直感的なプロダクトをつくるためのメンタルモデル

Neil Turner

Neilは、イギリスのAstraZenecaで働くUXデザイナーです。現在さまざまなUXデザインのプロジェクトを率いています。

この記事はUX for the Massesからの翻訳転載です。配信元または著者の許可を得て配信しています。

How to build intuitive products by utilising mental models

私はイギリスのケンブリッジ付近の小さな村に住んでいます。私の村には、以下の写真のような小さな環状交差点(ラウンドアバウト)がたくさんあります。馴染みのない人々に説明すると、環状交差点は、通常の交差点よりも安全で、効率的な交通循環につながるとされる環状の交差点です(環状交差点はイギリスの素晴らしい発明の1つです)。運転者は、すでに環状交差点にいる車両には道を譲ってから、自分たちの望む分岐点まで円の周りを運転しなければなりません。

全員がこの規則を守れば、環状交差点はうまく機能します。しかし、私の村にある小さな環状交差点は、ユーザーのメンタルモデルを考えずにデザインされているので問題があります。詳しく説明しましょう。

私の村の小さな円形交差点

小さな環状交差点の問題

メンタルモデルとは、人々が現実世界の物事を素早く理解し、それに対応するために用いるイメージのことです。私たちは、ある状況に直面するたびにゼロから考え始めるのではなく、実世界の経験で築き上げたメンタルモデルを直感的に採用しています。今回の事例では、小さな環状交差点に差し掛かったユーザーは、以下の2つのメンタルモデルのうち1つを採用する可能性が高いです。

  1. 環状交差点:運転者は右から来た車両に道を譲らなければならない
  2. 合流地点:優先道路の車両が優先される

この小さな環状交差点において重大な問題は、ユーザーによって活用されるメンタルモデルが異なるため、非常に危険な状況につながりかねないことです。

たとえば、小さな円形交差点に近づく2台の車を想像してください。最初の運転者は、目の前の道が環状交差点ではなく優先道路への合流地点のように見えるので、合流地点として扱いました。したがって彼は、自分が通行する権利を持ち、脇道から近づいてくる運転者は自分に道を譲って止まるだろうと仮定します。

他方で、次の運転者は環状交差点であることを認識しました。彼女は自分が通行する権利を持ち、優先道路の運転者は彼女が円形交差点に入れるように止まるだろうと仮定します。もし両方の運転者が盲目的に自分たちの選んだメンタルモデルに従ったら、どちらも相手が道を譲ると仮定しているので、ひどい衝突につながるでしょう。

このようにメンタルモデルが矛盾しているのは、今回の小さな環状交差点や、無数の同じような環状交差点のデザインが悪いことに原因があります。瞬間的に環状交差点とも合流地点とも解釈できるため、デザインを見てもユーザーが適切なメンタルモデル(たとえば環状交差点のメンタルモデル)を判断できません。車両が小さな環状交差点を踏まないようにするためにも、小さくても環状交差点であることは変わらないと強調するためにも、以下の写真のように、標識や縁石を用いて環状交差点であることが明白なデザインにするべきでしょう。

小さな環状交差点のより良いデザイン

メンタルモデルの重要性

メンタルモデルは、ユーザーが物事を認識し、対処する方法に大きく影響します。大多数のユーザーが採用しているメンタルモデルに逆らったり、どのメンタルモデルを使うべきなのか判断しにくくしたりすると、紛らわしくて直感的でないデザインが完成してしまいます。

では、どうすればユーザーのメンタルモデルに即したプロダクトやサービスのデザインを作成できるでしょうか? どのようにユーザーが適切なメンタルモデルを選択するのを手助けできるでしょうか? これらの問いに対するヒントは以下の通りです。

現在のメンタルモデルを解き明かす

ユーザーのメンタルモデルに即したプロダクトやサービスを作成するために、まず利用時のメンタルモデルがどのようなものなのか解明するべきです。たとえば、ユーザーが新しい車を選び、設定できるようにするアプリやWebサイトをデザインしているなら、ユーザーがこのときどのように行動するのか解き明かすべきでしょう。

彼らは、自分たちの期待する感情や行動すらも知っているのでしょうか? 欲しい車の最終候補をリストアップしているでしょうか? 彼らはどのように車を契約できると思っているでしょうか? ディーラーショップに行かなくともオンラインで契約できることすら望んでいるのでしょうか?

インタビューと観察は、ユーザーのメンタルモデルを発見する最善の方法です。理想的には、ユーザーがタスクに取り組む様子を観察して、なぜそのように行動したのか彼らに説明してもらいましょう。いつでもユーザーを直接観察できるわけではないので、代替案としてユーザーに自分のプロセスについて順を追って尋ねることができます。最近の体験について語ってもらうのが理想です。

ユーザーのメンタルモデルを詳細にまとめられるように、以下のようなメンタルモデルのマップが使えます。メンタルモデルのマップは、見たい映画を選ぶようなタスクを達成するときにユーザーが実行するステップ、考慮事項、思考プロセスをまとめたものです。 メンタルモデルに関するIndi Young氏の著作にはメンタルモデルのマップを作り、活用するための情報がたくさん乗せられています。

Indi Young氏のメンタルモデルの本に記載されたメンタルモデルのマップの例

ユーザーのメンタルモデルに合わせる

ユーザーのメンタルモデルがどのようなものか把握することで、それに沿ったプロダクトやサービスをデザインし始めることができます。メンタルモデルに固執する必要はありませんが、プロダクトやサービスがユーザーの期待からかけ離れた動作をすると、問題につながります。たとえば、ある自動車メーカーがアクセルペダルを右に配置しているのに、別のメーカーが左に配置している場合を想像してください。

人気のタクシーサービスであるUberは、革新的でありながらユーザーのメンタルモデルに沿ったサービスの好例です。従来のタクシーサービスとはさまざまな側面で大きく異なりますが、ユーザーがタクシーサービスの運営に期待しているは変わりありません。

ユーザーはタクシーを依頼し、車で迎えに来てもらい、目的地まで連れて行ってもらって、最後に料金を支払います。料金はユーザーのアカウントから自動的に引き落とされるなど、従来のサービスとは異なる要素もありますが、大部分はユーザーのメンタルモデルに沿ったサービスです。

ユーザーが意図したメンタルモデルを使うのを助ける

プロダクトやサービスをユーザーのメンタルモデルに合わせるだけでなく、ユーザーが意図したメンタルモデルを使えるように誘導することも重要です。小さな環状交差点のデザインが本当に失敗したのはこの側面です。上記のデザインでは、環状交差点であることを強調できていないため、ユーザーが採用するメンタルモデルに乖離が生まれてしまったのです。

実世界のものを模倣してデジタルオブジェクトをデザインするスキューモフィズムは、ユーザーが意図したメンタルモデルを使用しやすくする1つの方法です。フォルダやボタン、メール、ウィッシュリスト、デスクトップ、チェックアウト、ゴミ箱など、現実世界のオブジェクトはすべて、デジタルオブジェクトがどのように機能するのかユーザーに理解してもらうために利用されてきました。

デジタルオブジェクトが現実世界のオブジェクトを模倣するスキューモフィズムは、 ユーザーが意図したメンタルモデルを使いやすくする方法の1つです。

また、標準的なデザインパターンや行動を裏切らないことでも、ユーザーが意図したメンタルモデルに誘導することができます。たとえば、もしドロップダウンボックスのように見えるUI要素がまったく異なる動作をしたら、その挙動とユーザーのメンタルモデルの間にミスマッチが発生して、混乱につながるでしょう。

ユーザーのメンタルモデルに沿っているか確認する

数年前、私はイギリス有数の旅行代理店であるThomson(現在のTUI)のチェックアウトプロセスを再設計するプロジェクトに携わっていました。UXチームは、旅行を計画して予約する際のユーザーのメンタルモデルを解明するために、多くの作業を行いました。その結果、精算プロセスの前にフライト時間や部屋のタイプ、アクティビティなど、休暇のさまざまな側面を設定できるようにすることで、旅行を計画するユーザーのメンタルモデルと一致させられることがわかりました。このようなユーザーの作業は、価格やさまざまなオプションを検討している際によく発生していました。

しかし、事前に設定できるデザインコンセプトをユーザーテストにかけると、問題が発見されました。このデザインコンセプトは、旅行を計画する際のユーザーのメンタルモデルには合致していましたが、オンラインで旅行を予約する際のユーザーのメンタルモデルには合致していませんでした。これは、ユーザーが精算前ではなく、精算の最中に旅行のオプションを選択しなければならない他社のWebサイトとまったく異なる動作だったからです。

デザインコンセプトがユーザーのメンタルモデルに即しているのか確認することはとても重要です。優れた方法は、ユーザビリティテスト(ユーザーテストとしても知られる)を実行することです。ユーザビリティテストは早期に実施するほど効果を発揮します。ユーザーにデザインのプロトタイプを使ってもらい、実際のタスクを実行してもらう中で、思考を発話してもらいましょう。デザインの中でユーザーのメンタルモデルから大きく逸脱しているのはどこか迅速に明らかになるはずです。ユーザーがどのような動作を期待しているのかや、デザインを使用する前に何を期待していたのか尋ねてもいいでしょう。私がユーザビリティテストのアドバイスやガイドラインをまとめた記事では、ユーザビリティテストについてより詳しい情報を得られます。

結論

直感的に使えるプロダクトやサービスをデザインする際に、メンタルモデルは非常に重要です。ユーザーのメンタルモデルに合わせて、ユーザーが意図したメンタルモデルを使えるよう誘導すれば、ユーザーは何をすべきか、何を期待すべきかを直感的に理解できるので、優れたデザインを作成することができます。


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