4月27日にUXのグローバルカンファレンス「UXify 2018 Japan」が開催されました。
前編に引き続き、行われた5セッションのうち、残りの2セッションの内容をお送りします。
4. UIと合意形成
4つ目のセッションはインフラジスティックス・ジャパン株式会社の東氏。UI開発にフォーカスをあて、UIのとらえ方、また内外の合意形成における考え方について語ってくれました。
まず東氏は、「UI」を突き詰めて考えて行くことで、対象が明確になり、UIを通じて提供されるよりよい「UX」をしっかり考えられるようになる、と語りました。
チームの外側への合意形成
テーマである合意形成において、チームの内外に多くのステークホルダーが存在するものですが、それぞれのUIに関する理解や知見はバラバラです。
特に外部との合意形成においては、それが顕著であり、「総論賛成・各論反対」の状態に陥りがちなので、「誰が」「どの範囲を」「どのような基準で」「承認する」のかが大事です。
UXを細かく要素分けする場合、Jesse James Garrett氏の「Elements of UX」の図が有名ですが、UIにおいては以下の要素に分け、考えると良いそうです。
Elements of UI
- アセット:外部化できる画像やメディアなど
- スタイル:UIコントロールに適用できるテーマ、スタイル(マテリアルデザイン、iOS、ブランディングされたスキン的な)
- レイアウト:ネスト構造を持つレイアウトコントロール
- UIコントロール:裏のデータを可視化する部分
- モーション:トランジション、アニメーション
- スクリーンフロー:画面遷移
また、東氏はUIやソフトウェア開発においてテクノロジーへの配慮は必要不可欠だと強調しました。
UIを開発するなら、プロジェクトに関わるほぼすべてのことがテクノロジーに依存しています。なので、テクノロジーの前提なしにUIを形作ることは絶対にできません。
採用するテクノロジーによって多くのことが決まるとし、先ほどのUIの要素別にも例が提示されました。
また、このElements of UIはUIのどの部分を確認するのかという整理にも活用できます。
たとえばルック・アンド・フィールを確認したい場合は「アセット」、「スタイル」、「レイアウト」を、機能・画面遷移などは「レイアウト、UIコントロール、スクリーンフロー」など分け、それぞれを領域を認識することで、より具体的に方が意思の疎通は取りやすくなります。
これらの確認をドキュメントだけで進めるのには限界があり、そのためにプロトタイピングツールなどを活用していくのだと語ります。
※インフラジスティックス・ジャパンさんでも提供しているプロトタイピングツールIndigo Studioの紹介がありましたが、UX MILKでも記事で紹介していますので詳しくはこちらをご覧ください。
開発ついての言及が多かったものの、大前提となるのはやはりゴールの共有です。究極的にはチームの「外」に承認者がいない状態が理想だそうですが、大事なのは顧客との一体感を作り、しっかりと「なぜ」「なにを」作るのかをチーム全体に浸透させておくことだと東氏は言います。
チームの内側への合意形成
次に、チーム内での合意形成においてはチーム内の異なるロールを認識し、相互の責任範囲で何が行われているかについて把握する必要があると言います。
たとえばデザイナーがAngularやPrismのようなフレームワークの知識などをあらかじめ知っていれば、手戻りも少なく、コスト削減につながります。
Elements of UIの中でも「UIコントロール」は、6要素の中でも多くのロールで知見を共有しなければなりません。UIコントロールをよりよく理解するために、以下の4つのレベルで分けて考えることができます。
仕様がOS標準のコントロールで十分なのか、独自開発が必要なものなのか、などの考慮をすることで実際のコストの話ができるようになってきます。
チーム内の異なる職種間の相互理解において、前述の例でも挙げたとおり、特に弱くなりがちなところが「デザイナーのテクノロジーへの理解」だそうです。デベロッパーに絵に描いた餅を開発させないためにも、デザイナーはもっと制約を知るべきだと東氏は力説します。逆に開発者側はデザイナーを教育しなければならないという意味でもあります。
権限移譲の重要性
最後に、東氏はFacebookのアプリのリリース頻度を例に、権限移譲の重要性について触れました。
Facebookアプリのバージョン、一度見てみてください。135とか、すごい数になっていると思います。それがすごい頻度で行われているんです。このペースでやるのに、承認もなにもないはずなんです。どんどん良いものを作るんだという前提で、エンパワーされたチームが動いているんですよね。
ゴールが明確で、継続的にリリースをし続けるための仕組み、システムが存在し、チームメンバーが全員やるべきことをやって相互に信頼があると、自然と良いものが出来上がっていくんです。
セッション資料
UIと合意形成 – セッション資料 / 当日のレコーディング
5. 「機能するUXデザイン」のための、プロセスとチームの設計
最後のセッションはCI&T株式会社の福岡氏。サービスデザインストラテジスト、人間工学専門家などの肩書きを持つ同氏はそのさまざまな経験から得た、UXデザインのプロセスとチームビルディングをテーマにセッションを行いました。
「プロセス駆動」に陥らず、状況に応じた柔軟なプロセスの設計を
国内において、UXデザインはバズワード的扱いからなかなか脱することができていない印象を持つという同氏。その背景には、やってみたけどうまくいかなかった、期待した成果を得られなかった、結局UXデザインがなんだったかよくわからない、という結果が生じていることが一つの要因としてあるのではないか、と述べます。
そのような反応が生じる原因として、特定のプロセスを個別の状況にあわせずに教科書通りに実施しようとする「プロセス駆動」に陥ってしまうことが挙げられるのではないかと、同氏は問題提起します。プロセス駆動に陥らず、プロジェクトプロセスを設計する際のポイントとして、以下を挙げました。
- 期待されるミッションとUXデザインとの適合
- 不確実性や飛躍に対する許容度
- 投資可能なリソースとその根拠
- 意思決定プロセス
- 制約条件
ユーザビリティか、価値探索か - 期待値を確認する
UXデザインは、人によってさまざまな解釈・理解がされているワードです。
大きな市場を生み出す新規事業を作れる、といったことから大きなビジョンから、アプリ画面のボタンを使いやすくする、といった小規模なユーザビリティの課題まで、様々な期待を向けられます。何を担うものなのか、都度、ステークホルダー、特に意思決定者と確認することが重要です。
以下のセッション内容は、主に新規事業創造など、不確実性の高い状況で新たな価値探索を行うようなシーンでのUXデザインについて話しています。
プロセスをカスタマイズ&半構造化する
プロジェクトでは、必ず個別の状況が生じるため、プロセスは必ずカスタマイズが必要です。
また、価値探索的なUXデザインは、不確実性が高い状況であることが通常であるので、試行錯誤を許容し、常に学びを反映できるようにプロセス自体を半構造化(一通りのプロセス計画はするが、状況に応じて変更できるように)する必要があります。
ユーザーリサーチは予備調査をしっかりする
次にユーザーリサーチの進め方について触れられましたが、ここで印象的だったのは本番リサーチの前に予備のリサーチを入念にやることが大事、という点でした。
科学研究を引き合いに出し、科学研究での調査や実験では、いきなり本調査を行うことはない、ということでした。予備調査を重ねることで、仮説や調査手法を検討し、本調査の精度を上げるという面では、UXデザインにおけるリサーチも同様に考えられるとのことです。
複数の調査はコストが大きいのではないか、と思われるかもしれませんが、SNSなどを使ったり、友人に依頼したりと、アンオフィシャルにでも実施する方が良いとのことでした。
UXデザインには多様な参加者とカタリストが必要
最後のパートでは、探索的UXデザインにおいて、チームに必要な役割についても語られました。
まずは「カタリスト」。触媒や促進の働きをするものという意味です。
例えば音声UIであれば音声の技術者や研究者が参加するなど、技術革新によってこれまでとは異なる多様な人々が参加者となると考えられます。それをファシリテートする役割が必ず必要になります。
次に、「ユーザーリサーチ」の専門家を挙げています。UXデザインで用いられるユーザーリサーチ手法の多くは、心理学調査法・社会学調査法などをベースとするため、それらに対する全体的な知識・技術を持つ専門家が、調査の計画、実施、分析に参加することが望ましいと考えます。
また、「クラシカルデザイン」(いわゆるグラフィックデザイナー、空間デザイナーなど)の職種はUXデザインという文脈では参加していない事が多くありますが、ユーザーとのインターフェース(接面:デジタル画面のことではなく、環境や視覚的要素、モノなど)を規定する役割であり、また、そうしたプロフェッショナルの視点をもってUXを考えることによって、検討がより豊かに、価値の高いものになる場合があると述べています。
セッション資料
「機能するUXデザイン」のための、プロセスとチームの設計 – セッション資料
まとめ
1日を通して、UXデザインの第一線で活躍する方々の濃いお話を聞き、さまざまな視座からUXデザインの現在とこれからについて考える日となりました。
セッションの途中では同時開催していたブルガリアの会場とも中継でつなぐなどして、ワールドワイドな規模でUXデザインの流れを感じることの出来るイベントでした。
提供:インフラジスティックス・ジャパン株式会社
企画制作:UX MILK編集部