ミニマルなWebデザインとは、具体的なデザインの外観ではなく、デザインの原則やガイドラインのことを指します。これらの原則にしたがうことで、必要最低限の要素だけでユーザーから期待した成果を引き出せる、シンプルなWebサイトができあがります。
「less is more(少ないほど良い)」という普遍的なコンセプトに加えて、こうした原則には色の数を抑えたパレットや空白のスペースを使うことなどが含まれます。
ミニマルWebデザインでは「少ないほど良い」
「less is more」という言葉は、Webデザインについて話していても、ほかの形のミニマリズムについて話していても、もっとも耳にする言い回しの1つでしょう。ではミニマルデザインの文脈において、この言葉はどのような意味なのでしょうか?
ミニマルデザインを理解するには、まずミニマルではないデザインを見てみるとわかりやすいかもしれません。こちらの極端な例を見てください。
Ling's CarのWebサイトはもっとも粗悪なデザインのランキングにしばしば名を連ねます。このサイトには、多くのものがありすぎるのです。誰が見ても、すぐミニマルではないと理解できるでしょう。
一方で、ミニマルではなくとも、上手にデザインされたサイトも数多くあります。次の例をご覧ください。
このサイトのデザインは美しいですが、アニメーションや、平面ではない背景、コラージュ、タイポグラフィといった要素は、まったくミニマルではありません。ひとつひとつの要素だけでは、必ずしもミニマルなWebデザインの定義に合わないと決まるわけではありません。ミニマルなデザインは、すべての要素が組み合わさってでき上がるものです。
ミニマルなデザインは、少ない要素で説得力のあるデザインを作成することに焦点を当てます。これを達成するヒントの1つは、デザインが壊れる直前まで要素を減らすことです。ここで言う「壊れる」とは、「もはやユーザーのニーズもウォンツも満たせなくなる」と言い換えられます。
ミニマルWebデザインはコンテンツを際立たせる
ミニマルなWebデザインにおいてもっとも説得力のある利点の1つは、コンテンツを際立たせ、魅力的にできるということです。そのため、多くのアーティストや写真家、ライターなどはシンプルなデザインを最初に選びます。彼らは、他の誰かが作った要素ではなく、自分たちのクリエイティブなコンテンツがもっとも注意を引くようにしたいのです。
Ian Jones氏のWebサイトを見てみましょう。彼は写真のほかに、グラフィックデザインやデジタルデザインも手がけています。彼のWebサイトは四角く切り取られたコンテンツに焦点を置きながら、たとえば背景のグリッド線のような興味深いデザインの要素や、簡単なアニメーションも組み込んでいます。結果的に、彼の作品を際立たせるミニマルなUIデザインに仕上がっているのです。
脚本家であり、映画監督でもあるArtemy Ortus氏のWebサイトも、作品に焦点を当てたミニマルデザインの好例です。スライドショーを使うことで、余計なデザインを加えることなく、訪問者の目線を強烈に引き付けています。
Cooper Perkin氏のWebサイトも、デザインを散らかすことなく注目を集めるために、アニメーションを使ってミニマルなデザインを作り出している美しい例です。
あらゆるUIとUXについての決断に意識を向ける
ミニマルなWebデザインは一見、ほかの複雑そうなデザインスタイルより簡単に習得できるように見えます。しかし、実際にはその真逆です。
ミニマルデザインでは、あらゆる要素が中心的な役割を果たします。Webデザイナーが下すすべての意思決定が画面に現れ、どの訪問者の目にも触れます。より複雑な外観のデザインであれば小さな間違いは見えないも同然でしょうが(初心者のデザイナーにとっては歓迎すべきメリットです)、シンプルなデザインではすべて露見してしまいます。
NarratorのWordPressのテーマは、小さな要素がすべて結びつくよう思考が凝らされたサイトの好例です。余計な視覚的要素や、線、矢印のマークを加えたり、要素ごとにグレーの背景を配置したりしていないことで、滑らかなサイトに仕上げています。滑らかさは、ミニマルデザインで失われることもある側面です。
InlayのWebサイトは、一目見ただけで非常にミニマルな印象を受けます。スクロールすればアニメーションやより複雑な画面が現れますが、一貫して非常にミニマルな雰囲気が保たれています。
また、アプリもミニマルデザインの恩恵を受けます。上記のWord Counterのアプリは、シンプルなデザインのおかげで、形式ばった導入を用意しなくてもすべての機能を理解しやすくなっています。デザイナーのあらゆる決断が意識的になされ、ユーザビリティを重視していることが実感できます。
空白を活用する
優れたミニマルWebデザインにおいてもっとも重要な要素の1つは、空白の使い方です。ミニマルなデザインでは、配置されているものと同じくらい配置されていないものも重要になります。
ネガティブスペースは、ホワイトスペースとも呼ばれ、デザインやコンテンツを際立たせるために周囲に取られるスペースを指します。空白には必ずしも本当になにもないわけではなく、テクスチャーやパターン、色が含まれていることもあります。それでも、サイトにあるほかの要素と同じように「使われる」場所ではありません。
Platoon Branding Studioのサイトではヘッダーのタイポグラフィの周りに十分な空白が置かれているので、タイポグラフィが目立っていて、即座に注目を集めます。
Nohauのヘッダーにも同様に、タイポグラフィの周りに広いスペースがあります。
空白はまた、瞬時にわからないような面白い形や画像を作るためにも使われます。
写真とタイポグラフィ、コントラストを使ってドラマを作り出す
単にデザインがシンプルでミニマルだからといって、劇的になるわけではありません。ミニマルデザインを劇的にするためによく用いられる方法の1つが、写真やタイポグラフィ、コントラスト(色のコントラスト・要素同士のコントラストなど)を用いることです。
写真の背景を含め、大きな写真はデザインに視覚的な面白さを加える良い方法ですし、適切に用いればミニマルデザインにもマッチします。インパクトを最大化するために、細々した写真を使うのは避けましょう。ミニマルデザインに使う写真は、少なくとも写真自体がミニマルであるべきです。シンプルなカラーパレットで、空白のある写真にしましょう。
Wildsmith Skinのランディングページでは、印象的なタイポグラフィと一緒に大きな写真が使われています。瞬時に目を引きますし、写真が中央で分かれているのも新鮮です。
Iglucraftは、メインのランディングページだけでなく、サイト全体でも大きな写真を使っているサイトの好例です。画面変化のアニメーションは非常に練られており、サイト全体のユーザー体験に加わっています。
大きな写真だけでなく、大きなイラストや動画もミニマルなWebデザインに使うことができます。
In FocusのWebサイトでは、背景にアニメーションとイラスト、動画が使われています。きわめて直感的なわけではありませんが、閲覧や操作が楽しいサイトです。
また、タイポグラフィについても、ミニマリストのデザイナーが上手に活用しています。
芸術と文化を扱うNPOであるKANEKOのタイポグラフィを見てみましょう。ヘッダーのタイポグラフィに重なったパターンと色は、多くの写真やイラストと同じような視覚刺激ですが、刺激がまったく異なります。
Production Portugalは大きな動画を使った背景に、線で描かれた太字のタイポグラフィを組み合わせています。2つの技術を駆使することで、劇的な演出を加えています。
KobuのWebサイトは、それぞれの画面に使われている色に強いコントラストがあるだけでなく、画面同士の間にも色のコントラストがあります。これによって、それぞれのプロジェクトが異なる特徴を持っていることが際立っているのです。
タイポグラフィの優先順位
ミニマルなWebデザインでは、あらゆる決断を意識的に下さなければなりません。したがって、タイポグラフィの視覚的な階層を明確に区別する際にも、時間をかけることが重要です。ほかのデザイン要素にあまり頼ることなくコンテンツの種類の違いを示す必要があるときには、階層が特に重要になります。
たとえば、あるユーザーがミニマルなWebサイトを訪れたとき、必ずしもコンテンツを読まなくとも、タイトルやヘッダー、ボディコピー、ナビゲーションを一目で瞬時に理解できなければなりません。これを実現する最善の方法は、要素の間に明確なコントラストを与えることです。
InVisionのブログInside Designには、タイトル、ヘッダー、ボディコピーを区分けするために明確なタイポグラフィの優先順位があります。
配置の場所や、異なるタイポグラフィの要素には異なる色を使うといった技術もこの目的に有効ですが、サイズや太さ、スタイルによって要素を区別することも同じように重要です。
StillsのWordPressのテーマでは、ヘッダーとボディコピーを区別するため、タイポグラフィに明確な優先順位をつけています。
どれだけミニマルなデザインであっても、少なくとも3つの階層を持つべきでしょう。タイトルや見出し、小見出し、ボディコピーや本文という3段階です。小見出しは複数のレベルに分かれることが多いですが、ミニマルなWebサイトにはもはや必要ありません。階層が2つしかないサイトもありますし、ほとんどの場合推奨できませんが、階層を1つしか持たないサイトさえあります。
ナビゲーションをシンプルに保つ
多くのミニマルなサイトが腐心していることの1つが、ユーザーフレンドリーなナビゲーションを作ることです。特に、多くのページを持つような複雑なサイトでは共通の課題です。
画面上部のナビゲーションバーは、ミニマルデザインにおいても多用されています。もっとも一般的なのは、シンプルなテキストのリンクに、ときおり小見出しがついたものです。タイポグラフィや色、形といったデザインの要素はサイト全体のルック&フィールに沿ったものが選ばれますが、ほかの選択肢もあります。
ミニマルWebデザインにおいて見られるもう2つのナビゲーションのデザインが、ハンバーガーメニューとケバブメニューです。ハンバーガーメニューは3本か4本の横線から構成されていて(縦の線を使うバリエーションもありますが、考え方は同じです)、ケバブメニューは3つの点で構成されています。
ハンバーガーメニューはユーザビリティの問題をはらんでいるにもかかわらず、ナビゲーションを隠す普遍的なショートカットとして採用されているのは、見た目をすっきりさせられるからです。
Nilton Clothingのサイトはハンバーガーメニューに3本の不揃いの線を使っています。このスタイルは同じ長さの線を3本用いるパターンの代替案として有名になりました。
RFTBは背景に色を付けることで、ハンバーガーメニューを際立たせています。
ハンバーガーメニューが一般的にメインナビゲーションに使われる一方で、ケバブメニューは設定メニューなどのサブメニューに使われます。どちらも一般的なナビゲーションの要素になりましたが、三本線がメニューであることを示すためにテキストを追加するデザイナーもまだいます。テキストは、サイトのユーザーが必ずしも先端技術に明るくない場合、特に有効です。
ミニマルなカラーパレット
ミニマルなカラーパレットになにが必要なのかに関しては、さまざまな意見があります。多くのミニマルなサイトでは2種類の色しか使っていません。一方で、3色や4色以上の色を使っているサイトもあります。カラーパレットだけで、ミニマルなWebデザインが完成したり、台無しになったりするわけではありません。
Pittori di CinemaのWebサイトはトップページに3色のパレットを使っています。カーソルが赤色、背景が黄色、文字が黒色です。
Zeus JonesのWebサイトにはたくさんの色があり、それぞれのセクションが異なる色で塗られています。ミニマルな印象を保ちながら、色のついた四角形が明確にセクションを線引きしています。
Dot LungのWebサイトは、紫、赤、白という鮮やかな色を使っています。それによって、全体のカラースキームをミニマルに保ちながら、エネルギー溢れる現代的な印象を感じさせています。
FillowのWebサイトは2色のカラーパレットを使っていますが、背景色はつねに変化しています。ミニマルなパレットのユニークな使い方です。
シンプルなWebサイトのデザインに用いるカラーパレットを作るアプローチは数多く考えられます。しかし、あらゆるミニマルなデザイン要素と同じ世に、1つひとつの選択が意図的であり、ユーザー体験全体を向上させるものでなければなりません。
まとめ
ミニマルなデザインにとって最大の課題は、デザイナーはミスを隠すことができないことです。それぞれのデザインの要素が存在価値を証明していなければなりません。ひとつひとつの要素を意識的に選択し、デザイン自体を改善するためだけに実装しなければなりません。
ミニマルデザインはほかのスタイルよりも簡単だろうと考えて着手するWebデザイナーは、真にミニマルな外観を保ちながら、ユーザーの行動と体験において目標を達成できるプロダクトを作るために必要な労力、時間、スキルの量に驚くでしょう。