行動変容デザインという魔法

Meredith Meller

Meredithは簡単で視覚的に魅力あるインターフェイスの開発に情熱を注ぐUXデザイナー。

この記事はThe UX Boothからの翻訳転載です。配信元または著者の許可を得て配信しています。

A Kind of Magic: Behavior Change Design

ユーザーの生活をより良い方向へ導く行動変容プロダクト(ダイエットアプリや禁煙アプリ等)のデザインに、心理学がどう影響するかについて気になりませんか?私は先日、『Engaged: Designing for Behavior Change』の著者であり、心理学とプロダクトデザインの組み合わせに魅了され、「魔法」と呼んでいるAmy Bucher博士とご一緒する機会がありました。

彼女は「応用心理学において、今が非常に面白いときです」と言っていました。Amyは業界のパイオニアです。2006年に大学院を出ましたが、最初の職探しにおいて肩書きは気にしていませんでした。その代わり、会社が求めるものと彼女自身のスキルを結び付け、行動変容を促進するツールキットを生み出して独自の道を進み始めました。

彼女は早くから行動変容に関する研究をプロダクトデザインに応用することの価値を理解していました。彼女は就職サイトにて、「これまで以上に、各企業はその2つを結び付けたがっている」という記載を見つけ、行動変容研究がプロダクトデザインに及ぼすポジティブな影響について、多くの企業が気付き始めたのだと分かりました。現在では、彼女がキャリアをスタートさせたときにはなかったこの分野に関する肩書きが溢れています。

Amyは業界のリソース不足を感じ、他の社会学者やプロダクトマネージャー、リサーチャー、デザイナー、もしくは行動変容学を自身の仕事に応用しようとするすべての人にその魔法をシェアするために、『Engaged: Designing for Behavior Change』を著しました。

この本から学べることとは?

デザインを支援するツールとして、どのように心理学を使えばよいのでしょうか?『Engaged〜』は、行動変容プロダクトが効果をあげる可能性を大きく引き上げる方法が分かる素晴らしい本です。この本を通して、行動変容デザインやモチベーションの自己決定論を始めとする数々のコンセプトに触れることができます。

なぜ心理学とデザインは相性が良いのかや、プロダクトが望む成果に近づいているかを確かめるための評価軸・観測方法を学べます。また、効果的な評価戦略のために、プロダクトの開発初期に種を蒔いておくことの重要性についても語っています。私との会話の最中、彼女は「組織にとってコストの節約にもなります」と語っていました。もし評価ツールを持たずにマーケットに参入するかどうか悩んでいるのであれば、この本を通してその有用性が理解できるでしょう。

デジタルデザインにおいてユーザーの自主性を尊重することは、特に重要です。「Down Dog」というカスタマイズ可能なヨガアプリを例に取りましょう。私たちの会話の冒頭、Amyはお気に入りのエクササイズアプリは何かと尋ね、私はすぐにDown Dogのカスタマイズ機能について語り始めました。

すると彼女は「商品はユーザーにフィットしていなければなりません」と言いました。「カスタマイズ機能により自身で作り変えできるようにすることで、Down Dogはユーザーのニーズを満たすことに成功したのですね」と、彼女は私がアプリを気に入った理由を即座に暴きました。ユーザーは商品を使う中で、意味のある選択ができなければいけません。Amyは人間の意思決定プロセスについて深く入り込み、なぜ人は意思決定が苦手なのか、なぜデザイナーの中に(将来的には商品にネガティブな影響を及ぼしかねないとしても)意図的にそこを悪用する者がいるのかについても語っています。

Netflixを見たことがある人は、何を見ようか決めかねているうちに気付けば1時間が経っていたという経験があることでしょう。なぜ決断とはこんなにも難しいのでしょうか? 選択肢を与えすぎると、人は集中力がなくなっていきます。人間の脳は選択疲れを起こしてしまうのです。選択疲れの裏にある心理を学び、どうやってユーザーに意思決定をするための力をつけるかを学びましょう。私が衝撃を受けたのは、「戦略的に鍛えると、人の意思決定力は筋肉と同じように段々強くなっていく」ということです。デジタルプロダクトによって、ユーザーの決断力を高めることもできるのです。

人々の行動変容を促進するためのデジタルプロダクトは数多く存在します。たとえば、よい睡眠、定期的な運動、ダイエット、禁煙といった行動を促進するものです。ですが、失敗するものもあれば、大きなブームを巻き起こすWeight WatchersやNoom(いずれも行動変容によって健康的なダイエットを促すアプリ)のようなものもあるのはなぜでしょう?

失敗に終わった商品は、ユーザーの能力を妨げたり後押ししたりする「ブロッカー」や「ブースター」について理解を促すための仕組みを組み込んでいなかったことが考えられます。『Engaged〜』では、リサーチで判明した事実をプロダクトの機能に生かし、ユーザーが障害を乗り越える助けとする方法について説明しています。行動変容を促すデザインとは、単なる商品の枠を超えて、ユーザーとその周りの環境を真の意味で理解しなければいけないのです。

作業に没頭するあまり、気付けば時間が過ぎていたということはありませんか? Amyは、このような「フロー」状態にあると脳はより生産的になる理由を説明しています。そしてさらにもう一歩踏み込み、ユーザーをフロー状態に導くデザインの助けになるアクションアイテムを提供しています。ユーザーとプロダクトの成功確率を上げるためのマイルストーンの設定の仕方や有効なフィードバックを提供する方法を学ぶことができます。

社会性は行動変容デザインにおいて非常に重要な要素であり、この本でも「Design for Connection」チャプターを丸々使って説明しています。自分のことを内向的という人もいれば外交的という人もいますが、人の脳は結局社会的なつながりを求めるようにできています。そのため、ユーザーを社会的にサポートするデザインについて学び、どのようにデジタルの領域で実現できるかを考えることが重要です。たとえば、チャットボットの性格はどうあるべきでしょう? そもそも人はチャットボットを信用するのでしょうか? その答えを知ると驚くと思います。

もしかすると、女性の電子ボイスに恋をした男性のストーリーである『Her』という映画を連想する人もいるかもしれません。Amyは、非常に実用的な手段によりデジタルプロダクトが人々の関係を取り持ったり、さまざまなプロダクトがユーザーの信頼を勝ち得ていることについて解説しています。ユーザーに信頼される商品のデザイン方法について、そのコツや裏技を学ぶことができるでしょう。

『Engaged〜』は組織や仕事に行動変容デザインを「もっとも早くもっとも効果的に」応用するためのコツで締め括られています。初心者向けに目標のリストを提供し、「よき魔法使い」になるための行動変容デザインの倫理について説明しています。

Amyの行動変容ツールキット

『Engaged〜』はすぐに活用できるツールで溢れています。その中で目立ったコンセプトが、COM-Bというシステムの一部である「行動変容ホイール」であり、Amyはこのモデルに基づいたツールやリサーチ戦略を紹介しています。

「COM-Bモデルとは、行動(Behavior)を起こすためには、十分な能力(Capability)、機会(Opportunity)、モチベーション(Motivation)が必要であるというものです。」

彼女はこれらの体系をどのようにリサーチに活用していけばよいのかやグリッドを使って重複するデータを捌く方法、リサーチの結果を公式化し、ソリューションに昇華する方法について、視覚的な例を交えて解説しています。

本の中で彼女にインタビューを受けた専門家たちも、行動変容を引き出すデザインの助けとなるさまざまなツールを紹介しています。もしユーザーに意図せぬ危険な効果が出ることを懸念しているのであれば、Artefactが開発したTarot Cards of Techというツールがあります。デザイナーや技術者が予期しない結果を考慮するために使用するツールです。Amyの選んだパースペクティブの専門家であるSheryl Cababa氏は、倫理的な決断の下し方、ダイバーシティを尊重したデザインにする方法、意図しない副作用の大きさを大まかに掴むためのツールの使い方について触れています。

業界の特徴について

Amyは、この本の中の例がヘルスケア業界や金融に偏っていることを認めています。それは彼女がキャリアを築いた業界であるためですが、この本が業界を超えて人々に役立つことを望んでいます。

彼女はまた、「デザイナーの用途によっては、行動変容デザインは良くも悪くもなり得ます」とも述べています。彼女はキャリアの中で悪用には関わらないと決めていますが、「行動変容デザインのもたらす魔法のひとつは、人を惹きつけ夢中にさせること」であるとも感じています。そして彼女は「実際、私たちは皆モノを買う消費者です。自社商品を競合のものより良いものとするための純粋な議論があるべきなのです」と続けます。私自身は行動変容プロダクトのデザインをする専門家ではありませんが、この本から多くを学びました。学んだことを生かし、ユーザーのためより良い商品を生み出すのが楽しみです。

あなたのモチベーションは?

行動変容のプロセスの初期には、だれもが自分自身のモチベーションを理解しているわけではありません。本の中のお気に入りのエクササイズの一つが、ユーザーのモチベーションを解き明かすためのシンプルな問いかけです。「あなたのスマートフォンの壁紙はなんですか?」もしかするとこの質問が、あなた自身のモチベーションを少し理解するための助けになるかもしれません。


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