定性的ユーザーリサーチ結果の可視化に使える3つの方法

Priscilla Esser

PriscillaはInteraction Design Foundationのデザイナーです。

この記事はInteraction Design Foundationからの翻訳転載です。配信元または著者の許可を得て配信しています。

How to Visualize Your Qualitative User Research Results for Maximum Impact

リサーチ結果を可視化しようと考えると、多くの人は自然とグラフを思い浮かべるでしょう。あなたもそうでしょうか。グラフのような形で可視化すればトレンドも外れ値も見えるようになりますから、そのことによって多くのリサーチ結果が恩恵を受けていることを思えば、あなたの発想は間違っていないでしょう。

しかしこれは、主に定量的ユーザーリサーチの場合には正しいというだけのことです。グラフは、インタビューや観察といった定性的なリサーチの結果を表現するには、最善の方法ではないことが少なくありません。多くの場合、定性的な調査の対象者は、有意なグラフを描くためには少な過ぎます。それに、こうしたリサーチにおいてあなたが表現したいものは、キレイな数字には置き換えられないでしょう。定性的なユーザーリサーチ手法から得られた、主観的でぼんやりしたデータがもたらす重要な気づきをステークホルダーにうまく伝え、彼らが膨大な量のレポートと格闘せずに済むような、そんな可視化の方法をお教えしましょう。

「可視化とは、映像化するためのものではなく、気づきを与えるためのものである」

-Ben Shneideman氏(コンピューターサイエンス分野における著名な大学教授)

定性的なユーザーリサーチの結果を共有しようとする場合、あなたが注目するのはまず、次のようなことに対する理解を共有することでしょう。すなわち、人々がどのような生活を送っているか、どのようなタスクを達成する必要があるか、そして彼らが求めること、望むことを達成するためにどのようなインタラクションが必要か、といったことです。

これはリサーチをデザインプロセスの初期段階(なにをデザインするかを知るための段階)や、最終段階(デザインが目的に対して合致しているかどうかを理解する段階)において使用する際に当てはまります。あなたが関わる相手(デザインチームなのかクライアントなのか)、また、あなたが彼らに求める理解の仕方(ユーザーのニーズに対する深い共感なのか、プロダクトが使われる文脈についての全体的な理解なのか)によって、あなたは最適な可視化のタイプを決定する必要があります。

ターゲットとなるグループに属する人々に対して、いくつかのインタビューを実施したとしましょう。そのグループは、認知症の初期症状をもつ高齢者の介護に疲れ、不安を覚えているその家族だとします。彼らは自分たちを家族のための介護から少しでも解放してくれるかもしれないプロダクトに感じている不安を、重要な情報としてあなたに教えてくれました。

あなたはテーマ分析の手法を用い、多くのポストイットを使ってデータに意味を見出そうとしました。そして、新たなプロダクトをデザインする際に考慮すべき、4つの関連する不安のカテゴリがあることに気づきました。すなわち、関係が変化してしまうこと、つねに心配が絶えないこと、介護の能力への不安、自分の時間が無いことです。

あなたはこれらの気づきをデザインチームと共有し、全員がこの弱い立場にあるグループに対して、同じレベルの共感をもってデザインプロセスに参加するようにしなくてはなりません。また、あなたのクライアントである、ヘルスケア企業の経営陣にもこの気づきを伝えなければなりません。クライアントは自社の予算を見直し、従業員の業務を軽減するため、介護のプロセスにもっと近親者が参加してくれることを望んでいます。

さて、あなたは自分が気づいた内容をどのように伝えるでしょうか。あなたが見つけた4つの不安をただ箇条書きにして渡しますか? 円グラフを書いて、インタビュー中でそれぞれのカテゴリの不安がどれだけ登場したかを示しますか? そんなことをしても、あなたが求めるような深い理解にはつながらないでしょう。箇条書きでは何の共感を引き起こすにも十分ではありません。では、リサーチの結果をずっと効果的に可視化するための3つの方法をお教えしましょう。

親和図法(KJ法)

ターゲットとなるグループが抱えている不安は4つのカテゴリに分けられるという結論に至るため、ポストイットを使ってテーマ分析を行った時点で、あなたは私たちが推奨する可視化手法である、親和図法(KJ法)を使っています。

あなたはインタビューから発言を抜き出してメモを取り、それらを別々のポストイットに書き出しました。それから似ているものを集め、自分が見つけたグループにまとめていったはずです。あなたが分析用のツールとしてつくり出した図表には膨大な情報がありますが、あなたが伝えたい気づきをより明確に表すためには、この図表を整理整頓する必要があるでしょう。

あなたは自分が見つけた4つの主要な不安を表すカテゴリを、素早く特定できるでしょう。そして、仲間のデザイナーとクライアントの双方にとって、情報のどの部分が不安の中身を理解するために役立つか、考える必要があります。では、あなたのユーザーの生活にはどのような影響があるでしょう? どのような場合にこうした不安がもっとも顕著に表れるのでしょうか? どうすればこの不安を小さくできるか、考えはありますか? こうした情報はすべて、あなたがポストイットに書いてテーマごとに集めたものの中にあります。ですからあなたは、この中からもっとも重要なものを選び出し、これを伝える相手に視覚的に訴えるようなやり方で、明確に表現さえすればよいのです。引用やキーワードを使うこともできますし、あるいはたまたま何らかの観察さえできているかもしれませんから、写真やイラストを使ってそれらを説明しましょう。

下の図は、こうした(ユーザーリサーチから引用された内容が4つの主要な不安に分けられた)場合のイメージです。ユーザーを文脈の中に立ちあがらせることができる親和図法なら、全体像を生き生きと描き、共感を呼び起こすことができます。

Author/Copyright holder: Teo Yu Siang and Interaction Design Foundation. Copyright terms and licence: CC BY-NC-SA 3.0

共感マップ

共感マップは、ターゲットグループに対する共感を喚起するために、私たちがデザイナーとして重視すべき4つのエリアの明確な全体像を描くのに最適です。

4つのエリアとはすなわち、人々が「言ったこと」、「したこと」、「考えたこと」、そして「感じたこと」です。これはまた、今回の例のクライアントであるへルスケア企業の経営陣にも大いに関係することです。なぜなら彼らは、ターゲットグループとの普段のコミュニケーションから、ある種の先入観をもっているかもしれないからです。

共感マップは経営陣における議論を惹起する可能性があり、彼らに自分の考えを改めさせる力をもっています。ヘルスケア業界においては(他の場合であっても同様ですが)、専門家は患者やその家族をケアするのが自分たちの仕事なので、彼らの立場に立ってものを言うことができると感じるものです。ですから専門家は、患者たちの生活については限定的にしか知らないということを忘れがちで、彼らが求めていること、デザインプロセスに必要とされていることをすべて理解しているわけではないのです。

インタビューで発見したことに基づいて共感マップをつくるためには、定性的なリサーチから得たメモやその他の資料を見直す必要があります。4つの象限(つまりそれぞれの重点エリア)に関係する引用文やイメージを選び出し、それらに基づく気づきと合わせましょう。下のイメージにある通り、でき上がった共感マップは私たちが先ほどつくった親和図法と同じデータに基づいて描かれていますが、また違った気づきを表現しています。いずれの可視化方法も、今回のデザインプロセスと関連性があります。

下の図は、認知症患者を介護する家族に対するユーザーリサーチの結果からつくられる共感マップの一例です。中央にユーザーのイメージを配置し、ユーザーへの共感を高めやすくしています。ここには、自分がつくったペルソナのイメージを使うことができます。

Author/Copyright holder: Teo Yu Siang and Interaction Design Foundation. Copyright terms and licence: CC BY-NC-SA 3.0

ユーザージャーニーマップ

定性的ユーザーリサーチの結果の可視化方法を説明するために使ったデザインの例に戻りましょう。

あなたは、軽度の認知症患者を介護する家族が、介護の中でより自立的にケアを行うために役立つような新たなプロダクトをつくっています。クライアントは、こうした高齢者と深く関わっているヘルスケア企業の経営陣です。あなたがユーザーリサーチの中で注目したテーマの一つは、こうした介護者が介護を行っている背景でしょう。あなたは次のようなことを考えたかもしれません。「彼らはどのようなタスクを、いつこなしているのか」、「それらのタスクの前後に彼らはどのようなことをしているのか」、「愛する家族を介護しているとき、彼らはどのように感じているのか」。

あなたのリサーチ結果に関連することは、これらの問いに対する直接的な答えだけではなく、彼ら介護者の、生活全体の流れも含まれます。たとえば、彼らの介護が事前に入念な準備をすることが可能なのか、あるいは、彼らが他のすべきことによって介護を中断しなければならないことが多いのかどうかを知ることは重要です。こうした流れを捉えるために非常に効果を発揮するのが、ユーザージャーニーマップです。

下に示しているユーザージャーニーマップは1日の流れを表しています。この期間は、プロジェクトに応じて選ぶことができます。1週間や、1ヶ月の方が適当な場合もあるでしょう。共感マップで使ったのと同じく、「すること」「考えること」「感じること」という区分をつくり、通常の1日の中における高齢者を介護するステップをマッピングします。そしてさらに、クライアントであるヘルスケア企業、または他の企業が提供している既存のサービスの顧客との接点を示さなければなりません。1日の中における複数の接点を描くことでユーザーの動きを示し、その流れの中でユーザーがどのように感じているかに注目しましょう。最終的には、あなたは自分のチームとクライアントに対して、どの部分のインタラクションを変更・削除すべきか、あるいは追加すべきなのかを説明できるようになるはずです。

Author/Copyright holder: Teo Yu Siang and Interaction Design Foundation. Copyright terms and licence: CC BY-NC-SA 3.0

まとめ

情報の可視化は、定性的ユーザーリサーチの結果を仲間やクライアントに説明するための強力なテクニックです。あなたが使える可視化の手法は3つあります。親和図法はデータ分析の結果とよく似ていますが、あなたの気づきを理解してもらいたい相手に対してもっと明快に伝えるために工夫をしなくてはなりません。

共感マップは、ターゲットユーザーを理解するための4つのエリア(「言ったこと」「していること」「考えていること」「感じていること」)の全体像を、相手に対して示します。

最後に、ユーザージャーニーマップは、ユーザーが繰り返している流れを示すことができます。あなたはこの3つの可視化手法を使い、相手から深い共感を引き出すことができます。そうすれば、あなたのデザインプロジェクトは一つ上のレベルに進むでしょう。


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