英国政府のアクセシビリティ法に公共部門はどう対応すべきか

Paul Boag

PaulはUXのデザイナーでありデジタルトランスフォーメーションの専門家です。彼はユーザーを促進するためのウェブやソーシャルメディア、モバイルの活用を、非営利やビジネスの分野で手助けしています。

この記事はboagworldからの翻訳転載です。配信元または著者の許可を得て配信しています。

Public Sector Accessibility Legislation: Rethink Your Approach

イギリスでアクセシビリティの法律が施行されるのを目前に、多くの公的機関が対応に追われていました。しかし、彼らが採用しているアプローチは、ほとんど意味をなしていません。

*編注:元記事は施行前に書かれたものですので、文体を過去形に改変しています

ご存知ない方のために説明すると、イギリスの公的機関のWebサイトは、法律により2019年9月23日からアクセシビリティの要件を満たさなければいけません。2018年9月23日以降に公開されたWebサイトは法律の施行までに対応する時間はほぼありませんが、それ以前に公開されたサイトについてはもう一年ほどの猶予期間があります。

当然ながら、障がい者差別禁止法に照らせば、すべてのWebサイトはアクセシビリティに対応していなければなりません。にもかかわらず、この新しい法律は多くの公的機関にひどく恐れられています。

アクセシビリティを求める法律が与えた衝撃

このヒステリーに近い状況に対して、この数か月もっとも多くみられた反応は、自分たちのサイトがどれだけ悪い状況なのか実証するために監査を依頼することでした。しかし、多くの公的機関のWebサイトのページ数は膨大で、数百、数千にもおよびます。

ほとんどの公的機関のWebチームはつねに深刻な人手不足に悩まされているため、内製での対応は不可能です。

この監査方針によって、公的機関は内部で賄えない仕事を外注することになったため、コンサルティング会社や代理店は大儲けできました。このアプローチはイギリス政府によって推奨されていますが、限られたリソースの割き方として最適ではないと私は考えます。

アクセシビリティ監査は長期的な解決策ではない

仮に、公的機関が何千ページにもわたるWebサイトのアクセシビリティの不備をすべて特定できたとしましょう。さらに、2020年の締切までにすべての問題を修正できる時間とリソースがあったとします。さて、そのあとなにが起こるでしょうか?

修正が完了した瞬間は、Webサイトがアクセシビリティを満たしていると言えるでしょう。しかし、誰かが字幕のない動画や適切な代替テキストのない画像をアップロードした瞬間、法令違反になります。

アクセシビリティとは1つの状態を達成することではなく、心構えや文化に適応することです。公的機関が法令を順守するためには、目の前の問題を直すのではなく、長期にわたって考える必要があります。

方針を決めるだけでは十分ではない

もちろん多くの団体は前向きに考えています。長期的なアクセシビリティを確保するための方針を導入しています。具体的には、イギリス政府のガイドラインが推奨しているように、アクセシビリティに関する声明をまとめています。

しかし、いくら素晴らしい声明だとしでも、方針だけでは根底にある問題を修正できません。私の経験では、ほとんどの方針はオンライン上のどこかに掲載されたあと、忘れられてしまいます。それは、単にボックスにチェックを入れて次に進むようなものです。しかし、声明や方針だけではなにも解決できません。規制に違反したままで終わってしまいます。いくつかのボックスにチェックを入れたという事実に安心して、法律違反に気づかないでいるでしょう。

誤解のないように言うと、Webサイトのアクセシビリティの方針は必要で、次の段階に向かう前に整理する役割があります。ただし、そこで終わってはいけないのです。

私の考えでは、方針のほかに必要なものは3つあります。

アクセシビリティの問題を見つけるための手順

まず、アクセシビリティに関する問い合わせを収集し、回答するための手順が必要です。アクセシビリティに関する法律違反で起訴される現実を想像すれば、重要なことだとわかります。

公式の担当者がWebをくまなく探し回り、すべての公的資金で運営されているWebサイトが準拠しているかどうかをチェックして、体系的にレビューしているわけではありません。組織が規制に違反していることが判明するとしたら、コンテンツにアクセスしようとしてもできなかった不満をもったユーザーからの報告です。

そのようなユーザーの懸念に対処できなかった際には、事態は深刻化していきます。深刻な事態は、問い合わせに対処するための明確な手順がないために生じます。というのも、苦情の原因は、組織の区分けと合致しないことが多いからです。最終的に、これらの問題を解決するのは誰の責任なのでしょうか? コンテンツの制作者や、IT、Web、マーケティング部門、それとも障がい者コンプライアンスの責任者でしょうか?

この事例からもわかるように、アクセシビリティ違反の告発は突然起こるわけではありません。

どのように問題が大きくなっていったのか知ることができる事例は、過去に十分存在します。米百貨店のTargetはサイトのアクセシビリティの問題について全米盲人連盟から集団訴訟を起こされ、600万ドルかけてそれを修正しました。(ほかにもシドニー五輪など)。

以上を念頭に置くと、ユーザーが問題を報告したら、組織がそれらに対応して、ユーザーが進捗を確認できる仕組みを構築することは、非常に理に適っています。

コンテンツと制作者の合理化

公的機関が取り組むべき2つ目は、Webコンテンツとそれの制作に携われる人間を合理化することです。

長い間、公的機関は誰でもオンライン上にコンテンツを上げられる権利を認めてきました。その結果が途方もない数の時代遅れのページや訪問者のいないページです。このままではアクセシビリティの要件を完全に満たし続けるのは難しいでしょう。

皮肉にも、Webサイト全体をアクセシビリティに対応させる最善の策は、ページ数を劇的に減らすことです。削減することで、管理がしやすくなるからです。

加えて、コンテンツをオンライン上に投稿できる人間も大幅に減らす必要があります。Webサイトがアクセシビリティに対応できない最大の原因は、技術やコードではありません。アクセシビリティを念頭に置かずにつくった素材をアップロードする人間です。

コンテンツを投稿できる人数を減らすことで、デジタルに精通している専門家だけがアップロードできる状態を保つことができます。上司が頼んだら秘書がPDFをアップロードする時代は終わりにしましょう。

ページと人員の削減は、私が必要だと考える最後の取り組みにつながります。それは、デジタルやアクセシビリティの拡張によって組織のマインドセットを根本的に変える必要性です。

適切な教育を受けたデジタルの専門家

Web上に投稿する人間には、適切な教育が必要です。それも、一回限りの強制的なワークショップや、方針を読ませるだけの教育だけではありません。仕事をこなすための訓練とリソースを与えられ、Webにコンテンツを投稿する適切な資格を得る必要があります。

スタッフが参照できる自己学習の教材を用意しましょう。新しいスタッフはその教材を終わらせなければなりません。急速なイノベーションの最先端から遅れないための十分な教育費用と時間も必要です。

もっとも重要なことは、コンテンツを作成する人間は、その作業に多くの時間を割く必要があることです。数か月に1度の頻度でコンテンツを作成していたら、彼らはトレーニングをすべて忘れてしまいます。たくさんの業務と同じように、アクセシビリティに関して間違いをおかしてしまうでしょう。

当然ながら、これらの取り組みは口で言うほど簡単ではありません。デジタルチームは長年Webサイトの集権化や投資額の増加、合理化について議論してきました。しかし、もしかしたら今が、根本的に状況が変わる瞬間かもしれません。

アクセシビリティを根本的に考え直す

差し迫るアクセシビリティの規制によって、公共機関はWebサイトの在り方を合理化し、働き方を根本的に変革するという特別な機会を得たのです。アクセシビリティは組織が将来デジタルに対応していく方法を根本的に再考する素晴らしい機会となるでしょう。

もちろん、監査をして目の前の問題を解決しなければなりません。ただ、そこで止まらないでください。戦略を組み合わせて、オンライン上に投稿する担当者を専門家に育てる教育プログラムを作成しましょう。


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