多くのユーザーが行動を起こさない主な理由は、リスクについての不安があることです。リスクを削減することができれば、コンバージョンの向上が見込めます。では、どうすればリスクを削減できるのでしょうか。
あらゆるコールトゥアクション(CTA)はユーザーにとってリスクになり得ますが、人間は直感的にリスクに対応することはできません。実際、認知負荷を除けば、サイトでのアクションを阻害する1番の要因となるのがリスクなのです。
ですから、ユーザーにとって本当にリスクになるものを減らし、ユーザーが気づいているリスクは問題ないものであることを示して安心してもらう必要があります。
このためにはまず、ユーザーの心配事は何なのかを知る必要があります。それを念頭に置いた上で、そのさまざまな心配事の中身を見てみましょう。そして全体像を把握した上でソリューションを検討してみましょう。
一般的な心配事
ユーザーが心配するリスクは、あなたがユーザーに何を期待するかによってさまざまです。それを踏まえて、ユーザーがどんなリスクに気づいたのかを知るには、ユーザーに聞いてみるのが1番いい方法です。しかしながらこうして調べて行くと、多くのユーザーが特定の同じ事柄について心配していることが見つかるでしょう。その1つが個人情報の問題です。
プライバシーに関する心配
多くのユーザーは自分の個人情報の取り扱われ方を心配し、企業によって個人情報が第三者にシェアされることを嫌がります。これはEU一般データ保護規則(GDPR)が問題として取り上げている点からも明らかです。
法律を遵守するという立場を明らかにするだけでは、ユーザーの心配を和らげるには不十分です。実際、法律の中にはただ不安を煽るだけのものもあります。
しかし今回の記事は、いかにしてGDPRや他の法律を遵守するかについて説明したいわけではありません。法律を遵守するという立場を明らかにするだけでは、ユーザーの心配を和らげるには不十分です。実際、法律の中にはただ不安を煽るだけのものもあります。たとえば、法律に基づく脅し文句や個人情報利用の条件が並んでいたとしても、読むべきであると思う一方で、実際に読まれることはありません。
ユーザーの個人情報についての心配する程度は、彼らの年齢と文化によって異なります。たとえば、アメリカ人はイギリス人よりこの種の問題に敏感です。また、若い世代はより年上の世代と比べてあまり個人情報について心配しません。
ユーザーの心配の程度を理解することで、サイトにおけるこの問題へ取り組み方の程度が決まってくるでしょう。
過去に執筆した「共感マップ」と「カスタマージャーニーマップ」についての記事にあるようなユーザー調査が役立つでしょう。ですが今はプライバシーの問題に関連するセキュリティの問題に注目してみましょう。
セキュリティに関する心配
Ashley Madison(編注:カナダに本社を置く会員制ソーシャルネットワーキングサービス)がハッキングを受けたことで、多くの出会いを求める人たちのメールアドレスが公開されてしまったように、ユーザーは自分の情報が流出することを心配しています。
しかしユーザーはメールアドレスの流出よりも、クレジットカード番号などのお金に関係する情報の流出についてより強く心配します。
クレジットカード詐欺被害についての数多くの恐ろしい逸話や都市伝説のおかげで(もちろん実際に起こった被害の影響もありますが)ユーザーはネットで買い物をすることに対して病的なまでの不安を持っています。だからこそ、ユーザーが敏感になっている決済情報を入力してもらう為には、あらゆる機会を捉えてこの問題に対処しなくてはなりません。
一方で、ユーザーは第三者への情報漏洩だけを心配しているわけではありません。サイトの管理者自体が情報をどのように扱うかについても不安を持っているのです。
迷惑メールへの苛立ち
たとえば、多くのユーザーは頼んでもいないのに送られてくる迷惑メールにうんざりしています。迷惑メールが送られてくることになるのであれば、メールアドレスを入力するのをためらうようになります。
この場合問題なのは、運営側が迷惑メールだと考えるメールがユーザーにとっても迷惑メールだとは限らないという点です。そして逆に良かれと思って送ったメールが、彼らにしてみれば迷惑メールにもなり得るのです。単なるお知らせ、最新情報の通知、特別セールの案内であっても、あまりに頻繁に送られればユーザーは付き合いきれなくなるでしょう。
ユーザーにメールアドレスを入力してもらう際には、アドレスの使い道やどの位の頻度でメールを送るかをはっきりと説明する必要があります。
迷惑メールや「隠されたコスト」などを経て、ユーザーはWebサイトから受け取る情報を基本的に悪いものと考えるようになりました。
隠れたコストへの注意
ユーザーは経験上、CTAに伴うコストが最初から全て明らかになっているわけではないということを知っています。商品の送料のような金銭面でのコストもあれば、予測できないほど延々と続く申し込みフォームを書く為に取られる時間もコストです。
行動を期待する一方でユーザーにかかるコストを軽視すれば、結果として彼らを遠ざけることになり、コンバージョンには至らないでしょう。
そして最終的に、ユーザーが行動するにあたっての不便さを特定する時には頭の中で「もしもの場合」のシナリオが立てられているのです。
「もし、気が変わってしまったら?」
最大の「もしもの場合」は、サイトから促されている何らかの行動に対するユーザーの考えが変わった場合でしょう。
もしユーザーが購読しているメールマガジンを解約したいと思ったとき、簡単に解約できますか?
もし注文した商品が気に入らなかったときに、簡単に返金できますか?
このような「もしもの場合」に対して対策を講じ、ユーザーの不安を取り除かなければなりません。では、どうやったら不安を取り除けるでしょうか。
不安に対処するためのアドバイス
どれだけユーザーを安心させることができるかは、彼らの不安の性質によるところが大きいです。しかし、いくつか覚えておくべき一般的な原則があります。たとえば、ユーザーの不安を取り除くためには一層努力しなければならないということです!
可能なら不安を取り除く
困ったことに、ユーザーが抱える多くの不安には正当な理由があるのです。実際にサイト側は送料をひた隠しにしたり、ユーザーに迷惑メールを送ったりしています。あるいはセキュリティを簡略化したり、不親切な返品ルールを用意しているのです。
問題はユーザーのコンバージョンに責任があるはずのデザイナーが、不安の原因に手出しすることができないことが多々あるという点です。返品のルールを変えることも、送料を廃止することもできません。だから仕方なくこれらを軽く考えるのですが、そうすることによって信頼は失われていきます。
それよりもむしろ、ユーザーが感じるリスクが売り上げに与える影響を実証しなければなりません。障害となる要素を取り除くことがユーザーの行動にどのような影響を与えるか、小規模な実験をすればいいのです。この場合、多変量テストが1つの方法になり得ます。
UXデザイナーとして、私たちのクライアントが提供するサービスの欠点をうまく隠す術を知っています。ですが、そろそろユーザーのコストを明らかにしてあげるときが来たのではないでしょうか。
もちろん、どれだけ努力したとしても全てのリスクを避けられるわけではありません。その場合は、ユーザーを安心させることに注力しましょう。しかし同時に、その安心材料をユーザーの見える位置にあるかを確認することも必要です。
ユーザーが答えを探さなくても済むように
私がクライアントに頼まれてユーザビリティテストを実施する際には、テストで得られたユーザーの不安について報告することがよくあります。そしてその報告を聞いたクライアントが憤慨することもまたよくあることです。彼らにしてみれば丁寧に説明しているはずで、ユーザーが彼らのサイトについて不安に思うことなど有り得ないからです。
しかしながら、もしサイト側が返品ルールや迷惑メール、送料についての不安に取り組もうとしているとしても、ユーザーに伝わらないことには始まりません。ユーザーはよくあなたが用意した安心材料よりも、買いたいものやメールマガジンに登録する方法に意識を集中しています。
ですから、もしユーザーに不安があることを知っているなら、それを取り除く為の安心材料は、ユーザーが行動を起こす場所のできる限り近くに配置しなくてはいけません。
このようなECサイトがあったとします。
購入ボタンにセキュリティについての配慮があり、ユーザーへの安心材料となっています。他に購入ボタンの横に返品ルールと送料についての言及があります。これらの説明は全て、コンバージョンを起こすボタンのところに集められています。こうすればユーザーは自分の不安に対する答えを探してサイト内を探す必要がありません。
購入ボタンに南京錠のアイコンが付けられていることにも注目しましょう。実はこのような配慮はサイト運営者がやりがちな、また別の間違いを避けるために重要なものなのです。
簡単な言葉を使う
ユーザーの不安に対する答えを分かりやすく表現できていないサイトをよく見かけます。たとえば、セキュリティについて保証するために南京錠のアイコンや説明書きを使わず、ベリサインのロゴやこれに類似するものを表示しているようなケースです。もちろん、ほとんどのユーザーには意味がわかりません。
これは極端な例ですが、これに近いことはどこでも起こっています。必要以上に複雑な返品ルールや、多くの人には理解しづらいIT用語の濫用などです。
個人情報取扱方針はもっともこの手のことが起こりがちな要素です。法律の専門家によって書かれている上に、CookieなどのIT用語が使われていて、非常にわかりにくいものになっています。ユーザーは個人情報の取扱に敏感になっていますから、この点への不安が取り除けなければコンバージョン率は下がってしまうでしょう。
ユーザーを安心させたければ、法律用語を使うのではなくシンプルな言葉で書くべきです。私のサイトの個人情報取扱方針はいい例です。できるだけ分かりやすくなるように苦心しましたし、読んでわからないことがあれば私に連絡できる方法も用意しました。
もちろん、法律の観点から記載すべき事柄があるということは理解しています。しかしだからといって、簡単な説明、たとえばユーザーの大半が理解できるように配慮した文章を、併記できないわけではありません。
簡単な言葉で書くことで、ユーザーは決断に必要だと思っている情報を得ることができ、心強くなります。リスクを削減するためには、ユーザーに「自分が状況をコントロールできる」と思ってもらうことが1番です。
ユーザーにコントロールを渡す
目の前で起こっていることが想定の範囲内であれば、ユーザーは神経質にならずに、期待された行動を起こしてくれるでしょう。分かりやすいコミュニケーションはユーザーにコントロールを渡すためのいい方法ですが、他にも方法はあります。
メールマガジンを簡単に解約できることや商品の配送状況をトレースできることなど、私達がユーザーにコントロールを渡す方法はいくらでもあります。こうしたツールを用意し、ツールの存在を見込みユーザーにはっきり伝えられたなら、彼らはより「リスクを取る」姿勢になり、期待される行動を起こしてくれるでしょう。