リサーチは終わったら、次は何をすればいいのでしょうか? どうすればデータを効率的に扱えるでしょうか?
たとえば、結果をプレゼンするかもしれませんし、長いレポートを書くかもしれません。あるいは、詳細なスプレッドシートを作るかもしれませんし、データをフローチャートのようなものに要約するかもしれません。こういった方法はどれもデータを理解するのには有効でしょう。しかし、どの方法も単独で成立することはありませんし、単独ではリサーチで得られたインサイトを効率よく伝え、ポテンシャルを最大限に発揮できないでしょう。
膨大な量のレポートを読んだり、あてもなくデータがまとめられたスプレッドシートを開いたりするのは避けたいだけでなく、精神的に参ってしまう作業でしょう。対面でのプレゼンテーションはリサーチのインサイトを伝える素晴らしい方法ですが、発表し終わったらスライド自体はあまり有力ではありません。体験マップのテンプレートは抽象度の高いデータをとらえる優れたスタート地点にはなりますが、感情的に訴えられるものではなく、視覚的な階層はほとんどありません。これでは読解する際に情報の重要性や優先順位がわからず、リサーチのインサイトをどのように実際の行動に結びつければいいのか検討することができません。
Akendiでの数年間で、私は何度か体験マップを作るプロジェクトに参加しました。プロジェクトではたくさんの知見とデータが得られる大規模なリサーチも実施しました。これらのプロジェクトにおける私の役割は、得られた知見を有意義で効果的な形でクライアントに伝えるにはどうするべきか決定することでした。その目的は、リサーチの知見を理解しやすくするだけでなく、何よりも挑戦の機会を特定して次に何をすべきか判断できるようにするためです。
以上の話は、体験マップについて最近誰もが口にしているような内容に見えますが、データを効果的に視覚化する優れた事例を見つけることは難しいです。この記事では、わかりやすい視覚的な階層や、魅力的なデザイン、誰でも簡単に使える機能について解説していきます。同じ課題に直面している人のためにヒントを一覧にすることにしました。
以下に紹介するのが、体験マップを視覚化するための7つのステップです。
1. 組織の目標を知る
デザイナーとしては、本能的にすぐにでもスケッチとデザインに取り掛かりたくなりますが、私は先に少しの課題と計画作りをすることをおすすめします。最初のスケッチに取り掛かる前に、組織の目標を知り、マップを使って何がしたいのかを明らかにする必要があります。
ユーザーの体験に最初から最後まで注目できるようになるためですか? それとも、改善しイノベーションを起こす戦略的なツールとして、ユーザー体験のペインポイントに焦点を合わせるためですか? あるいはユーザー中心の嗜好に組織全体の文化をシフトさせる原動力にするためでしょうか? 体験マップを可視化するプロジェクトを始める際には、このような質問がもっとも重要です。なぜなら、これによって瞬時に努力の矛先を絞ることができ、間違った方向にプロジェクトを進めることなく、クライアントに効果的なツールを作っていることを確認できるからです。
2. 誰が見るかを知る
大量のデータを戦略的に扱うために、誰がマップを見るのかを知り、彼らにどのように伝えるのかを把握することが重要です。たとえば、プロダクトについて豊富な知識を持っている社内のチームに向けたツールとして使うのなら、バックグラウンドや、フローの段階やタスクについて詳細な説明は必要ありません。マップはより詳細な情報を扱うことになるでしょう。たとえば、それぞれのペルソナがタスクを実行する上でどのように異なるのか、固有のペインポイントはあるかなどが挙げられます。というのも、こうした社内のチームはより自分たちの仕事を改善する戦略的なツールとして使うため、注意が持続する時間が長く、詳細情報を読むこともいとわないからです。
対照的に、もしマップが社内全体など、より広い人々に向けたものなら別のアプローチが必要です。こうしたユーザーに対しては、より抽象度の高い伝達方法をおすすめします。彼らは一般的に詳細な情報や体験のさまざまな側面までは注意を向けないので、核心的な詳細部分に踏み込むのではなく、広い視点から知見と機会について伝えましょう。彼らがマップに注意を向ける時間はそれほど長くなく、解釈も深くないので、流し読みできて一目でマップを理解できるように、抽象的なビジュアルストーリーを用いるべきです。
たとえば組織全体でも共有する一方でリサーチャーやデザイナーが戦術的なツールとしても使うといったように、もし幅広い人々も理解の深い人々も両方ターゲットにするなら、2つの戦略を組み合わせて、ビジュアルに強い階層を持たせることで、幅広い人々が瞬時に理解できるだけでなく、造詣が深い一部の人々が詳細な情報に戦略的に飛び込めるようにしましょう。
3. リサーチを知る
視覚情報を効率的に伝えるためには、コンテンツへの深い理解も必要です。もしマップの制作者がリサーチを実施した人と同じでないなら、内容を理解する努力もしなければなりません。
リサーチ資料を読み込み、プレゼンやワークショップに参加するだけでなく、リサーチチームと協力関係を築く必要もあります。プロセスを通じてリサーチャーと頻繁にやり取りをして、一緒にマップを描いてコンテンツを編集するようにしましょう。それによって、デザインチームもリサーチチームも誇れるような、より正確で信頼できるマップを描けるようになります。
4. コンテンツに優先順位を付ける
マップを使う根本的な目的やマップを使う人々、背後にあるリサーチについて知ることができたら、次はコンテンツに優先順位を付けていきましょう。この段階でもまだスケッチは始めずに、マップに含めるべきコンテンツをすべてリストアップしてから優先順位を付け始めます。
続いて、プロジェクトを届ける目標に役立たないリサーチデータがあれば、マップから取り除きましょう。取り除いたからといってリサーチが無駄になるわけではなく、レポートやスライドには引き続き残ります。削除するのは、マップの根本的な目標には不必要で、マップが解釈しにくくなり、効果的なツールでなくなるかもしれないからです。
優先順位のリストは次の3つのようなものかもしれません。
リスト1
- 1. 体験のフェーズ
- 2. ペインポイント
- 3. タスク
- 4. ペルソナ
- 5. 機会
リスト2
- 1. 体験のフェーズ
- 2. ペルソナ
- 3. ペインポイント
リスト3
- 1. ユーザーの感情
- 2. ペルソナ
- 3. 体験のフェーズ
- 4. タスク
- 5. ペインポイント
- 6. 機会
5. マップを描き、何度も反復する
さて、ここからが楽しい作業です。苦労してコンテンツに優先順位を付け、目標と誰が見るのかを知ることで、マップを描き始める作業が避けたいものでも圧倒されるものでもなくなりました。
まずは、データ全体の形を考えることから始めましょう。体験は直線的で一方向に進むものでしょうか? それとも円形で表せる循環するプロセスでしょうか? このステップは、体験のフェーズをどのように視覚化すべきか繰り返し走り書きすることから始めて、それから残りのコンテンツに取り組むといいでしょう。
この段階ではより自由に遊んで探求するために、コンピュータから離れて紙とペンを使うことをおすすめします。大切なこととして、この段階ですべてのデータをまとめるわけではありません。この作業は、それぞれのコンテンツが全体的にどのように形付けられるのか考えるものです。先に述べた通り、リサーチチームと一緒にスケッチを描いて、彼らのアイディアを組み合わせましょう。
いくつか選択肢ができたら、選択肢の中でどれが有効に機能していて、どれがしていないかを評価してください。ここでも、リサーチチームが力になるはずです。次の反復では、前に作った情報の階層によく注意しながら、さまざまなコンセプトの中から気に入った部分を組み合わせて、一貫したより大きなマップを作りしょう(まだ紙で作業してください)。私はより遊び心を持って制限なく探求できるように、スケッチブックを文字通り切り取って、さまざまな形に張り直すこともします。
ここでの目的は、意図したビジュアルヒエラルキーを持つ1つの塊に思えるような、一貫した構成を作り上げることです。機能していると考えられる選択肢をいくつか選び出したら、リサーチチームとクライアントにフィードバックをもらって選択肢を評価し直し、もっとも優れた選択肢をコンピュータに移して、実データを使ってスケッチしたコンセプトを視覚化していきます。
6. 視覚的なストーリーを作ってデータをわかりやすく伝える
ここで私は「どのようなストーリーを伝えたくて、それを見た人に伝えるために、色やタイポグラフィ、イラストやアイコンといった視覚的な要素をどのように使えばいいのか? 体験はどこから始まるのか? どのように人々に最初に見るべき場所を教えるのか?」と自問しています。階層分けとグラフィックの要素を使って人々の視線を望ましい方向に誘導し、目線が意図したプロセスに沿って移動するようなわかりやすいフローを構成しましょう。
次に、どの体験についての知見をマップで強調するべきなのかを考えましょう。たとえば、マップを見た人が私たちの予想よりも前に離脱したり、諦めたりしているとします。1つのエリアにペインポイントが集中し過ぎていないでしょうか? そうであれば、コントラストや大きさ、色、罫線、アイコンなどの視覚的な要素を使って、マップ上でこれらの知見を目立たせ、注意を引きつけましょう。ここでは一目しか見ないような人々を想定して、最初にマップを見たときにこれらのエリアがすぐに目に入り、気づいてもらえるようにしましょう。
以上でマップの構成の骨組みと階層が完成したので、次は詳細を埋めていきます。残りのデータを入れていくときには、テキストを画像やアイコンに置き換えられる場所があったらすべて換えましょう。人間は言葉よりも画像のほうが10倍速く処理できるため、合理的に使える場合はいつでもアイコンを使うべきです。
異なるペルソナのデータを比較したり、段階や目標、ユーザーの感情をすぐに特定したりしてほしい場合のように、マップの項目を比較してほしいときは特にアイコンは必須です。アイコンは意味が伝わりやすく、解釈の余地を広く残さないように、表現がわかりやすく、普遍的なものを使いましょう。
色は、戦略的に使えばマップの要素を素早く理解する効果的な手段になります。それぞれの色が人々にどのような感情を抱かせるか考えて、その効果を利用しましょう。たとえば、緑は肯定的な印象を、赤は否定的な印象を与えます。また、独自のユーザージャーニーを示し、データをコーディングするために、ペルソナを色で表すこともあります。
7. マップを定着させる
究極的にはマップが成功するかどうかは、組織の中で効果的なツールとして使われ、定着するかどうかにかかっています。どのようにすればマップを自分たちのツールだと感じてもらえるでしょうか? そこで重要になるのがブランディングです。マップの中に色やフォント、ロゴ、言語といったブランドの要素を入れ込めば、マップが組織に属していることが感じられ、マップを使う人が親しみやすいものになります。人々が使いたくなるように、ブランドにフィットさせてもう1つのブランドの要素と見なしてもらうことで、人々に使ってもらい、オフィスに1つの作品として展示し、自分たちが所有していると感じてもらいましょう。
これらのヒントを駆使することで、美しく有意義で効果的な体験マップを作る手助けになれば幸いです。