物議をかもすネーミングは正しいブランド戦略か

Hamilton Hernandez

HamiltonはPhDを取得している体験アーキテクトで、有意義なサービスやシステムのデザインについてブログを書いています。

この記事はAkendi Blogからの翻訳転載です。配信元または著者の許可を得て配信しています。

BRAND STRATEGY: IS A CONTROVERSIAL NAME A GOOD APPROACH?

Escobarの客になりたいですか?

Escobarとは、80~90年代にコロンビアの国内外で麻薬取引を行い、世界中で仲間のコロンビア人などを殺害した麻薬王Pable Escobar氏のことではありません。Escobar氏の名前は、Netflixのドキュメンタリー番組『Narcos』のおかげでさらに有名になりました。

私が今話題にしているのは、2018年5月にバンクーバーにオープンした新しいレストラン『Escobar』のことです。驚くことに、このレストランは本当にPable Escobar氏にちなんで名前がつけられました。

このバンクーバーの新しい事業者は、最高級のおしゃれなラテンスタイルレストランを熱心にデザインし、店名と開店日を公表しました [1]。Pable Escobar氏から名前を取るというアイデアをなぜ思いついたのかはわかりませんが、ビジネスとブランドの戦略について話す機会が開かれていたことは確かです。

私はコロンビア出身のUXデザイナー、リサーチャーで、Escobar氏の活動を繰り返し伝えるニュースを見て育ちました。したがって、私はこのレストランのビジネス戦略と問題の可能性について考えずにはいられません。

ニュースメディア『DailyHive』にある料理ブログ『Dished』に掲載された写真を見る限り、インテリアデザイナーは、ハイエンドで洗練されて見える魅力的なコンセプトを熱心に考えていました。店名はブランドにとってもっとも重要な要素の1つなので、問題はこの店名がレストランのターゲット層に対して、どれほど効果的で心地良いのかにあります。

ブランドを公開する前に顧客調査を実施することで、ブランドやメッセージの認知について有益なインサイトが得られます。ブランドをデザインすると同時にターゲットの消費者を確認しないと、公開したときに予期せぬ悪影響を受ける危険があり、受けた後では基本的には手遅れです。

レストラン『Escobar』の開店を知らせるソーシャルメディアへの投稿に対する反応 [2](画像1)やDishedの記事 [1][3] を見ると、レストランのオーナーはその予期せぬ悪影響を受けたのではないかと思います。

画像1:InstagramでのEscobarの投稿に対する反応

事業の立ち上げを決断するときの最初の課題の1つは「ターゲットの消費者は誰か」というものです。Escobarの場合、見込み客層はラテン系料理と飲み物を体験したいバンクーバーの地元住民(バンクーバー市で60万人強、バンクーバー都市圏で246万人 [4])と観光客(2017年は1,030万人 [5])でしょう。

では、ビジネスの名前に目を向けると、重要な問題は「その名前をターゲット層がどのように受け入れるか」です。ただ、この問いに正確に答えるには、いくつかの調査方法を組み合わせないと難しいでしょう。インタビューやフォーカスグループ、アンケートなどによるターゲット層への1次調査を実施することで、消費者の実際の意見を発見できます。しかし、コストをかけずに既存の統計や世界の歴史、文化の研究にさっと目を通したり、基本的な常識を働かせたりするだけでも、今回のような物議をかもす店名を選ぶことの潜在的な問題性は明らかになったかもしれません。

名前に対する意識

名前を気にしない人々は、名前の重要度や意味に気づいていないかもしれませんし、ある程度Pablo Escobar氏の経歴を知ってはいても、ちなんだ名前をレストランにつけることには意識が向かないかもしれません。最初は多くの人々が意識しませんが、名前の由来が知られるにつれ意識しない人は減っていくでしょう。いずれにせよ、名前に対する意識の程度によって、名前のアイデアが良いのか悪いのかがはっきりと決まるわけではありません。

この名前を受け入れる人

では、このレストランの名前に満足しているのは誰でしょうか? それは、NetflixなどによってPablo Escobar氏といった麻薬王の経歴を知っている人々かもしれません。あるいはそのような人物を称賛したり、Pablo Escobar氏の行動の重大さや、人々の生活に対する影響についてあまり考えない人々かもしれません。

Escobar氏が生まれたコロンビアのメデジンには、経済的支援の恩恵を受け、彼を称賛している小さなコミュニティがあります。しかし、彼らはレストランのターゲット層ではなく、名前を決めるときに支持者とみなす価値はありません。

あるいは、Netflixの物語を楽しんだバンクーバー在住の視聴者やバンクーバーを訪れるかもしれない視聴者はターゲット層になるかもしれません。しかし残念ながら、このグループに含まれる人数がわかる調査結果は用意されておらず、この種のデータを得るにはさらなる調査が必要でしょう。ただ、番組に関する記事は、大抵の場合Pablo Escobar氏を讃えるよう勧めるのではなく、番組を強く非難したり、視聴をやめるよう勧めています[6]

麻薬売買のようなビジネスを支持する人々や、麻薬ビジネスに携わるギャングなども名前の支持者に含まれるかもしれません[7] 。しかし、手に負えない状況にはならないという保証もなく、この種の人々を自分のビジネスに招き入れたい人はいないでしょう。したがって、この場合においても、Pablo Escobar氏にちなんだ名前が良いアイデアだという根拠はありません。

この名前を拒否する人

一方で、この名前のビジネスの顧客になりたくない人ならすぐに数えられるでしょう。

この名前を選んだことに反対しているのは、Pablo Escobar氏や彼の麻薬ビジネス、同じような麻薬王や暴力犯罪のことを知っている人々でしょう。コロンビア人だけでなく何百万人のラテンアメリカの人々は、Escobar氏やほかの麻薬王の悲しい歴史を鮮明に記憶しています。母国を離れて暮らす人々は、今でも麻薬売買の問題を抱えた国々の出身であることによるステレオタイプや差別と向き合わなければなりません。

必ずしも悪意があったわけではありませんが、私自身も「コロンビア出身ですか! ではあなたもコカインを使うのですか?」といった無知な発言に対応しなければなりませんでした。冗談ではなく本当のことです。ラテンアメリカの人々はステレオタイプや悲劇的な歴史を絶えず思い出させられ、それを訂正することにうんざりしています。このセグメントに当てはまるラテンアメリカ出身のバンクーバー在住者は、11,000人にもなります。

長期にわたる深刻な麻薬問題を知っているバンクーバー市民も、この顧客セグメントに加えることができます。この麻薬問題は、バンクーバーの安全と予算に損害を与え [8][9]、親類や友人を麻薬や暴力に奪われた何千もの家族に影響を与えました。正確な数字を測るのは難しいですが、ブリティッシュコロンビア州内での違法薬物使用 [10] と過剰摂取による死亡者数は、2017年で1,420人以上でした[11]

Pablo Escobar氏の名前に敵意を抱き、州の深刻な麻薬問題を知っているバンクーバー在住のラテンアメリカ出身者の数を知るだけで、良心的なビジネスオーナーは麻薬王にちなんだ名前をビジネスに使うことで生じる問題に気づくでしょう。抗議行動を起こされたり、ニュースやソーシャルメディアでの軽蔑的なコメントを受けたりする可能性を残したまま、ビジネスを立ち上げたい人はいません。

この名前を思いついた人は、ユーザー思いのネーミング手順を踏まず、結果的にブランドデザインプロセスに誤った情報を伝えてしまったようです。それとも意図的な演出だったのでしょうか?

合理的なマーケティング手法は、レストランの名前の広告を出すことでしょう。Netflixの番組のおかげもあって、Escobarという名前は注目を集めています。広告を出せば、レストランだけでなく麻薬王や番組を検索したときにもレストランの名前が表示されます。では、オーナーは知らなかったのでしょうか? それとも意図的に恐ろしいマーケティング手法から利益を得ようとしたのでしょうか? 企業がメディアの注目を浴びるために論争を巻き起こすのは今回が初めてではありません[12][13][14] 。しかし、これは最後には手に負えなくなり、利益よりもトラブルを招くことになるかもしれない危険な戦略です。

レストランがオンラインで名前のプロモーションを開始したわずか2日後に、Escobarのソーシャルメディア管理者はInstagramアカウントからもっとも議論を巻き起こした画像を削除しました(画像2、画像3)。当時その画像には、名前に反対するコメントがもっとも多く投稿されていました。画像には「Pablo」というラベルが貼られた点滴ボトルが写っていて、店名が本当にPablo Escobar氏の名前にちなんでいることを裏付けていました(店側もこれまで否定していません)。否定的なコメントに対するEscobarの反応を考えれば、今回のこのような議論を店側が期待していたわけではないようです。

Escobarのキッチンはグランドオープンの前から炎上しているのでしょうか?

画像2:もっとも物議をかもした画像を削除する前と後のEscobarのInstagramアカウント

画像3:Dishedで表示された削除画像。現在は見られません。

このような炎上を避けたければ、効果的なサービスとともに、ブランドデザインにおいて、調査と検討を十分に実施するプロフェッショナルなプロセスを選択することを忘れないでください。そうすれば、プロダクトデザインは意図したプラスの体験を顧客に届けられるでしょう。


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