国内のUX専門家が集結した「UXify 2018 Japan」レポート【前編】

UX MILK編集部

モノづくりのヒントになるような記事をお届けします。

4月27日にUXのグローバルカンファレンス「UXify 2018 Japan」が開催されました。

「UXify」は米インフラジスティックスが主催する、UXの専門家が現場で得た知識、体験、事例などを共有するグローバルカンファレンスです。今まで米国やブルガリアで開催されてきましたが、5年目となる今回は日本でも初開催を迎え、「Future of UX = UXの未来」をテーマに国内の専門家が集まり、セッションを行いました。

今回は行われた5セッションの内容を前編・後編に分けてご紹介します。

1. 自分起点でUXの未来を考える

最初に登壇したのは株式会社セカンドファクトリーのUXデザイナー、斎藤氏。ワークショップ形式のプログラムで会場を盛り上げていました。

このワークショップは、登壇者である斎藤氏自身を題材とし、「わたし(斎藤氏)の活動をを分解し、一緒にUXの未来を考える」というテーマで共創駆動モデルを体験するというものでした。

具体的には以下のように進行されました。

  1. 斎藤氏の活動のマッピングなどをし、彼の活動の先の「真のゴール」を探る
  2. 自分の活動も同様にマッピングし、斎藤氏との共通点や差異を認識する
  3. 自分と齊藤氏がともにそれぞれのゴールを達成できるアイデアを出す

目の前の情報を多角的な視点から整理することや、真の課題を問い続ける姿勢などを求められるワークショップで、UXデザイナーとしてあるべきビヘイビアを再認識することができました。

セッション資料

自分起点でUXの未来を考える – セッション資料


2. 元UXデザイナーは、今何をデザインしているのか?

続いて登場したのは富士通デザイン株式会社に所属しながら、グラフィックカタリスト・ビオトープとしても活動を行う松本氏。同氏は多くのワークショップに関わっていく過程でたどり着いたコミュニケーションデザイン手法について語ってくれました。

松本氏は新規事業開発を目的としたワークショップに携わる中で、いくつかの課題に直面します。

  • アウトプットのクオリティが低いこと
  • 関係者のモチベーションが低いこと
  • ワークショップ終了後にプロジェクトが自走しないこと

どうしたらこれらの課題を解決することができるのか。自身の立ち位置やワークショップのやり方を変えるなど試行錯誤する同氏ですが、あるとき原因は「参加者の関係性」にあると気づきます。

ダニエル・キム氏の「組織の成功循環モデル」というのをたまたま目にしたんです。「組織の成功循環モデル」にはGOODサイクルとBADサイクルがあるのですが、GOODサイクルは『関係の質が良いこと』から始まります。関係の質が良ければ思考の質が良くなる、思考の質が良ければ行動の質が良くなる、行動の質が良ければ結果の質が良くなる、結果の質が良ければ関係の質がさらに良くなる、といったように、いい質が循環していくというものです。

反面、BADサイクルは起点が『結果の質』となっているんです。結果の質を求められるから関係の質も悪くなり、関係の質が悪くなるから思考の質も悪くなり、思考の質が悪くなれば行動の質も悪くなり、行動の質が悪くなれば結果の質も悪くなると…これを見たときに、本当にその通りだなと思いました。

松本氏が前職で7年間携わっていたプロジェクトは、ほぼメンバーが変わらなかったのと同時に、関係者がプロジェクトに対しとても熱い想いを持っていたため、循環がうまくいっていたそうです。

しかし現職では「ビジネスにつながるアイデアを出す」といったような、「結果を求めること」から始まってしまい、参加者の関係性がうまく構築できないままワークショップを実施しなければならず、結果として先ほど挙げた課題に繋がっていたのではないかと分析したそうです。

プロジェクトに思い入れがない人やそもそもモチベーションが低い人を集めて初対面でいきなり「ビジネスにつながるアイデアを出そう」とワークショップをやっても、良い結果なんて生まれるはずがありません。新しい価値を生み出すには、まずは良い関係性を作ることが一番大事なんだと感じ、アプローチの仕方を変えました。

創造的関係性とは

では良い関係性とはなんなのか、それを作るにはどうしたらよいのか。松本氏は自身が考える良い関係性を「創造的関係性」と説明します。

新しいものや未知のものって、誰も正解がわからないですよね。正解がわからないものって、普通の人は恐怖を感じるんです。でもわからないから、怖いからそれに触れないのではなく、自分はそれに対してどう思うか、どんなことを感じるか、自由に話したいことが話せること。そして話したことや自分の想いが他者に受け入れられること。そういった経験を通して築かれる「新しいことや未知のことを楽しみあえる関係性」のことを「創造的関係性」と呼んでいます。

そこで松本氏は、創造的関係性をはぐくむ触媒となることを目的に、グラフィックによって対話の場をデザインする「グラフィックカタリスト・ビオトープ」というチームを結成します。

同チームでは以下のような手法を用いて対話の場をデザインしています。

  • グラフィックレコーディング
  • エモグラフィダイアログ
  • ストーリーテリング&ハーべスティング

実際の事例としては、人工知能をテーマにした勉強会での「エモグラフィダイアログ」の活用事例が紹介されました。

このイベントは専門家や有識者だけではなく、私たち一人一人が今後どのような社会を作っていきたいのかを話し合いたいという考えから企画されたそうです。

当日は様々な分野の専門家と一般参加者約90名の参加者が集まりましたが、一般的なグループディスカッション形式にしてしまうと、知識に応じて参加者の話す量が変わってしまうこと、意見を戦わせたり正解を出そうとする討論になってしまうこと、本来目的としていた「私たち一人一人が今後どうしていきたいのか」というテーマからフォーカスがずれてしまうことが懸念されていました。

そこで100通りの表情を使って全員が自分の想いを描いて表現し伝え合う「エモグラフィダイアログ」という手法を使って対話を進めました。これにより、参加者が皆、平等に意見を言い合えるのと同時に、「自分自身がどう思うか、どう感じるか」を軸にした対話を実現することができました。

創造的関係性をはぐくむために

松本氏は「正解がないもの、未知なもの」に立ち向かう「創造的関係性」を築くためには、対話の場を適切にデザインすることがとても重要だと力説します。

今回のセッションに共感した人に向けて、やってみてほしいことは以下の4点だと締めくくりました。

  1. 自分の「解釈」を楽しみ、大事にする
  2. 言葉になっていなくてもよい。感情を大切にする
  3. 相手の話に耳を傾け、味わう。その人の存在や想いを承認する
  4. これらができる仲間を見つけ、成功体験を積み重ねる

セッション資料

元UXデザイナーは、今何をデザインしているのか? – セッション資料


3. UXデザインを浸透させる3つのアプローチ

3セッション目は楽天株式会社のUXデザイナー中川氏が登壇し、組織にUXデザインを浸透させるための取り組みについて語ってくれました。

楽天市場をはじめとするECサービスのUXデザイナーである中川氏が掲げるミッションに、「UXデザインができる人を増やす」というのがあるそうですが、

  • プロセス、スケジュールにUXデザインを入れる余地がない
  • UXデザイナーが何をしてくれるのか認知されていない

などの課題に直面します。

加えて、プロジェクトの数が膨大で優先順位をつけざるをえない環境下では、UXデザインのプロセスをリードできるUXデザイナーを増やすというよりも、プロジェクトに関わる全員がユーザー体験のことを当たり前に考える文化を作っていくほうが望ましいのではないかと考えました。

できることから始めてUXデザインの実績を作るしかないと考えた同氏は、自ら大小様々なプロジェクトに関わることでUXデザインがどういった価値を生むことができるのかを提示していくと同時に、UXデザインの考え方を広めるために大きく3つのアプローチを取ります。

コンセプトメイクキット

1つ目のアプローチは楽天市場の企画ページをプランニングするために作られた「コンセプトメイクキット」というフレームワークです。

※以前UX MILKでもインタビューで中川氏に直接お伺いしたことがあるので、よければこちらもご覧ください http://uxmilk.jp/61877

コンセプトメイクキットは、プランニングにユーザー目線を取り入れるためのフレームワークシートとその使用法を記したガイドブックのセットです。上流工程でコンセプトを作ることで、その後の工程でも当初の狙いがぶれないようにする役割を果たします。

フレームワークは4つのステップから成り、企画担当者が各ステップに用意された問いに答えていくことで自然とUXデザインのプロセスを辿っていけるようになっています。

STEP1:オーダー整理

  • ビジネスゴール、取り扱う題材について書き出す

STEP2:リサーチ

  • 調査をして視野を広げる

STEP3:Q&A

  • 問いに答えることで、ペルソナ・題材とのタッチポイントを明確化する

STEP4:コンセプト

  • コンセプトとコンテンツ案に落とし込む

実際に使ってみた現場からのフィードバックはポジティブなものもネガティブなものもあったそうですが、印象的なところでは「フレームワーク」と言ってしまうことで、すぐに答えが得られるもののように誤解されてしまったかもしれないとのことでした。

もしかしたらこのフレームワークが、お金を入れたらポンとアイデアが出てくる自動販売機のようなものだと思われがちかもしれないのですが、どちらかというと、料理みたいに何度も試して、自分なりに工夫を重ねてこそ自分のものになる『料理のレシピ』のようなものだと伝えるようにしています。

新人研修&社内勉強会

残りの2つのアプローチは、新卒に向けた研修と複数回にわたる勉強会です。

UXデザインを浸透させるにあたり、コンセプトメイクキットは自分のやり方が固まっている中堅層を対象に「トップダウン」で取り組んだ一方で、新人にはユーザー視点で考えることが当然であるという「刷り込み」をするほうが効果的なのではないかと考え、新卒研修にUXデザインを導入しました。また、既にUXデザインに興味があったり実践し始めている層には「深堀り」する機会も必要と考え、より具体的な手法を学ぶ目的で複数回にわたる勉強会を行っているそうです。最後に中川氏はこう締めくくりました。

ご紹介した3つのアプローチのような取り組みは始まったばかり。これからも引き続き、ユーザー視点で考えることが当たり前にできるような環境作りを推進していきたいです。

(※セッション資料は非公開です)

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提供:インフラジスティックス・ジャパン株式会社
企画制作:UX MILK編集部


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