デジタルデザインに倫理と哲学のアプローチが必要な理由

Giorgia Lombardo

GiorgiaはDesign Mattersのコンテンツライターであり、DeMagSignの編集者です。デザイン、社会、文化に興味があります。

この記事はMediumからの翻訳転載です。配信元または著者の許可を得て配信しています。

Oliver Reichenstein from iA, on the need for an ethical and philosophical approach in digital design

現代のユーザーと企業が直面している倫理問題について、日本でiAのOliver Reichenstein氏と会って話を聞きました。

iAは2005年に東京で設立され、国際的なメディア企業に向けて情報システムをデザインしている企業です。現在では東京、ベルリン、チューリッヒにスタジオを持っています。2010年にはいち早くiA Writerを公開しました。iA Writerは、健全で整ったライティングスペースを提供するために余計なものを取り除いた、ミニマルなライティングアプリです。

エシカルなWebデザインの現状

── デジタル世界における倫理の現状について、どのように考えていますか?

プライバシー問題、スパイウェア、パスワード漏洩、ダークパターン、明らかな虚偽、狡猾な戦略、理不尽なクレームなど、エシカル(倫理的)な問題の例は枚挙に暇がありません。無料でアクセスさせる代わりにパーソナルデータを取得する広告型のビジネスモデルのせいで、私たちの業界は暗礁に乗り上げています。法律とビジネスの両面から何らかの変化を起こす必要があるのは明白です。しかし、テック企業は、財政的に大きな打撃を被らない限り、行動を起こすことはないでしょう。

このような企業は多くの場合、専門家が企業に改善方法を伝え、アルゴリズムのルールに基づいて論理的に倫理のジレンマを解消してくれることを望んでいます。そうすれば、企業側はどのルールに従うべきで、どのルールに従わないべきかを決断することができます。

もし企業が根本的に権力や資本のみを信じていたり、倫理を改善する動機がユーザーとROIの拡大の中にしか存在しないなら、倫理について議論する意味はありません。スキャンダルが続き、企業が財政的に落ち込むまで、改善策を考えることはないでしょう。

── よりエシカルなデザインのために私たちは何をすればいいでしょうか?

私たちが取り組んでいる問題の多くは、各専門家のサイロ化とそれによる責任の分散に原因があります。デザイナーも、ユーザーリサーチャーも、UXチームも、全体像を把握していません。デザインには強い影響力がありますが、1人のスタッフや1つの部門だけだと、悪い慣習に反抗しようにも、その影響力を発揮できないことが多いのです。

業界を変革する政治的な方法は、より合理的で、優れた法律を作ることです。急速に変化する状況に対応するには、法律の作成者と密接に協力できる有能な人材が必要になります。内部から業界を変える唯一の方法は、各企業の中で危機感を覚え、抵抗する文化を醸成することです。高給で働く技術者が団結し、システムに関連する従業員が抗議し、機械の稼働を止めると脅せば、問題は突然、急速に改善し始めるでしょう。

エシカルデザインと企業の戦略

── デジタルデザインの新しい動きやトレンドはありますか?

哲学が浸透したことで、モラルの欠如が生み出すネガティブな側面が注目され、業界全体が現状の問題について再考を迫られるようになりました。これはとても良いことだと思います。ただ、私は「倫理」(国内では「エシカル」)が商業化され、軽薄なトレンドのように消滅していくことを危惧しています。Gartnerが「倫理」は「2019年の9つ目のトレンド」だと主張したことからも予想できるでしょう。

ビジネスコンサルティング会社や会計法人は、数年前にデザインというものに対してもそうしたように、今回もふらっと立ち寄ってこの件で「即戦力」になろうとしています。いつ、どのようにやったのかはわかりませんが、銀行やコンサルタント、会計法人は、一瞬のうちにいくつかのデザインエージェンシーを買収し、現在は大々的に自分たちは開発者やデザイナーだと言います。

彼らがUXやIoT、VR、ブロックチェーン業界にも属しているのはとても奇妙です。もちろん優秀な人材がそこにたくさんいますが、彼らには文化がありません。未来を予測すると吹聴する華美で高級なPowerPointのプレゼンテーションには、客観性をつくろったピラミッド構造と円グラフしかありません。私は「これらの会計法人は優れたデザイン価値を提供します」と教えてくれるクライアントに会ったことがありません。彼らはお得意のPowerPointプレゼンテーションを活用して、今度は「倫理」を売り始めようとしています。これらの企業は健全な発展を妨げているのです。

── では、エシカルで優れたデザインを作り出す企業はありますか?

Center for Humane Technologyの共同設立者であるTristan Harris氏のように、テクノロジーの乱用に立ち向かう人々はたくさん存在します。Appleは「プライバシーは人権である」と主張する企業として有名です。同様に、国連はプライバシーを基本的人権の1つとして挙げています。しかし、白か黒か割り切るのは合理的ではありません。Appleがこのように主張したのはより多くのiPhoneを販売するためなのかどうか、議論の余地があります。ただ、どちらにしても重要なのは、Appleのような大企業のCEOが「プライバシーは人権だ」と宣言した点です。主張に別の意図があろうと、発言がiPhoneの販売量に貢献していようと、まず挙げるべき事例だと思います。

── AppleのUIにおいてもエシカルなデザインが表現されていると思いますか?

Appleは「コンピューターは人間に従うべきものであり、その逆であってはならない」という考えに基づいて設立されました。これはAppleの最初期の企業理念として掲げられたものですが、現在では消えてしまいました。しかし、彼らが技術を介したあらゆる侵害から人々を守ろうとしてきたことは確かです。同時にAppleはスマートフォンを世界に普及させ、自分たちのプロダクトに人々を結びつけるためにあらゆる試みを実行しています。

人間は世界の両面を見ようとしますが、世界は簡単に白黒つけられるものではありません。物事にはつねに多くの要因があります。はっきりと区別できることは滅多にないのです。したがって、現在の環境の中でもプライバシーは人権であると明言するテクノロジー企業は称賛しなければなりません。特にAppleのような大企業からこのような主張が発せられたことは、好ましい進展だと思います。

── つまり、それはビジネスの構造を変えなければならないということでしょうか? それとも変えるべきは、ユーザーに関連しやすいUIのほうでしょうか?

UIは、ユーザーと企業の間にあるものです。間にあるものはすべてUIの一部であり、ユーザーが実行する行為とその反応はすべてUIだと言えます。たとえばAppleのUIでは、正しく機能する部分とそうでない部分を指摘できます。

iOSの設定画面では、さまざまな項目からiPhoneの使用状況を確認できます。これは素晴らしい機能です。設定を確認するたびに、スマートフォンを4時間、6時間、7時間も使用していると実感することで、スマートフォンに依存する自分の愚かさを確認することになります。一方で、デバイスを最大限に利用できるよう、短時間や中期間の注意を示すデバイスの記録もあります。

倫理を守るためにデザイナーができること

── 悪用や過剰使用に関する問題について、デザイナーはどのように対処すべきでしょうか?

私たちの場合はまずテキストを書こうとする人に対して、落ち着いてじっくり書くように促したいと思っています。ユーザーがテキストを書くときに過度に多くの機能で気をそらさないようにしています。人々が自分自身を表現することに集中するのは本質的には好ましいことです。

私たちが提供するものが悪用されていないと確証することはできません。それでも、ユーザーを落ち着かせて、じっくりと思慮深く行動するように促すデザインであったら、それは急激に変化を求めるデザインより優れた影響力を持つと、私は信じています。

一般的に悪いことが起こるのは、人々がいい加減で、他人を気にせず、自分のことばかり考えているからです。彼らには締め切りがあり、守るべき責任がありますが、遠くにあるそれらと自分の間には必ず「誰か」が存在し、そんな誰かをその責任のために傷つけてしまうのです。

私たちはデザインするとき、ユーザーが実際に目にするものだけでなく、ユーザーのインタラクションそのものを作っています。これがデザインの本質です。私たちは人々の行動をデザインしているのです。したがって、デザインには非常に重要なエシカルな側面があるのです。

iA参照

── デザインと倫理が密接であることは、デザイナーの役割にどのように影響しますか?

デザインすることは、究極的には人々の行動を形作ることです。問題は、デザイナーは時間と余裕がなく、哲学者のように倫理的な思考に対する訓練を受けていないことです。一方で哲学者には、自分の考えを他人が理解できるように伝える経験や技術がありません。偶然にもこの技術は、デザイナーが得意な要素です。哲学とデザインを上手く結びつける方法があれば、双方に利益をもたらすと思います。

デザインは非常に極端になりつつあり、もはや合理的とはいえません。最先端のタイポグラフィを追うことができるのは、ほんの一握りの人々だけです。もし私が列の高さに応じて行の高さや太さ、間隔がどのように変化するのか説明したとしても、一般の人々には難解な議論でしかなく、もはやそれは論理的とも言えないでしょう。同時に、哲学の研究者は専門用語しか使わず、人々からまったく理解されないので、自分の思考を具現化するためにどのような作業をしても意味をなさないでしょう。

哲学者とデザイナーは、お互いに見習うべきです。協力するだけでなく、お互いから学び合う必要があります。哲学者がデザインを学び、デザイナーが思考方法を学んだら、双方の分野に素晴らしい影響を与えると確信しています。とても細いつながりですが、実は強い力を持っているのです。

── デザイナーが哲学者の考え方に近づくには、どうすればいいでしょうか?

矛盾していますが、倫理について学ぶことをおすすめします。Wikipediaから始めて、もし興味がわいたら、掘り下げてみましょう。しかし哲学は、問題を自分で研究して初めて理解できるものです。そのうち、学習した知識が、大した情報ではないことに気づくでしょう。

ボルダリングのように、たどり着く地点があるわけではないのです。WittgensteinやHegel、Kantらの著書を読むのは、彼らがどのように考え、どのように物事を見るのかを学ぶためです。それによって、彼らのユニークな視点を取り入れることができます。デザイナーが哲学的な倫理を勉強すれば、その特有のマインドセットが自分のものになり、デザインの一部となって行くのです。

私は自分の矛盾を解消する意味でも、世界の問題が哲学者やデザイナーにすべてかかっているとは思いません。まず、ビジネスマネジャーたちに注目してもらいたいと思っています。デザイナーが立ち向かう問題は通常、期限や予算、ビジネスの目標に関連しているからです。

デザインだけでは多くの利益を上げることはできません。美しいものが好きだからデザイン業界に進んだデザイナーをたくさん知っています。また、美しさは邪悪の発生を避ける1つの方法です。良いものと美しいものにはつながりがあります。理論的には、美と正義と善はただ関連しているのではなく、1つであると強調するプラトンの倫理にもつながるでしょう。

デザイナーは美しいものや、善意、正義の美しさを見出すことに対して大変親しみがあると私は思います。私たちは聖人ではありませんが、自分たちの主義や嗜好を持つことを誇りに思いながら、ほかの人々よりもほんの少し多く、醜悪なものを遠ざけることができるかもしれません。

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Oliverはコペンハーゲンで行われたデザインカンファレンス「Design Matters 19」のスピーカーでした。今年も「Design Matters 20」が9月23日-24日に開催されます。詳しくはこちら

 

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