チャットボットで陥りがちな5つの問題

Micah Bowers

Micahはブランディング、イラストレーション、デザインを切り口に企業のユーザーエンゲージメント向上を支援しています。

この記事はToptalからの翻訳転載です。配信元または著者の許可を得て配信しています。

The Chat Crash – When a Chatbot Fails

「her/世界でひとつの彼女」という映画を覚えているでしょうか。誰もがハイウエストのパンツを履いた近未来を描いたロマンスの映画で、手紙の代筆ライターをしている孤独なセオドアが、サマンサという名前のAIのガールフレンドと恋に落ちます。映画が結末に近づくにつれて、サマンサは急激に進化を遂げ、セオドア以外の多くの男性と付き合っていることを打ち明けると、「あなたがどうこうってわけじゃないの、私の問題よ」というお決まりのセリフを残し、セオドアは振られてしまうのです。

この風変わりな映画作品は、AIと機械学習に対して多くの人が抱いている「もう間もなく、自分が使っているコンピューターが自分よりも人間らしくなる日がくるだろう」という思いを完璧に描き出しています。

Her/世界でひとつの彼女」はボットと人間との交友における複雑さを描いていますが、実際私たちはこのような親密さでボットと関わることによる恩恵を享受できるのでしょうか?

残念ながら、今日(こんにち)のチャットボット技術について騒ぎ立てている人たちの中にも、同じような気分が入り込んでいます。デザインに関する記事や専門家たちは、会話のできるロボットが普及することは必然的であると納得しているようです。ごく近い将来、私たちは日中の時間を機械と楽しくおしゃべりしながら過ごすことになるでしょう。

ですが、1つ問題があります。

チャットボットは人間のコミュニケーションの複雑な部分に直面すると、とりつく島もないような強い反応を返しがちです。なぜそうなるのでしょうか。

多くのチャットボットはよくできたフローチャートに過ぎず、彼らの回答は融通のきかないIF/THEN型のスクリプトから吐きだされるものです。AIを搭載したチャットボットでさえ、人間の言語のパターンを把握するのには長けていますが、自然言語理解(発話の意図を判断する能力、特に言葉通りの意味ではない場合など)となると十分ではありません。

他のデジタルプロダクトに比べて、チャットボットは人間らしい回答が期待されるようになってきているため、より厳しい目で精査されます。

そしてさらに大きな問題があります。人間の言語と会話は信じられないほど微妙な意味の違いがあるということです。たとえば以下のような複雑な要素があります。

  • 言葉の誤用
  • イントネーション
  • 二重の意味
  • 受動的な攻撃性
  • 下手な発音
  • 地域ごとの方言
  • ちょっとしたユーモア
  • 発声障害
  • 非ネイティブスピーカー
  • スラング
  • 構文

まだまだ他にもありますし、問題が積みあがるにつれて、デザイナーは「チャットボットをプロジェクトに使うべきではないのかもしれない」というジレンマに陥ることになります。

チャットボットは多大にもてはやされていますが、実際にはその多くがまったく実用的ではないことが明らかになっています。チャットボットはこれまでのタップをベースにしたアプリよりもずっとスムーズなUXをつくり出せる可能性があるといわれているものの、概していえば今日(こんにち)のチャットボットのパフォーマンスはその期待値には程遠いレベルです。

そういった問題を解決をするためにデザイナーがいます。チャットボットがさまざまな業界で必要とされていることは間違いなく、現時点での恩恵を享受することなく、AIが進化するのをただ待つという選択肢は現実的ではありません。

それよりもむしろ、デザイナーは現在のテクノロジーの制約の中で仕事をする必要があり、UXにポジティブな効果を与えるような形でチャットボットを導入する方法を考えなければならないのです。

では、なぜチャットボットは頼りないのでしょうか。

チャットボットの5つの問題と改善への道すじ

まず言っておきますが、チャットボットがすべて悪いわけではありません。特に、ミーティングの予定を入れたりレポートを書いたり電気を消したりするにはとても便利です。他にも、それほど実用的ではありませんが、軽妙な会話の裏側を真剣に想像してしまうような魅力をもっています。現時点では実現していなくても、私たちは将来の可能性に期待し、わくわくしているのです。

しかし、チャットボットが本当に未来のテクノロジーであるとするならば(そしてそれがわかりきった結論ではないならば)、デザイナーはいま目の前で彼らを苦しめている問題を修正しなければなりません。そのための助けとして、私たちはチャットボットがうまくいかずユーザーをイライラさせるような5つのシナリオを特定し、それぞれに対して改善に向けたアドバイスを示したいと思います。

問題その1:壊れたスクリプト

IF/THEN型のスクリプトから応答を導きだすチャットボットは、必然的に、想定されていない質問や要求に突き当たることになります。このような場合、ほとんどのボットはユーザーに要求を明確化するための質問を投げかけて、事前に用意された回答の範囲で安全に対応しようと立て直しをはかります。

これはそれほど悪い手ではありません。ですが、ボットによる質問によって会話が行き詰ってしまったり、わずかでもユーザーを非難するような形になってしまうと問題です。不完全なスクリプトのせいで幻影が解け、ユーザーが責められてしまうのです。これはよくありません。

これらのボットは曖昧で実用的でない、言ってしまえば無意味な回答によって会話を行き詰らせています。(出典:Chatbots Magazine

解決策その1:謙虚さ

チャットボットはどうしても間違えてしまいます。もっとも精緻にデザインされたスクリプトでさえ問題に直面するのです。問題が起こったときの特効薬となるのが謙虚さ(たとえユーザーの側に問題があったとしても)です。では、チャットボットが謙虚になるとは、どういうことでしょうか。

チャットボットがコミュニケーションがうまく行っていない兆候を検知したら、すぐに次のように振る舞うようプログラムされているべきです。

  • 混乱が生じていること認める
  • その状況に対する責任を引き受ける
  • ユーザーのもつ不満を伝えてもらう
  • 状況を前に進めるための選択肢を提示する

会話の中で問題に出会うと、Amtrakのチャットボット「Julie」は責任を引き受け、ユーザーが予約プロセスを進めるための明確な選択肢を提供します。

問題その2:冷たい反応

チャットボットの中には、特定の仕事を非常に効率よくこなせるようにデザインされているものもあります。多くのタスクにとってこれはよいことですが、一部の仕事にはより思いやりのある対応を必要とするものがあります。

こちらがまだ答え終わっていないのに、決まって割り込んでくるカスタマーサービスのスタッフに対応されたことがあるでしょう。彼のやり方は効率的かもしれませんが、あなたはおそらく雑に扱われたように感じたのではないでしょうか。

同じように、ユーザーがボットの助けを求めるときの実際の感情的なニーズをデザイナーが鋭く感じとっていなければ、チャットボットも冷たい反応をしてしまう危険性があるのです。

解決策その2:ユーザーリサーチ

効率性や収益性がチャットボットをデザインする主要な目的であれば、ユーザーはよくも悪くもそれを感じ取るでしょう。であればデザイナーは、礼儀正しい返答やちょっとしたユーモアを通じて思いやりを表現できるのではないかと考えるかもしれません。それはうまくいくかもしれませんが、もしユーザーが別の反応を期待している場合には、逆効果になる可能性があります。

チャットボットはデジタルプロダクトですから、そのデザインの根拠となる決断は実際のユーザーリサーチに基づいていなければなりません。たとえば、1回のユーザーインタビューによって、ボットに書き込まれている特定のフレーズや質問の仕方に対するユーザーのネガティブな反応を明らかにできるかもしれません。またシンプルな調査によって、そのボットが想定しているユーザーが権威のにじみ出るトーンを好んでいることもあるかもしれません。

理想のチャットボットは、現実のユーザーから得られた気づきに基づいてつくられるものです。

Woebot」は、不安やうつの兆候を経験したユーザーを認知行動療法(CBT)の実践によってコーチングすることで手助けするようにデザインされています。開発者はスタンフォード大学医学部の心理学者たちで、彼らは継続的なユーザーリサーチに取り組んでいます。

問題その3:変に個人的な情報に踏み込む対応

あなたはこれまでに、初めて会う人なのに異常なほど自分の個人情報に詳しい人に会ったことはありませんか?

「ちょっと待って…。なんで会ったばかりなのに、ミドルネームや誕生日、出身地、婚姻状態、ネットの検索履歴まで知っているの?」

ぞっとするような体験です。

チャットボットの場合も同様に、明確に尋ねられてもいないのにそういったこと(あるいはそれ以上のこと)を知っていたなら、ユーザーはきまりが悪い思いをします。もしユーザーとボットが人のように自然にやり取りして欲しいと望むのであれば、人間がお互いにもっている「プライベートに立ち入らないで」という期待に、ボットも応えるべきでしょう。

ですがチャットボットのデザイナーの中には、ユーザーについての情報をどんどん掘り下げることによって、ボットとのやりとりのもつ人間味のなさを埋め合わせようとしている人もいます。これは明らかにまずい考え方ですが、痛い目にあうまでそのことに気づかない会社もあるのです。

バーチャルアシスタントは便利なものですが、このようにテクノロジーが家の中で当たり前になってきているからこそ、会社やデザイナーはユーザーのプライバシーを最優先に考えるべきです。

解決策その3:透明性

これは別に複雑なものではありません。チャットボットは次のようなことを実施すべきです。

  • ユーザーに個人情報を教えてくれるように頼む
  • ユーザーに個人情報を保存して問題ないか尋ねる
  • 個人情報の使い道について、はっきりとユーザーに伝える
  • プライバシーを侵害するかもしれない機能をOFFにしやすくする

プライバシーの基本は「人間にとって後ろめたい行動は、チャットボットにとっても後ろめたい」ということです。

チャットボットの構築プラットフォーム「Botsquad」を使った場合、デザイナーやデベロッパーは、ユーザー個人の情報を削除する選択肢を設定することができます。

問題その4:なんでもできすぎる

壮大すぎて現実的ではない構想をもったクライアントに出会ったことはありませんか?

「FacebookとAmazonとRedditの機能をすべて兼ね備えたアプリにしたいんです」と言うような。

あまりに野心的な、機能を詰め込みすぎたデジタルプロダクトが成功することはほとんどありません。リリース直後においては特にそうです。ユーザーは新しいツールをみつけると、それを使ってできることを素早く理解したいと望むものです。わかりやすい新しい価値がなければ、そのツールは使われないでしょう。

同じことがチャットボットについてもいえます。多くのことができればできるほど、ユーザーとの関係性が薄くなるリスクが高まります。しかし一方で、バーチャルアシスタントの隆盛にもみられるように、ボットはともかくユーザーの生活のあらゆる面に関わるべきだという、奇妙で感傷的な以下のような意見もあります。

「銀行口座の管理も食料品の買いものも、娘の寝る前の読み聞かせもボットにおまかせ!」

解決策その4:機能を限定する

チャットボットは、特定のタスクをとても上手にこなすようにデザインされているものです。しかしボットの「壮大な計画」が立ち上がったとき、その場にいつもデザイナーがいるわけではありません。あるときには、デザイナーが関与するのはさらに先の段階で、そのときにはプロダクトの機能が当惑するほど山のように積まれているのです。あるいは、プロジェクト自体の範囲からそれて、ボットの範囲が風船のように膨らんでいることもあります。

警告を上げてプロジェクトの軌道を修正するか、沈黙を守り最悪の中の最善を追い求めるか、どちらにしたらよいでしょうか?

上手にやる必要がありますが、一番よいのは次のように、デザイン上の懸念を前面にもってくることです。

  • キーパーソンを探し、適切なタイミングをみはからってあなたが観察したことについて話し合う
  • デザインサイクルの中でどのようにチャットボットが進化してきたかについて、あなたの考えを示す
  • 計画されている機能を正確に分解し、本来のボットの目的が曖昧になっていることを理解してもらう
  • フォーカスすべき特定のエリアを強調して今後の前向きな方針を示し、これまでの仕事がその方向性に役立つことをみせる
  • (敬意を払いつつ)自分の立場を守れるように準備しておき、可能ならば議論を助けるために類似のチャットボットを例として示す

あなたの主張を裏付けるようなユーザーリサーチの結果があれば、これらの提案はもっと簡単になるでしょう。

プロダクトチームも間違った決断と無縁ではありません。もしそれが起こったら、デザイナーはUXリサーチから得た気づきに立ち返ってプロジェクトを立て直すことができます。

問題その5:一匹狼になってしまう

あなたのチャットボットはカウボーイの精神をもっていますか? あなたのビジネスの他の部分とは何の繋がりをもたずに、広大なネットの世界を走り回っていますか?

たとえば、サービス企業が自身のWebサイト上でボットを使い、そのボットがその企業のソーシャルチャネル、メールリスト、スケジュール用カレンダーなどとまったくリンクしていなかったとしたら、到底そのポテンシャルに見合った力を発揮することはできないでしょう。

ときには、ボットがうろついている場所が離れすぎていてみつけることがほとんど不可能であることもあります。正直に言いましょう。ユーザーはあなたの会社のWebサイトの更新や通知を細かくチェックすることはありません。あなたの顧客が集まるデジタルチャネルがあり、あなたのチャットボットはそこにいる必要があるのです。

解決策その5:メッセンジャーチャットボットとサードパーティのプログラム

メッセンジャーチャットボットは大手のデジタルプラットフォーム(Facebook、WhatsApp、Twitterなど)のメッセージングアプリの中にあるもので、企業はユーザーが多くの時間を費やすこのチャネルを使ってやり取りすることができます。

さらによいことに、次のようなことができるサードパーティのプログラムがたくさん存在しているので、1からメッセンジャーボットをデザインする必要はありません。

  • 複数のチャネルで使える(SNSやWeb、アプリ)
  • デザイン要素をカスタマイズできる(レスポンスまでの時間、連絡をとるボタン、イメージ、オーディオなど)
  • 支払機能がある
  • アナリティクスを備えている(開封率、ユーザー定着率、契約率および解約率)
  • ボットが対応可能な範囲を超えた場合に人間が引き継げる
  • 人気のあるデジタルプラットフォームに統合できる(Shopify、Zapier、Google Site Searchなど)
  • 問題が起こった場合のカスタマーサポートがある

ドミノピザのボットは、Facebookメッセンジャーからフォードの自動車まで、さまざまなデジタルチャネルで呼び出すことができます。

チャットボットについての議論を捉え直す

チャットボットとはなにか、なにができるのか、そしてそのテクノロジーはどこに向かっているのかという議論については多くの混乱がみられます。ボットと人間は社会において共存するべきだという壮大な宣言がさらにこの混乱に拍車をかけています。

ボットを売り込むために「仲間」「介助者」「友人」といった言葉が使われると、私たちは過去の経験などから「信頼」「忠誠」「喜び」といった感情を呼び起こします。

私たちは自分たち自身にひどい仕打ちをしているのでしょうか?

私たちはチャットボットについて正確に考え、チャットボットの可能性についてきちんと議論しているのでしょうか?

あるいは、私たちは単に非現実的な期待をいだいているだけで、結局は予想された通りに人間味のない振る舞いをするボットに直面し、ユーザーがイライラさせられるということなのでしょうか?

私たちはデザイナーですから、チャットボットをツールとして考えた方がよいでしょう。つまり、私たちのクライアントがビジネスを発展させる助けとなる可能性をもったツールです。ツールとはつまるところ手段です。これは特定の目的のために使われるものであり、それがうまく動かないからと言って「このツールは使えない」と叫ぶわけではありません。ただ、よりよい選択肢を探せばよいだけです。

チャットボットはなくなりません。これからも進化し続けます。そしてその進化に合わせて、チャットボットの新しい能力をユーザーが理解し、活用するための活動を、デザイナーがリードし続けるべきです。


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