建築現場の課題をどう解決するか? 建築現場のSaaSとデザインチームの哲学

UX MILK編集部

モノづくりのヒントになるような記事をお届けします。

デザイナーやクリエイターの中には、自分たちが接することの少ない業界やユーザーに向けたサービス開発やデザインを行う人も多いかと思います。では特定の業界に特化したサービスのデザイン現場ではどのようにデザインを進めているのでしょうか?

建設業界に特化したクラウド型の建設・建築現場プロジェクト管理サービス「&ANDPAD(アンドパッド)」を提供する株式会社オクトの建築業界に特化したサービスとデザインチームついてお話を伺いにいきました。

登場人物
株式会社オクト 開発部 リードデザイナー 後藤啓之氏
7番目の従業員としてサービスのシード時期からジョイン。プロダクト全般のUI/UXデザイン、デザインチームの立ち上げとマネジメントを担当。現在はブランディングに従事。

課題解決のヒントは「現場」にある

── 今日はよろしくお願いします。まずは株式会社オクトについて教えてください。

後藤:株式会社オクトは「建築・建設業 すべての人々の「働く」を「幸せ」に」というミッションを掲げ、建設、建築業に関わる全ての人たちが幸せになるようなサービスを開発・提供しています。現在、建築業界は一人の現場監督が複数の現場を掛け持ちしているなど様々な要因があり生産性が低いことが社会課題になっています。私たちオクトは建築現場の課題を解決するをするサービスを開発しています。

── どのようなサービスでどういったユーザーが使われているのでしょうか?

後藤:&ANDPAD」という住宅建築の新築・リフォーム工事の情報管理をするサービスを開発しています。

ユーザーは主に現場で工事管理を行う現場監督さんや、作業をされる職人さんですね。他業界と比べても全体的に年齢層が高い方が多いためか、スマートフォンの扱いに慣れていない方も多い印象です。

「&ANDPAD」ユーザーの特徴としてアプリ画面以外の操作条件があります。

  • 作業時は手に軍手をはめているのでアプリを使う際、素手でスマホを触れない。
  • 日光が当たりアプリ画面が本来想定していた見え方と異なることがある。
  • 老眼のユーザーが増えてくる。

── ユーザビリティに制限が出てくるのですね。サービス開発する中でユーザー体験で考慮されていることはありますか?

後藤:建築現場の方は手や指が大きい方が多く、持っているスマートフォンが小さい場合もあるんです。パスワードを入力するとき、小指でタップしていたこともありました。なのでセルをiOS標準より少し太くしたりしています。

このようにユーザー体験はデザイナーが現場に出て実際ユーザーからお話を聞いたり、観察しないとわからないことが多いと感じています。アプリ画面以外のユーザー体験も考えはじめていて、手に軍手をはめたままでもスマートフォンが使えるようにならないかと思いオリジナルの軍手を試作しています。

デザインの背景を「DesignDoc」で整理する

── 配慮することが多いですね。他に大変なことはありますか?

後藤:ユーザーのロール(役割)が多いです。メインユーザーは現場監督さんですが、他にも職人さんや営業さんや経理などの事務方もユーザーに含まれます。そして建築業界ではそれぞれのロールが明確に分かれてないことが多い。たとえば情報入力と閲覧権限は現場監督さんでなく実は事務方のほうが必要だったり。そして会社によって職域とロールが変わったりします。

ロールによって想定される画面で何を見たいか・どういった使い方をしたいかが異なるのでバランスを取るのが難しいです。ロールごとのペルソナや要件を決めるのが大変ですね。

── そういった状況だとチーム内で開発方針を決めるも大変だと思います。オクトではどのように解決しているのでしょうか?

後藤:オクトのデザインチームでは「DesignDoc」を導入し、運用して開発方針を決めています。「DesignDoc」とは施策内容を記載した設計ドキュメントです。元々はGoogleで運用されていた設計ドキュメントを参考に、デザイナー向けに作成しました。

記入内容は主に7項目で「施策の目的」「背景」「ターゲットユーザー」「ユーザーゴール」「やること」「やらないこと」「懸念」を記載します。

  1. 1. 施策の目的:施策の内容を1文で表す
  2. 2. 背景:施策化した理由やきっかけ
  3. 3. ターゲットユーザー :誰に対してメリットを提供したいのか
  4. 4. ユーザーゴール:ターゲットユーザーの達成したい目標
  5. 5. やること:施策内でやること
  6. 6. やらないこと:施策内でやらないこと
  7. 7. 懸念:小さな不安でも何でも気になること

オクトではプロジェクトの初期にデザイナーが「DesignDoc」を記載してからワイヤーフレーム、デザインへ進みます。また社内でJIRAが運用されており、デザイン系のチケットにDesignDocのテンプレートを用意しています。基本的には7つの項目を入力するだけで着手前にタスクが整理できるようになっています。

検査機能に関するJIRAのデザインチケットの例

── それは便利そうですね。運用してみて変化した部分はありますか?

後藤:「DesignDoc」を事前に記入しておくことで、周りもデザイナー自身も今やっているデザインの背景がわかるようになりました。これがあるとプロジェクトの進行途中に、本来の目的を見失うことを防ぐことができます。

またチーム内で「DesignDoc」を共有しておくと、デザインの背景に対して「このタスクは今やるべきなのか、やらなくてもいいんじゃないか」ということがチーム内でお互い話しやすくなりました。特に「やらないこと」の重要性は高いです。本来の目的から離れた開発は意味がないので。

最近ではデザインチームだけでなく、PMやマーケターといった他の職種でも活用してもらえるようになってきましたね。

建築現場の社会課題にデザインチームはどう貢献できるか

── オクトのデザインチームで大事にしていることはありますか?

後藤:オクトのミッションやビジョンに共感できるかを大事にしています。建築現場の社会課題に対してデザインがどう貢献できるか。「&ANDPAD」というプロダクトを通して建築現場の新しい文化や価値観に繋がるサービスを一緒に考えるデザインチームにしたいです。

僕たちはユーザーさんとオフラインの交流をとても大事にしていて、展示会や説明会をよく行います。そこで出会ったユーザーさんから自社の利益だけではなく、業界全体の課題を考えた意見をいただくことが多いんですね。

「建築業界をITで良くできないだろうか?」そういった熱い想いをもってオクトを応援してくださるんです。僕たちデザインチームはその想いをプロダクトに反映しなければならない。そこにチャレンジしていくチームにしたいです。

最近ではエシカルデザインというのも注目されていて、僕らも率先して考えていきたいです。

── 今後オクトのデザインチームとして目指す方向性を教えてください。

後藤:建築現場の方が普段使っているトンカチと同じように、ITツールを道具として使いこなせるようになって欲しいと思ってサービス開発を続けています。会社にITツールを導入したことがないユーザーも多い中、少なからずITツールに対して抵抗感を持っている方はいます。その壁をデザインチームで超えたいなと思っていますね。

・・・

インタビューを通して、職人の高齢化や生産性の低下といった建築業界の社会課題をデザインチームも考えていたり、現場で働いている人たちが抱える課題を見つけるためユーザーと密にコミュニケーションをとりながらサービス開発を行う姿勢が印象的でした。

オクトさんでは、さらにプロダクトを一緒に開発してくれるUI/UXデザイナーや社内外へオクトの世界観を伝えるグラフィックやコミュニケーションをデザインする専門のデザイナーを募集されているそうです。興味のある方は是非こちらをご覧ください。

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提供:株式会社オクト
企画制作:UX MILK編集部


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