「ニューノーマル」におけるジャーニーマッピング

Diana Glozman

Dianaはフロリダ出身のUXデザイナー。Modernizing Medicineのコンプライアンスチームのためのデザインを行っています。

この記事はThe UX Boothからの翻訳転載です。配信元または著者の許可を得て配信しています。

Journey Mapping During the “New Normal”

2020年前半の数ヶ月で、人々の生活は変わりました。Covid-19と、その結果としてのロックダウン規制の影響で、多くの会社とクライアントは完全にデジタルに移行することを強いられました。3月の半ばごろには、私たちの会社は完全なリモートワークに移行しました。この変化は不確実性とともに、多くの機会をもたらしました。そうした機会の1つが、UX(ユーザー体験)チームとDX(デジタル体験)*チームのコラボレーションです。その目的は、現状の組織のワークフローを明らかにし、全体のジャーニーマップとしてその体験を書面に落とし込むことでした。この構想のスケールは非常に大きく、顧客の獲得から顧客の成長と拡大に至るまでに関わる人、プロセス、テクノロジーをすべて含むようなジャーニー全体が想定されていました。

*編注:この記事ではデジタルトランスフォーメーションではなく、デジタルエクスペリエンスという意味合いでDXという表現を用いています

成長速度が早く、進化し続けるテクノロジー企業の全貌をリモートで把握することは簡単ではありませんでした。会社全体が「ニューノーマル」のワークプレイスの基礎を築こうとしているところでしたが、私たちは各部署の重要なステークホルダーに対してインタビューを実施しました。私たちは彼らに、日々のタスク、使っているツール、ペインポイント、そして機会について問いかけました。その結果、見込み客・顧客・そして従業員が担い手となる、中心的なワークフローをすべて網羅するような、包括的なサービスの青写真が出来上がりました。

私たちのこのジャーニーマッピングの体験から得られた中心的な成果とプロセスを、3つのパートに分けられます。

  • この最初のパートでは、新たなリモートワークの環境と、私たちが直面した課題、そしてジャーニーマップをつくるために採用されたハイレベルな戦略にフォーカスします。
  • 2つ目のパートでは、ジャーニーマップとサービスの青写真をつくるための構造とプロセスに深く入っていきます。ここでは、リモートで情報を集め、最終成果物を生み出すために使われたデジタルツールと戦略について議論します。
  • 最後のパートでは、ここから得られたことをあなたの組織に取り入れて、デジタルな業務のワークフローを最適化するための方法を扱います。成果物をステークホルダーに提示するための、また将来の会社の状況を描くためのジャーニーのコンテンツの使い方について、気づいたことをいくつか紹介します。

ニューノーマルを生きるためのジャーニーマップ

会社の成長と変化

どのようなワークフローや状況も、特にリモートのワークフローなどを理解するためにはコンテクストが非常に重要です。私の会社は成長に積極的であり、そのためにつねに拡大することが目的です。すでに複雑で目まぐるしく変化している組織について、新たなスタッフに理解してもらうことが永遠の課題なのです。それぞれの従業員が自分の役割を果たすための方法を学ぶためのシステムやプロセスは数多くあります。従業員の中には、パンデミックの影響で以前の役割の意味が小さくなったために、この期間の間はまったく違う役割を引き受ける必要があった人もいます。一方で、パンデミック下で全社が在宅勤務を行なっていても、採用活動は止まっていませんでした。

リモート環境は、より効果的に評価を行うためのテクノロジーを活用する機会をもたらしました。これを完成させるために、現在のワークフローをステップごとに理解し、ジャーニーに対する影響を理解することが、デジタル戦略を立てるためのカギになったのです。

デジタルの顧客体験にフォーカスする

「ニューノーマル」は、会社が最適化させる顧客体験のフォーカスを対面の顧客体験(見本市での販売と訓練)から完全なオンラインの顧客体験にシフトさせました。「デジタルに最適化されたジャーニーとオペレーション(DOJO)」という構想には、すべての既存のペインポイントを含むジャーニー全体を評価するというタスク、そしてオンラインの体験を取り入れる、または刷新するチャンスを探すというタスクが与えられていました。ですからこのフレームワークは、顧客とスタッフのためにもっと最適で完全にデジタル化された体験を作り上げるべくそれぞれにチームに使われたのです。

DXとのコラボレーション

これまでのところ、私たちのUXの仕事はすべてプロダクト開発の中にありました。私たちのユーザーリサーチのほとんどすべてが臨床スタッフと、医師、看護師、実務を行う管理スタッフというような私たちのペルソナに関して行われていました。臨床医と医療費請求を行うスタッフのワークフローは、いまでも私たちのチームの中心的なテーマです。DXチームがこの構想の下でUXチームとコラボレーションし始めると、私たちはそれが自分たちの専門領域外であること、そして、ビジネスのオペレーションの観点からデジタルなユーザージャーニーのライフサイクルをつくることは未知の世界であるということを知ったのです。

このジャーニーを作り上げるために、私たちはクライアントと見込み顧客が私たちの社内のセールス、マーケティング、会計、ファイナンス、オペレーション、サポート、その他すべてのサポート的な役割とどのように関係しているのかを明らかにする必要がありました。私は、ビジネスオペレーションに関する学歴を生かした自分の過去のジャーニーマッピングの経験が、クライアントのジャーニーとビジネスオペレーションのジャーニーを結びつけるのに大いに役立つことに気づいたのです。

大規模なジャーニーマッピング

会社全体のビジネスオペレーションのプロセスを対象にした包括的なユーザージャーニーをつくるというタスクは、最初は圧倒的なものに感じられました。

現実離れした体験

このプロジェクトではすべての部署でもっとも共通してみられるワークフローを把握する必要がありましたが、終わりのみえないようなレベルの複雑さと細かさにいとも簡単に囚われました。どのようなフェーズを含むべきなのか、どれをサブセットとして関連づけるべきなのかを理解するには、いくらかの時間と分析が必要でした。そしてハイレベルの情報がひとたび集まったら、それをコアとなるペルソナと単一のジャーニーに絞り込まなければなりません。想定される行動をひとつひとつ枝分かれさせて全部を描き出したくなりますが、重要なことはフォーカスを維持して、もっとも共通してみられるフローを捉えることでした。それぞれのワークフローについて、人・プロセス・ツールに関連する詳細が正しく把握されて文書化されるようにします。

私たちの会社が使っているさまざまなテクノロジーの例

多くのステークホルダー

顧客体験に責任をもつステークホルダーは数多くいます。中には社内でもっとも忙しい人たちもいるので、彼ら自身のプロセスについてハイレベルから個別の内容に至るまで検討するための数回のセッションを設けることは非常に困難でした。彼らのスケジュールを尊重し、極めて戦略的に進めることが重要でした。また、主要なステークホルダーとミーティングを実施したものの、彼らが共有すべき情報は何なのか、このプロジェクトがどのような結果をもたらすのかについて彼らが一層混乱しただけ、ということも珍しくありませんでした。指定された一連の事象について、相互に対立するような情報がステークホルダーからもたらされる、ということもしょっちゅうありました。ミーティングの時間を確保し、ある事象についての、また彼ら自身の動きの時系列についてのコンセンサスをとることはつねに難しいことでした。

リモートでのコラボレーションの複雑さ

私たちは組織のあらゆる部署の人員と一緒に仕事をする必要があったので、リモートでのコラボレーションの難しさに直面することになりました。

  • カメラで撮られることを望む人は少ないです。ボディランゲージを使えば反応に新たな意味を見出すこともできるのですが、音声のみのインタビューになることもままありました。面と向かっていない状態で参加者の関与度合いを高く保つことも難しかったです。
  • リモートツールを使いたがらない人もいました。いまでこそ、オンラインのコラボレーションツール(Google DrawやWhimsical、Miroなど)を使いこなしている人が多くなっているようですが、リモートでのコラボレーションの初期には、会話に割り込んで自分の言いたいことだけを言うようなステークホルダーが多かったです。
  • 関連する情報をすべて把握することの難しさ。取り入れるべき新たな内容が非常に多くて、それらを初めから正確に記録することは困難でした。すべてのケースについて、ハイレベルのメッセージをそれを補強する詳細な要素と一緒に把握することには苦労しました。私はインタビューが終わるたびに時間を取って、得られたすべての内容を読み解いてフォローアップのための質問のリストをつくらなければなりませんでした。何回かのインタビューを行なってこのような苦しいプロセスを乗り越えたあと、私はいくつかの解決策を見出したのですが、それは次の記事でご紹介します。
  • 認知の過負荷。膨大な量の新たな情報を集め、分析し、整理するというのは恐ろしく疲れる仕事です。認知に大きな負荷がかかるタスクと軽い負荷で済むタスクのバランスを取ること、十分な休息を取ること、強めのコーヒーを飲むことぐらいしか、対処方法はありませんでした。次の記事では、ジャーニーマッピングを行う際に直面する認知の過負荷を攻略するための方法について詳細をお伝えしようと思います。

ジャーニーマッピングのプロセス

あまり細かい点に立ち入らないようにしつつ、そんな巨大なプロジェクトに効率よく取り組むために編み出されたハイレベルの戦略についてざっとお伝えしたいと思いました。このプロジェクトで採用されたアプローチは、大まかに2005年のBritish Design CouncilによるDouble-Diamondアプローチに基づいていました。

すなわち、リサーチ(発散から収束)と、デザイン(発散から収束)です。

出典: https://www.designcouncil.org.uk/news-opinion/design-process-what-double-diamond

戦略の要点はリサーチでした。まず最初に私たちは問題を定義するために、あらゆる可能性を考慮することによって発散しました。この工程には、あらゆるハイレベルのステークホルダーとの対話が含まれていました。そうして集められたデータに基づいて、もっとも有益だと思えるジャーニーを捉えるために収束しました(フォーカスを狭めました)。こうしたジャーニーのコンセプトが出来上がると、私たちはそこに存在するすべての登場人物と彼らの中心的なタスクを深く検討するために、再び発散しました。これらのタスクの組み合わせが、ワークフローのフェーズに変わります。そこからまた私たちは収束します。今度はジャーニーの中のそれぞれのフェーズについて明快なストーリーが生み出せるまで、詳細を詰めてギャップを埋めていったのです。

インタビューを実施するたびに、私たちは人・プロセス・ツールを確実に把握するようにしました。いちばん最初の時点からその3つのエリアを見定めておくことで、ステークホルダーの取り込みとデータの収集はずっと効率的になりました。この戦略についてのもっと詳しい中身は、次の記事でご紹介します。

次のステップ

「ニューノーマル」という課題に立ち向かう方法は組織によってさまざまでしょうが、効果的に成長・拡大するためには、いま起こっているプロセスを理解することでさまざまな利点を得ることができます。ジャーニーマップは、会社が合理化・拡大できるもっともクリティカルなワークフローを明らかにし、文書化するための優れたツールになり得ます。

ジャーニーについてのプロジェクトとそれに伴う課題、それとプロジェクトを完成させるために役立ったハイレベルの戦略アプローチをざっくりみていただいたところで、次の記事ではより細かい点やツール、そしてあなたの組織で同じようなプロジェクトをうまく取り入れるためのヒントをご紹介しましょう。


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