社会に変化をもたらすためにデザイナーができること

Giorgia Lombardo

GiorgiaはDeMagSignの編集者であり、Design Mattersのライターです。

この記事はDeMagSignからの翻訳転載です。配信元または著者の許可を得て配信しています。

We Need to Abandon a Human Centric Approach to Design Sustainably

Kaave Pour氏はコペンハーゲンに拠点を置く革新的なリサーチとデザインの研究組織であるSPACE10の共同創業者であり、執行役員です。SPACE10では、将来、人と地球に影響を与えるであろうと考えられるいくつかの主要な社会的変化に対する解決のデザインをしています。

人がより持続可能なかたちで生きていくためのプロダクトやテクノロジーをデザインすることが、いまこの時代においてなにより重要です。そして私たちはDesign Mattersにおいてそのことをなにより重視しています。

歴史的に、テクノロジーの進歩は生産プロセスの改善と人々がより長く生きられるような生活条件の向上に責任を負ってきました。しかし、テクノロジーの進歩がつねに環境にとって、ひいては人々の健康にとって有益であったわけではありません。イギリスの産業革命において燃焼された石炭に起因するスモッグと大気汚染のことを考えてみてください。あるいは原子力発電所の事故がもたらした破滅的な結果を、そしてすべての先進工業国が現在汚染に悩まされている微細な汚染物質のことを考えてみてください。

今日(こんにち)、私たちが利用しているテクノロジーのほとんどはスクリーンに依存しており、結果として、デジタルデザインは日常的に使えるプロダクトという以上の、無くてはならない必需品になっています。ですが、私たちが現在使っているテクノロジーは、すべてが環境と健康にとってよいものなのでしょうか?

Kaave Pour氏

私たちは未来を見つめ、どのようなテクノロジーとデザインが人々の生活をさらに持続可能にする手助けをするのか知るためKaave氏に会いに行きました。

テクノロジーの過負荷とデザイナーの役割

——最近では、「テクノロジーの過負荷(Tech Overload)」についての議論が盛んになっています。この議論も具体的な問題だと考えていますか?

テクノロジー自体は目新しいものでもなんでもなく、私たちがつねに持っていたものです。たとえば、私たちが曖昧なものに実体を持たせるために使っているアルファベットもまた、一種のテクノロジーだと言う人もいます。

テクノロジーの過負荷に関しては、テクノロジー自体がどんどん目に見えなくなってきていることを踏まえると、どれだけの人が実際にテクノロジーの過負荷を感じているのかわかりません。テクノロジーとは、私たちのためになにかを機能させるものです。ほとんどの人はクレジットカードがどのように機能しているのか、あるいは自動車がどういう仕組みで動くのかを考えることはありません。

しかし私たちは一人ひとりに合うようにテクノロジーの最適化や調整をおこない、いたるところへテクノロジーを組み込むことに長けているので、どこにテクノロジーが存在しているのかほとんど気づかないのです。ですから、テクノロジーの過負荷という事象は、テクノロジーそのものが表に現れてきたことだと言えます。そのことが、ふだん使っているものの中に何らかのテクノロジーが隠れていること、あるいは巧妙に組み込まれていることを理解するための契機になってきています。

——テクノロジーがスクリーンに依存しすぎていることは問題だと思いますか?

多くのものがスクリーンを使わずに機能していたのは過去の話です。現在では、あらゆるものにスクリーンがあります。私たちがテクノロジーとデザインを同時に使えることを理解したとき、デザイナーたちは意味のあるインタラクションをつくることではなく、実証することに注力しました。彼らは、なにが可能でなにが不可能なのかを明らかにすることを望んだのです。だからこそ彼らのデザインは明白で、極端なものでした。現在ではもっと成熟していて、明白であったインターフェイスの影が薄くなり、デザインはもっと自然で融けこむものになっています。

とにかく、私たちはどんどん入ってくる新しいものを取り入れ続けています。現在で言えば、コンピュータビジョンと機械学習がトレンドです。私たちは結局また、「これでなにができるだろうか? どうすればこれをすべてに適用できるだろうか?」と自らに問いかけをし、同じ道を進むのだと私は信じています。そしておそらくどこかのタイミングで、うまくいけば私たちは最適なバランスを見つけて、再び成熟するでしょう。

テクノロジーの過負荷という局面は、新たなテクノロジーが導入されて間もない時期に頻繁に起こり、デザイナーはその新たなテクノロジーをデザインに適用する方法を実際にはまだ知らないと思います。これは周期的に繰り返すものです。そして社会はつねに「頭痛」の原因となる別の新たなテクノロジーを発見します。

Adventure Naturalistより

——デザイナーが新たなプロダクトをデザインするときに考えるべきことのうちでもっとも重要なものは何でしょうか?

デザイナーは、プロダクトをデザインすることと解決策をデザインすることの違いを意識すべきだと思います。時々、プロダクトをつくること自体が目的となってしまう場合があります。しかし実際には、プロダクトそのものは目的ではなく、目的を達成するための手段なのです。プロダクトは、問題を解決するためにつくられるべきなのです。

またデザインにおいては、誰のためにデザインしているのかを自問しなければなりません。ここSPACE10では、過去10年または20年に渡って存在している、「デザインは利益をもたらさなければならない」という考え方に挑戦しようとしています。

私たちはいま、過去のデザインによるいくつか解決策によって人々がどのように度々苦しめられているかということに目を向けています。私たちのデザインアプローチは、人々にとってよいものであることを目指しています。

デザインによる解決策は人々に受け入れられるものであるべきですが、同時に、私たちの住む地球のためにデザインされるものでなければなりません。

人と環境へのデザインアプローチ

——人と地球の両方のためにデザインすることは難しいでしょうか?

大変難しいです。なぜなら、人々に利益をもたらすものが、地球にとってはとても悪いものもあり、またその逆もあるからです。地球にとってよいものでも、人々にとってどうかという考慮を欠いたようなものをただデザインすることはできません。そのような場合、多くの人に受け入れられて広まることはないでしょう。

——人と環境に同時に役に立つようなプロダクトやデザインの例を挙げてもらえますか?

たとえば、物質的なプロダクトやある種のエネルギーを循環させるようなサービスをデザインするなら、それは地球にとっても、人々の財布にとっても、よいものになると思います。実際こうしたプロダクトはより効率的に、そしてより手頃な価格になっています。たとえば、人々は車を購入する代わりにリースしたりカーシェアリングサービスに登録したりすることができます。

こうなると、自動車メーカーには長持ちしてより持続可能な車を生産するインセンティブが生まれます。人々の観点からみると、このような自動車産業がデザインされることによって、利便性がさらに向上し、より手頃な価格で自動車による移動手段を手に入れることができます。

コペンハーゲンベースのカーシェアリングサービスDriveNow

将来は、価格の安さとプロダクトの循環性を兼ね備えたサービスがどんどん増えていくと思います。

——なにかお気に入りのプロダクトはありますか?

新しいApple Watchが好きです。私には一人暮らしの祖母がいるのですが、彼女の健康状態を日常的に確認しなければいけません。一人で暮らしている以上、もし祖母になにかあっても、誰もそれに気づかないのです。Apple Watchは、新しいテクノロジーが何でもエンターテイメントとコミュニケーションに関するものである必要はないというよい例だと思います。Apple Watchが主に音楽とマイクロアプリのためのものだったのが、純粋に健康に関わるものに変わってきているのは興味深いです。

もう一つ好きな会社があります。Technology Will Save Usというイギリスに拠点を置くDIYのガジェットキットを製造している会社です。彼らは、子どもたちにスクリーンを通さずにテクノロジーについて学ぶ力を身に着けさせようとしています。ここ何年にもわたって、画面を際限なくスクロールして受け身で消費する風潮が続いています。個人的には、子どもまでこれに巻き込まれるのは好ましくないと思っています。

子どもたちはいまはただiPadを与えられるだけですが、そうではなくてもっと遊ぶべきですし、活発に身体で体験すべきです。テクノロジーについて学ぶことは、iPadを使わなくてもできます。それは、もっと実際の体験に基づくものなのです。Technology Will Save Usのプロダクトは、価格を抑えながらも美しくデザインされたものの素晴らしい例だと思います。

Technology Will Save Us社のDIY Gamer Kit

デザイナーの役割はどう変わっていくのか

——将来、デザイナーの役割は、テクノロジーによってどのように変化するでしょうか?

テクノロジーはデザイナーの役割を補完すると思います。すぐに置き換わるようなものだとは思いません。もっとも大きな変化は、デザイナーのインターネットを通しての働き方、生き方に関わる変化だと思います。

始めのころは、インターネットは主に通信、情報共有、メッセージのやり取りのために使われていました。いまでは、インターネットは他の業界にも進出しています。たとえば、「移動のインターネット」とでも呼ぶべき動きが起こっています。輸送部門はインターネットによって変わりつつあり、すなわち、場所から場所へ移動する旅行者の生活も変わってきています。

過去数年でタクシーの競合になるような、人々が移動するために電動スクーターなどの代替手段を提供し、渋滞を避けて移動する計画を立てやすくするアプリが急増しました。移動のインターネットのおかげで、人々はより速く、安く移動できるようになっているのです。さらに、全然繋がりのなかった企業や工場が、より繋がるようになってきています。

デザイナーである私としては、テクノロジーが単にソーシャルメディアであるという考えを変えなければならなくなるだろうと思っています。

テクノロジー自体は悪いものではありません。過去10年間にあった多くのアプリは非常に悪いものだったかもしれませんが、テクノロジーはコミュニケーションの手段という以上の広い意味をもつものなのです。

——では、デザイナーは特定の分野における特定のスキルセットを身につけるべきなのでしょうか?

デザイナーは2つのタイプに分かれると思います。デザインとテクノロジーの分野においてよりジェネラリストとして仕事をするデザイナーと、テクノロジーの1分野を深く究めるデザイナーです。分野とは、コンピューターに関連するデザイン、空間的なコンピューター利用、あるいは新興市場における低忠実度のUXプロトタイプの改善などでしょう。

重要なことは、デザインが活躍できる領域を見つけることです。デザイナーは、「自分は職人になりたいのか、それとも戦略家になりたいのか」と自問する必要があると私は考えます。

——社会と、世界に変化をもたらすにあたって、デザイナーが負うべき責任とはどのようなものでしょうか?

デザイナーは1人では変化を起こすことはできないと思います。誰も1人では改革者にはなれないのです。しかし、デザイナーは間違いなく変化を起こすことに貢献できます。

デザインのプロセスにおいて「これはエシカル(倫理的)だろうか? 責任あるやり方だろうか? 地球をより良くするものだろうか、それとも悪くするものだろうか?」というように正しい疑問をもつならば、デザイナーは正しい仕事ができるでしょう。

デザイナーの役割は、会社のビジョンと方向性をシンプルにし、調整することなのですから、デザイナーは他の人よりも世界に変化を起こす能力に恵まれていると思います。

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Kaaveはコペンハーゲンで行われたデザインカンファレンス「Design Matters 17」のスピーカーでした。今年も「Design Matters 20」が9月23日-24日に開催されます。詳しくはこちら


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