なぜそのプロジェクトを引き受けたのですか? 調査対象の人々は、なぜそのような行動をしているのでしょうか? 乗り越えるべき最大の障害やプロジェクトの最終目標をストーリーのテーマが教えてくれます。デザイナーが集中し続け、強いストーリーをチームに提供し前進し続けるためにテーマを使いましょう。

4. 対話

人々は何を言っていますか? 観察したときとインタビューのときで違うことを話していませんか? どのような言い方をしていますか? 怒っていますか、がっかりしていますか、悲しんでいますか、喜んでいますか? 対話の観察中に人々が言葉にしなかったことにデザイナーの注意は向けられていますか? 実際に声に出したことよりも言わなかったことの方が、ずっと多くを伝えていることがよくあるのです。

また、対話は双方向でおこなわれます。ですから、観察者がどのように対象者に話しかけるかを追い続けることが大切です。傲慢で見下すような調子でユーザーと会話すると、確実にユーザーの警戒心を高め、デザイナーが学べることに制限を加えることになります。

5. メロディーやコーラス

効果を上げるために、ストーリーには気持ちのよい「メロディー」、つまり感情と信念を鳴り響かせる「コーラス」が必要です。ストーリーテリングの力とは感情をかきたてる能力であり、解決策を見つけ出そうという気をデザイナーに起こさせるものです。共感を使って解決策をデザインすると、ユーザーに届けるストーリーが成功の助けにもなります。

6. 舞台装置

舞台装置とは、その中で登場人物が演技する物理的な環境です。その中でユーザーが行動する舞台装置、設定、物理的環境とはどのようなものでしょうか? 登場人物と舞台装置とのやりとりは登場人物の動機や言動について多くのことがわかるので、効果的にストーリーを伝えるためにも設定は無視できません。デザイン思考では、ユーザーの環境に存在する機会や障害に注意を向けるべきです。

7. 見せ場

ストーリーのプロットにひねりはありますか? ユーザーに関する意外な洞察はありますか? 見せ場とは、ストーリーを聞いたオーディエンスの記憶に残り、議論やアイデアを生みだすものです。デザイン思考のストーリーに見せ場があれば、プロジェクトを前進させる強力なツールになるでしょう。

知識はストーリーの中にある

アリストテレスによる優れたストーリーテリングのための7つの要素は、いいストーリーによってユーザーに共感して理解できるだけでなく、デザイン上の解決策を追求するデザインチームが前へ進むやる気を起こすことを教えてくれます。実際に、IDEO社とBose社のデザイン担当リーダーであるMark Zeh氏は次のように述べています。

知識はストーリーの中にあります。ストーリーは、カスタマーのニーズと行動を調査するプロセスの基礎なのです。
―Mark Zeh氏

デザイン思考プロセスにストーリーテリングを加える方法

ストーリーはアクションを起こさせる強力なツールですが、デザイン思考のプロセスにどのように組み込むのでしょうか? ストーリーの力を利用するために、デザイン思考で使える方法をスタンフォード大学デザイン研究所(d.school)がいくつか奨励しています。そのうちの2つ、ストーリーの共有と把握およびジャーニーマップについて調べてみましょう。

ストーリーの共有と把握

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ストーリーの共有と把握はたいていエスノグラフィー調査のあとにおこなわれます。いいかえると、「共感しながらインタビュー」したり「類推によって共感」したり、「なぜを複数回繰り替えす」といったデザイン思考の手法を使った調査のあとの活動です。ストーリーの共有と把握セッションでは、チームメンバーがストーリーの中のそれぞれの領域で発見したしたことを共有します。他のチームメンバーはその中から興味深いインサイトをメモしたり、ストーリーから引用したりします。

このプロセスは、ユーザーを理解する足並みをチーム全員で揃えることができます。また、このプロセスによって、各メンバーが見たり聞いたりしたストーリーについて話し合えるので、観察したことの背景にある意味を深く掘り下げることが可能になります。

ジャーニーマップ

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ジャーニーマップは、なにかをするときのユーザーの体験の詳しい記録です。ユーザーの観察とインタビューに基づいて組み立てられる場合も、ユーザー自身に描いて説明してもらう場合もあります。ユーザーが体験したジャーニーが記録されますが、プロジェクトに密接に関係していることもあれば、焦点から外れていることもあります。

たとえば、朝起きてから公共交通機関で出勤するまでのユーザーの体験をジャーニーとして文書化することができます。意味がないとか無関係に思えるような細かなことを取り除かずに、できるだけあらゆることを網羅してください。ジャーニーマップは、時系列の表にまとめても絵を並べるなど、もっとも効果的だと思えるやり方で整理しましょう。

ジャーニーマップは、ユーザーと同じ体験をしようという試みなので、ユーザーに対する共感を築くのに役立ちます。また、ジャーニマップを比べることで、ユーザーに共通の道筋や矛盾する行動といった、インサイトを発見することもできます。

ストーリーはいつ伝えるべきか?

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ユーザーに共感しようとするときストーリーは大いに役立ちますが、デザイン思考のプロセスの共感段階だけに使用が制限されているわけではありません。実際、デザイン思考プロセスのどこであっても、またほかの人間中心デザインでもストーリーを使えます。

たとえば、プロトタイプを作るときや、プロトタイプがユーザーの生活にどのように組み込まれるべきかを解明するときには、ストーリーテリングの手法を使うのがいいでしょう。プロトタイプでユーザーテストをするときの説明にストーリーテリングを使うのはいいアイデアです。作家で文化人類学者のMary Catherine Bateson氏は、次のような一文に見事にまとめています。

人間はメタファーで考え、ストーリーを通して学ぶのです。
– Mary Catherine Bateson

まとめ

デザイン思考のプロセスでストーリーは重要な役割を果たします。ストーリーによって、ユーザーを感情的に深く理解できます。環境やニーズ、欲求、問題などユーザーのさまざまな面に注意を向けることができ、ユーザーのニーズに合った人間中心のソリューションをデザインすることができます。

アリストテレスによる優れたストーリーテリングのための7つの要素は、常にデザイン思考に応用すべきです。そうすることで、ユーザーを全体であらゆる面から理解することができます。この7つの要素はユーザー観察と重要なストーリーを伝える助けとなります。また、ストーリーの共有と把握、ジャーニーマップといった手法があり、デザイン思考をおこなうときにストーリーの力を利用してユーザーへの共感を持つことができます。


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