あなたのWebサイトは、訪れるユーザーにあれこれ考えさせすぎてはいないですか? ユーザーに大きな認知負荷をかけていて、それによってユーザーがあなたのWebサイトから離脱していっている、ということはありませんか? もしそうならば、これは修正すべき問題で、実際に修正が可能です。
認知的な負荷による影響
この問題はWebデザイナーである私たちと明らかに密接に関連しています。ユーザーが1つのことに集中しすぎて、他の要素に気が付かなかった場合、Webサイトでの重要なCTA(コールトゥアクション)だって気づかれない可能性があるということです。そう、ものごとをクリーンかつシンプルに整理したいというデザイナーとして本来もっている欲求が、ここで力を発揮するのです。認知負荷を軽減することを考えていきましょう。
インターフェイスに追加するすべての要素は認知負荷を増加させ、ユーザーがより重要な要素をみて処理できる可能性を減らしてしまいます。これは、コンバージョン率の最適化やサイトの使いやすさを損なうことにもつながるのです。
さらに、これはユーザーが単に、画面上にみえる要素を見逃しているだけではありません。認知負荷は、ユーザーがWebサイトに対して感じるフィーリングにも影響するのです。
ユーザー自身がより多く考えることを求めるWebサイトは、ユーザーにとっては面倒に感じるものです。ユーザーが利用されているように感じるだけでなく、Webサイトを否定的にみるようになります。一方では、それはまた別の興味深い結果をもたらします。それはユーザーがWebサイトを信頼しなくなるということです。
興味深いことに、Katarzyna Samson氏とPatrycjusz Kostyszyn氏が行った調査によると、ユーザーの認知負荷が多くなると、関連する活動における意欲は低下するということです。言い換えれば、認知負荷が増えることでユーザーはそのWebサイトを信頼しなくなるのです。しかしここで問題なのは、誰もが知っているように、あなたが発信するメッセージをユーザーが受け取り、それをCTAにつなげるのに、信頼は不可欠なものだということです。
それでは、どうすればよいでしょうか? 画面上から要素を削除すればよいという単純な問題ではありません。もちろん視覚的な混乱を減らすことは大きな違いを生み出しますが、すべてのインターフェイスをシンプルにできるわけではありません。本質的に複雑なタスクというものもあるでしょう。
また、インターフェイスそのものに認知負荷の決まったレベルがあるわけではなく、他の要因による変動の幅があります。その要因というのはたとえば、あなたがつくっているインターフェイスにユーザーがどのぐらい慣れ親しんでいるか、といったことなどです。
親しみやすさが認知負荷を軽減する
あなたが車を運転できるなら、運転の仕方を教わったときの感覚を覚えているでしょうか? 同時に複数のことに集中するのは苦痛とも言えるプロセスです。道路を見渡して、ミラーを確認し、ハンドルを回し、ギアを変更し(少なくともヨーロッパでは)、ウインカーを出す必要があります。
数年の運転経験を積むと、何も考えなくても仕事場に運転してたどり着くことができるようになります。それは運転に慣れ親しんだからです。運転のプロセス全体が自動化されたと言ってもよいでしょう。
人々がAmazonやFacebookをつかうのが好きな理由も同じです。インターフェイスが特別うまくデザインされているわけではなく、ただ単に使い慣れているのです。自動的とも言ってよいほど自然にこれらのサービスを使っているのです。
また、Amazonがサイトを実質的にはデザインをやり直さずに、時間をかけて変化させている理由もここにあります。彼らはデザインを大きく変更した場合に、サイトがどのように動くかというユーザーのメンタルモデルを崩し、認知負荷を増加させることにつながると知っているのです。
Facebookはしばしばこの教訓を無視し、その代償を払ってきました。Facebookはインターフェイスに変更を加えるたびに、その多くがインターフェイスを改善するものであったにも関わらず、必ずと言ってよいほど反発を受けてきました。それは慣れ親しんだ感覚を壊し、ユーザーにいままでよりも頭を使わせるものであるからです。
しかしそれも、数週間経ってユーザーが新しいアプローチに慣れ、各自の使い方が固まってくると反発は収まります。もちろんそれは、ユーザーがそのプロセスを我慢できるほど、あなたのWebサイトに囲い込まれていることが前提です。一般的なサイトの場合はユーザーは簡単に別のサービスに流れていくでしょう。
ユーザーの親しみやすさへの要求から学ぶ6つのルールをご紹介しましょう。
1. 可能な限りWebサイトのリデザインを避ける
Amazonの例のように、一度に多くの変更を加えてユーザーを圧倒するのではなく、Webサイトを段階的に進化させることで、ユーザーがそれぞれの変更に適応できる時間を与えましょう。
2. リデザインを行う場合は慎重に
リデザインはいついかなる場合でも絶対に避けなければいけないということではありません。リデザインを行う場合に、認知負荷を減らすためにできることがあります。
- 特にコンテンツを探す場所については、できるだけ以前のサイトを踏襲しましょう。
- できれば、一時的にでもユーザーが以前の古いデザインに切り替えて利用できるようにすることで、変更後も制御が可能だという印象を与えましょう。
- 切り替える前にCookieでタグ付けすることにより、リピーターに変更点を強調して表示しましょう。そうすれば、新しいサイトについての簡単なオリエンテーションのプロセスを提供することもできるでしょう。
しかしながら、どこまでやったとしても一部のユーザーは文句をいうでしょうし、リピーターのトラフィックも減少するでしょう。これをステークホルダーにしっかり説明しなければなりません。さもないとステークホルダーは取り乱したり、まずいデザインのせいだと非難してくるでしょう。
3. 一貫性と予測可能性の確保できるよう努力する
Webサイトを徐々に発展させるにしろリデザインを行うにしろ、サイト全体にわたっての一貫性を確保し、どういうことがおこりそうかというユーザーの期待に沿うように努力しなければなりません。
ユーザーが、あなたのWebサイトに対してある決まった方法で動作するという期待をもち始めたら、そこから逸脱してはいけません。UIとラベリングの一貫性は非常に重要であり、デザインシステムが役に立つのはそこなのです。
4. よく使われる一般的なインターフェイスのパターンを採用する
Webサイトがどれも同じようにみえることが不満だという記事をよくみかけます。それは業界が停滞しているということですから、その立場にも共感はできますが、デザインの革新にはそれに適したときと場所があることを理解すべきです。私自身は実験的なデザインが大好きではありますが、この種のデザインは認知負荷を増加させ、いつでも適切であるとは限らないということを認識しておくべきです。
さまざまなサイトで同じインターフェイスを経験することによって、ユーザーが特定のUIのパターンを期待するようになった場合には、そこから逸脱する前に、慎重に検討する必要があるでしょう。
5. インクルーシブデザインを受け入れる
興味深いことに、アクセシビリティを考慮してデザインすることが、認知負荷を減らすための最良の方法の1つです。特に認知障害のあるユーザーがサイトにアクセスできるようにすることで、すべてのユーザーの認知負荷を軽減することができるのです。
たとえば、我々のWebサイトのコピーをみてください。言葉はできるだけシンプルにする、またはテキスト全体をインフォグラフィックに置き換える必要があります。複雑なアイデアや言葉には親しみを感じにくいので、それらについてより真剣に考える必要があるでしょう。
慣れ親しんだ、シンプルな言葉を使うことによって、失読症やその他の認知障害のあるユーザーの支援につながります。それだけでなく、あらゆるユーザーにとってWebサイトをアクセスしやすいものにします。
とはいえ、ただ単に親しみやすいだけでは不十分です。全体的な雰囲気も認知負荷のレベルに大きく影響します。
ポジティブな感覚は認知負荷を軽減する
私たちの気分は、私たちの感じ方に複雑な影響をおよぼし、その延長線上で、Webサイトの利用の仕方にも影響します。たとえばユーザーの機嫌が悪いということも状況によっては実際に有益な場合もあります。たとえば、フォームに入力するのであれば不機嫌なときの方が入力ミスが少なくなります。
その理由は、ネガティブな考え方が私たちをより分析的にし、したがってより多くの注意を払うようになるからです。ポジティブな気分の広がりは、より潜在意識や本能的なレベルにしたがって、私たちが直感的になるよう促します。
つまり、ポジティブな気分になると自発的に行動するようになるため、認知負荷を減らすことができるのです。
ここで、こうしたことのすべてが私たちWebデザイナーたちにとってなにを意味するのか考えてみましょう。
まず最初に、もしあなたのサイトがユーザーに親近感を感じさせないもので、ミスによる影響の大きさが比較的低いのであれば、ユーザーのポジティブな気分を引きだすことに損はないといえるでしょう。
次に、人は考えるということについては本質的に怠けものだといわれています。考えることを避けようとするのです。もしCTAがなんらかの大きな決断が必要な場合、その決断を遅らせようとするでしょう。彼らの気分を高揚させることによって、彼らが意思決定のためにあまり考えなくなり、認知負荷が軽減され、コンバージョンの可能性が増えるのです。
そこでデザインを輝かせる何かが非常に重要になります。いまはユーザビリティに焦点を当てたデザインがトレンドです。それは確かに重要ですが、美的デザインも同じように重要です。
ユーモアにあふれたマイクロコピーであれ、いたずら心のある隠しデザインであれ、素晴らしいインタラクションアニメーションであれ、デザインは人々の気分を高揚させることが可能で、認知負荷を軽減することができるのです。
Smashing Magazineは、楽しいイラスト、陽気なコピー、巧妙なアニメーションを組み合わせ、ユーザーの気分に影響を与えています。
気分が認知負荷におよぼす影響は、適切なユーザーリサーチのケーススタディにもなります。ユーザーの気分を正しく理解していないと、認知負荷のレベルを理解できません。また、認知負荷は、UIの中で行われていることだけに限定されるわけではありません。外部に注意がそれることも影響します。そのため、私たちはユーザーの環境を理解する必要があるのです。
しかしながら、ユーザーの認知負荷に影響するもう1つの領域があります。これは、ユーザーを正しくプライミングしたかどうかということです。
プライミングが認知負荷に強い影響をおよぼす
ユーザーの期待値は、認知負荷のレベルに影響を与えます。実際の経験がユーザーの期待に見合わない場合、認知負荷が高くなります。
たとえば、Webサイトでのトランザクションがすぐに処理されると期待したのに、実際はそうでなかった場合、認知負荷のレベルが上がり、ユーザーが離脱する可能性が高くなります。しかしながら、処理に少し時間がかかると予測していた場合には、認知負荷が少なくなり、辛抱強く待つことができるでしょう。
適切に準備することで、ユーザーの期待をコントロールすることができます。この準備はプライミングと呼ばれています。
プライミングをあらゆる方法で利用することで、意思決定をより直感的で自然なものにし、ユーザーの行動に影響を与えることができます。たとえばある実験では、スーパーマーケットでフランス音楽を流すとフランスワインの販売が伸び、その他の国のワインの販売数が減ることがわかっています。
プライミングの仕組みは、私たちWebデザイナーにとって興味深いさまざまな効果がありますが、そのすべてが特に倫理的とは限りません。しかし、私たちはプライミングを有効活用することもできます。プライミングを利用して、アプリやWebサイトでの体験についてユーザーに準備を促すことができるのです。
プライミングは、より複雑なインタラクションに備えてユーザーの準備を促すためだけでなく、メンタルモデルを穏やかに変化させ、ユーザーの理解を向上させるためにも利用できるものです。
たとえば「ジムは銀行(Bank)に行く」と言ったら、あなたはなにを想像しますか? ジムが金銭に関わる取引のために銀行に行くと考えるでしょう。それは、ほとんどの人々が、銀行とお金を関連付けているからです。しかし、もし私があなたと釣りについて最初に話したなら、あなたはジムが川の土手(こちらもRiver Bankと表現される)に向かったと結論づけるかもしれません。私が川のほうのBankのことを考えるようにプライミングしたのです。
これを理解することで、ナビゲーションにラベルを付けることが容易になります。ユーザーを特定の主題について考えるようにプライミングすると、ラベルの解釈の仕方に影響を与え、人々を正しい軌道に乗せ、認知負荷を減らすことができるのです。
認知負荷はデザインの説明に役立つ
この記事には特に目新しい情報はなかった、と思う方もいらっしゃるかもしれません。インターフェイスを単純化することはよいことで、人々を前向きな気分にさせるのが望ましいということを、きっとあなたはすでに知っていたことでしょう。親しみやすいWebサイトではユーザビリティも向上するということは、誰もが知っている事実です。
しかし、これらがなぜ良いことなのかを説明するとき、認知負荷こそが一番の説明になるはずです。そしてそれはステークホルダーと話し合うときにも重要なものとなります。