見た目の美しさとアクセシビリティのパラドックス

anthony

UX Movementの著者および創設者です。UXのベストプラクティスとスタンダード、さまざまなテクニックに関する知識を共有することで、よりよいデジタルの世界をつくり出しています。

この記事はUX Movementからの翻訳転載です。配信元または著者の許可を得て配信しています。

The Aesthetic-Accessibility Paradox

すべてのインターフェイスにはユーザーが存在し、そのユーザーはつねに多数派と少数派によって構成されています。たとえば、大半のユーザーは正常な視力をもっていますが、少数派となるユーザーは何らかの視覚障害をもっています。

正常な視力をもっているユーザーが見るものと、色覚異常および低視力のユーザーが見るものとの間には大きな隔たりがあります。何らかの視覚障害をもっているユーザーはテキストが小さすぎたり色のコントラストが低すぎると、文字がぼやけて見えたり、要素がよく見えなかったりする傾向にあります。

アクセシビリティの目標は、多くの場合忘れられがちな少数派のニーズを満たすことです。しかし、少数派のニーズを満たした結果、多数派のニーズが満たされない場合、どのようなことが起こるでしょうか? このような問題はインターフェイスの使いやすさを過度にこだわり、美とバランスが取れていない場合に生じるのです。

美を取るかアクセシビリティを取るか

一般的にアクセシビリティに優れたインターフェイスであるほど、見た目の美しさは低下すると言えます。アクセシビリティにおいて高度なインターフェイスは、視覚障害のある人には見やすいものですが、通常の視力をもつ人の目には疲労を与えやすいでしょう。反対に、通常の視力をもつ人の目には美しいインターフェイスが好まれますが、視覚障害者にとっては見づらいものとなります。

美を取るかアクセシビリティを取るかというパラドックスは、デザイナーがインターフェイスをデザインするときの悩みの種となります。どうすれば多数派と少数派の両方のニーズを満たせるかということです。ただしどちらかの極端な方向に進みすぎると、どちらかのユーザー層を排除してしまうことになります。少数派を排除してしまおうと考えるケースはほとんどないでしょう。しかし、大部分のユーザーを排除してしまうことも、少数派を疎外することと同様に避けるべきです。

以下にこのコンセプトを説明する2つのフォームをご紹介します。一つ目のフォームはAAAに準拠するもので、視覚障害のあるすべてのユーザーが利用しやすくなっているものです。もう片方はアクセシビリティを考慮してませんが、正常な視力をもつユーザーが利用しやすいものになっています。

正常な視力の人にとって審美性を取ったフォームは目に優しく、アクセシビリティを優先したフォームは見づらく感じるでしょう。一方で、視覚障害のある人にとってはアクセシビリティを優先したフォームは目に優しく、美を優先したフォームは見づらく感じます。どちらのフォームを使うべきでしょうか?

どちらとも美しさと使いやすさの両方を尊重していないため、正答はどちらでもないということになります。どちらも極端に偏ったデザインで、多数派もしくは少数派のいずれかを疎外するものであるからです。

美しさも備え、同時にアクセシビリティも備えたインターフェイスは、その中間に位置するものです。次にご紹介するものは、見た目の美しさとアクセシビリティも備えたパラドックスを取り入れたと言えるフォームです。色相、コントラスト、文字サイズ、太さはAAコンプライアンスの条件を満たしており、多数派と少数派の両方のニーズを満たしています。その結果、最大数のユーザーにとって見やすいインターフェイスとなっています。それに加えて、AAへの準拠はリハビリテーション法第508条に沿ったものとなっています。

少数派の中の多数派

美しさとアクセシビリティの面でバランスがとれたインターフェイスは、すべてのユーザーにとって必ずしも必要だというわけではありません。少数派の中にもまた別の多数派と少数派が存在するのです。少数派の中にいる多数派は極端な視覚障害をもたず、バランスの取れたデザインも利用できるユーザーです。しかし、極端な視覚障害をもつ少数派に属するさらなる少数派にとっては、まだ問題が残ると言えます。

もっとも少数とされるグループを対象にデザインすることで、極端な視覚障害をもつユーザーが利用しやすいものになります。しかしそのデザインは、基盤とも言える大多数の正常な視覚をもったユーザーを疎外することになります。このことから最適なデザインとは、少数派の中にいる多数派のユーザーを念頭に置いたものだということができます。

それでは少数派の中のさらなる少数派のニーズはどうすればよいでしょうか? 極端な視覚障害をもつほとんどのユーザーは、ハイコントラストモードなどの補助的なテクノロジーを利用しています。このモードで画面の色を反転させることにより、低コントラストのインターフェイスを読み取ることができるのです。

ローカルハイコントラストモード

プロジェクトの性質によっては見た目の美しさにこだわる必要があったり、逆にアクセシビリティのみを追求したインターフェイスが必要になる場合があります。どのユーザーも引き離すことなく、これらの表現をユーザーに提供する方法があります。

見た目が美しいデザインを提供したい場合、インターフェイスにローカルハイコントラストモードを提供します。ローカルハイコントラストモードは、ページ上のトグルボタンであり、ユーザーはテキストと要素のコントラストをAAコンプライアンスに合わせて強化することができます。一方、ユーザーのアクセシビリティを追求したデザインを提供したい場合、ハイコントラストモードではAAAバージョンが表示されます。

ここで重要なのは、ユーザーがハイコントラストモードに気付いて使用するように促すということです。ユーザーが見落とさないように、視覚的に目立つように心がけましょう。下の例はハイコントラストモードのボタンを示していますが、わかりにくい場所にあり、見落とされがちです。ローカルハイコントラストモードを実装する場合は、次のガイドラインに従ってください。

美しさの重要性

美しさを軽視し、アクセシビリティに強くこだわる人もいます。インターフェイスが少数派にとってこの上なく使いやすいものであるべきだと考え、それにより、一般的なユーザーがどのような影響を受けるかについては考慮しないのは間違いです。このような極端な思想に陥りそうな場合は、最高のアクセシビリティを追求する以前に、美しさとアクセシビリティに関するパラドックスについて理解する必要があるでしょう。

美しい外観を追求することは、ただ主観に満ちた、つまらないお飾りをつくることではありません。美しさはUXにおける重要な目的としての役割を果たすのです。ユーザーがアプリを信頼し、その価値に気づき、使用することで満足しているかどうかの判断します。つまり、美しさはユーザーエンゲージメントとコンバージョン率に影響すると言えるのです。それを軽視することは、ユーザーにとって利用しにくいものになるだけでなく、企業側にとっても損害となるでしょう。

バランスを保つ

美しさとアクセシビリティのバランスを取ることは容易ではありませんが、優れたUXを提供するためには必要なものです。美しさとアクセシビリティのパラドックスの交差点こそが、すべてのユーザーを満足させるインターフェイスをデザインするための、バランスポイントだといえます。どちらかに極端に偏ったデザインを避け、美しさとアクセシビリティの両方を尊重したデザインを目指しましょう。

このパラドックスを心にとどめておけば、正常な視力をもったユーザーを排除することなく、視覚障害者にも使いやすいデザインを選択することができるでしょう。幅広いユーザー層向けにデザインする場合、美しさ、もしくはアクセシビリティのどちらか極端に偏るのは最良のアプローチとはいえません。できるだけ多くのユーザーにリーチして、ユーザーの満足度を高めるためには中間地点を見つけることが最善の方法なのです。


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