ユーザーに切迫感を感じさせることで行動を促すことができますが、一方でユーザーをイライラさせたり、遠ざけてしまう可能性もあります。しかし、正しいアプローチによってユーザーに行動を促すことは可能です。
コンバージョン率の最適化のために私が取り組むことは、短期的な利益だけではなく長期的にみたコンバージョンにもフォーカスしています。短期的には効果があるかもしれないけれどユーザーに疎まれる可能性があったり、リピート購入の妨げやネガティブなフィードバックをもたらすテクニックは避けます。
つまり、単に行動を促すためだけに切迫感を出すようなテクニックは避けるということです。
「数量限定」や「限定商品」といった文句で、「いますぐ」に購入しなければいけないかのようなプレッシャーを与えてくるWebサイトを訪問したことが誰しもあるでしょう。このテクニックは有効ですが、ユーザーの信用を損なう危険があり、評判を傷をつける可能性がある手法と言えます。
企業がこのような手段を取るのは、ユーザーがすぐに行動を起こさない場合、その先も行動が起きない可能性が高いことを知っているからです。検討時間が長くなるほど意義を唱えるようになり、脳の原始的な部分が損失を回避したがるのです。
しかし、切迫感を出すということは単に人々に行動を促すだけでなく、彼らの最終的な決定に満足感をもたせるためでもあります。
ダークパターンに関する記事で話したように、私が(エシカルな配慮以外に)小細工を施すことを避ける主な理由は、購入後の後悔につながるからです。しかし、人々が後悔に苦しむ理由は小細工だけではありません。決定までに時間をかけるほど、購入後に後悔する可能性が高まります。決定に至るまでに考え過ぎてしまうことが、不安や後悔につながるのです。
似通った選択肢がいくつもある場合は、特にこれが当てはまります。各選択肢の違いを探そうとして過剰に分析・批評し、挙句の果てにどの選択肢にも満足できなくなるのです。しかし、選択に悩む時間がなければ、優柔不断とネガティブな感情のループに陥ることはないのです。
つまり、コンバージョン率とユーザーの心理的平穏の両方のために、即断を促すのが理想と言えます。それでは、ユーザーに疎まれたり、プレッシャーを感じさせることなく切迫感を出すにはどうすればよいのでしょうか?
私たちがよい意識をもつことだけでは十分ではありません。利益のために焦らせているのだとユーザーが受け止めた場合、抵抗や怒りを買います。ユーザーがこちらの意図をよいものだと信じなければいけないのです。
ユーザーの信頼を得るためには、彼らに準備が整う前に決定させるために切迫感を与えているわけではないことを明確にします。そこで、私は決まって次の3つのアプローチを同時に取ります。
- 誠実で一貫したアプローチを取る
- 決定したあとに変更ができる余地を残す
- ためらう必要もないほど選択を明確にする
それでは、誠実さと一貫性から説明しましょう。
ユーザーに誠実さと一貫性を示す
ユーザーに行動を起こさせるテクニックの問題点は、嘘をついていることにあります。ユーザーは嘘を鵜呑みにするほど愚かではありません。
割引価格の期間をカウントダウンするカウンターが設置されているWebサイトを見つけたとして、別の機会にもう一度訪問したとき、カウンターと価格は間違いなくそのままでしょう。
こういったトリックは、繰り返し「タイムセール」を実施しているようなネット小売店がWeb上に登場する以前から存在していました。
消費者はこれらの時間制限が嘘だと知っています。たしかに潜在意識的には影響を与えますが、同時にこれらは彼らを苛立たせ、購入後の後悔を避けるための必須要素である信頼を失わせてしまいます。
切迫感を出すのであれば、誠実で一貫した限定販売の形をとらなければなりません。
つまり、もし期間限定のセールを打つのであれば、実際に時間を守らなければいけないということです。
例として、Paul Jarvis氏を引用しましょう。彼はMailchimpの使用についてとフリーランスについてのオンラインコースを提供していますが、開講は年に2回、1週間のみです。彼はそのことをWebサイト上で明確に謳っており、そのスケジュールに忠実です。
それ以外の期間は、コースが開講した際に割引を受けられるウェイティングリストに登録することができ、Jarvis氏はそれが自身が提供する最大額の割引であることを約束しています。
この明確で誠実なアプローチにこだわることで、彼はとてもよい収入を得ています。彼は、コースに申し込みできるめったにない状況において、限定性は人々の行動を焚きつけることを発見しました。しかし、これはその限定性が事実である場合に限ります。
とはいえ、誠実さと一貫性はストーリーの一部でしかありません。たとえWebサイトのカウンターが本物だったり、セールが本当に限定のものだとしても、懐疑的なユーザーはそう受け取らないかもしれません。より強く誠意を伝える必要があるならば、ユーザーに考え直すチャンスを与えることです。
ユーザーに考え直すチャンスを与える
人々はオンライン上では懐疑的になります。そして、その懐疑心はダークパターンを使う限り大きくなる一方のようです。つまり、即決を促す手法を使う場合、ユーザーを騙してあとで後悔するような決定をさせようしているわけではないことを証明しなければなりません。
そのためのベストな方法は、決定を取り消すオプションを与えることです。どのような行動をユーザーにとってほしいのかによって、「取り消し」の方法は変わります。
メルマガに登録させたい場合は、配信停止の簡単さを訴求すれば安心でしょう。オンライン購入の場合は、返品を簡易にすることが効果的です。
このアプローチはユーザーのリスク意識を弱めますが、重要なことは、選択肢を吟味する時間を与えずに決定させようとしているわけではない、ということをユーザーに示すことです。
取り消しのオプションは、その決定をより明白に感じさせる効果もあります。「考えるまでもないこと」だと思わせるのです。このように、答えを明白にすることで、ユーザーは決断を急かされていると感じないのです。
答えを明白にする
ダイヤモンドのネックレスか、5,000ポンド、どちらが欲しいか5秒以内に選べと言われたら非常に頭を悩ませるでしょう。なぜなら、そのネックレスが5,000ポンドより価値があるのかどうかを時間内に判断することは難しいからです。
しかし、100ポンドか5,000ポンドかを選ぶために5秒間を与えられたら、そんなに時間は必要ないと感じるでしょう。
つまり、どれを選択するか明白であればあるほど、切迫感が出たWebサイトから感じるプレッシャーは少ないということです。答えを単純にすることで、ユーザーは気負わず、疑わず、購入後の後悔に苦しむことも少ないようです。
答えを明白にする一つの方法は、少し前に触れた「オプトアウト」を提示することです。ただし、それが唯一の方法ではありません。
競合と比較してリスク意識を減らすことで答えを明白にすることもできます。たとえば冷凍食品販売業のWiltshire Farm Foodsは、配達運転手は全員警察のチェックを受けていることを保証し、見知らぬ人が家に来ることへの不安を年配者から取り除くことで、繁華街のスーパーマーケットと差別化を図っています。
さまざまな選択肢のあいだでも差別化はできます。たとえば、提供するプロダクトやサービスが多すぎてユーザーが選択肢に圧倒されることはよくありますが、そうではなく、選択肢をシンプルにする必要があります。そうすればユーザーが決定する際に感じる焦りは解消されます。
Steve Jobs氏が1997年にAppleに戻ったとき、まさにこの問題を抱えていました。選択肢が多すぎて消費者が参っていたのです。
Jobs氏はプロダクトのラインナップを4つに絞ることで、この問題に対処しました。2種の消費者(一般消費者とプロフェッショナル)に向けた、ノートパソコンとデスクトップです。これにより、購入する際「考えるまでもなく」商品を選べるようになったのです。
切迫感を出すときは、正しい方法で
切迫感を出すことは、本質的には間違ってはいないことがおわかりいただけたでしょうか。ユーザーが急かされたりプレッシャーだと感じることがなければ、より満足してもらえるアプローチと言えます。
悪い印象をもたれることを避けるためには、誠実で一貫したアプローチを適用し、あくどいマーケティング策略ではないのだと安心させる必要があります。簡単に取り消しができる方法を提示し、最小限の労力で済むように可能な限り答えを明白にします。
これらすべてを満たすことができれば、ユーザーに即断を促し、選択麻痺状態や購入後の後悔を避けることができるのです。