デザイン思考を妨げるものとは

Jay Melone

New Haircutのパートナーです。Prudential、Home Depot、Rosetta Stoneといった企業がチームやビジネスとしてデザイン思考の価値を見出す支援をしました。

この記事はBoxes & Arrowsからの翻訳転載です。配信元または著者の許可を得て配信しています。

Somewhere Between Vulnerability and Design Thinking

これはデザイン思考のようなフレームワークによってイノベーションを起こそうとするチームにとって、心理的安全性がどれだけ重要なのかを発見した私の経験にまつわる話です。

私は今まで寝そべっていたジムのエクササイズマットから起き上がりました。そしてジャケットやウォーターボトル、電話を置いてある窓に駆け寄り、焦って携帯をアンロックし、オーディオブックの巻き戻しボタンを押しました。『Dare to Lead』の最後のパートをもう一度聴くためです。

筆者のBrené Brown氏は彼女がコンサルティングするチームに最初に伝える考えを書き記していました。

「手に負えないような難題とイノベーションへの渇望が渦巻く、複雑で変化の激しい現在の市場で成功するために、もし現在リーダーたちがチームを率いている手法を変えなければならないとしたら、どう変えるべきでしょうか?この質問は複雑ですが、繰り返し言われてきた答えがひとつあります。それは、より勇敢なリーダーと企業文化が必要ということです。」

鳥肌が立ちました。

過去数年間「次は何がヒットする?」という答えのない問いに取り組む、企業のイノベーションを起こそうとするチームを支援するなか、多くのチームがGoogleのデザインスプリントのような新しいツールをものにするために私を呼び寄せました。彼らは迫りくる競争に負けないための化学反応が起きることを期待し願っていたのです。

しかし、数々のチームがワークショップを重ねては、同じことの繰り返しをしました。部屋いっぱいの(一時的に)活力に満ちた受講生たちは、セッションの最後にはそれが使い古されたコンセプトのただの派生形であったことに気付き、将来への希望がすり減った状態でスタート地点に立ち返るのです。

私は再度、先ほどの引用に巻き戻しました。「より勇敢なリーダーと企業文化」。私の中ですべてが明確になり、刺激的な思考と恐ろしい思考が同時に生まれました。

  1. 刺激的な思考:Brenéの不安感についての考え方と私のデザイン思考についての考え方を組み合わせると、人々に満足感を与え、企業に真のイノベーションをもたらすものができるのでないかはという思考。
  2. 恐ろしい思考:私はこの仕事をするに値しないのではないか。もし値するにしても、ビジネスの世界に生きる人々はビジネスの成果しか気に留めないのではないかという思考。

私の自分自身に対する批判が暴走しそうになった時、Brenéはその批判を黙らせるMarcus Aurelius氏の完璧な格言を引用しました。

「道に立ちはだかるものこそが道となる。」

また鳥肌が立ちました。何としてもこのアイデアをものにしなければと思いました。

記憶にある限りで初めて、私はトレーニングを短く切り上げて急いでジムを後にしました。駐車場の車に乗り込み、湧き上がってくるままにアイデアや言葉、図をメモに書きなぐりました。

私は3年間、Brenéのリサーチを少しずつと私の手法と掛け合わせていましたが、この日初めて私と彼女の世界が繋がっていることを実感しました。

Brenéの考え方なくして、イノベーションを起こそうとするチームが互いに責任を持ち信頼しあうリーダーを生む文化を作れないかもしれません。

そして私の考え方なくして、斬新なリーダーシップと信頼を追い求めるチームがイノベーションを起こし、協働する方法を見つけられないかもしれないのです。

職場に潜む恐怖心

私は何年もの間、商品やサービスを生み出す新しくてより良い方法を実行しようとするも、大企業の文化に妨げられ、それに抗うたくさんの勇気ある人々に出会いました。

私は最近、会社を3タイプに分けるRon Westrum氏の3つのカルチャーモデルというものを知りました。

  • 病的文化:力のある人たちから失敗のレッテルを貼られることを恐れ、恐怖と不安からうなだれて責任回避している状態。
  • 官僚的文化:自主性や信頼、多少の斬新なアイデアも出るが、チームや部署内に留まる。会社レベルで言うと、数人の権力者により作られたルールに従って物事が動いている状態。
  • 生産的文化:従業員への信頼が明らかであり、彼らはクリエイティブで斬新な考えを持つだけでなく、自分たちが自然にベストなパフォーマンスを発揮できるアイデアを支持する状態。そのパフォーマンスが次の世代を刺激し、大きなアイデアが花開くという好循環。

ここで悪い知らせですが、会社員である私たちのほとんどが病的か官僚的な組織で働いています。さらに悪いことに、変わる必要のある企業ほど、変化が脅威とみなされていることです。

その結果が、会社のビジョンやお互いを信頼しようとしないチームなのです。権力がパフォーマンスを奪い、クリエイティブな考えは失敗への恐怖で押し潰されてしまうのです。

それらすべてを乗り越えるには尋常でない勇気が必要です。内定を承諾し、就職を決めるとき以上の勇気です。

ですから、多くの人は嵐に立ち向かうよりも逃げたり隠れたりすることを選びます。勇気よりも安全を取ります。それが人間らしいふるまいというものです。

デザインスプリントと不信感

私はデザインスプリントのようなツールを用いたイノベーションでどのように成功を掴むかを教えてきましたが、たとえタイミングやマーケットの状態、手法が完璧であっても、すべての文化がイノベーションを起こす準備が出来ているわけではないという事実に気付くのに数年かかりました。

私がこの数年で学んできたことは、デザインスプリントによる成功を活かすも殺すもその組織の人間次第ということです。もうひとつ学んだことは、ほとんどの組織にはすぐにでも新しいことに挑戦する準備が出来ている人が一握りしかいないということです。イノベーターやアーリーアダプターと呼ばれる人たちですが、私の経験では典型的なチームで16%ほどしかいません。それ以外は、変化が必要だという事実や特定のツール・手法が進むべき道だと気付くのに遅れを取ります。アーリーマジョリティー(全体の約1/3)はデザインスプリントのような新しいツールや手法に徐々に興味を示し、受け入れます。残りの半分がレイトマジョリティーやラガード(遅滞層)です。

チームの変わろうとする意志と彼らが求めるクリエイティブな成果の間の関係を述べる前に、私のデザインスプリント自体は極めて平凡だと言っておきましょう。

初期の私のチーム支援は、大体以下のようなものでした。

  • 私のやり方に従い、チームの働き方をリセットする覚悟のできているデザイン/プロダクトリーダーがデザインスプリントを実施するべく私に支援を求める。
  • 彼らのビジネスケース/問題点/リサーチ/専門性をベースに、どの程度スプリントに向け準備が出来ているのかを評価する。
  • デザインスプリントのトレーニングセッションでプロセスやツールを伝える。(控えめに言っても)チームはセッションを楽しみ、団結し、フレームワークを手放しで受け入れる。
  • トレーニングの成功をもって、プロブレムフレーミングのワークショップと実際のビジネスにおいてのデザインスプリントに移る。
  • スプリントの最中、導き出されたソリューションが昔からある考えだと分かり、興奮が消え去る。トレーニングの最中に見せた(生産的文化の特徴である)楽しさと陽気な気分は(病的文化の)恐れとエゴとパワーに置き換わる。たとえば、マーケティング・バイスプレジデントが若いエンジニアのとっぴなアイデアに対し、「私たちの顧客からそんな要望が出たことはない。時間を無駄にするのはよそう」と言って黙らせるといった具合に。
  • コアメンバーは全体的なプロセスを気に入るが、物足りなさを感じ、結局は既存のツールという安全パイを取る。
  • その結果、(私に支援を求めてきたリーダーの)リーダーシップは押し潰される。
  • 最初のスプリントで期待していたROI(すぐにでも販売開始できるようなプロトタイプ)が出てこなかったことによるアウトカムバイアスの影響で、その後の多くのデザインスプリントは否定される。

何が起こったのでしょうか?

道に立ちはだかるものこそが道となる。

素晴らしいデザインとイノベーションに立ちはだかる障壁とは、失敗しても大丈夫だと感じられる心理的安全性を作るため、信頼を築きコミュニケーションを正し、力関係を均等にする努力です。それらを実現できて初めて、デザインスプリントのような新しいツールや手法を取り入れることが出来るのです。

言い換えるなら、文化のトランスフォーメーションなくしてデジタルトランスフォーメーションは起こりえないということです。

かつてMichelle PooleコーチがMarcus Aurelius氏を引用して私に言ったように、「私たち自身を変えずして行動することはできない」ということです。

心理的安全性をデザインスプリントに組み込む

病的な文化から生産的な文化へ一足飛びに変わることはできませんが、辛抱強く取り組めるのであれば、起こすべき変化自体は小さくてすみます。

デザインスプリントを実践しようと浮足立っている誰もが、どうして安全性や勇気、恥、責任なんかの話をするのだろうと思っているでしょう。

私がこの取り組みを始めて3年になりますが、やっと分かってきたことがあります。たとえば最近、Googleが「成果を出すチームを構成するものとは?」との問いに答えを出すべく始めたアリストテレスプロジェクトを通して、心理的安全性について知りました。

そして多くの調査や実験を経た今、私がコンサルティングをしたチームは、まずは焦らずに信頼を築くということを受け入れ始めています。

執行役員の不安

デザインスプリントはほとんどの人にとって目新しいだけでなく、ハードルも高いものです。スプリントに参加する人は、彼らのアイデアが批判されるのではないかと、不安を感じています。そのため、冷笑されることを恐れ、アイデアを胸の内に留めておきがちです。

私は最近、次世代のヘルスケア商品を開発するために助けを求めてきた病的文化の組織の支援をしました。

ミーティングに向けて準備をしている中、カスタマーエクスペリエンスのグローバル部門トップであるDariaが忠告して来ました

「前もって伝えておきたいのだけど、私のチームから参加するメンバーはあまり積極的に議論に参加しないと思います。」

少なくとも彼女にも一部責任があるのだろうと推測しながら、「どうしてそう思うのですか?」と聞きました。Dariaは「わかりません、そういう文化なのだと思います。」と答えました。

チームがDariaやお互いを信頼できないのでは、彼らの商品は彼らが望んでいるような(そして市場が求めているような)インパクトをもたらことはできません。

彼らがこの問題と向き合い克服するために、課題を突きつけることは部外者としてはそう難しいことではありませんでした。

ミーティングのなかで、Brenéの心理的安全性の作り方についての簡単な紹介をしたあと、(彼女の使う手法のひとつを利用し)私は各々が以下の2文を完成させるように言いました。

私は不安(または恥)とは___だと信じて来た。

心理的に安全だと感じるために、私は___が必要だ。

チームメンバーのほとんどが数秒の間、私とポストイットを交互に眺めていました。やがてそのタスクを受け入れると、ポストイットに書き始めました。何か書いては捨てたり、周りの様子を見てまた書き始めたりしていました。

やがて、Dariaが一番初めに立ち上がりました。

一見病的文化のものに見える彼女のリーダーシップから考えて、私は彼女の発表が、モチベーションを下げるものか、横柄なものか、人を見下すものか、またはその全てなのではないかと警戒していました。しかし、グループと私はその警戒に反して驚かされたのです。

彼女は2枚のポストイットをホワイトボードに貼り、咳払いをし、注目するメンバーに対して彼女の考えを共有しました。

「不安とは、他人が私につけこむための入り口だと信じて来た。心理的に安全だと感じるために、信頼を得る必要がある。そのために私はまず相手を信頼する。」

誰かが静寂を破るまでそのままにしておこうと、私は黙っていました。

目を周囲のメンバーに移ろわせながら、Mariusが次は自分だと立ち上がりました。彼はホワイトボードに向かいながら、「えーと…Daria…予想外だったよ。共有してくれてありがとう。」と言いました。

一人ずつ、残りのメンバーも考えを共有していきました。最後の一人の発表が終わると、彼らは一斉にお互いを称えあいました。部屋は笑顔で溢れました。チームから離れるように座っていたメンバーが2名いましたが、彼らも他のメンバーの近くに移動しました。

部屋のエネルギーが変わるのを感じられました。

「さあ、」私は言いました。「デザインスプリントについて話す準備ができましたね。」

まとめ

この仕事を通して私が最も影響を受けたことは、団結と信頼が損なわれた状態を治療する方法は、共感を作り上げることであるというシンプルな気付きでした。ニーズに適した商品やサービスを生み出すために、私たちがユーザーと築こうとする共感と同じものです。

私自身も、より良い商品やサービスをより早く生み出すためにデザインスプリントに足を踏み入れました。その目標は今でも変わりません。

しかし、多くのスプリント、チーム、リーダーと接するたび、みな同じように恐怖や不信感、団結力のなさを感じており、素晴らしいチームになることを妨げていました。

彼らが協力して、(恐ろしく、無様で感傷的な)人間らしい感情を乗り越えられたとき、ビジネスにおける成果が生まれるのです。私のコーチであるHelge Hellberg氏がかつて教えてくれたように、

「居心地の悪さは意義のある人生への通行料」なのです。


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