クライアントを排除するのはもうやめよう

Paul Boag

PaulはUXのデザイナーでありデジタルトランスフォーメーションの専門家です。彼はユーザーを促進するためのウェブやソーシャルメディア、モバイルの活用を、非営利やビジネスの分野で手助けしています。

この記事はboagworldからの翻訳転載です。配信元または著者の許可を得て配信しています。

Are You Excluding Your Client? It’s Time to Stop!

クライアントやステークホルダーの関与を減らそうとする憂慮すべき傾向が、制作会社やフリーランサー、社内のデザインチームにおいてすらみられます。

どのような仕事をしていても、クライアントや同僚への不満は募るものです。私たちは愚痴をこぼすために社内のメッセージアプリを使っているのではないかと思うときもあります。そのチャットルームにクライアントが参加してほしいと思う人は、ほとんどいないでしょう。しかし、このような考えは間違っています。

理にかなった不平を言いたくなる欲求もときには理解できますが、これは危険な傾向です。なぜなら、プロジェクト自体にも、クライアントとの関係にも、チームの評判にも悪影響を及ぼすだろう対立構造をつくってしまうからです。

なにより問題なのは、クライアントがプロジェクトに関与する度合いを大きく制限することになる点です。危険な結果に繋がりかねない振る舞いが、非常に蔓延しています。

プロジェクトからクライアントを排除すべきでない7つの理由

特にデザインプロセスにおいて、クライアントやステークホルダーをできる限り排除しようとする動きが一般的になっているようです。デザイナーは専門家なので、彼らがデザインの意思決定をするべきという理屈です。

デザイナーが専門家であることは間違いありませんが、なにもないところから優れたデザインをつくり出せるわけではありません。

1. 成果物の品質が低下する

クライアントの関与を制限すると、デザインの品質にも、プロジェクト全体の質にも悪影響を及ぼすでしょう。

覚えておくべきこととして、クライアントは自分たちの提供物と顧客について深く理解しています。彼らの深いインサイトを無視すれば、最終成果物に深刻な影響を与えることになります。

また、優れたデザインのアイデアをもっているのはデザイナーだけだと主張するのは傲慢です。たしかにデザイナーのほうがデザインの成功率は高いでしょう。だからと言って、クライアントがなにも貢献できないわけではありません。クライアントが欠いているのは、優れたソリューションを導くための体系だけです。

2. デジタルサービスが成功する可能性が下がる

クライアントを排除すると最終成果物に悪影響が出かねないことはすでに述べました。しかし、デジタルサービスの成功確率を下げてしまう理由はそれだけではありません。

もしクライアントがデジタルサービスを作成するプロセスに関与しないと、彼らはサービスに注力しないことになります。注力しなければ、なぜデザインがそのように作成されたのか理解できないでしょう。つまり、クライアントはデジタルサービスを長期的に運営し、進化させるための準備が十分にできないのです。

最終的には、クライアントはデジタルサービスを使って商売をします。商売がうまくいくためには、彼らがサービスを気に入らなければなりません。

3. 無知なクライアントと付き合い続けることになる

私たちはクライアントの無知に不満を述べる一方で、クライアントにデザインを教えようとはほとんどしません。クライアントをプロセスから排除すると、彼らがデザイナーの仕事について学び、理解する機会がなくなってしまいます。

クライアントのほうがデザイナーを信用するべきだと反論できるかもしれません。しかし客観的にみれば、デザイナーを信用したからといって、クライアントが自分でデジタルサービスを運営する準備の助けにはならないのです。

4. クライアントに成果物を拒否される可能性が高まる

デジタルサービスを作成するプロセスにクライアントを関与させることは、彼らの利益にしかならないわけではありません。デザイナーの作業も簡単になるでしょう。

もしクライアントがデジタルサービスの作成やデザインに関わっていなかったら、彼らは成果物に対する責任を感じることはありません。そのため、自由に成果物を批判することができます。

しかし、もしクライアントをプロセスに関与させれば、彼らは制作に立ち会った責任の一部を感じることになります。クライアントは、ある程度は成果物を自分たちがつくったものだと考えるようになるので、成果物を拒絶する可能性がずっと低くなります。

5. クライアントが成果物を擁護してくれなくなる

成果物の承認にクライアント以外が関わることも当然あります。もしアプローチの中でクライアントへの売り込みに成功していたら、彼らは内部でもプロダクトを擁護してくれるでしょう。彼らは、そのプロダクトは強く推奨するに足るサービスだと理解してくれるはずです。

さらに、クライアントが制作に関わった当事者意識をもっているなら、より一層自分たちのアイデアを擁護したくなるでしょう。

6. 次の仕事に繋がらなくなる

社内の部署で仕事をしているなら当てはまらないでしょうが、制作会社やフリーランサーにとっては大きな問題です。クライアントのプロジェクトへの関与を減らすことによって、クライアントが将来のビジョンや、引き続きサイトを成長させることを考える機会がなくなります。

加えて、協力して働くことでクライアントとの関係が強固になり、一緒に仕事をし続けられる可能性が高くなります。

7. クライアントとの仕事上の関係を壊してしまう

残念なことに、クライアントはプロセスから排除され続けたことで、不満を感じ、無視されたように思うものです。結果的に、双方がプロジェクトの主導権を握ろうと引っ張り合うことになって、関係性がこじれてしまいます。

以上の理由から、クライアントを巻き込むことで好ましい結果が生まれることがおわかりいただけたと思います。しかし、適切にクライアントを関与させる方法はつねに明白ではありません。

安全にクライアントをプロジェクトに関与させる方法

クライアントを管理するフレームワークがないために、彼らにプロジェクトを邪魔されて被害を被った経験は誰にでもあります。細かく管理しすぎるクライアントや、急に会議に現れて終わった作業に不満を述べるマネージャー、いつまでも終わらない反復も経験してきました。しかし、このような障害に困ることなくクライアントを関与させることは可能です。

私は、クライアントを巻き込むことの利益だけを享受し、罠にはまらないようにする4つの方法をみつけました。

1. クライアントをチームのメンバーのように扱う

クライアントはプロジェクトに直接関係がないと思わせてはいけません。つまり、彼らもほかのチームメンバーと同じように開発サーバーや、社内のコミュニケーション、ドキュメントにアクセスできるべきです。

クライアントを社内のメッセージツールに参加させましょう。私たちが普段クライアントに不満を言うためにこのツールを使っていることは知っています。ほかの機密情報について議論するためにも使っているかもしれません。しかしRivers IMといったツールを使えば、アクセスできる範囲を限定しながらクライアントをメッセージツールに追加することができます。

Rivers IMのようなツールを使えば、クライアントが閲覧できるトピックを管理できます。

しかし、オンライン上のコミュニケーションだけに留めてはいけません。もし毎日の短いミーティングなどを行っているなら、SkypeやZoomといったビデオ会議ツールを使ってクライアントにも参加してもらいましょう。

すべてのクライアントがここまでの関与を求めるわけではないでしょう。しかし、少なくともこれらを提案することで、私たちがクライアントの貢献を重視していることを明確にできます。

もしクライアントを巻き込めるのなら、巻き込むべきです。クライアントはデザイナーの仕事を見て学習するので、彼らから隠してはいけません。

デザインでは特にこれが当てはまります。私たちは、インターフェイスを完成させてから初めてクライアントにみせることが非常に多いです。しかし、デザインが彼らの期待に応えられない場合、相手の思考を読み取れないのなら、彼らは衝撃を受けてしまうでしょう。人々はその衝撃にうまく対応することができません。

それならば、仕事を進めている間もクライアントにデザインを見せて、デザインを段階的に紹介するほうがはるかに好ましいです。

2. クライアントの役割を初めから決めておく

クライアントをチームメンバーとして関与させようとするなら、彼らに役割が必要です。そうすればクライアントは役割に集中し、ほかのメンバーが担っている範囲に不用意に介入しすぎるのを防ぐことができます。

私の場合、クライアントには、ビジネスのニーズとユーザーの視点を代表する役割に集中してもらっています。クライアントは普通ユーザーよりもビジネスに精通しているものです。しかし、クライアントにユーザーについて考えてもらうことは、つねに効果的に働きます。

また、彼らにはソリューションを考えてもらうのではなく、問題をみつけ出してもらうようにしています。

クライアントは自分たちで考えたソリューションを採用してもらいたがる傾向にあります。たとえば青い部分をピンクに変えてほしいなどと求めてくるでしょう。

しかし、それでは私たちのスキルを十分に生かすことができません。私たちには、なぜそのように変える必要があるのかわからないからです。どのような原因から青色を変更しなければならないと考えたのか説明してもらうよう求めることで、別のソリューションを提案することもできるでしょう。

たとえば、クライアントが青をピンクに変えたい理由は、10歳前後の女の子は大人びた青色を気に入らないかもしれないと心配しているからかもしれません。もしそうであれば、色を変えることにも同意できるでしょう。しかし、より特異ななにかを加えることを求めるような異なる問題への対処を提案してくるかもしれません(申しわけありませんが、私も10歳前後の女の子がなにを気に入るのかわかりません)。

3. あらゆる機会においてクライアントに教える

もちろんデザイナーの役割は、デジタルの専門家としてサービスを効率的に届けることです。しかし、私たちは同時にクライアントを教育する必要もあります。

クライアントは自分たちの分野においては専門家ですが、デジタルサービスを運営することについては、往々にして勉強すべき要素があります。そのため、私たちの意思決定を理解してもらうためにも、デジタルサービスを効果的に運営してもらうためにも、彼らを教育しなければなりません。

私はプロジェクトのライフサイクルのあらゆる機会において、彼らに教えています。たとえば、プロジェクトの方向性を決めるためだけでなく、ステークホルダーに重要なデザインの原則を知ってもらうためにもワークショップを開催しています。

また、これ以外のタイミングでも彼らに教えています。私が下した意思決定や採用したアプローチについて説明している短い動画をクライアントに送ることもよくあります。

さらには、サービスを売り込むことだけではなく、クライアントを教育することについても可能な限り私から提案しています。

4. 構造化されたフィードバックを求める

問題が起こるのは、ステークホルダーにフィードバックを求めたときが多いです。なぜなら、どのような種類のフィードバックを私たちが求めているのか定義していないからです。私たちはクライアントへのメールに、「どう思いますか」、「なにか変えたいことはありますか」などと書いています。

しかしこのように自由回答で、曖昧にフィードバックを求められたら、クライアントはエビデンスに基づいた重要なコメントをせずに、個人的な意見を言い出してしまうでしょう。

そうではなく、より考慮された、構造化されたフィードバックをうながせる質問を投げかけましょう。たとえば次のような質問です。

  • このアプローチは、プロジェクトの最初に合意したビジネスの目的を満たしていますか?
  • このアプローチは、プロジェクトの最初に定義したユーザーのニーズを満たしていますか?
  • このアプローチは、以前私たちが下した意思決定に沿っていますか?

こうした質問をすれば、クライアントは適切な視点に向いてくれます。さらに、もしクライアントが上記のような質問に肯定できないとしたら、彼らは私たちのアプローチを拒絶する可能性があることになります。

苦い経験を乗り越えよう

クライアントのせいで苦い経験をしたことは誰にでもあるでしょう。しかし、そのような経験に基づいてクライアントを排除しても、事態は悪化する一方です。

もちろん、過去の経験を無視するべきだと言っているわけではありません。クライアントを排除するのではなく、むしろ関与させることで、不幸な歴史を繰り返さないようにすべきだと言っているのです。

クライアントを排除しても、1つの問題が別の問題に置き換わるだけです。


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