Kontrapunkt(コントラプンクト)はコペンハーゲンと東京にオフィスを構える、政府機関や大企業、スタートアップのデザインを支援するエージェンシーです。代表的なクライアントにはLEGO、Denso、三菱自動車、資生堂や日産があります。
(実はUX MILKの運営元であるメンバーズのコーポレートブランディングも手掛けています)
今回はKontrapunktのクリエイティブディレクター、Philip Linnemann氏に北欧のデザイナーの視点からのデンマークと日本の違い、また彼とKontrapunktが立ち向かう持続可能な社会に向けたデザインについて、お話を伺いしました。
似て非なる日本とデンマーク
―日本とデンマーク間で仕事をするにあたり、国ごとの文化やクライアントの違いで難しさなどはありますか?
近年ではそのような難しさは減ってきたと思います。ですが、日本とデンマークという世界の反対側に位置する2つのオフィスを構えることで、改めて私たちが国を越えてどのように連携すべきかを考える大きなきっかけになりました。
私たちは文化的な複雑さをより強く意識するようになりましたし、心を開き、異なる価値観や見解を受け入れることが重要だと気づきました。お互いのコラボレーションにおいてはどうしても何かしらの課題は孕むと思います。
日本には私たちの文化とは全く違うものがたくさんあり、それ自体が私たちの原動力となっています。ですが、同時に多くの点、特に何を価値とするかに関しては、日本の精神はデンマークのそれと非常に似ているようにも思います。私たちはミニマリズムに対して同じような認識を持っており、謙虚であるための同じような方法を持っている。この2つの文化は互いに共鳴し合っているのでお互いから学べることがたくさんあります。
最初に日本に来た理由は、このような魅力からでした。そして、日本のブランドとの仕事に興味を持ち続けています。日本の大企業のほとんどは日本に巨大な市場を持っていますが、その多くはまた、世界の他の地域との関連性にも大きく依存しています。デンマークのデザイナーとして、彼らのブランドがより世界の多くの人に届く手助けをしたいと考えていますし、私たち北欧の人間が助けられるところだと思っています。
日本とデンマークの文化の違い
―日本のクライアントと仕事をするとき、デンマークのやり方とどう違いますか?
日本とデンマークのビジネス文化はかなり違います。デンマークのビジネス文化は比較的フラットですが、一方、日本はよりヒエラルキー構造が強い印象を受けます。
私たちがクライアントワークで使用するアプローチは、デンマークの組織であろうと日本の組織であろうと、基本的にはまったく同じです。しかし、日本にいる中間管理職の顧客に話を聞いてみると、たとえ優れたアイデアをたくさん持っていても、高いレベルの意思決定に適切な影響を与えるのは難しいかもしれないということがわかります。
したがって、私たちは常に人々がよりよい方法で組織に溶け込めることを目標としています。意思決定に大きな影響を与えるために上の方へのコミュニケーションを支援します。また、デザインを組織内でより適切なツールにすることを目指しており、デザインの力を意識することにも貢献しています。
そのためには何よりもプロセスが大事なのですが、基本的にはいかに素晴らしいストーリーテリングができるか、ということにつきます。私たちがプレゼンテーションを行うときには、経営陣がこれまで見たこともないようなものを必ず提供します。そのため、魅力的なプレゼンテーションを作成することに重点を置いています。
何か違うものを見るたびに、人は細心の注意を払います。良い場合もあれば悪い場合もありますが、正しい方法でデザインすることは人々に新しい方向性や新しい機会を理解させる強力な方法になります。これが私たちの典型的な働き方です。
ヒエラルキーや沈黙と対峙する
―過去の失敗などはありますか? もしそうなら、それは何で、どうやって克服したのですか?
日本に来たばかりのときは失敗もありました。しかし、それは母国から遠く離れた国で新しいオフィスを始めることを考えたら当然のようなことで、そもそも、日本の文化やその前提を理解していなかったことに起因するようなことです。どのタイミングで挑戦に踏み切るのが正しいのか、また逆にどのタイミングで聞くのが正しいのかを理解していなかったこともありました。
たとえば、私が個人的に学んだことの1つとして、ミーティングの進め方の違いがあります。
デンマークでは、誰もが非常に流暢に話す傾向があり、最も情熱的な人が会話に最も影響を与えます。ですが日本では、ヒエラルキーと沈黙がビジネスミーティングの重要な部分となります。日本の方に何かプレゼンテーションをするとき、聞き手は自分の考えを処理し、部屋の中に漂う「気」を感じているかのように、しばらく沈黙が続きます。この沈黙をあまりにも早く中断してしまうと、その後の会話を失うことになります。この後の会話こそ、本当の意見を得ることができるタイミングなので、ただ混乱させるだけでは、その話し合いは二度と会議には持ち込まれない可能性が高いのです。
皆さんに自分を表現する機会を与えることが大切です。安全な空間を作らなければならないので、時には自分の興奮を抑えなければならないということです。信頼の空間を作るという意味では、デンマークとは違った見方をしています。
コミュニケーション全般において、階層を理解し、秘められたメッセージを読み解くことはとても大事なことと学びました。日本語はとてもハイコンテクストな言語です。多くのことが非常に少ない文章で表現されている。言葉で表現されることもあれば、選ばれた言葉で表現されることもありますし、ボディーランゲージや行動で表現されることもあります。外国人にとって、それを読み解くのはとても難しいことです。このようなコミュニケーションの複雑さを理解するには長い時間がかかります。ですから、クライアントの本当の問題を理解できなかったとき、つまり適切な方法で耳を傾けることができなかったとき、私たちは本当に失敗し、彼らが本当に必要としていない解決策を生み出すこともありました。
異文化間で仕事をするときは、常にオープンな思考で、何事も決めつけたりしてはいけません。
二つの国の文化の共存から何を学べるか
―デンマークやスカンジナビアのデザインで、「輸出」したいと思う点はなんですか?
第一にデンマークの価値とは、包容力、謙虚さ、職人技、そして思いやりだと思います。これらが私たちの指針ですし、デザインプロセスからアウトカム(結果・成果)に至るまで、あらゆるものに適用されるものです。誇りあるデザイン国として、私たちは自分たちの経験から学んだことを伝えたいと思っていますが、日本の驚くほど豊かな文化にも耳を傾けたいと思っています。私たちは、この2つの文化がどのように共存できるのか、どのようにしてお互いから学び、互いに築き上げることができるのかを知りたいのです。
耳を傾け、帝国主義的な考えを避けることが重要です。日本に来た外国人が陥りがちな間違いは、自分たちが違うやり方が正解だと思ってしまうことです。彼らは問題を認識し、西洋で行われていることを考え、日本にも同じ解決策を適用すべきだと考えますが、実際はそうではありません。
私たちのクラフトマンシップを示すブランドアイデンティティデザインのアプローチを日本でどう試そうか、ワクワクしています。たとえば、日本にはタイポグラフィの専門知識がない。日本でも文字の書き方が違うので、この手の工芸品を議論のテーブルにあげるのが楽しみです。
一方、日本はデジタルUIデザイン、インタラクションデザイン、モーションデザインが得意です。日本はゲームをデザインし、素晴らしいオンボーディング体験を作り出すことで有名です。スーパーマリオがどのようにデザインされているかを見ると、細部にまで驚くほどの注意が払われています。適切なタイミングで適切な課題を提示し、それらの課題をエスカレーションすることで、段階的な取り組みが可能になります。欧米人は、メッセージをより効果的に伝え、ユーザーを導くために、対話と視覚的な手掛かりをさまざまな方法で利用する方法について優れた考えを持っています。
持続可能な世界をデザインする
― Philipさんがデザインで今直面している課題などはありますか?
ビジネスやクライアントの観点から考えると、今日(こんにち)最大の課題の1つは、より持続可能な世界・より社会的に開かれた世界をデザインすることです。テクノロジーと産業主義は私たちに多くをもたらしてくれましたが、その反面地球の寿命を縮めてしまっています。また、テクノロジーは色んな意味で、私達を幸福にするより惨めにしていることのほうが多い気がします。
現在、世界で最も大きな課題の2つは、持続可能な社会をデザインするプロセスを見つけ、皆が協力して取り組むことだと思います。もう1つの課題は、私たちがデザインするすべてのテクノロジーにエシカルな(倫理感のある)考慮がされ、正しい意図でアプリやその他のプロダクトを作れるようになるということです。利益を生み出すことだけでなく、世界をより良くしようということです。
Kontrapunktの課題もこれらの世界の課題とリンクしています。私たちの目標の1つは、クライアントが直面する課題を解決しつつも、世界の課題解決にも貢献する方法を探すことです。
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この記事は北欧のデザインカンファレンス「Design Matters」に登壇されたスピーカーに実施した特別インタビューです。毎年コペンハーゲンで1,000人規模で行われているDesign Mattersですが、今月1月29日~30日に日本での初開催を控えています。
今回のPop-up in TokyoではSlackやFigma、VolvoやBBC、そして当記事にも登場したKontrapunktなど、グローバルで活躍するデザイナーが集結します(Philip Linnemann氏も登壇予定です)。当日は同時通訳の提供もありますので、興味ある方はぜひご来場ください。