あまりに多くの人が、市場に需要があるかのテストもせずにSaaS(Software as a Service)プラットフォームの開発を始めてしまいます。しかし幸運なことに、成功見込みをテストする方法があります。
あちこちのWebデザイナーや開発者が、素晴らしいSaaSプラットフォームの開発を夢見ています。本業を辞めたり、腹立たしいクライアントとの契約を切れるようになることを夢見ているのです。
しかし、SaaSプラットフォームの開発は大変な心労や時間の浪費、そして多大な経済的損失につながりかねません。私を信用してください、なぜなら私は経験があるのですから。
SaaSの悪夢
私がWebデザインの代理店を経営していたとき、よくSaaSアプリケーションのローンチを空想していました。もう少し安定した不労所得を得ることや、ひどいクライアントの依頼を断ったり、働く相手を選べるようになるという考えが気に入っていたのです。
そしてとうとう2008年に、webデザイナーがデザインコンセプトの承認を取得する助けになるツールを開発することにしました。ブループリントの作成からデザイン、開発へと素早く移行しました。
クライアントの仕事の合間を縫っての作業でしたので、初期の開発進行はゆっくりとしたものでした。やがて、プラットフォーム開発だけのために人を雇いました。しかし、2年間の必死の努力にもかかわらず、このアイデアは失敗に終わりました。何百時間の労力と£50,000以上の大金を無駄にしたのです。
あなたがこれを読んでいるということは、かつての私たちのようにSaaSプラットフォームのアイデアをもっているのかもしれません。そして、かつての私たちのようにいまにも開発を始める段階なのかもしれません(もしまだ始めていないのであれば、ですが)。
そしていま、自身の挫折を踏まえ、私がSaaSは想像以上に難しいからと止めるつもりなのだろうと考えているでしょう。しかし、それは私の目的ではありません。
私のSaaS開発失敗から学ぶ
私が提案したいのは、私たちの大きな失敗から学んでほしいということです。私たちは市場のテストに失敗しました。必要不可欠なツールだと考えていたアイデアが、お金を払ってまで欲しい人がいるものではなかったのです。
私たちは優秀なWebデザイナーではありましたが、マーケティングやSaaSプラットフォームを販売するためにまずすべきことを知らなかったことに気付きました。どうやって売り出すかも考える前に、プラットフォームを完成させてしまったのです。
だから、あなたには一旦冷静になることをおすすめします。SaaSプラットフォームの開発を置いておいて、まずはマーケティングや販売手法について考えましょう。どのくらいの需要があり、いくらなら払ってもらえるかも見えてくるでしょう。
それは、疑似マーケティングキャンペーンを打つことによって可能になります。
疑似マーケティングキャンペーンでアイデアを検証する
先述の大失敗以来、私はたくさんのWeb代理店を指導してきましたが、その多くが同じような野心をもっていました。長年をかけて、SaaSプラットフォームのアイデアが想像しているほどよいものなのかどうか確認するためのシンプルなテクニックを編み出しました。
それはランディングページの制作から始まります。
1.ランディングページの制作
プラットフォーム自体の開発の代わりに、見込み顧客にプラットフォームを販売するページの作成から始めます。実際の販売ページのように、以下のような情報を網羅します。
- セールス動画
- 機能
- キャッチコピー
- 価格
- スクリーンショット(もちろんモックアップ)
もっとも大事なことは、アプリケーションの購入のためのCTA(コールトゥアクション)をページに設置することです。もしフリーミアム(基本機能は無料で利用でき、アップグレードは有料となるビジネスモデル)を考えているのであれば、フリーアカウントへのサインアップ用CTAにするのがよいでしょう。
ユーザーがCTAをクリックしたら、「商品のローンチは間もなくで、いまなら特別ディスカウントの提供リストに登録ができる」という旨を説明したオーバーレイを表示させましょう。
ただし、CTAをクリックするまでは、そのSaaSアプリケーションがまだ存在しないことは伏せておきます。
ランディングページのポイントは、あなたの考えるSaaSプラットフォームの説明によって、ユーザーがアクションを起こすのかを観察するところにあります。もしクリックされなければ、コンセプトの訴求を向上させるか、需要がないという判断になります。どちらにしろ、まだ開発を始める段階ではないでしょう。
もちろん、CTAのクリックによってユーザーに支払いは発生しません。また、リストに登録されたメールアドレスに対しての建設的な施策を考えければなりません。
そこで次のステップは、リスト登録者へ送るメールの作成です。
2.メールシリーズの作成
いくらかの見込み顧客が手に入ったら、次は彼らの見込み度合いを確認しなければいけません。本当にお金を払うつもりはあるのでしょうか?
それをテストするために、リストに登録してから5日間で5通のメールを送ります。
- 1日目:ユーザーにアプリケーションの正確な機能を伝えます。
- 2日目:サービスのメリットに絞って伝え、翌日にディスカウントを提供する旨を記載します。
- 3日目:いま事前予約をすることで、その後の月額料金が半額になるというオファーを出します。また、初月料金は前払いだと伝えます。
- 4日目:半額オファーを受ける最後のチャンスだと伝えます。
- 5日目:アンケートをお願いします。詳しくはこの後解説します。
もっとも大切なのは3日目です。初月利用料を前払いしてでも事前予約をしたい人がいるのかがわかるのです。半額のディスカウントは、商品がまだ手に入らないことを相殺するには十分に魅力的なはずです。
予約をする・しないに関わらず、5日目には状況を詳しく知るためにアンケートを送ります。
3.3つのアンケートを設定
大まかに言って、この実験ではユーザーを3つのカテゴリに分けられます。
- Webサイトに訪問するが、CTAはクリックしない
- CTAをクリックし、メーリングリストに登録する
- 事前予約をして実際に支払いをする
CTAをクリックするがメーリングリストには登録しないという4番目のグループもいますが、メーリングリストは実際のローンチの際には存在しないステップのため、そこまで気に掛けなくても問題ありません。
それぞれのグループについて、その決断をよく理解する必要があります。そのために、3つのアンケートを用意します。
まず、サイトに訪問したがアクションを起こさなかったグループの意見を、離脱意図アンケートによって把握します。このアンケートではひとつだけ質問をします。
「どうして本日サインアップしなかったのか、ぜひお聞かせください。」
そして選択肢を提示し、該当しない場合のため自由記載欄も用意します。典型的な選択肢は以下のようになることが多いです。
- 価格が高すぎる
- やりたいことが実現できない
- コンセプトを理解できない
- Webサイトが信頼できない
- すでに多くのサービスにお金をかけているから
- その他
ほかに関連すると思われる選択肢を追加しても問題ありません。
次に、メーリングリストに登録したが事前予約をしなかったグループの理由を理解するためのアンケートです。
このアンケートは、事前予約をしなかった人に送る5日目のメールに含めてもよいでしょう。先ほどと同様、ひとつの質問と選択肢を提示するアンケートです。
「事前予約をしなかった理由をぜひお聞かせください。」
選択肢は以下のようになります。
- 事前予約はしないことにしている
- 実際に販売されるか分からない
- 事前予約の割には価格が高すぎる
- 金額に見合うサービスだと思えない
- やりたいことが実現できない不安があった
- その他
事前予約をした人が5日目に受け取るメールはほんの少し異なります。
「事前予約に関して不安はありましたでしょうか?」
選択肢は以下のようなものが含まれるでしょう。
- 事前予約が好きではない
- 実際に販売されるのか不安だった
- 事前予約の割には価格が高いと感じた
- 金額が見合っていないと感じた
- やりたいことが実現できないのではと思った
- その他
行動を起こさない原因になったかもしれない点を把握することは重要です。なぜなら、他の誰かは同じ理由で購入をやめるかもしれないからです。
これらの準備が全て整ったら、あとはランディングページへの誘導だけです。
4.ランディングページへの誘導と計測
あなたは、新しいランディングページへの誘導方法に迷っているかもしれません。この問題は、疑似キャンペーンをする・しないに関わらず必ず直面する問題です。
疑似キャンペーンを実施することで、どうやってSaaSプラットフォームをプロモーションするのか、開発前から考えざるをえなくなります。
もしあなたがSaaSプラットフォーム開発時の私と似ているとしたら、マーケティングよりも開発に大きな自信があるでしょう。それならば、商品の開発に多額の資金と人的リソースを投入した後でこの弱点に向き合うよりも、いま向き合う方がよほど理にかなっていると言えるでしょう。
あなたのSaaSプラットフォームのマーケティングに踏み込むつもりはありません。それは開発した本人の役割です。ただ、できるだけ多くの人を誘導したら、その結果によく注目してみてください。
特に注意して見たいのは、ディスカウントにより事前予約ページまで進んだ人のパーセンテージです。それがコンバージョン率の概算と言えるでしょう。このコンバージョン率で利益は発生するでしょうか?
ランディングページへの誘導の難易度にも注目したいです。いくらコストがかかり、どの程度時間がかかったでしょう?実際に商品をローンチした場合、継続可能でしょうか?難しい場合、もっと安くて労力のかからない誘導方法を見つける必要があるでしょう。
最後に、なぜ事前予約されなかったのかも理解しておきましょう。アンケート結果から確認ができます。ランディングページやマーケティング手法の改善点がわかるでしょう。
以上のような方法で、あなたのビジネスアイデアが成立するかどうかをテストできることが理解いただけたでしょうか。
もしそれでも趣味の一貫としてのプロジェクトでSaaSプラットフォームを開発したいというのであれば、ご自由にどうぞ。ただ、テストをしないでそのビジネスアイデアが成立すると勘違いしないことです。
当然、私の方法があなたのアイデアの唯一のテスト方法ではありません。クラウドファンディングのような他のアプローチもあります。しかし、それらは必ずしも長期的な成功見込みをリアルに反映したものではありません。
なぜクラウドファンディングではだめなのか
誤解がないように言いますと、私はクラウドファンディングキャンペーンのアイデア自体は好きです。疑う余地もなく、KickstarterやIndiegogoといったサイトはアイデアへの需要を測れるだけでなく、制作費用を確保するのに素晴らしい方法です。
しかし、こういったサイトはよいアイデアに対してリスクを取ることを恐れないタイプの人たちが集まります。それは必ずしもより広いマーケットを反映しているわけではありません。
また、クラウドファンディングは特別SaaSに向いているというわけではありません。サブスクリプションというよりは単発支払いのサービスにフォーカスしているからです。
そうは言うものの、クラウドファンディングは有効な代替案です。重要なことは、投資対効果を期待してSaaSプラットフォームの開発にお金と時間を費やす前に、本当にうまくいくのかをテストする必要があるだろうということです。