21年前に誕生したGoogle検索は、プロダクトデザインにおけるケーススタディのすばらしい例として今日(こんにち)に至るまで注目を浴び続けています。
過去20年間でGoogleは「世界中の情報を整理し、世界中の人がアクセスできて使えるようにする」という壮大な目標を掲げ、それを達成するためのすさまじいほどの企業努力を続けることで競合他社を寄せ付けませんでした。Googleとその親会社であるAlphabetは、ソフトウェアのほぼすべてのカテゴリにその個性的なアプローチを取り入れています。
2019年5月現在
- YouTubeの20億を超える月間ユーザー数
- アクティブなAndroidデバイス数は25億台
- Googleマップのユーザー数は月間10億人以上
- Gmailの月間ユーザー数は15億人以上
卓越性と遍在性という面において、Googleのソフトウェアのクオリティは非常に高いレベルを保っています。そして、Google検索はそのすべての中心にあるといってよいでしょう。Larry Page氏は2012年のFortune誌によるインタビューでGoogle検索に対するビジョンを語っています。
完璧な検索エンジンはユーザーのどのようなニーズも理解します。世界中のすべてを深く理解し、必要なものを正確に返してくれるのです。
そのビジョンに基づく結果を得ることで、ユーザーが優れたプロダクトに期待するものについての洞察が得られます。これらの洞察を当てはめることで、微調整された機械と同じレベルのユーザビリティとユーティリティを試すことができ、これがGoogle検索となるのです。
コアな原則
Google検索の原点は、プロダクトデザインのいくつかの単純なルールがどれほど強力であるかを示しているということです。
形状=機能
Google検索が登場した1998年、当時の検索業界で圧倒的な認知を得るためにGoogleが取ったデザイン戦略は、それが「検索」以外の何物でもない形にするということでした。
いまとなっては忘れ去られた結果に過ぎないかもしれませんが、Googleの初期の競合企業の、検索エンジンのホーム画面と比べてみましょう。
違いは一目瞭然です。GoogleのUIはシンプルであり、その目的はすぐわかるでしょう。一方、競合企業の画面はシンプルとはいえません。検索機能はサイドバーとして配置された補足的なものであり、ページ上の数百の要素の一つでしかなかったのです。その理由は次の2つです。
1. 当時、検索機能を正常に機能させることは非常に難しいことでした。もし1998年にインターネットを日常的に使っていた人なら、たとえば「コーギー OR(または) ダックスフント NEAR(に近しい) "かわいい犬" 」のように、検索クエリが複雑になっただけでも適切なページを見つけるのに長い時間がかかったことを覚えているでしょう。望む情報のページを見つけるために何度も検索をやり直し、その検索結果は探しているものとは無関係な場合がほとんどだったのです。
2. 90年代にもっとも成功を収めたインターネット企業(AOLやYahooなど)は、Webページをキュレーションおよび集約するようなものでした。ユーザーにパーソナライズした「スタートページ」で、ニュース、天気、金融市場、オンラインショッピングへのすべてのリンクを提供したのです。Web上のコンテンツの品質は全体的に低く、少量でした。キュレーターと呼ばれる少数の人たちが手作業でインターネットから最高のものを集め、提供することは簡単なことだったのです。
Googleは検索のみにフォーカスし、その専門性と透明性を打ち出すことで、競合他社のキュレーションをベースにしたアプローチから情報を「解放」し、検索の重要性に大きく賭けたのです。
インターネットの規模と標準が指数関数的に成長するにつれて、その賭けは報われたと言えるでしょう。そしてそのすべてを経たいまでも尚、google.comはシンプルな検索バーそれだけです。
経験は不要
ここ数年間でソフトウェアの機能に適用される発見可能性という言葉を耳にするようになりました。はっきりとした定義はわかりにくいですが、私は次のようなものだと考えています。
発見可能性:ユーザーがガイダンスなしで機能を最大限に活用できるようにするUIの品質。
ユーザーがその機能を最大限に活用する方法をすばやく習得できる場合は発見可能性が高く、経験の浅いユーザーがその機能を使用できない、またはその恩恵を受けられない場合は発見可能性が低いと言えます。
たとえば、ドアハンドルがあるとします。発見可能性が高いハンドルは、回すタイプのハンドルであればその形状は丸く、押すタイプのものはレバー型です。逆に、押すタイプのドアであるにもかかわらず押すことも引くこともできる縦型の棒タイプのハンドルもあり、この場合は発見可能性が低いと言えるでしょう。(補足:発見可能性が低いと言えるこのタイプのハンドルはDon Norman氏にちなんでNorman Doorsと名付けられました。Norman氏はものがどのように使用されるべきかについてのヒントを与えるデザイン要素を「アフォーダンス」(機能の視覚的目印)という造語を使って解説しています。)
Google検索は発見可能性において王道中の王道を行っていると言えるでしょう。これは設定を構成する必要なくUIがユースケースと経験レベルに流動的に適応できるからです。Googleはその確信をもって「設定」ページの痕跡すらも削除したのです。
In 2017, Google got rid of “Advanced Search.” Why? Because nobody clicked on it. Initially, Google sent you to Advanced search when you wanted to do a geographic search. Today, they understand that you’re doing a geographic search and show you a map.@gerrymcgovern #aeachi #cx
— zeldman (@zeldman) August 28, 2019
2017年に、Googleは「高度な検索」機能をなくしました。何故かって? 誰もクリックしなかったからです。Googleは当初、地域指定で検索したいユーザーのためにこの機能を導入しましたが、今日(こんにち)ではGoogleはそれを勝手に理解し、地図を表示してくるのです。
言い直すと、インターネット上でもっとも高度な検索エンジンには、設定の必要がないのです。猫の画像が必要ですか? 「猫の写真」と入力すればよいのです。23.45パーセクを光年に変換したいのですか? 「23.45パーセクを光年」と入力すればよいのです。ユーザーが学習することはほとんどないに等しいのです。
エラーはない
Googleがつねに遵守している最後の原則の一つは、ユーザーの入力がどのようなものであっても、検索はつねに機能するということです。そこには弾力性のようなタフさがあります。これは些細なことのように思えるかもしれませんが、何らかの形で入力フォームを作成したことがある人なら予測できないユーザーの行動について理解できるでしょう。
このアプリケーションは膨大な量のデータを処理しながら同時に検索するのです。「犬」を検索すると、0.89秒で約5,480,000,000(54億)の情報が検索されたと、自慢気に表示されます。一方、「zzzzzxxxxxzxzxxxz」で検索すると1976年9月14日に火星から地球に送られたバイキングオービターの送信結果が1つだけ見つかりました。
ユーザーに表示される唯一のエラーは、検索クエリがあまりにも難解で表示する論理的な結果がない場合です。その場合でも出されたメッセージは現実に即したもので、一言でエラーとは言いがたいものです。そしてユーザーに基本的なヒントを与えてくれると言えるでしょう。
アダプティブデザイン
Google検索の最初の原則、つまり初期から存在していたデザインアイデアは成功事例のほんの一部に過ぎません。最近のGoogle検索のデザインはユーザーが検索結果をクリックする前に、必要としている情報を提供することに焦点を当てています。これを成し遂げるために、Googleはアダプティブデザインと呼ばれるアプローチを採用しています。
アダプティブデザイン:個々のユーザーのニーズに応じた構成要素を表示する方法のルールとともに、小さく独立した構成要素をデザインすることによってUXをつくり出すこと。
アダプティブデザインとはすべてのユーザーとすべての検索結果、表示される情報に合わせてカスタマイズされたUIが作成されることです。さまざまなユースケースに応じて検索結果ページがどのように変化するのか、いくつかの例を見てみましょう。
Google検索がユーザーのニーズに適応する最初の方法は、結果に合わせてナビゲーションを再配置することです。歌手の「lizzo」で検索すると検索ボックスの下のリンクは順番に画像、動画、ニュース、ショッピングです。イスラエルの都市テルアビブ「tel aviv」で検索した場合はニュース、画像、地図、そして動画です。 Appleの銘柄記号である「aapl」で検索すると金融、ニュース、書籍、そしてショッピングへのリンクが表示されます。Googleがこれらのリンクを検索クエリに合わせて配置できる方法は、362,880通りもあるのです。
それだけではなく、アダプティブデザインの最大の例は検索結果自体のレイアウトと言えます。検索結果のページは完全にモジュール化しており、検索に応じて、さまざまな構成で異なる要素が表示されます。
たとえば、歌手であるLizzoの検索結果はメディアに焦点を当てています。一連のモジュールはビデオ、写真、曲をネイティブフォーマットで表示します。YouTube、Twitter、Facebook、Instagram、SoundCloudのLizzoのプロファイルへのリンクとともに、最近のニュース、ツイート、今後のイベントも表示されます。従来の検索結果のようにみえる要素が表示されるのはページの最後のほうです。
一方、イスラエルの都市テルアビブに関する検索結果では、旅行者の情報に優先順位がつけられます。画像、地図、地域の天気、旅行関連の質問(「テルアビブは観光客にとって安全ですか?」「テルアビブの有名なものは?」)は、従来の検索結果よりも優先されます。モジュールはテルアビブのおすすめ情報とともに、近隣の都市の情報も同時に提供してくれます。
検索結果ページに表示される可能性のあるモジュールは、単純なレイアウト駆動型のモジュールから完全な自己完結型のアプリケーションまで数千にものぼります。たとえば、「aapl」の検索結果画面の株価表示モジュールには、現在の価格とインタラクティブな過去の価格グラフが表示されます。
アダプティブデザインではコンテンツ、フォーマット、順序に関するすべての決定はアルゴリズムによって行われます。デザイナーの役割は明示的な外部レイアウトを作成することではないのです。これらのレイアウトを生成するためのルールを決めることが現代の最先端をいくプロダクトのデザイナーや、日常的に使うプロダクトをデザインする未来のデザイナーたちの役割なのです。
テスト自動化と反復
明示的な静的デザインから暗黙的なアダプティブデザインへの移行の背後にある原動力は、インターネットの規模拡大によるものです。2000年以降、約42億人の人々がインターネットを使い始めました。ほとんどの人々がGoogle検索を利用したと考えてよいでしょう。多くのユーザーのニーズに対応できるデザインチームは、洗練されたテストと自動化なしでは成り立たなかったでしょう。
Googleは自動化されたテストをプロダクトデザインに適用したパイオニアと言えます。検索に関する最初のA/Bテストは2000年2月27日に実行されました。技術的な不具合によりテストは失敗に終わりましたが、のちにGoogleは発展を遂げ、2011年までに毎日約20件のA/Bテストを検索アルゴリズムで実行したのです。6年後にはその数は5倍になりました。2017年だけでGoogleはリサーチへの参加者と31,584件のテストを実行しました。これは20分ごとに1件の新しいテストを1年間行うものでした。これらのテストの結果、毎日約7回、2,453件のUXの変更が行われました。
このような驚異的とも言える数値から私たちはプロダクトデザインの未来を垣間みることができます。ソフトウェアプロダクトが成長して数十億人の新規ユーザーを獲得することにより、プロダクトを学習および改善する機会はSketch、InVision Studio、Adobe XDなどの従来のデザインツールの能力を優に超えることになるでしょう。これらの従来のデザインツールは限定的な変化の中で比較的単純なUXデザインに取り組んでいるデザイナーに適しています。これらのデザインに関するフィードバックは通常ステークホルダーから寄せられ、データを使用してデザインを強化する作業は手動のプロセスになります。また、デザインの進行速度はチーム内のデザイナーの数によって制限されます。
一方Googleのような企業はリサーチャーが迅速な実験を行い、学んだことを即座に展開できるよう、まったく新しいツールを構築しています。たとえばUberは1,000件を超える実験を同時に実行するプラットフォームを構築しました。改善の速度は、モックアップとプロトタイプを作成するデザイナーの能力によって制限されなくなりました。
インターネットの規模拡大に対応するために、プロダクトデザイナーは統計と機械学習の言語に精通している必要があります。プロダクトデザインとは正しい体験をつくり出すということではなく、最高の洞察を生み出す一連の実験を定義することなのです。
最後に
プロダクトデザインの未来はすべてのデザイナーのためになるとは言えないでしょう。Googleで採用された最初のデザイナーの一人であるDoug Bowman氏は2009年に会社を去る際に、その行き過ぎた実験を公に非難しています。
Googleのチームが2種類の青色のうちのどちらにするかを決定できなかったときに、41の中間色をテストしてもっともパフォーマンスのよい色を選ぶという方法をとったことは事実です。私はつい先日、境界線のピクセル幅について3か4もしくは5ピクセルにするかについて議論をかわし、その結果を証明するよう求められることがありました。このような環境で仕事することに私は限界を感じています。非常に些細とも言えるデザイン上の決定について議論するということにうんざりしています。他にもっと刺激的な真剣に取り組むべきデザイン上の問題がたくさんあるはずなのです。
これに対してGoogleは、Amazon、Netflix、Facebook、Airbnbなどの他の業界リーダーとともに、細かい調整を伴う作業と適応力が求められる環境でのデザイナーの能力の可能性を実証しています。Bowman氏が去ったあともGoogleは革新を続けています。それを好むか嫌うかはさておき、Googleの成功は卓越したプロダクトデザインの貢献によるところが大きいのです。またGoogle検索ほどそれを明白に実証しているプロダクトはないというのも事実です。