ニューノーマルにおけるテクノロジーとデザイン

Hossein Raspberry

HosseinはPOSSIBLEのUXリサーチャー。

この記事はThe UX Boothからの翻訳転載です。配信元または著者の許可を得て配信しています。

Designing for the New Reality: Getting Rid of Pre-COVID Assumptions

世界的なパンデミックの影響で日常的な社会活動、エンターテインメント、仕事、何よりヘルスケアにおけるデジタル利用が劇的に増加するなんて、誰も予想だにしませんでした。

McKinseyのレポートによれば、2019年に遠隔医療を使っていた人は11%に過ぎなかったそうです。2020年5月までに、対面の医療機関訪問の50%がデジタルでの訪問に移行しました。コロナ以前と比べて、医者は50倍から175倍の患者を遠隔で診察しました。

ヘルスケアだけでなく、今では多くの社会活動がオンラインで行われています。年配の人々はコロナによるロックダウン下でも親戚と繋がるために、ビデオ通話を模索し始めています。これは彼らの多くにとって初めての、快適な経験です。中には、パンデミックの時代の生活をもっと快適にしようと、ビデオ通話アプリ以外のテクノロジーを使うことを考えている人もいます。

3月終わりから5月初めにかけて実施されたThe Harris Pollによれば、アメリカ人の大人の46%が感染拡大が始まる前に比べてソーシャルメディアを多く使っていたと言います。 総回答者の51%、18歳から34歳の60%、35歳から49歳の64%、そして、65歳以上の34%がそのように答えているのです。

高齢者は社会活動や料金の支払い、食料品のオンライン注文、果てはTikTokのようなアプリを使って楽しみを得るためにも、スマートフォンやWebサイトを使っているのです。しかし、ほとんどのプロダクトは特定の年齢層のグループを念頭にデザインされているため、新たなテクノロジーを使いこなすのは高齢者にとっては複雑であることが多いです。

恐ろしいことに、世界は年老いた人々のためにはデザインされていない — Don Norman

高齢者が家族に会うため、また医者に面会するためにアプリを使い始めているので、今日(こんにち)ではデザインの影響が特に明らかになっています。ほんの半年前には、こんなことがこんなに早く起こるとは思ってもいませんでした。

パンデミックを生き抜くためには、私たちは何らかの新たなプロダクトをデザインする際にコロナ以前の前提にしがみつくのではなく、オープンなマインドを持つ必要があります。

新たな現実に備える

戦争は歴史を促進する  — Leon Trotsky

1922年から引用した上の意見は、往々にして世代を超えて続くような社会の発展が、対立が激しくなった場合には実際には数ヶ月といった短い期間で起こる、ということを主張しています。コロナのパンデミックは、その性質としてはある意味平等なものです。通常では考えられないほどのスピードで、人間が生活しているほとんどすべての場所に大きな変化をもたらしています。

多くのプロダクトはターゲットとなるグループを念頭に置いてデザインされていますが、今では同じプロダクトが別の世代のグループや、また別のデジタル体験を持つ人々によって使われています。

テクノロジー業界で働いているプロフェッショナルの多くは「世界を変える」「人々の生活をより良いものにする」と言っています。しかし残念ながら、良くないデザインのせいで、すべての人々がテクノロジーの恩恵を受けることができないでいるのです。

UXがすべてのユーザーのことを考えないとしたら、それは『一部のユーザー体験(SOME User Experience, SUX)』とでも呼ばれるべきものではないだろうか? — Billy Gregory(シニアアクセシビリティエンジニア)

多くのデジタルプロダクトは、変化していくニーズを上手く考慮に入れられていません。使いにくいデザインが選ばれれば、どんな年齢のユーザーもイライラしてしまいます。たとえば、細かい文字は10代のユーザーに対してさえ問題を引き起こします。若いユーザーさえイライラさせるようなデザインは、年配のユーザーがアクセスする上では相当の障害となります。それに私は年配の方々が大好きですが、彼らはテクノロジーに対して不安を覚えるでしょう。ですがもし上手くいけば、素晴らしいものになります。

アクティブで健康な高齢者は多く、しかも増え続けている。私たちはニッチなマーケットなどではなく、むしろ企業はこう心得るべきだ。『私たちには自由に使えるお金と時間があるのだから、若い人たちよりも良い顧客なのだ』— Don Norman

過去20年の間、企業は新しいプロダクトやサービス、そして消費者が初めて目にするようなテクノロジーを推進してきました。しかし突然、消費者と経済はビジネスが追いつけないような速さで変化したのです。パンデミックによってデジタルプロダクトがこれまでとは違う世代のグループに受け入れられただけでなく、その使い方もまた変化しました。

私たちは今、ほとんどの企業が対応すべき特異な場所にいる  — Michael Biltz(Accentureのマネージングディレクター)

この危機的な状況は私たちの日常生活に影響を与えましたが、コロナは私たちの未来を変化させ、新たなユーザーの行動と期待を生み出したのです

生活の急激な変化は、デザイナーに重大な問題を提示しました。

「使い方、ターゲットとなるオーディエンス、そして彼らの期待がそんなに早く、大きく変わった場合、どうやって適応するのですか?」

人間中心のデザインプロセスにおいては、進歩的なだけではなく簡単に適応できるものを作る、ということが答えです。

パンデミックによって、人々は集まり、繋がるための多くの方法を見つけ出しました。Zoomのようなデジタル会議アプリを使い始める人もいます。また、Instagram、Netflix、YouTubeのようなメディアに移る人もいます。

デジタル体験を再考する

Luli Kibutiによるこのグラフィックを見たことがあるでしょうか。デジタル業界で有名なブランドをレトロな世界観に作り変えることで、テクノロジーのロマンを感じさせてくれます。

このプロジェクトは有名なアプリをレトロな見かけにすることでネット上で話題になりましたが、私が考えていたのは、こうしたプロダクトが実際に1980年に使われていた同等のプロダクトと比べて、シンプルなわけではないということでした。事実、それらよりもずっと複雑なのです。

現代のデバイスには見つけやすさが足りない。というのも、画面を見ただけではどんな操作が可能なのか見つけられないからだ。右にスワイプすればいいのか、左なのか? 上なのか下なのか? 指は1本か2本か、はたまた5本使うのか? スワイプするのかタップするのか? タップだとしたら、1回なのか2回なのか? 画面にあるテキストは本当にテキストなのか、それともテキストに見せかけたとんでもなく重要なボタンなのか? ユーザーは本当にタッチできるオブジェクトを見つけるためだけに、画面にあるすべてをタッチしなければならないことが頻繁にあるのだ — Don Norman

別々に分けられていたものが混ざると、次に起こることを予測することはずっと難しくなります。

予測がつかないということによって、組織が自分たちの環境と周りの世界で起こっている変化により敏感になり、対応せざるを得なくなるのは当然です。プロダクトが特定のターゲットとなるグループや世代のためだけに作られていたら、そのプロダクトはそれ以外のグループにとっては適応する機会すら無いものということになります。これはユーザーにとって困ったことであるだけでなく、事業の成長にとっても問題です。

プロダクトを使う何百万ものユーザーが障がいを持っているフリをしなければならないなんて、どんな設計思想なのでしょうか。Appleは、大多数の人々が自分たちのことを「困窮している」「障がいがある」「援助を必要とする」というラベリングをしなくても使える電話をデザインするべきだったのではないか — Don Norman & Bruce Tognazzini

前提をアップデートする

パンデミック下での急速なテクノロジーの受容は、別の世代がデジタルプロダクトに適応することについて長い間信じられてきた前提を打ち砕きました。

たとえばヘルスケアの世界では、歳をとった大人は治療にアクセスするためにデジタル技術を使うこともできないし、使おうともしないという考え方が主流でした。ですがそれが間違いであることがわかったのです。アメリカ合衆国保険福祉省によれば、2020年2月の時点で遠隔によって提供されていた初期診療は0.1%に過ぎませんでしたが、4月までにはヴァーチャルでの診療が43.5%になっていました。

パンデミックのおかげで、私たちは高齢者について抱いていた2つの前提について考え直すチャンスを得ました。

  1. 1. 高齢者は自分の生活にテクノロジーを受け入れようとしない
  2. 2. 年齢の高い世代向けのプロダクトは、シンプルで機能的でありさえすれば良い

1つ目の前提については、遠隔診療の例とパンデミック下における高齢者の行動から、私たちが遠隔診療を受けようとはしないだろうと考えていた高齢者たちが、テクノロジーとその恩恵を受け入れていることがわかっています。

そして2つ目の前提の結果として、残念ながら私たちは多くのデジタルプロダクトだけでなくデジタル以外のプロダクトでさえ、美しさを持たないデザインにしてきました。

プロダクトが高齢者のために開発されると、無様で不必要な弱さの証明のようになりがちである。その結果、歩行器や杖が必要な人が抵抗することがよくある。昔は杖もオシャレだったが、今では医療機器のように考えられている。歩行器や杖を、荷物を運べて、疲れたときや何かのイベントに参加するときには座ることができて、そしてもちろんバランスを保てるような、日常生活に使えるものにできないのだろうか? 誰もが欲しくなるような、立派でオシャレな道具にしよう  — Don Norman

前提を考え直し、インクルーシブデザインについて以前よりもっと真剣に考えることで、相手を選ばずすべてのオーディエンスの利益になるようなプロダクトを作り始めることができます。そして私たちは、インクルーシブデザインは美しさを犠牲にしなくても達成できるということを覚えておかなければなりません。

歳をとった人たちが使いやすいようなデザインは、若い人たちにとっても同じように価値があることが多い。実際、誰にとっても価値があるのだ。歳をとった人たちを助ければ、いずれはあなた自身を含めたもっと多くの人を助けることになる — Don Norman

インクルーシブデザインとは、あらゆる人のためにデザインし直すこと

パンデミックの時代における別の世代の急速なテクノロジーの受容から言えるのは、私たちは急いで自分のプロダクトをデザインし直さなければならない、ということです(もしまだ取り組んでいなければ、ですが)。私たちには業界として、ユーザーがニューノーマルに素早く対応できるようにする義務があります。

インクルーシブデザインを受け入れることで、私たちはよく考えれたデザインとは障がいのある人や高齢者のためだけにあるものではない、ということを理解しなければなりません。実際、「インクルーシブデザイン」と呼ばれるのには意味があります。それは、私たちが全員のためにデザインをするということです。


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