人工知能は人間のデザイナーに取って代われるか?

Jessica Murray

JessicaはカナダのUXデザイン会社Akendiのシニアエクスペリエンスデザイナー。

この記事はAkendi Blogからの翻訳転載です。配信元または著者の許可を得て配信しています。

Can Artificial Intelligence Replace Human Designers?

小規模な企業や独立系EC業者が増えるにつれて、デザインに対する需要が高まっています。しかし誰もがデザイナーやデザインチームを雇えるわけではありません。Logojoyや同列の会社は、このギャップを埋めるためにユーザーがデザイナーを使うことなくオンラインでロゴを作成できるような、安価でスピーディーなサービスを提供しています。このサービスではユーザーに指定されたビジュアルガイドラインを基にしてロゴ案を無限に作り出すべく、AI(人工知能)を使っています。

しかしソフトウェアはデザイナーと同じことはできません。コンセプチュアルなレベルの問題解決、人間にはできても、ソフトウェアにはできません。ソフトウェアのおかげでフォントや色やシンボルの組み合わせを、気が済むまであれこれ試すことができます。皮肉なことに、もしロゴ案に満足できなかったらソフトウェアが作ったロゴ案をデザイナーに微調整してもらうように相談することもできます。

デザインはただあれば良いものではなく、顧客がそのブランドの価値をどのように知覚するかを決めるのに重要な要素です。なぜそのような重要なものを安く済ませようとするのでしょうか。

実際に自分で試してみなければ、何も否定できませんよね。今回は私がLogojoyを使って、いくつかの有名なロゴを作り直してみました。その結果を見てみましょう。

Apple

図1:本物のAppleのロゴ

図2:Logojoyでデザインし直したAppleのロゴ

まずはAppleのロゴです。元のロゴとよく似ていますが、まったく同じものではありません。

タイポグラフィは洗練されておらずありきたりで、リンゴのマークはもはやハイエンドの現代的なテクノロジーを象徴しておらず、かわいらしいリンゴ園のもののようです。オリジナルとの大きな違いは「Apple」の文字が書かれていることです。オリジナルのロゴでは文字なしでもどこの会社のものなのかを理解することができます。ロゴのシンボルがストレートでシンプルなので、文字なしでもわかるのです。

Coca-Cola

図3:本物のCoca-Colaのロゴ

図4:Logojoyで作り直したCoca-Colaのロゴ

次の例はCoca-Colaのロゴです。Logojoyでデザインし直したものは、100円ショップで見かける安っぽいまがい物のような印象を持ちますね。

左から2つ目のロゴのタイポグラフィは、文字というよりもアイコンが並んでいるようです。象徴的なCoca-Colaの書体、横切る線の躍動感、そして賢く活用された余白が失われて、文字に頼ったアイコン、箱型のグラフィック、読みにくい書体に置き換えられてしまいました。

世界自然保護基金(WWF)

図5:本物のWWFのロゴ

図6:Logojoyで作り直したWWFのロゴ

最後の例はWWFのロゴです。オリジナルのロゴと同じ多くの要素を持っているのですが、何かが違います。どの案も平凡です。

左から2番目の案は特にひどく、鍋がアイコンになっています。このロゴを見て、動物を絶滅から守りましょうといったメッセージは伝わらないでしょう。オリジナルのロゴにあるパンダはこのブランドを違和感なくよく表していましたが、Logojoyで作り直したロゴでは、こういった感情に訴えるインパクトが失われてしまっています。

これらの例を見ると、こういったサービスを使用するのは特定の目的があるときに限定されるように考えられます。予算が非常に限られていて、新しいブランドを世に出すためにとにかく早く何か作りたい人にとっては、間に合わせの手段として使えるでしょう。あるいは自分のブランドがどのようになるのか自由に想像してみるための叩き台が必要なときに使用するケースもあります。ロゴもブランドも時間とともに進化して、ビジネスが成熟するにつれて見直しが求められるものです。

人間のデザイナーを雇えば、一連の繋がりの中でブランドを作ることができるでしょう。デザイナーやデザインチームを雇う時にはロゴ制作だけではなく、ブランドシステムを創りあげる目的があるはずです。Appleのロゴにあの小さくてシンプルなリンゴがなかったら、あるいはCoca-Colaのロゴにあの美しくてクラシックな筆記体がなかったら、一体どうなるでしょうか。

ロゴは会社の名前を示すのと同様に、ブランドの精神や歴史を包含しなくてはなりません。こういった理由から、デザイナーはその会社のアイデアや、コンセプト、ビジョンから始めるのです。デジタルツールは、最終的なアウトプットを作るための手段にすぎません。人工知能を活用した聡明なサービスは単にグラフィックやフォントをまとめるだけで、ブランド自体が持つ意味を引き出すことはできません。ブランディングには、より深いレベルでの概念的な思考が求められます。

優れたデザインには計り知れない無形の価値があります。それこそ、デザインが持つストーリーなのです。デザインを見ればそれとわかりますが、なぜそうなのかをはっきり説明することは難しいでしょう。ブランドを作るプロセスから人間のクリエイティブな作業を取り除いたら、洗練されていない無感動なものが出来上がるのです。優れた企業は、強力なブランドが持つ価値と、それが作り出す感情的な面での結びつきをよく知っています。


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