行動科学でユーザーの最適なメンタルモデルをつくる

Kristen Berman

KristenはIrrational Labsの共同創業者であり、Googleの行動経済学グループの立ち上げメンバーの1人です。

この記事はThe UX Boothからの翻訳転載です。配信元または著者の許可を得て配信しています。

Behavioral Science Can Help to Create the Right Mental Model for your Users

顧客との関係の中で、顧客があなたのプロダクトをいろいろ探究し、使うモチベーションが高いのは初日をおいて他はありません。

なぜでしょうか?

  • 理由その1:衝動。初日において顧客は何らかの理由であなたのプロダクトをダウンロードし、使い始めるという動きを起こします。2日目にになってから、彼らはなぜそれを重要と考えたのか、なにが重要だと考えたのかを思い返すのです。
  • 理由その2:サンクコスト。初日において、登録には少し時間を使いますから、顧客はその時間が無駄ではなかったと思いたがります。他のアプリを探したり、新しいオモチャが出ていないかチェックするほうが良かったと思いたくないのです。2日目には、あなたは顧客がしたことが他のどのようなものよりも意味があったと証明する必要があります。
  • 理由その3:初日の時点では顧客にメンタルモデルが無い。顧客は、あなたになにを期待すればいいのかまだ知りません。初日にあなたが、新たなメンタルモデルをつくるのです。2日目には、あなたは初日につくったばかりのメンタルモデルを変えなければなりません。

ほとんどのデザイナーは、その1とその2、衝動とサンクコストについては思い至ります。一方で、ほとんどのデザイナーが気づいていないのが、エンゲージメントと関係の維持におけるメンタルモデルの致命的な重要性なのです。

メンタルモデルとはなにか

メンタルモデルとは基本的に、「世の中の仕組みについての深く染み付いた考え方」です。

たとえば、私たちはお金についてのメンタルモデルをもっています。多くの場合、「私はお金を稼ぐために働いているのだから、基本的に必要なもの、欲しいものについてお金を使うことができる」というようなものです。

ユニバーサルベーシックインカム(UBI)が広範な社会的支持を得られないのは、それがこのメンタルモデルと相反するからです。「働くからこそお金が得られる」というメンタルモデルとは異なり、UBIは「生きているのだから、基本的に必要なもののためのお金が得られる」と言うのです。

他の例を挙げましょう。私たちは現在、ソーシャルディスタンス(他の人と6フィートの距離を保つこと)についてのメンタルモデルをもっています。

ここで、私があなたのソーシャルディスタンスについてのメンタルモデルを変えようとしている、と考えてみてください。これは「6フィート離れる」ということだとは言わずに、「距離は問題ではなくて、ただ誰かと直接向き合ってはいけない」ということですよ、と言ったとしましょう。

アメリカにおいてパンデミックが始まったばかりであり、「ソーシャルディスタンス」という言葉が生活の中で聞かれ始めた頃であれば、このようにモデルを変えることは簡単だったでしょう。ですがいまならどうでしょうか。非常に難しいと思います。私は、「誰かと直接向き合わない」という考えを擁護するだけでなく、深く根付いた「6フィート離れる」という考えとも戦わなければならないでしょう。

あなたのプロダクトに最適なメンタルモデルをつくり出す

あなたが新しいプロダクトをデザインするとき、あなたはそのメンタルモデルをつくり出すことにも着手するのです。これは、既存のプロダクトに対してあなたがもっている重要なアドバンテージです。難点は、それをするための時間が極めて短いということです。

あなたのユーザーに最適なメンタルモデルをつくり出すには、3つの方法があります。

真っ先にすべての使い道を示す

私が新規の顧客だとしたら、あなたのプロダクトの機能のうちの1つに興味をもつだけかもしれません。ですが時間が経つにつれて、私のニーズは変わるかもしれません。もし私のメンタルモデルが、いま興味をもっている1つの機能についてのみのものだとしたら、将来別の機能を使うことはまずないでしょう。

これを打破するために、あなたのプロダクトの使い道のすべてをオンボーディングの流れの中で示しましょう。ユーザーがすぐにそのすべてに惹きつけられることはないかもしれませんが、最適なメンタルモデルを確立することにはなります(あなたが1つのことしかできないのであれば話は別ですが)。

ClassPassは、ユーザーにやりたいワークアウトの種類を選ばせることで、この手法を見事に実践しています。こうすることで、アプリがさまざまな種類のクラスを提供するのだというメンタルモデルがつくられているのです。

Notionというアプリは、あらかじめ複数の種類のドキュメントを用意することでこの問題を解決しています。パッと見た限りではただのメモアプリだと思うかもしれませんが、これらのテンプレートがあることで、もっと多くの使い道があることがわかるのです。

明白なシグナルを送る

ほとんどの人が保険会社についてもっているメンタルモデルは、彼らは信頼のおける友人ではなく敵だ、というものです。私たちの多くは、保険金の請求を届け出るのは面倒なもので、満額の保険金を受け取ることは困難な戦いであるだろうと疑っています。

レンターズ保険の会社であるLemonadeは2016年に事業を開始したとき、消費者が保険会社に対してもっているメンタルモデルを変えようとしました。

簡単なことではありません。

他とは違うのだということを明白に示すために、彼らは大きな賭けに出ました。彼らは、自分たちのインセンティブのモデルを変えたのです。Lemonadeは自らの利益の一部をチャリティに寄付することを決めました。すなわち、保険金の請求を拒否して利益を得るインセンティブを取り除いたのです。これは、Lemonadeが典型的な保険会社ではないこと、そして正しいことを行う者として信じられることを、顧客に示す明白なシグナルとなりました。

シグナルを送ることは、すでにメンタルモデルが確立しているような業界に新たなモデルをつくろうとする場合には特に重要です。たとえば、ChimeやVaroはオンライン銀行です。Wells FargoやBank of Americaといった「5大銀行」との違いを示すために、ChimeとVaroは貸越手数料を請求していません。これが、潜在的な顧客に対する「この銀行は違う」というシグナルを送ることになり、銀行のあり方についての新たなメンタルモデルをつくっているのです。

暗にシグナルを送る

言語学習アプリであるDuolingoは、開発側が望むメンタルモデルを確立するために特定のフレーズを使っています。「Regular: 10 minutes a day」というフレーズからは、このアプリが1日に何時間も練習を必要とするものではないことが読み取れます。しかし、これはこのアプリは毎日使わなければならないものだというメンタルモデルをつくり出しているのです。

マッチングアプリは、ユーザーが1人か2人にしかメッセージを送っていない場合に、「使い方を間違っていますよ」と知らせるために空っぽの円を使います。彼らは、ユーザーが複数の人にメッセージを送らなければならないと思うようなメンタルモデルをつくっているのです。

最適なメンタルモデルは、あなたと顧客、両方の役に立つ

メンタルモデルは、家における窓に似ているところがあります。別の窓から外をみれば、また別の見え方をするものです。

私たちはプロダクトデザイナーとして窓をつくり、顧客がそれを通して物をみるというわけです。初日であれば都合がよいことに、顧客の視界は何にも妨げられていないので、窓をつくるのは非常に簡単です。2日目になると、顧客は早くもその窓と視界に慣れてしまいます。これを変えるために、あなたは顧客のために新たなメンタルモデルをつくる必要があるのです。できなくはありませんが、初日に比べるとずっと難しいことです。

言い換えれば、最初から最適なメンタルモデルをつくっておけば、モデルは成功するということです。


Welcome to UX MILK

UX MILKはより良いサービスやプロダクトを作りたい人のためのメディアです。

このサイトについて