エシカルデザインをどのように実践すべきか(前編)

Lennart Overkamp

Lennart Overkampはインサイトに基づいたインタラクションおよびサービスデザイナーとして、アクティブリスニングのパワーを強く信じ、人々の生活に真の価値をもたらすプロダクトやサービスをデザインするという、道徳的な責任を全うすることに力を注いでいます。

この記事はA List Apartからの翻訳転載です。配信元または著者の許可を得て配信しています。

Daily Ethical Design

突如、私の仕事は周りの人々に大きな影響を与えているのではないかと気づきました。それは空港で軽い昼食をとっていたときのことです。客室乗務員のグループが私の隣のテーブルで、次のフライトの準備を始めていました。

私たちのデザインチームはずっと、彼らのような客室乗務員が勤める航空会社のOCC(運用管理センター)の未来的なコンセプトに取り組んでおり、最新技術による革命的な解決法をどうにか見つけようとしていました。管理センターは飛行機に関するすべてのことに携わるため、私たちのコンセプトは航空会社のあらゆるものや人々に影響を与えるものでした。

自分の仕事が彼らのような客室乗務員の人生にどのような影響を与えるか、私は一体どう知ることができるのでしょうか? そして航空会社で働くほかの人々についてはどうでしょうか?

この答えを出すには、その会社で働くすべての従業員の話を聞き、コンセプトをテストしてもらうことが理想的です。しかし、私たちが(内部の)関係者のニーズを満たすというハードルに直面したのは言うまでもなく、当然のことながら、調査やテストをするための予算(または時間)は取られていませんでした。

このようなことは今回が初めてというわけではありませんが、私はストレスを感じました。現実的な制約によって、私の仕事が与える影響と質を評価すること、そして、エシカル(倫理的)デザインを正しく実現することを阻まれてしまったのです。

エシカルデザインとは

エシカルデザインとはなんでしょうか。これは良い質問です。エシカルデザインの包括的な定義は、以下で引用したEncyclopedia.comで詳しく説明されています。

エシカルデザインとは、デザインの実践における道徳的な行動と責任を伴った選択に関係しています。デザイナーがクライアント、チーム、そしてエンドユーザーとどのように連携するか、デザインプロセスをどのように進めるか、プロダクトの機能をどのように決定するか、そしてデザインすることで生じるプロダクトの倫理的意義や道徳的価値をどのように評価するかの道しるべとなるのです。

つまりエシカルデザインとは、個人、社会、そして世界への利益という観点から、私たちがどのように協力、または仕事をし、何を創造するかという「善意」に関するものです。デザインの良し悪しについて、白か黒で答えを出すことは決してありませんが、倫理を考慮するときは、デザイナーが焦点を当てるべき点が多くあります。

ユーザビリティ

最近では、ユーザビリティは各インターフェイスの基本的な要件として一定の地位を確立しています。使いにくいプロダクトはデザインの失敗とみなされるでしょう。デザイナーには、直感的で、安全で、命に関わるような致命的なエラーのないプロダクトを作るという道徳的な義務があるということは、当然のことなのです。

2018年、ハワイで起きた核攻撃の誤警報は、私たちにユーザビリティの重要性を喚起してくれました。たとえばそれが、「誤警報」ではなく、「警報が発動されなかった」場合はどうなるでしょうか?

アクセシビリティ

ユーザビリティと同様に、インクルーシブデザイン(包括的なデザイン)は多くのデザイナーや企業の要件リストの標準項目となっています(ユーザーが私たちのWebサイトを音声読み上げ機能で利用しようとした際に、クッキーメッセージで完全に行き詰ってしまったことを忘れることはありません)。

アクセシブルなデザインは、可能な限り多くのニーズと機能をカバーしようとしているため、すべての人にとって有益だといえます。しかし、それぞれのデザインプロジェクトには、はっきりと答えるのが難しいような質問も未だにあります。私たちのソリューションで利益を得るのは誰でしょうか? 意図的に、または意図せずして除外されているのはどのような人々でしょうか? 「ターゲット顧客層」の外側にいるのはどんな人たちでしょうか?

プライバシー

次々と起こる、Facebookの個人情報スキャンダル。データ時代が進化するにつれ、プライバシーの問題はデザインの倫理とほぼ同義語とも言えるようになりました。

Googleに代わる検索エンジンとしてDuckDuckGoを使用する人が増えているのには、それなりの理由があるのです。企業は大量にある顧客の個人情報にアクセスすることができ、私たちはデザイナーとしてプロダクトやサービスを形作るために、この情報を使う特権(そして責任)をもっています。どのくらいの情報が絶対的に必要なものか、そしてどれだけの人々が個人情報と引き換えにサービスを望んでいるかを考える必要があります。また、どうすればユーザーに過度な負荷をかけることなく、潜在的なリスクを認識させることができるのでしょうか?

ユーザーの関与

プライバシーと広く重複するこの領域は、ユーザーとの向き合い方や、彼らから収集したデータの取り扱いに関するものです。IDEOは最近、The Little Book of Design Research Ethicsを刊行しました。これは、デザイン調査をおこなう際に従うべき主な原則とガイドラインの包括的な概要を提供しています。

説得

説得に関連する倫理とは、私たちの投げかけがユーザーの行動と思考にどの程度影響を与える可能性があるかについてです。「白い帽子」を望むユーザーにグレーやさらに暗い色で許容してもらうことには、そんなに時間はかからないでしょう。

たとえばコンバージョンの最適化という目的も、収益を追うあまり「顧客の無意識な行動を利用する」ことに簡単につながります。

主な例として、Netflixがあります。ユーザーがやめられなくなるほど、次々と作品を見せてくれます。また、Booking.comは必要以上の緊急性や社会的圧力で、ユーザーの感覚を絶え間なく刺激します。

中毒性

現代のデジタル環境には中毒性があり、周囲への注意を散漫させ、そして、ユーザーの気を引こうと競争しています。集中させるためのデザインは、人々にとってもっとも貴重なものと言える「時間」を、責任をもって取り扱うということです。

私たちの課題は、ユーザーの気を散らせるものを制限し、プロダクトの中毒性を下げ、落ち着きをつくり出すことです。Center for Humane Technologyは、この目的に役立つリソースのリストを公開しました。

持続性

私たちの仕事は、世界の環境、資源、気候にどのように影響するのでしょうか? 延々と走り続けるスクラムに絶え間なく新機能を追加していくのではなく、むしろそれらを減らしていけるデザインを考えることはできないでしょうか?

私たちは、持続可能な消費者行動を可能にし、過剰消費を防ぐことに責任のあるデジタルソリューションを生み出す立場にいます。たとえば、OptimiamToo Good To Goなどのアプリでは、通常は廃棄処分になる消費期限切れ間近のフードを注文できます。そのほかにも、MutumやPeerbvなどのP2P(ピア・ツー・ピア)のプラットフォームは、自社プロダクトの共有と再利用を促進しています。

社会性

Center for Human TechnologyのLedger of Harmsはデジタルテクノロジーが社会に及ぼす負の影響に関する情報を集めており、人間関係やメンタルヘルス、民主主義などのトピックも含んでいます。社会にも目を向けるデザイナーたちは、自分の仕事が世界経済やコミュニティ、政治や健康に与えるかもしれない影響についても考慮するものです。

 

エシカルデザインにおいてフォーカスし、考慮すべき点は多くあるのです

後回しになりがちな倫理

理想的には、全デザインプロジェクトにおいて、上記のすべての分野における潜在的な影響を判断し、損害を防ぐための対策を施す必要があります。しかし、私たちはしばしばそれを疎かにすることがあり、そこには正当で、もっともな理由があります。道徳的な原則を述べるのは簡単ですが、現実の世界には日常生活が課しているさまざまな制約があり、それらの原則に基づいて行動することはそんなに簡単ではないのです。

その瞬間は、不便の一言で片付けてしまうかもしれません。すべての倫理的な意味を考慮する時間や予算が足りないということもあります。もっと優先すべき緊急度が高い事案もたくさんあるでしょう。もしかすると私たちは純粋に、これらは些細な問題と捉え、あとで考えればよいと思っているのかもしれません。しかし、ほとんどの場合はただ単純に、私たちの仕事が起こすかもしれない結果に気づいていないだけなのです。

そしてそこには、とても複雑な側面があります。すべての領域に同時にフォーカスするのは一言で言って無理なのです。時間が足りなかったり、締め切りが迫っていたり、せっかちな関係者に急かされた場合、倫理的にフォーカスすべき領域をすべて取り込むには、どうすればよいのでしょうか?

一体、どこから手をつければよいでしょうか?

構造的な実践としての倫理

これらの理由から、デザイン倫理はより実用的なレベルに高められる必要があると考えられます。倫理を後付けや独立したものとして考えるのではなく、それなくしてはデザインをしたとは言えないほど、プロセスに深く浸透したものにする方法を見つけるべきです。

倫理的に行動することの「不便さ」を克服する唯一の方法は、エシカルデザインを日常的に実践することです。倫理を、デザイナーとしての日々の仕事、プロセス、ツールに構造的に組み込んでしまうのです。もはや、プレッシャーがかかろうと、システムに立ち向かえるほど勇敢で信念の強い私たちにとって、周りの例外に頼る必要はないのです。なぜなら、システムはいつも私たちの味方であるからです。

倫理を日常的かつ構造的にデザインのプロセスに取り入れることで、非常に早い段階で間違いや誤用を特定し、修正することができるのです。物事をより徹底的に、意識的で構造化された方法で考えるため、デザインと実践の質を向上させることができるのです。

しかし、おそらくもっとも重要なことは、デザインの新しいスタンダードを確立することでしょう。スタンダードとは、すでにエシカルデザインプロセスと完成品を含んだ、デザインの本来あるべき形としてクライアントに提示できるものです。そして、新しい世代のデザイナーたちがつねに倫理を最優先に考慮できるようになるために、デザインを学ぶ学生たちに引き継がれるべきものです。

(続く)

この記事の後編は明日3/6(金)配信予定です。
後編では日常的なエシカルデザインの実践について触れていきます。


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