デザインにおけるライティングの重要性

Scott Kubie

Scottはミネアポリスに住むデザイナーであり、Brain Trafficコンテンツ戦略も主導しています。2010年以来、Webのさまざまな専門家に対してトークショーやワークショップを60回以上開催しています。

この記事はA List Apartからの翻訳転載です。配信元または著者の許可を得て配信しています。

Writing for Designers

この記事はScott Kubie氏の著作『Writing for Designersの前書きから抜粋したものです。

なんてことだ。ライティングを忘れていた。デザインというものには言葉が必要だった……それもたくさんの言葉が。てっきり誰かが……クライアントがやるのかと……。自分たちがライティングをやらないと。自分たちで終わらせないと! でもどうやって!?

なんてこと経験はないでしょうか。ご心配なく、私がいます。一緒にライティングをしましょう。最初のステップは、厳しい真実を受け入れること。それは誰かがライティングをする必要があるということです。

ライティング以外はすべてプロセスを構築しているチームもあるでしょう。そのようなチームのワイヤーフレームは、ステークホルダーを困惑させるダミーテキスト(Lorem Ipsum)で埋めつくされ、「こちらがCTA」と雑に記載されたボタンが配置されているのです。かつて私が渡されたワイヤーフレームには、文字とはほど遠い、ただの曲がりくねった線の集まりがテキスト部分として記載されていたこともあります。

フクロウの描き方という2コマ漫画を知っていますか?「ステップ1:円をいくつか描く。ステップ2:フクロウの残りの部分を描く。」というものです。この漫画は、まさに曲がりくねった線をテキストとするデザイナーと同じです。

文字が書かれていない部分には、どこも未完成のデザインが隠れています。これらの謎はまた別の謎を生みます。上記のようなワイヤーフレームは、直感的に理解できそうな画面がいくつも表示されますが、言葉が書かれていないため、どの画面まで進んでも最終的なプロダクトは想像できないでしょう。

言葉を選択し、インターフェイスに表示する文章を書くためには、要素に名前を付け、選択肢を明示し、ユーザーに説明しなければなりません。ライティングもデザインの一部です。

これは自明のように感じられるかもしれません。プロジェクトの初期にはわかっていたかもしれませんが、ライティングだけが進みません。私たちはなにを待っているのでしょうか?

ライティングはデザインの一部

言葉は、デザインの中でもっとも強力な要素の1つです。言葉は少ないスペースできわめて複雑な意味を伝達できます。また、読み込みが速く、操作するのもデータとして送信するのも簡単です。なにより素晴らしいのは、何かを新しく発明する必要がない点です。ただいつも通りに言葉を使えばいいのです。

言葉は、デザインの中で「詳細」という単語で一括りにされていることもあります。本当に詳細な情報は、デザインプロセスの終盤まで置いておいて構いません。しかし言葉は、デザインのユーザー体験全体に深く組み込まれます。自分が気に入っているアプリやWebサイト、インターフェイスを確かめてください。そこからすべての単語を取り除いたら、なにが残るでしょうか? それほど残らないでしょう。

デザインしている特定のものに文字が少ないように見えたとしても、視野を広げると、言葉があちこちに隠れていることに気がつくはずです。

  • エラーメッセージとリカバリーフロー
  • 確認画面
  • ページのタイトルや検索エンジンといった、ユーザーに見えるメタデータ
  • システムメール
  • アプリ内ユーザー支援
  • 補足資料
  • 更新履歴
  • 機能説明とマーケティングコピー

上記の言葉は、デザインにおいてレイアウトやグラフィック、アニメーションと同じくらい重要な部分です。デザインは言葉に依存しています

シンプルで美しく、直感的なデザインであっても、ライティング次第でさらに改善することができます。ライティングによって、デザインについてユーザーにどのように考えてもらいたいのか強調することができ、デザインを支える手法や理念についても説明することができます。ライティングによって、複雑なプロセスの中でユーザーを導くことができます。また、デザインの難点や妥協点をかばうことさえできるでしょう。真っ先に頼るものではありませんが、それでも価値があります。

「純粋なデザイン」ですべてを解決しようと、ライティングを見送ることもあるでしょう。いわゆるUXの意思決定者は「優れたデザインに説明はいらない」、「言葉を使わなければならないのなら、そのデザインは失敗だ」といったでたらめを口にするかもしれません。確かにパイロットにはコックピットにあるすべてのスイッチの機能を覚えていてほしいと私は思いますが、同時に念のためラベルを配置しておいてほしいとも思います。

ここでは端的に説明するために、デザイン作業をサポートするために必要な3種類のライティングについて説明します。

  • インターフェイスコピー:UIコピーまたはマイクロコピーとも呼ばれます。これは入力フィールドのラベルやボタンのテキスト、Webサイトのナビゲーションラベル、エラーメッセージといった、インターフェイスに深く組み込まれているテキストです。多くの場合、1つの単語や短いフレーズで構成されます。インターフェイスコピーに該当するのは、テキストを削除するとインターフェイスが「故障」したり、使用するのが非常に難しくなったりするものです。
  • プロダクトコピー:サイトやプロダクト、アプリケーション、体験の機能に不可欠なコピーを指します。ただ、必ずしもインターフェイスの直接的な部分とは限りません。たとえば、オンボーディングのメールの文章や、更新履歴内のアプリをアップデートした説明なども当てはまります。読者を助けサポートすることに重点を置いたコンテンツです。
  • マーケティングコピー:主に販売や販売促進のような役割を果たす長い文章のことです。このコンテンツは読者を説得することに重点を置いています。

プロダクトや組織によっては、さらに多くの種類のコンテンツがある場合や、3つの区別が不鮮明な場合もあります。それでも構いません。この本を読み進めていく中で、それらのコンテンツについても理解できるようになるでしょう。

(「コピー」とは、より一般的な「テキスト」という概念とデザイナーが書いた言葉を区別するための呼び名です。コピーには、ユーザーが入力した文字を含め、システム内のほぼすべてが含まれます。)

ライティングはいつでも難しい

簡単にライティングをこなしているように見える人を知っていたとしても、それはもっともなことです。その人は簡単に書いているように振舞っています。楽な作業になると想定していると、困難な旅の計画を上手に立てることはできません。ライティングは難しいと受け入れることは、ライティングを簡単に終わらせる重要なステップです。

ライティングが難しい理由は、個人的なものだからです。思い入れのないことや反対することについて書いたとしても、自分が生み出したものに変わりありません。書いた言葉には、自分の感情が反映されます。ライティングを達成するには、多少弱みを見せる覚悟をしなければなりません。

ライティングは専業のライターにとっても難しいものです。ほとんどの人がその難しさに気付いていないことで、ライターはさらに窮地に立たされています。ライターは十分な時間がもらえませんし、作業に必要な情報が十分に提供されません。そして、タスクの難しさや必要になるスキルを最小限に見積もって次のように言うのです。「あなたはとてもクリエイティブですね! ではこちらの作業も簡単ですよね? 今日の昼までに仕上げてください。」

残念ながら、ライティングの作業を助ける魔法の薬は存在しません。どんなにファンシーで高性能なタイプライターでさえも、キーボードを操作する人間が必要なのです。

ワークフローでライティングを終わらせる

ライティングを終わらせるのに魔法が使えないなら、どうすればいいのでしょうか。デザインの業界では、ライティングについて考えるに便利な方法として、ワークフローがあります。ワークフローとは、あらゆる種類のプロセスや技術、ツールに対応する全体像です。

プロセスがレシピに従うことなら、ワークフローとは夕食を作ることです。夕食を作るワークフローには、食事の計画を立て、材料を準備し、それらを混ぜて調理し、できあがった料理を出すという明確な段階があります。具体的な手順と結果は料理によって異なりますが、基本的なワークフローは同じです。

この手法はデザインライティングついて考えるときにも有効です。どのような料理を作ろうとも、どれほど特別なリクエストであっても、ステークホルダーがどれほど食事に制約を抱えていようと、毎回同じ基本的なワークフローに従って文章を書きます。

  1. 書く準備をする
  2. 言葉を書く
  3. 書いたものを編集する
  4. 文章を仕上げる

ワークフローを計画するには、これら4つの段階それぞれで扱うツールや手法、人材、プロセスを選択する必要があります。このフレームワークが時代遅れになるまでは、ライティングのワークフローを明確に計画すべきでしょう。計画を立てれば、文章に行き詰まるのを防ぐこともできます。

もしかしたらライティングを終わらせるのに必要なツール、ステップ、人材のすべてを迅速に把握できないかもしれません。しかし、いくつかの知識を知っていて、文章を書く基本的なガイドラインを持っていれば、足りないものを特定することができます。

ワークフローの計画を立てるプロセスは必ずしも長くなく、ほかのデザイナーと共有しているものであっても構いません。秩序立った体系的なワークシートを作成したり(図0.1)、ホワイトボードやノートブックにスケッチしたり(図0.2)、単に新しいドキュメントの上部にメモを取ったりしてもいいでしょう。重要なのは、書き始める前にどのようにライティングを終わらせるのか考えることです。

図0.1:体系的なワークシートがあれば、書き始める前にライティングのワークフローを計画し、プロジェクト全体を通して参照することができます。この方法を採用する場合は、組織に特有の事項に合わせてカスタマイズしましょう。

図0.2:ワークフローを紙上で計画するのに時間をかける必要はありません。じっと見続けていたスクリーンから離れて良い休憩にもなるでしょう。また、終わった作業を線で消していくこともできます。

ライティングは誰にでもできる

私の高校で合唱の先生だったHays先生は、優秀なリクルーターでした。Hays先生が生徒に合唱してみるように頼むと、彼らは「私は歌えません」などと断っていました。それに対し、先生はこう言っていたのです。「話せるのなら歌えます。どちらも同じ筋肉なのですから」。そして、大抵はその生徒をピアノのそばまで連れて行き、彼らが実際歌えることを証明してみせました。

あなたが疑い深かったり、心配だったり、うまくできるか確信が持てなかったりした場合のために、私が使う口説き文句をここに残します。ライティングは、単に思考してタイピングするだけです。あなたは思考することも、タイピングもできます。したがって、あなたは文章を書くこともできるはずです。

この本では、テキストを組み立てて修正するさまざまな方法を取り上げていきます。しかし結局のところ、ライティングとは単なる思考とタイピングです。頭の中で考えて、それを書き留める行為を、ライティングが終わるまで何度も繰り返します。その他のヒントや技術、方法、プロセスは、すべてこの基本的な方法を改良したり抽出したりしたものに過ぎません。

また幸いなことに、ライティングはあなたの想像以上にデザインと似ています。問題をとらえ、制約を特定し、解決策を探す一般的なデザインの作業は、ライティングにも含まれています。UXの作業で使われる方法論の多くがワークフローにも存在します。ステークホルダーへのインタビュー、ユーザーリサーチ、コンテンツの監査、アイデアを考えるワークショップ、批評などです。

ライティングはつねに難しいものです。しかし、簡単にすることはできます。

私たちはすでに前進しています。さあ、ライティングの準備しましょう。


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