AppleのiPodは瞬く間に登場し、音楽プレイヤー市場を席巻したように捉えられがちですが、それは本当に一瞬のことだったのでしょうか? Amazonは書籍のマーケットをすぐさま変えて見せたのでしょうか? 端から見るとこれらは突然ブレイクしたかのように感じるかもしれませんが、実はそうではありません。
他業種に比べて移り変わりが早く、勢力図がめまぐるしく変わっていくインターネット市場でさえも、サービスがブレイクする(成功する)には何年もの歳月が必要なのです。成功にたどり着くまで、何年間もの苦しい努力、忍耐、学習、検証、そして失敗があります。そして、時にはブラウザ上でやたらとJavascriptが動きまくっているGmailの開発(当時はメールはクライアントで見るのがスタンダードだった)のような、ほぼすべての人が嫌がるようなプロジェクトを進行していくこともあります。
突然ブレイクしたかのように見えて、実は長い年月を費やした例
twitterの設立者Biz Stoneはtwitterを設立するまで8年間、ブログ、モバイルやソーシャルに関わるプロダクトを作っていました。彼はこう言います。「タイミングと忍耐、そして10年間に及ぶ試行錯誤が、最後には人が束の間に成功したかのように見せるのです。」―Timing Lessons
別のtwitterアカウント―The Non-Overnight Success: How Twitter Became Twitter
Apple iPod
3年間という歳月の末、Appleはブレイクしました。「最初のiPodは2001年に販売されました。そして年内に、Appleは人間工学を改良してiPodの第2世代を販売しました。しかし販売が軌道に乗るまでは2004年の第4世代の販売まで待たなくてはなりませんでした。」―Apple’s “Overnight” Success!
原文はBill Buxtonの名著Sketching User Experiencesをご覧ください。
37signals
「私達が5年前にBasecampを販売した時、RSSフィードに申し込んだ人は2000人に満たなかったように思います。手動でサイトを見ていた数千人を含めて、私達の初期の顧客は5000人未満と考えるのがおそらく妥当でしょう。今日の基準で考えれば非常にちっぽけな数です。しかもこれだけの顧客を獲得するのにさえ数年かかったのです。―Overnight success takes years
Gmail
「私達は、2001年の8月にGmailを手掛け始めました。長い間、私達のほとんどはこの事業が好きではありませんでした。(中略)非常に多くの人が、このプロジェクトは潰すべきだとか、ブラウザ上でやたらと動いているJavascriptではなくネイティブ・クライアントとして一からやり直すべきだと思ったでしょう。プロジェクトの着手から2年半後、リリースに至った2004年の4月1日になってもまだ、多くのGoogle内部の人間は悲観的に見ていました。―Overnight success takes a long time
Amazon
Amazonは1994年に世に出ましたが、書籍のレビューを1996年に始め、CD事業に1998年に参入した程度でした。Amazonが最初の7年間は商売があがったりであったことも心に留めておきましょう。
多くのスタートアップ企業
「あなたもできる」というブログメッセージとは反面、スタートアップ企業を見ていると、最初の100人の顧客を獲得するのにどれだけの時間がかかったか、そして利益が出るようになるまでどれ程の忍耐が必要だったかが分かります。―There’s No Myth, Only Years Of Hard Work、 Bootsrapping a Company、Lessons Learned from 5 Years of SaaS
Angry Birds
スマホゲームのAngry Birdsは大きな成功を手にしました。しかしデベロッパーのRovioはそれまでに50本あまりのゲームを制作し、倒産寸前でした(より詳しくはこちら)。
FedEx
Frederic W.Smithによる、鉄道でのデリバリーサービスは1965年に生まれました。その後、1973年からFedExは操業を開始(第1日目は7個の小包だけでした)したのですが、最初の26ヶ月で2900万ドルの赤字を抱え、1970年代後半に至るまで成功することはできませんでした。―Frederic W.Smith: No Overnight Success、FedEx Corporation: The Creation of Overnight Air-express Industry
The Beatles
一見、The Beatlesはヒット曲の連発と1964年のEd Sullivan Showで一気に名声を挙げたように見えます。しかし、彼らは1957年以来ずっと、リバプールとハンブルグの小さなクラブなどで演奏をしてきていたのです。初期のころから売り込み活動をしていたにもかかわらず、サージェントペパーズが世に出され、最初にブレイクしたのは1967年のことでした。―Overnight Success: It Takes Years
詳細に関してはMalcolm GladwellのOutliersをご覧ください。
Tiger Woods
彼は最年少でマスターズ優勝を果たしましたが、人生すべてを賭けたといってもいいほどの練習をしていました。「彼は2歳になる前にゴルフに出会った、神童だったのです。」―Tiger Woods(Wikipedia)
更なる考察
・「束の間の成功といった考えは非常に誤解を生みやすい上に、この産業の長期的、持続的成長への期待を傷つけ得るものでもあります。(中略)どんなビジネスであれ成功を手にするのには何年もかかります。例外はほとんどありません。」Spotifyの設立者の一人、Daniel Ekは言います。「ブレイクするには時間がかかる。Daft Punkの言葉を借りるならば、『より働き、より改善し、より迅速に、より強くなれ。時間は過ぎていくが、やるべきことは決して終わらない。』といったところでしょう。」
・Seth Godinはこう言います。「事業の過程で、ブレイクすることこそが、唯一価値のある成功だと自らに信じ込ませる人間もいました。これは、最初の1週間でベスト1のヒットを出さなければ失敗だとみなすようなものです。もしくは、インターフェースが完全なオリジナルでなかったり、開店日に5000人の行列ができなかったら失敗だと決めつけるようなものです。」
・Barrie BergmanはChange Thisのマニフェストにこう書いています。「個人的な話をすると、私はブレイクした経験のある人とはありません。何かに長い間打ち込んでいて、突然世間から注目されたという人とは会ったことがあります。世間はそういった人を、下積みも無しにいきなり出てきた人、名声を一瞬で手にした人だと考えるのです。」
・「ブレイクと言うよりは、突然に世間から注目を浴びるという方が本質をついています。」とJonathan Fieldsは主張します。
付け加えておきますが、You Tubeは完全なる例外です。といっても、You Tubeが軌道に乗る時も5年間という年月がかかりましたが。