UXデザインにおけるインタビューといえばエンドユーザーに近い方へのものを連想しがちですが、本記事のインタビュー対象はユーザーではなく、プロジェクトの進行などのカギを握る「ステークホルダー」、つまり会社の上層部やクライアントなどの立場の方です。
彼らとの内々のコミュニケーションがより良いプロジェクトの意思決定に繋がります。では、実際プロジェクトが始まったときに、ステークホルダーとどのような対話をすればよいのでしょうか?
この記事はKim Goodwin氏の『Designing for the Digital Age』の中の「一般的なステークホルダーに対するインタビュー」からの抜粋です。(編集部)
ステークホルダーへの10の質問
インタビューは質問リストを読み上げるのではなく、会話を続けるように行いましょう。詰まったときにすぐ見られるように、ノートの表紙の裏にトピックのリストを書いておいてください。このパートでは、ほとんどのステークホルダーにあてはまる質問を紹介します。
注意すべきなのは、社内のチームがこれらの質問を聞くことも、専門のコンサルタントが聞くときと同じように重要だということです。答えを1つは知っているかもしれませんが、特定のステークホルダーがどのように答えるのか予測することは難しいでしょう。
1. このプロダクトにおいて、あなたの役割は何ですか?
コンサルタントなら、この質問をする理由は自明かもしれませんが、社内の従業員やチームのメンバーは、自分たちの役割を自分が思っているほど理解していないかもしれません。またこの質問は、威圧的にならずに会話を始めるためにも使えます。
2. このプロダクトを作る前は何をしていましたか?
この質問に対する答えから、その人物が共有すべき意外な専門知識を持っていているかどうか把握し、どのような価値観を持っているのか手がかりを得ることができます。たとえば、業界出身ではあるもののプロダクト管理については経験がないプロダクトマネージャーは、業界に詳しくはないが経験豊かなプロダクトマネージャーほどには懸念事項を持っていないかもしれません。
3. このプロダクトやサービスはどのようになる予定ですか?
それぞれの人がプロダクトやサービスのどのような側面を重視しているかを知るのは興味深いことです。回答から見つけるべき重要な要素の1つは、それまで誰も言及しなかった機能に関するヒントです。というのも、そのような意見はプロダクトチームの意見を一致させるのに役立つだけでなく、プロジェクトのスケジュールを守る際にも大切だからです。
ステークホルダーの中には、「既存の技術を利用した、分散型でサービスモデルの3層構造アーキテクチャです」などというように、業界用語を使って会話に壁を築いてくる人がいるかもしれません。このような場合は、一般的なユーザーにはプロダクトの実態をどのように説明するのか尋ねることで、それがどういう意味なのか噛み砕いて説明してもらいましょう。
また反対に、このプロダクトがどうなってはいけないのかも聞く必要があります。ステークホルダーの中には、自分たちが達成できることを現実的に考えるのが苦手な人もいるので、プロダクトの目標だけでなく限界についてもコンセンサスを取ることが大切です。
幅広い答えが返ってくることを予想しておいてください。ソフトウェアについていえば、さまざまな答えになる主な理由は、初期のバージョンに対する意見なのか新しいバージョンについての意見なのか分かれるためです。この問題は、即日リリースするバージョンと最終的なプロダクトの姿をインタビューイーに比べてもらうことで整理することができるでしょう。
4. 誰のためのプロダクトですか?
この質問に対しては、マーケティングやプロダクトマネジメント担当者の答えがもっとも有益ですが、ほかのステークホルダーから得られた幅広い答えからリサーチで特定するべき問題が明らかになるかもしれません。ユーザーに関してどのような仮説が成り立つかを知り、その仮説が正しいかどうかテストすることが重要です。
ユーザーが誰なのか理解が乏しいと、さまざまな影響があります。たとえば、最近のプロジェクトで次のようなことがありました。
あるステークホルダーは、そのプロダクトは非常に価値が高いので、幹部クラスのユーザーたちは空港からリモートでログインしたいだろうと言いました。一方で、別のステークホルダーは、幹部クラスは部下が毎月提出するレポートを読むだけだろうと言いました。どちらのステークホルダーも、その情報のターゲットが幹部クラスであるという意見は同じでしたが、経営幹部にとってその情報が常時アクセスしなければならないほど重要かどうかについては、異なる意見を持っていたのです。このような違いが生まれたからといって、組織が機能不全に陥っているわけではありません。ユーザーの実態を解明するためには、十分なユーザーデータが必要だというだけです。
5. 現在デザインしているバージョンは、いつリリースされますか?
マーケティングやセールス担当者からは楽観的な回答を、エンジニアからは悲観的な回答を聞くのが一般的ですが、彼らの回答に1ヶ月以上開きがある場合は、プロジェクトオーナーにそのことを伝えましょう。
また、締切をそのように設定した理由を尋ねるのも忘れないようにしてください。目標とスケジュールに深刻なズレがある場合があります。ステークホルダーは、あるプロジェクトが向こう10年で作成するすべてのプロダクトの基礎になると言うとしましょう。しかし、同時に彼らは2ヶ月以内に公開したいとも考えています。このような状態を決して放置しないでください。将来痛い目に合います。そうではなく、この明らかな矛盾を指摘するべきです。「このプロダクトはすべての人にあらゆることを提供しなければならないと言いました。一方で、今年中に出荷しなければならないとも言いました。この2つは両立しない可能性が高いです。どちらがより重要で、なぜ重要なのか教えてください」と聞いてみましょう。合理的な幹部クラスのステークホルダーであれば、優先順位を明確にしてくれるはずです。
6. このプロジェクトで心配な点は何ですか? 起こる可能性の中で最悪の事態は何ですか?
これはステークホルダーが少しインタビューに慣れてきた後半に適した話題です。たとえば、プロダクトが適切に機能しないのではないかといった懸念事項には、私たちが力になれることがあります。あるいは、ステークホルダーの心配ごとから、知っておくべき組織の弱点に注意を向けられるかもしれません。
エンジニアはプロダクトを自分たちの思い通りに作る時間が足りないといつも心配していますが(もっとも彼らは多くの場合正しいのですが)、一方でステークホルダーの実に非現実的な期待にも耳を傾けましょう。会社の一部署では対応しきれないものの、その無理難題の中から確かに検討が必要な不満が聞こえてくるかもしれません。マーケティングチームがプロダクト開発の世界でほとんど経験がないようであれば、私たちはプロジェクトを進めながらチームを教育するべきかもしれません。また、開発チームがほかに比べて十分な能力を持っていないことが判明した場合は、雇用に関われる立場にいるならエンジニアの追加を提案するか、とても保守的なデザインにする必要があるでしょう。
7. 自社のためにこのプロジェクトが達成すべきことは何ですか?
しっかりとすべての部署・役職が機能している企業では、ステークホルダーのほとんどがこの質問にある程度答えることができます。しかし驚くべきことに、この質問をしっかりと答えられる人が取締役しかいないということが少なくありません。このような状況は、デザインプロセスの中でビジネスの目標を広めることで脱却することができます。
もしステークホルダーが正確に答えるのに苦労しているなら、もう少し具体的に質問してみましょう。このプロダクトでどのように収益を上げるのですか? このプロダクトでどれくらいコストを節約できるのですか? このプロダクトは企業のブランドや市場でのポジションにどのような影響を及ぼしますか? これまでになかったプロダクトを作成することで、企業は何を成し遂げることができますか?
8. 個人的には、このプロジェクトの成功をどのように定義しますか?
この質問に対して、多くのステークホルダーは、単にビジネスの目標を繰り返すだけか、もっとも懸念していることが起こらないこと、と答えるでしょう。しかし、懸念している別のことについてのインサイトや、プロダクトのデザインの中でワクワクすることを教えてくれる人もいます。「以前発生したこの問題を避けることができたら嬉しい」、「ほかの社員も、最終的には私のチームが提供できる価値を理解してくれるだろう」といった言葉を聞くかもしれません。こうした意見を理解することがデザインへの支持を確立するためには必要不可欠です。
9. 私たちのリストに載っていない人で、話を聞くべき人はいますか? それはどのような人々ですか?
インタビューの最後のほうでこの質問をしましょう。そのあとで、名前の挙がった人々にインタビューすることが本当に有効なのかどうかプロジェクトオーナーに相談してください。
10. 残りの期間ではどのようにプロジェクトに関わりたいですか? あなたに連絡をとる最善の方法は何ですか?
これらは最後に取っておくべき質問です。また、重要な意思決定をする際に、確実に上級幹部に関わってもらえるようにする良い機会です。こうすることで、上級管理者を参加させるのをためらう中間管理職がいても、「CEOが会議に参加したいと明言していました」と言うことができます。
※出版社Wileyの許諾を得て、『Designing for the Digital Age: How to Create Human-Centered Products and Services』(Kim Goodwin氏、2009年)から引用しました。