デジタルや顧客体験専門のチームをどう組織に組み込むべきか

Paul Boag

Paul BoagはUXデザイナー、サービスデザインコンサルタント、およびデジタルトランスフォーメーションのエキスパートです*。非営利団体や企業向けに、デジタル体験の改善を目指す支援をしています。

この記事はboagworldからの翻訳転載です。配信元または著者の許可を得て配信しています。

How does digital, and customer experience fit into organisational structures?

世の中のデジタル化が進むことで、デジタルの専門家や顧客体験のエキスパートを集めた新しいチームをつくる企業が増えています。しかしながら、こうしたチームは、既存の部門構造とはうまくフィットせず、しばしば対立を生み出します。

よく聞かれる質問の一つは「デジタルの専門家をどの部門に組み込むべきですか?」というものです。顧客体験専門のスタッフについても同様の質問をされます。こうした質問をしたくなる気もちはよくわかります。というのも、これらの役割は既存の組織の境界を横断するようなものだからです。デジタルは、ビジネスのほとんどの分野で必要不可欠のものとなってきました。同様に、現実的には組織内のすべての部門が顧客体験の形成に携わっています。

さらに悪いことに、これらは非常に注目される機能であるがゆえに、他の部署からこの新しい領域を支配下におこうとする政治的な策略にあうことがしばしばあります。

このような内部での抗争は多くの場合、各チームが分断される、または委員会に申し立てるといったことがおこります。いずれの場合でも、変化する消費者行動に対して、彼らが有効に適応する能力が著しく損なわれてしまいます。

ところが、逆のシナリオであっても同様に損害が発生する可能性があるのです。1つのチームでこれらの機能を一括で管理すると、多くの場合、その権限は不健全に歪んだものになるでしょう。

たとえば、マーケティングのレポートを行うデジタルチームが、デジタルを利用する彼らの時間の大部分をマーケティングの目的のために費やした場合、不健全な形となる可能性がさらに高くなります。

それではなにが正解なのでしょうか? これらの組織横断的な機能を、既存の組織構造にどのように統合すればよいのでしょうか?

最終目標に焦点をあてる

最初に念頭に置くべきことは、最終的な目標です。デジタル領域や顧客体験を「他の部署と同列」という扱いをしてはいけません。

デジタル領域や顧客体験は、電気と同じように組織内のいたるところで機能する必要があります。これらは、すべてのチームの運営に当たり前のように組み込まれている必要があるのです。しかしながら、それは一朝一夕で実現できるものではありません。

電気でさえ、一晩でいたるところに行き渡ったわけではありません。組織は電気がうまく機能するためには、どのような形で統合すればよいかを検討する必要がありました。つまり、多くの組織が電気に関する最高責任者を任命したのと同じように、現代の組織ではCDO(Chief Digital Officer)や、CXO(Chief Experience Officer)を任命すべきなのです。

デジタルのベストプラクティスや顧客中心の文化を統合することは、一晩では成し遂げることはできません。それは長い旅ともいえます。

専門のチームで新しい文化を守る

新しい業務領域を立ち上げて間もない時期は、これらの業務を擁護し、推進する人材が必要です。デジタルおよび顧客体験のイノベーションに必要となる新しい文化の確立が、現状に直面すると失敗してしまう危険性があるため、特にそうした人材が必要なのです。結果として、デジタルを取り入れていない企業が顧客体験またはデジタル文化を組織全体にたった1日で統合しようとしても、まず成功しないでしょう。これまでの遺産があまりにも多くあるために、新しい業務のやり方はつぶされてしまうのです。

したがって、少なくとも短期間はこれらの新しい機能に専念するチームが必要です。そのチームが、スタッフがいままでと異なるやり方で行動できる場所を提供し、新しい文化を育てる安全な場所をつくり出します。しかしながら、ここでもまた、このチームがどこに報告すべきかという疑問にぶつかるのです。

経営陣レベルでの任命が最良の方法

選択肢の一つとして、企業の経営陣クラスのリーダーがチームを率いて、経営幹部に直接報告するという方法があります。このアプローチには、新しいグループの重要性を明示できるなど、多くの利点があります。なによりも、高位の役職者が組織の遺産によってチームの文化が損なわれる可能性を減らすことができるのです。

ただ当然のことながら、多くの組織はすでに肥大化した経営陣に新たな部署を追加することを躊躇するかもしれません。また、そのチームの仕事があらゆる場所に広がっていき、最終的にそのチームが解散する必要がある場合、このような部署を経営陣レベルで追加することは賢明ではないという議論も成り立ちます。

それでも私はクライアントに、期間を限定して取締役会にデジタルまたは顧客体験の担当を追加することを検討するようすすめています。彼らは会社の中心でデジタルまたは顧客体験を取り入れたスタイルを確立するのに役立ち、成功に向かう最高のチャンスを与えてくれるでしょう。

この方法を当てはめることができない場合は、その機能を組織内のどこに配置すべきかという問題に立ち戻ることになります。この問いに対する私の経験に基づく答えは、正しく取り扱いさえすればどこでも構わない、ということになります。

正しいチーム構造に焦点をあてる

組織があらゆるレベルでデジタルと顧客体験の両方を取り入れる必要があるということは、ここまでみてきた通りです。つまりその中心となるチームはどこに置くかは問題ではなく、そのチームもまた、全体のストーリーの一部でしかないということです。

中心となるチームは、新しい仕事の実践を確立し、一貫性と基準を強化し、あるいはチーム同士のコラボレーションを促進するといったことから始める必要があります。とはいえ、間もなく、彼らの仕事の一部については他の部署へ戻し始める必要が出てくるでしょう。

ハブアンドスポーク方式では、スペシャリストが個々のビジネスユニットと共に作業しますが、その結果報告などは運用を調整する中心チームに行います。

こうした性質の部署横断的な共同チームを成功させる秘訣は、ハブアンドスポーク方式を採用することです。組織のほぼどこにでも配置できる中心的な部署(ハブ)と、会社全体の適切なビジネスユニットに埋め込まれているさまざまなスポークがあります。

スポークに配置されたチームメンバーは、報告を中心チームに行いますが、配属されたユニットで日々の仕事をこなすことになります。このアプローチには多くの利点があります。

ハブアンドスポーク方式の利点

まず、スポークチームのメンバーが中心チームに確実に報告することにより、組織全体に渡って一貫した業務の実践を提供します。組織が顧客中心、デジタル第一のアプローチを確実に取り入れられるよう、優先順位やプロセスおよび戦略はすべてセンターが指示を出します。

スポークチームのメンバーを他のチームに埋め込むことにより、中心チームが孤立することがなくなります。もし中心チームが孤立するようなことが起こったら、中心チームでつくり上げたベストプラクティスは停滞し、組織の他の部分に行き渡らなくなります。このような中心的なチームがサイロ化し、他部署との連携を取らず、彼らが導入したイノベーションがより広範な組織レベルでの統合に失敗するというのはよくあることです。

また、スポークメンバーがいることで、中心チームがその課題に固執することを防ぎ、ビジネスの他の部分との関連性を維持することにもつながります。セントラルグループがマーケティングなどのより大きなサイロ化の一部となっている場合、これは特に重要です。プロダクトや情報システム部門などの他のチームに組み込まれたスタッフがいることによって、チームはマーケティングと同じくらいこれらの分野にも焦点をあわせることができるのです。

ハブアンドスポーク方式の成功に必要な要素

ハブアンドスポーク方式を適切に機能させるために心に留めておことが2点あります。スポークのメンバーは組み込まれたチームのメンバーと物理的に一緒にいなければならないこと、そして報告はやはり中心チームにする必要があるということです。

これらのスタッフが同じ人々と一緒に仕事をして、同じ人々に報告することになると、この方式の効力は失われます。彼らが中心チームと一緒に仕事をして中心チームに報告するかたちでも同じく、彼らは組織の他の部分から切り離されることになり、サイロ化して他部署との連携がとれなくなります。

同様に、スタッフが中心チームではなく、別の部門に報告するとしたら、調整不足、作業の重複を生み、そして何より誰がなにに対して責任を負うかについてしばしば対立することになります。

なぜハブアンドスポーク方式が有効なのか

ハブアンドスポーク方式は、サイロ化を解消し、部署間の横断的なコラボレーションを促進する優れたアプローチです。同時に、これは組織のカルチャーの変化を促す優れたツールです。中心チームが新しいカルチャー空間を確立し、スポークがその文化を組織の中で広めていくことができるからです。

そのため、ハブアンドスポーク方式は組織の中により顧客中心の文化を確立することを促す優れた方法といえます。それだけではなく、デザイン思考とデジタルのベストプラクティスの採用を支援するという点でも適しています。非常に多くの組織がこの方式を採用しようとしていますが、それも当然のことといえるでしょう。


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