優れたカスタマーサービスを提供することは、顧客との関係性を継続する上で重要です。多くの企業は効率的なコミュニケーションチャネルに力を注いでいますが、心理学という重要な側面を見落とす傾向にあります。
ときには顧客の体験を制御できなくなったり、謝罪して賠償を申し出るしかない状況に陥ったりすることがあります。顧客が行動を起こす心理的な引き金を深く理解することで、このような厄介な状況を解決し、顧客体験をさらに向上させることができるでしょう。
この記事では、10個の心理的な引き金とその科学的な根拠、チャットサポートを通してそれらを実践する方法をご紹介します。
自己愛
人間は本能的に、絶えず瞬間的な満足を望んでいます。加えて、人間はつねに自己に対する執着心を持っており、私たちはチャットサポートを使ってこの執着心を呼び起こすことができます。Customer Thinkが指摘しているように、人間は自分の欲望と野心に固執するものです。この自己愛は、周囲の興味を引きたい欲求とも言い換えられるでしょう。そして望んでいた承認が得られると、人間は自分がユニークで、社会とつながっていて、重要な存在であるように感じます。
チャットサポートにおいても、この特徴をいくつかの方法で応用することができます。ここではそのうちの2つをご紹介します。
- 顧客を名前で呼ぶ:とても単純な方法です。顧客を名前で呼ぶだけでも、最初の段階で顧客に関心を向けていると感じてもらうことができます。『How to Win Friends and Influence People』の著者であるDale Carnegie氏によれば、「自分の名前は、当人にとって、あらゆる言語の中でもっとも甘美で重要な響きなのです」。
- 質問をする:デートのときと同じように、質問をすることで、自分が相手に関心を抱いていると感じてもらうことができます。人間は自分を知ろうと問いかけてくれる人を好むものです。またチャットサポートでは、顧客に質問を投げかけることで、自分は特別な存在だと感じてもらえるだけでなく、顧客が何を望んでいるのかを正確に導き出し、最終的な問題解決につなげることができます。
共感
顧客との共感は、カスタマーサービスのもっとも基本的な要素の1つです。
顧客が問題に直面したとき、それに対応する人間が自分ごとのように状況を理解していると感じられたら、顧客は問題が解決されるという信頼度が得られます。
経験を積んだスタッフであっても、顧客をサポートする際、相手に不誠実な印象を与えることはあります。しかし、音声チャットとは異なり、チャットサポートのスタッフは「送信」する前にいつでもメッセージを見直すことができるので、チャットサポートではそれほど問題にならないでしょう。
「今」の満足感
瞬間的な満足感はチャットサポートの根幹です。人々が瞬間的な満足感に夢中になったのはスマートフォンが原因であるように感じられますが、実はこの方法はそれよりずっと前から存在します。瞬間的な満足感を得ると、人間の脳は幸福のホルモンとも呼ばれるドーパミンで溢れることがわかっています。反対に、強制的に待たされると心理的な不快感を抱き、酷いときには苦痛を伴い、身体的な痛みとして現れることもあります。
問い合わせにほとんど瞬時に応答すれば、顧客に対して驚くほど効果を発揮します。もしその状況で自分が顧客の力になれるとしたら、どのように助けられるか想像してください。
もっとも抵抗の少ない方法
前節と同じように、便利なものに親近感を抱く思考には、心理学的な裏付けがあります。
Psychology Todayの記事によれば、人々は選択肢が与えられたとき、困難がもっとも少ない道を選ぶ性質があります。とても単純な傾向です。たとえば、自分の住む地域に配達が可能かどうかを知りたいとき、メールの連絡フォームを入力しますか? それともカスタマーサポートを通じてチャットで問い合わせますか?
チャットを視覚的に目立たせることで、訪問者がサポートと会話を始めやすいよう誘導することができます。たとえば、「何をお探しですか?」というように、最初にチャットへ誘導する引き金を自動送信するように設定できるでしょう。
シンプルで使いやすい
バーゼル大学とGoogleによる調査によれば、人間の脳がWebサイトの美しさと機能性を判断するのには、1/35秒しかかかりません。
人間は、物事が理解しやすく消費しやすいかどうかを瞬時に判断しています。そしてユーザーは、どれだけ理解しやすいか瞬時に判断できることを好みます。
チャットサポートはシンプルで、使いやすく、便利な方法を提供できるでしょう。
選択のパラドックス
心理学者のBarry Schwartz氏が提唱した概念によると、顧客に提供する選択肢が多すぎると非生産的な状態に陥るそうです。これを受けて、Steve Jobs氏は1997年にAppleに戻った際に、自社のプロダクトの70%以上を取り除き、たった4つのプロダクトに集中しました。
FreshDeskの記事によれば、顧客はあまりに多くの選択肢を提示されると、不安や躊躇、感覚麻痺、不満などを感じるかもしれません。
例として、AppleとInfinumのヘルプページを見てみましょう。
Appleのページは多少複雑すぎるように感じます。特に、なぜデバイスが機能しないのかを聞きたい場合は混乱するでしょう。Infinumのものと比較して、どちらのページが使いやすいでしょうか?
チャットサポートにおいても、複数のソリューションを提供したり、顧客に選択を迫ったりするのは避けましょう。これを避けることで、選択のパラドックスを回避できるだけでなく、より迅速な問題の解決にもつながります。
モチベーションの神話
モチベーションの神話は、人間はモチベーションが高まるのを待ってから行動に移す性質があることから生まれました。この概念はモチベーションの罠とも呼ばれ、デザイナーが何も支援しない言い訳になり、本当の能力を発揮するのを妨げてしまいます。
チャットサポートの場合においても、顧客が助けを求めて訪問するまで待ち続けてはいけません。問題が発生する前にサポートを申し出ましょう。
チャットサポートソフトウェアComm100の創設者、CEOのKevin Gao氏は、積極的なスタンスを実装する優れた方法として、より高いコンバージョン率を達成できるページを特定し、チャットウィジェットをテストして自動的にヘルプを提供することを挙げています。
Gao氏は、ユーザーが同じページで30〜60秒費やしたらヘルプを提供するのが望ましいと提案しています。これはユーザーが探しものを見つける作業を邪魔しないためです。
返礼と公平感
優れたカスタマーサービスを提供する利点の1つは、好意に対して代価を与えたい気持ちを植え付けられることです。Userlikeの記事によれば、人間は恩義には報いる傾向があります。したがって、顧客に価値あるものを与えたら、彼らは返礼しなければならないと感じるでしょう。返礼は購買行動という形かもしれませんし、ブランドにとって非常に貴重なブランドロイヤリティという形かもしれません。
たとえば、Zapposは、配送戦略を強化するために、顧客に通知することなく翌日配送を実現しました。その結果、翌日に配送されることを知らなかった顧客に感動を与えることができたのです。他にも、約束した時間よりも早く必要な情報を顧客に返信することでも、同じような効果を得られるでしょう。
チャットサポートを通じて善意を示す方法はたくさんあります。どの方法がもっとも効果的なのか判断し、借りを返したいという感情を顧客に与え続けてください。
心に訴えかける
Acquireの記事によれば、情報を教える、指導する、誘導する、インサイトを与える、新しいアイデアや思想を提供するといった方法で、顧客に行動を起こさせることができます。つまり、プロダクトの利点(使用方法、アップグレードやダウングレード)を顧客に案内することで、プロダクトについて考える動機を与えることができます。
チャットサポートは、顧客に情報を提供する素晴らしいチャネルです。顧客が抱える問題を解決する一環でプロダクトの情報も提供できれば、二重に利益を得られるでしょう。
デザインの心理学
Webサイトと同じように、チャットサポートのデザインも全体的な顧客体験に影響を与えます。したがってチャットサポートは、使いやすいが邪魔はしない、積極的だが強制はしない、目立つが気を散らせないといった基本事項に忠実であるべきです。
カラースキームからフォントサイズ、言葉遣いまで、ブランドに適合するようにチャットサポートをデザインする方法はいくつかあります。
何が機能するのかテストする
重要なのは、すべての心理的な引き金が有効で、適切なアプローチがすべて機能するわけではない点です。それぞれのブランドには個性があり、多種多様な顧客がいます。自分のブランドでは何が機能するのかテストして、チャットサポートの利点を存分に活かしてください。