UXデザイナーたちの仕事は、多忙を極めています。調査、設計、依頼主とのやり取り、チームでの作業などの仕事をしていると、資料を作成する時間はほぼ残されていないと言えます。
それでは、資料を完璧にすることは時間の無駄でしょうか? そうである面も、そうでない面もあります。それは資料の「目的」と「有用性」によるでしょう。
一般的な資料、例えば文書として記録を残すという目的しか持たないものは、雑多すぎて無意味なものです。一方で、対象を絞り込んだ資料は有用かつ、役立つものとなる可能性を秘めています。
資料作成に時間をかけすぎてしまうことを防ぎ、その時間をデザインや調査にあてるためには、次の項目について考えると良いでしょう。
・このUXドキュメントは判断を下すのに役立ちますか?
・このUXドキュメントはあなたの部署で有用ですか?
この記事では、上記の質問に答える手助けになるようなアドバイスを、Codalにおける自分の経験をもとにご紹介します。
1. ドキュメントを意思決定のサポートにする
事実:
意思決定に役立つ場合、UXドキュメントは意義を持ちます。
考えるべきこと:
UXドキュメントを使う人はさまざまであり、そこにはデザイナー、開発者、品質管理担当(QA)、マネージャーが含まれます。彼らはみんな、各々の抱える一連の業務の中で適切な判断を下すために資料を活用しようとします(そうでない場合もあり得ます)。
実際、あらゆる資料は判断に影響を与える可能性をもっています。
アジャイル開発を念頭に置いて考えてみましょう。ある資料がアジャイル開発のあるタスクに影響を与える一方で、別の資料が多くのタスクに影響を与えていることがあり得るのです。
資料の有効期限を考える
この理由から、資料の有効期限を考慮に入れておくことが非常に重要となります。
これは投資対効果の問題です。
一般的には、例外はあるものの、資料が使われる期間が長くなるほど、資料の完成度を高めるのに要する時間も長くなります。これは、この資料がさまざまな場面において、判断を下すのに使われることに起因します。
言い換えると、UXデザイナーは本当に必要な時のみ資料を作成するべきです。そうでなければ、時間と費用を浪費していることになります。
しかし、資料の作成前に有効期限を定めるにはどうすればいいのか? と疑問に思うかもしれません。
資料の有効期限を決定するには、各種の活用例を見ていきましょう。
エンパシーマップが意思決定に与える影響
下記は、Codalで、ユーザーリサーチを元に作成したエンパシーマップ(empathy map)です。
このエンパシーマップの、有効期限について考えてみましょう。まず、誰が何の目的で資料を使用するか考慮する必要があります。
ユーザーリサーチから作られたエンパシーマップは、システム開発全体の戦略を左右します。もしこの資料がなければ、開発者やプロジェクト管理者は誤ったインサイトを導き出してしまうかもしれません。
つまり、エンパシーマップは製品にとって素晴らしい投資になります。資料の作成は、どの場面でも価値があるでしょう。
2. 資料を見る人の要件を満たす
事実:
資料は意思決定に寄与しますが、まだ有用とは言えません。
考えるべきこと:
開発者は、あるページの部品配置をどうするかの議論にいつも参加できるわけではありません。UXデザイナーやUIデザイナーの作成したデザインにただ従っているだけの場合もあるでしょう。そのため、たとえできが悪いものであったとしてもデザイン資料は開発の意思決定に影響を与えます。
良い判断を導く資料か
「判断に影響する」と「良い判断を導く」ということは完全に別物です。
資料は目的だけでなく利用者も考慮するべきと心に留めておけば、資料は利用者が良い意思決定をする手助けとなるでしょう。
その逆で、資料が利用者ごとの要件を考慮しない場合、UXデザイナーの意図が間違って伝わる可能性が高くなります。
利用対象が定まっていない資料の落とし穴を避ける手段は単純です。
- 利用者を推測する
- 資料の利用のされ方を分析する
- 利用者にわかる言い回しで資料を作り上げる
利用者の要求に沿ったドキュメント作成
次のような、インタラクティブなワイヤーフレームの採用も考慮しましょう。
使用目的を検証すれば、あらゆる資料の利用者の絞り込みが可能です。
静的なワイヤーフレームは、視覚的な骨組みとして使われる典型的なもので、UXデザイナーの考えをもとに、UIデザイナーがピクセルパーフェクトなモックアップを作成するのに使われます。
一方で、インタラクティブなワイヤーフレームは、開発者がインタラクションと依存性を検証するのに使われることがあります。品質保証(QA)の専門家が、インタラクティブなワイヤーフレームを使い、機能改善の際に開発者の作業結果をダブルチェックすることもあります。
インタラクティブなワイヤーフレームを用いるにあたって、次のように利用者を絞り込むことができます。
- UIデザイナー
- プロダクトマネージャー
- ウェブ開発者、モバイル環境開発者
- 品質保証専門家
資料に有用性を持たせるには、利用者それぞれの要求を満たすことが必要です。そうでなければ、作成した資料は無用なものになってしまいます。
LookThinkがUXPinで作成した注釈付きのプロトタイプのように、利用者の要求を個別に満たす方法もあります。
・UIデザイナー向け:画像やレイアウトを指定しましょう。
・プロダクトマネージャー向け:動作井が不安定な機能について注釈を残しましょう。ただし、スコープを超えてしまうかもしれません。
・開発者向け:複雑な機能をわかりやすくしましょう。また、実現可能性の入力を求めてください。
・品質管理専門家向け:どの機能が議論にあがっているか、またその内どれが承認されたのかを注釈として残しましょう。
3. フォーカスしてユーザビリティを改善する
事実:
ソフトウェアと同様に、資料の価値はユーザビリティに依存します。
考えるべきこと:
資料がどれだけ良い内容を含んでいても、読者が理解できなければ無意味になってしまいます。資料のユーザビリティが何かといえば、次の一言に集約できます。それは「フォーカス(focus)」です。
内容は絞り込むべき
UXデザイナーは仕事においてやり取りすべき事柄が山ほどありますが、これは多くの問題を引き起こす要因となりうるものです。
人間は無関係な情報を読もうとはしません。過去、2-30ページもの資料を読むことに嫌気が差した経験がある人もいるのではないでしょうか? 内容は絞り込むべきです。
例として、Codalの顧客事業として作成した、以下のサイトマップをご覧ください。
この資料は、内容が絞り込まれた資料です。
無関係な詳細情報や過剰な注釈はなく、全ての内容がたった1枚に収まっていることに注目してください。利用者は、過不足なく、目的の情報を受け取ることが可能です。
UXドキュメントで内容の絞り込みをするというのは、前述の目的と有用性の基本原則を適用するということです。上に示した資料は、この点をとてもはっきり示しています。
すべてを知る必要はない
UIデザイナーと開発者は、お互いの意思決定の背後にある理由付けすべてを知る必要はありません。理由付けは自問自答にとどめるか、重要な項目3点から5点に絞り込むようにしましょう。
もちろん、例外はあります。資料が品質保証部門向けであれば、ソフトウェアの機能に十分な動作試験が行えるように、理由付けのすべてを説明する必要に迫られるかもしれません。この場合でも、毎回必ず必要になるわけではありません。
資料は、ただの証拠文書ではありません。
UXデザイナーのみなさんへ。自分の時間を無駄にするべきではなく、それは同僚に対しても同じことが言えます。内容を絞り込まない資料の作成で時間を無駄にするのはやめましょう。資料を有用で意義あるものにすることに努め、無用な情報は削除しましょう。
利用者についてよく知り、彼らの要求に耳を傾けましょう。無用な情報がどれで、そうでないものがどれかの特定は、長い道のりとなることだと思います。作成した資料が意思決定で利用されるようにしなければ、資料作成は時間の無駄で終わってしまいます。
そして、関連する資料はひとつの場所にまとめましょう。
情報を一か所にまとめるのに加えて、拠点となる場所に説明書きを残しておけば、判断に必要な資料を探し求めて右往左往することはなくなります。