人を幸せにするデザインの法則

Pamela Pavliscak

Pamelaは人がどうテクノロジーと対峙するかということについて研究しています。彼女の著書はエスノグラフィー、データサイエンス、行動心理学と、広範囲に渡っています。Fortune 500sや新規事業他を担当するデザイン調査会社、Change Sciencesの創始者で、オンラインで議論したり、複雑なデータを解析している時以外は、あらゆる形やサイズのデータを用いたエクスペリエンス向上についての執筆や公演に勤しんでいます。

この記事はThe UX Boothからの翻訳転載です。配信元または著者の許可を得て配信しています。

The Science of Happy Design

テクノロジーに関する様々なニュースを見ると、Webサイトやモバイルアプリ、ソーシャルメディアなどは、私たちに悪影響を及ぼす場合もあるようです。おそらく、テクノロジーは不安を与え、スマホは時間を奪い、ソーシャルメディアは私たちを情報中毒にしてしまうものなのでしょう。

「幸福とテクノロジー」と検索すると、テクノロジーが私たちにもたらす悲劇についての記事が何百も見つかります。しかし、それは事実なのでしょうか?  私たちが好きなWebサイトや信頼しているアプリは、幸せを与え、良い影響を与えるものではないのでしょうか?

人を幸せにするデザインには法則がある

テクノロジーでUXをもっと良くしたいと考えている人は、私の調査結果を見てがっかりするかもしれません。テクノロジーと幸せとの相関関係を前向きに捉える調査結果もいくつかありますが、ほとんどは、テクノロジーは幸福感を損なうものだという前提に立って調査したものです。人を幸せにするのはアプリやWebサイトではないと知って困惑するかもしれません。どうやら、幸せは画面の中では見つけられないようです。

と言っても、Webサイトを使って喜んでいる人を私は実際に見たことがあります。また、スマホを見て微笑んでいる人や、アプリがいかに自分の生活を良くにしたか話してくれた人もいました。しかし、どのようなデザインが私たちを幸せにしてくれるか良いデザインがいかに心理学的な法則を上手く利用しているかについての議論はありますが、それは希少で、データと呼べるものはほとんどありません。

そのため、2年前に私は、幸福とデザインの関係をオンラインで追跡調査する研究を始めました。当時、私の会社があるイベントを開催しました。そのイベントのために、ユーザーの反応に関するデータ収集し、イベントでの体験についてユーザーがコメントできる機能や、「幸福度」、「熱中度」、「使い心地は良いか」、「もう一度やりたいと思うか」、「人に勧めたいか」、などの質問をできる機能を備えた専用のアプリを作りました。このアプリで得たデータによって、「短期的な幸福度は人の長期的な振る舞いに影響を与える」という私の仮説は正しいと確認する事ができました。

私は同時に、サイトやアプリを使っているときに何がユーザーを幸せにするのか知りたいとも考えていました。これは、笑顔になった時やひらめいた時、夢中になった時など、幸福に関係する感情が生まれるパターンを探ることにもつながります。最終的に、ファン数、フェイバリット数、いいね数やフォロワーの数よりも感情や会話に重点を置いたソーシャルメディアでのヒアリングを行いました。この複合的なアプローチは、UXの調査を目的としたものであると同時に、事例の収集とデータの民族学的分類のためでもありました。

「テクノロジーが幸せを与える」は本当だった

eコマース、エンターテイメント、健康、旅行、金融など262のサイトで、6,640人を対象に幸福についての調査を行った後、私は幸福と振る舞いの関係について調べ始めました。

1. 良いサイトは人を幸せにする。非常に高い評価を得たサイトは、そうでないものに比べて90%以上も高い幸福度があると分かりました。AmazonやAlly、Appleなどがこのカテゴリに入ります。

2. 「もう一度利用したいか」、「他の人にも勧めたいか」は幸福度と相関関係がある。もちろん、幸福度の高さだけがサイトをもう一度利用したい理由ではないでしょうが、感情とその後の振る舞いには強い関係があります。Healthcare.govをサイトの開設時と数カ月後の2回調査してみました。最初の調査では、幸福度と「もう一度利用したい」という希望は全調査対象の中で最低(それぞれ35%)でした。しかしサイトが修正された2回目の調査では、幸福度と、「もう一度利用したい」、「人にも勧めたい」という感情のどちらも高くなるという事が明らかになりました。

3. 幸福感を与えるサイトはソーシャルメディアでもポジティブな反応を得られる。幸福度上位20位のサイトはソーシャルメディアでも良い印象を与えていました。しかし、レビューした人たちから好感を持たれているサイトが必ずしも幸福感を与えるサイトという訳ではありませんでした。例えば、Hipmunkはレビューする人たちやデザイナーを楽しませていましたが、それを使ったからといって幸福度が高くなる、というものではありませんでした。

一般的に、あるサイトを利用している時の幸せな気持ちは、そのサイトから去った後も続くということが分かりました。これはユーザーの後のアクションを予想する手がかりとなります。幸福を感じた人は再びそのサイトを利用することが多く、また、他の人とシェアしようとします。サイトの幸福なUXはどんどん広まっていくのです。

幸せは非日常から生まれるのか

ユーザーを喜ばせることはUXの専門家にとって究極のテーマです。知っている人にとっては、喜びは賢さであり、輝かしいものであり、少し自己言及的であるともいえます。一方、一般の人にとっては、喜びは不安から生まれる場合もあるのかもしれません

オンラインであれオフラインであれ、幸福は非日常的な状況から生まれるものではありません。幸福は心地良さ、満足、喜び、楽しみ、そして至福といった領域からなります。

基本的な要求さえ満たされれば、幸福感はちょっとした事で作り出すことができます。UXに詳しい人は、ほんのちょっとの改善でUXを向上させられることを知っているでしょう。これらの法則はこの調査でも同様に見られました。

・ユーザビリティが基本である。基礎となるユーザビリティを備えていなければ、幸福度は低くなる。達成率90%以下のサイトや85%以下と予想されるサイト、使いにくいサイトは幸福度も低い。

・滞在時間が長くても幸福度が低くなる場合がある。ユーザーがサイトに滞在している時間は平均5分間だが、実際にどれだけ使用していたかは環境による。長く滞在したかそうでないかは幸福度と関係しない。しかし、目的を果たせないままサイトに滞在していると、幸福度は低くなる。

・親しみやすさは幸福度を高める。ユーザーはよく使うサイトに幸福感を感じやすいが、そこにはひいきの感情もあると考えられる。なぜなら、人は自分が持っているものや自分が何かしようとしている対象には愛着を感じるものだからである。例えば旅行関係のサイトでは、ExpediaやKayakといった、一般的によく使われるサイトは幸福度が高いが、HipmunkやJetsetterのような、あまり頻繁に使われない価格比較サイトは幸福度が低い。

・今、幸せであるということは、のちに幸せを感じられるということと等しい。幸福は人々との相互関係から生まれる。従って、Amazonのような、製品を動画で理解し、購入した商品がどう役立つか学べ、役に立つレビューを見られるサイトは、後々まで幸福の余韻を残すことができる。

・幸福度が高くなると熱中度も上がる。幸福度の高さとサイトの滞在時間は関係ないが、幸福度が高くなるほどユーザーのサイト操作が増えるのも事実である。つまり、より幸福度の高いサイトほど隅々まで見られている。

このように、人に幸せを与えるサイトは、「ささやかな」良い点がたくさんあるサイトです。予想を大きく裏切るようなものを作るよりも、細かな改善を繰り返す方がより大きな効果があります。

UXデザイナーが注意するべき3つの原則

残念ながら、ほとんどのオンラインでの体験は、「それなりに良い」という程度のものであり、大半のアプリが人に大きな幸福感を与えられるものではありません。では、何が人々を幸せにするのでしょう?  データに基づくと、何が人を幸せにするかしないかには明らかなパターンがあることが分かります。UXデザイナーが仕事をするときに考慮するべき三原則をお教えしましょう。

1. ユーザーの自主性を最大限に高められるようデザインする

やりたいことを自分なりの方法でできる使いやすいサイトは、幸福度も常に高くなります。この法則は特に、ユーザーが面倒な作業をしなければならないサイトにおいて顕著です。つまり、eHealthのような、面倒な作業をとても分かりやすくしたサイトでこの法則は見られます。eHealthには、「健康保険料を計算するのが思っていたよりもずっと簡単だった。おかげで、どうにかなりそうだという気持ちになれたよ」という感想が寄せられました。難しい作業を簡単にできたときほど、幸福度は高いのです。

Ehealthは複雑で怖気づくような健康保険の計算を、友だちと対話するような形式で実行することができます。

Ehealthは複雑で億劫になるような健康保険の計算を、友だちと対話するように実行することができます。

自主性は、難しそうだと思ったことをマスターしたときにも現れます。あるユーザーのコメントを見てみましょう。

Comedy Centralのケーブル情報にログインする方法を理解するのは難しかった。でも、やってみてとても満足だ。どうやれば良いか弟にも教えてあげようと思う。

至福の体験は、このような達成感から生まれます。達成することで得られる幸福は間違いなく他の人にも伝えられていくのです。

2. 豊富なコミュニケーション方法をデザインする

ある専門家は、ユーザーは選択肢をたくさん与えられるほど、より幸福を感じやすいと言っています。選択肢が多いことで、多様性とリスクの低さのバランスがちょうど良く、より幸福感が得られるようです。例えばPNC Home Lendingのページのような、家の購入を考えるにあたって住宅ローンの面倒な計算をするために新しいことを学ぶ必要がなく、個人情報に悪影響を与えるようなリスクもなく、多様な選択肢が与えられたサイトは、ユーザーに満足感を与えることができます。

PNC Home Lendingサイトにある各タイルは、家の購入決断に際して必要な要素を表しています。

PNC Home Lendingサイトにある各タイルは、家の購入決断に際して必要な要素を表しています。

同様に、強烈な体験が提供されていて、その体験を味わうことのできるサイトは幸福度が高くなります。Appleはこの原則に従っています。このことは、ある調査に参加したユーザーの感想に表れています。

新しいiPadを買う余裕はなかったんだけど、サイトから離れられなかったよ。どの部分も面白くて、考えることが楽しかったからね。

IKEA、WebMD、HGTVなどもこの原則にあてはまるサイトです。人々はサイトを探検する楽しさを味わい、幸せな体験をしてサイトを去るのです。

3. 人気(ひとけ)を感じられるデザインをする

機械や、味気ない企業とやりとりしたい人はいないでしょう。幸福感を与えるサイトは、友達のように親しみやすい表現のものが多いのです。

「リアル感」こそスタート地点です。人は、作りものに見える胡散臭いレビューには敏感で、あまりにも偉そうなものは嫌います。しかし、作り手が自分を楽しくネタにするようなユーモアはオンラインでも幸福感を生みます。エラーメッセージページ集を見てみると、そのことがよく分かります。

NPRのPage Not Foundページは、ブランドイメージを損なわずに楽しいユーモアを混じえ、次にどうするべきかユーザーに示唆するものになっています。

NPRのPage Not Foundページは、ブランドイメージを損なわずに楽しいユーモアを混じえ、次のアクションをユーザーに教えるものになっています。

一言で言うと、ユーザーの背景を知らなければ、旅を案内する地図を提供することはできません。再びAmazonに対するコメントですが、ある参加者がこう言いました。

Amazonで何か買おうとする時に、それがすでに買ったことのあるものならちゃんと教えてくれるんだ。おかげでバカな事をしたと後悔せずにすむよ。

大きな特徴であれ小さな変更であれ、思いやりのある振る舞いはオンラインであってもユーザーを幸せな気持ちにします。

人は、最低限なら自分の情報をサイトに与えてもかまわないと思っていますが、必要以上に与えたいとは思っていません。ある参加者はこのことについて、

Home Depotが、数あるペイントブラシの中から私が購入したものがどれか覚えていて、それをおすすめするために私の位置情報を利用するのは別に構わない。でも、日常的にそういう情報を知らせてほしいとは思わない。

と言いました。つまり、「位置情報を得て、過去の購入履歴を追跡し、おすすめを引き出すのは構わないが、それを使って一線を超えることはやめてほしい」ということです。

ユーザーを幸せにする特効薬はありませんが、私たちUXデザイナーは、テクノロジーをユーザーの喜びの種にする特別なチャンスを持っています。必要なのは少しのデータと、ささやかな努力なのです。


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