アートにはいかなるテクノロジーの進歩にも劣らない変革力があります。エクスペリエンスデザインはプロダクトやテクノロジーだけではなく、アート業界の人々にとっても、そのマインドセットを受け入れることで良い効果を生み出します。
演劇から季節のアトラクションまで、アーティストはテクノロジーと自身の経験を駆使し、彼らのコンセプトを表現しています。アーティストがエクスペリエンスデザインを取り入れることで、包括的で慎重な体験を作るようになるため、視聴者に大きなインパクトを与えることができます。
私はこれまで素晴らしい美術品の展示、シアターパフォーマンス、そしてアートのインスタレーションなどの記憶に残り、没入感のある体験を数多く見てきました。また、新しいテクノロジーを利用した遊び道具や興味深い最新のアプリなどがあふれている時代に、人々は没入感のあるユーザー体験を期待し、アーティストはそれを利用して期待に応え続けています。ありふれたスペースを未知の新しい世界に変化させることで、クリエイティビティや好奇心を刺激し、人々をより満足させることにつながるのです。
今回はそんな人々を夢中にさせる没入型のアートにはどのような要素が必要なのかを探ってみましょう。
1. 良いストーリー
体験そのものが、ユーザーを納得させるストーリーをもって語りかけるものである必要があります。たとえ抽象的であっても、ユーザーは物語の行方を知りたいのです。説得力のないストーリーは、体験する価値もないものになり得るからです。
2. 新しい世界
ユーザーは没入感のあるインスタレーションを体験するとき、現実の世界を忘れて没頭したいものです。しかし、この新しい世界にただ足を踏み入れることは難しく、それに慣れる必要があります。ユーザーが足を踏み入れようとしている世界について、段階的に開示していく必要があるのです。洗濯機の激しい水流に巻き込まれて「不思議の国のアリス」の主人公になるか、真っ暗な廊下を抜けてタイムスリップするような形で1902年代の娯楽を楽しむか、その方法はいろいろとあります。
3. ディテールへのこだわり
この新しい世界はユーザーに新鮮な驚きを与えるだけでなく、全体にわたって現実味があり、深みを持つ必要があります。インタラクティブに関連する物理的な部分へのこだわりは、ユーザーが新しい世界に感情移入し、共感を呼ぶことに貢献します。
4. 好奇心の探求
体験には複数の段階やレベルが存在し、探索すればするほどその発見も大きいものであるべきです。何かに触れると点灯したり、ドアを押すと秘密の部屋につながるように。
5. 混雑のコントロール
素晴らしいインスタレーションであるにもかかわらず、長時間待たされたり、群衆の長い列で急かされるように感じることで気分が台無しになることがあります。このような事象は、アーティストが創造したイリュージョンを台無しにするものです。
没入型の体験例
経験したことのない、優れた没入型体験をしたいと思っている方々へ、いくつかの例をご紹介します。
Sleep No More(ニューヨーク)
マクベスをベースにした没入型の演劇「Sleep No More」は、観客をとてつもなく美しいフィルム・ノワール版のマクベスの世界に引き込みます。観客はシェイクスピアの演劇の一部として複数のフロアで幽霊と化し、どこにでも着席し、望む通り何にでも触れ、そして俳優たちについて回ることができます。会話はつつしみ、マスクを外さず、演者との一定の間隔を保つというルールを守り、好奇心のままに楽しむことができます。
Meow Wolf(サンタフェ)
Meow Wolfのアーティストがデザインした風変わりな世界に足を踏み入れてみましょう。奥へ進むほど、より奇妙になっていきます。このマルチメディアインスタレーションでは、ゲストは望むものに触れることができ、すべてがインタラクティブ且つリアクティブに作られています。
カーサ・ローマ城のお化け屋敷(トロント)
年に一度、トロントのカーサ・ローマ城は恐怖の冒険が体験できる、ホラー満載のお化け屋敷となります。邸宅内の庭園や地下トンネルを歩き回ってみると、有名なホラーキャラクターが登場するシーンがあちらこちらでみられるでしょう。
没入型アートで何が得られるのか?
アート、デザイン、テクノロジーは人々のニーズと共に変化し、進化するでしょう。 上記のような体験からインスピレーションを得ることで、素晴らしく、特別なものを創り出すのにふさわしい感覚を得ることが可能となります。丁寧に作られた体験は、長い年月にかけて人々を呼び寄せ、また人々の間で語り継がれてゆくのです。