「ねえGoogle、今日の天気は?」これは私が朝の紅茶を飲みながら、ほとんど毎日自分のスマートキッチンに問いかけている質問です。2020年ともなれば、私は自分のキッチンに天気予報を尋ねることができるのです。間違いなく素晴らしいことですが、悲しいことにそれだけで会話は終わってしまいます。
果たされていない約束:音声はいつ追いつくのか?
世界を変えるようなイノベーションが5年で起こるのなら、いつになったら音声テクノロジーは追いつくのでしょうか? タイマーをセットすること、天気を尋ねること以外に、音声テクノロジーでできることを全部想像してみましょう。音声テクノロジーが私たちの日常生活に欠かせない機能になることは間違いないでしょう。子どもたちはAlexaに電気を消してと頼んだり、お父さんお母さん宛の晩御飯についてのメッセージをGoogle Assistantにお願いしたりして成長しています。過去の触覚による機能は、インタラクティブで直感的な音声テクノロジーに取って替わられるでしょう。いまの段階でも驚異的ですが、音声テクノロジーの未来はすぐそばまで来ているように思えますし、どこまで私たちの生活を変えるのかわかったものではありません。
この未来が訪れた世界では、私が韓国語で英語圏の同僚に話しかけると、私の言葉がリアルタイムで翻訳されるでしょう。また、スマートフォンはあなたに、自分の見た目について細かく完璧に教えてくれるでしょう。さらに、自宅のスマートスピーカーはあなたが話しかけた声の調子を受けて、気分が変わったことを教えてくれるでしょう。音声テクノロジーが持つ可能性は非常に広く、かつ今の私たちの現実からそう遠いものではないのです。
コンテクスチュアルなデザインと自然言語検索
いま私たちに足りないのは、自然言語検索を伴うコンテクスチュアルなUXデザインです。自然言語検索とは私たちが普段話していることばに反応するための能力で、これはたとえば関連アイテムを表示するショッピングリストのような日常的な進化につながりますし、また、コロナ禍でレストランにおける非接触型の注文や支払機器の音声認識などのニーズが生まれているような、変化する環境へ適応するための柔軟性をも生み出します。いま足りないのは、会話なのです。
トーン(声の調子)を取り入れればテクノロジーが人間的になる
また一方で音声テクノロジーは、テクノロジーが相手であってさえも有意義な関係を築きたいという人間の奥深くにある欲求に応えて、私たちの身の回りにあるテクノロジーと私たちの間にもっと共感的な関係を作り上げることができます。日常の簡単な仕事を手伝ってくれるだけではなくて、思いやりから直感的なフィードバックをくれる、感情をもサポートしてくれるAIを考えてみてください。
私たちの声の調子が、私たちが選ぶ言葉とほとんど同じくらいの意味を持っていることは間違いありません。私たちが日頃出会う物事をこうした理解に基づいて眺めたとしたら、メンタルヘルスの必要性に対する社会の対応のあり方が変わり、私たちが自分の年老いた親戚の世話をすることは容易になるでしょう。
皆の声を集め、多様な考えを実現する
あらゆるイノベーションがそうであるように、この仕事には複数の人間の頭が必要です。つまり、私たちは多様な人々から出てくる考えを必要としているのです。意味のある進歩を望むのであれば、デザイナーはプロトタイプを作り、実験し、動かすことができなければなりません。音声の統合にしても同じです。私たちが音声テクノロジーを前進させるために、デザイナーにはあらゆる可能性を探求するためのツールが必要なのです。現時点では音声の統合に使えるプログラムやツールが不十分なので、これは困難であると言わざるを得ません。
実際、音声の場合とタッチ/タップの場合では、情報アーキテクチャとインターフェイスデザインに対するアプローチは異なっているべきです。しかし現状では、巨大なテクノロジー企業の中のごく限られたチームだけが、音声テクノロジーに特化しています。いまのところ、音声に関する機能を開発しているのは彼らだけです。新しいテクノロジーは広い意味でのデザイナーには触れられないものなので、そのことによって本来であれば力を合わせて進められるはずの進歩がスローダウンしています。音声におけるイノベーションを爆発させるためには、音声を使ったプロトタイプへ触れる機会をもっと一般的にする必要があります。そうすれば、世界中にいるクリエイティブな思考を持つ人たちの誰もがそうしたプロトタイプに触れる機会を持つことができるのですから。
間違わないでほしいのですが、いまの進歩が物足りないのは投資や金銭的なリソースが足りないからではなく、ビジョンが限定されているためです。巨大テクノロジー企業の独占の結果としてできあがっている密室でのアプローチではなく、何百、何千というデザイナーたちが協力して音声機能の発展のために働くことができたなら、私たちはそうした企業(どんなに大きな企業であろうと関係ありません)のどのようなチームよりもずっと早くイノベーションを進めることができるでしょう。
未来はいま、ここにある
私たちはすでに、車の中での音声機能を活用した体験を強化するために、いくつかの自動車メーカーと一緒に仕事をしています。機能の1つ1つは目新しいものではありませんが、面白いことに、その扱い方(GPSへの話しかけ方から温度の設定の仕方まで)は驚くほど違っています。私たちは、すべての装置に対するハンズフリーでの操作を提供することによって、乗客の快適さと安全を向上させようとしています。デザインプロセスに音声を取り入れることができていなかったら、反復する作業に2倍の時間がかかったでしょうし、直感的で統合されたデザインとは真逆の、追加機能ばかりのものになっていたでしょう。
音声テクノロジーの未来はもうすぐそこにあります。すでに多くの現代の家庭と職場は、スマートデバイス、音声で操作できるデバイスを取り入れています。そんな未来が目前に迫っているからこそ、音声テクノロジーを実験し、動かし、テストし、プロトタイプをつくるために必要なツールをデザイナーに与えて、この状況に真っ向から立ち向かうべきなのです。より多くの人がアイデアをシェアし、互いのアイデアを改良するようになれば、音声のイノベーションがついに動き出すでしょう。
プロトタイプをつくる能力が共有されているかどうかの違いは、停滞とイノベーションの違いに直結します。多くの人がこれにアクセスできれば、多くの人がこれを動かし、実験し、つくることができるようになります。プロトタイプがあればアイデアは実現します。そして音声を扱うプロトタイプがあれば、いままでは苦労してコードの山を読み解く必要があったものが、今度はそれ自身が話してくれるようになるでしょう。