ユーザーを知ることは重要なことの一つですが、ユーザーの文化背景を知るとなるとそれはまた別の問題です。文化を考慮したとき、ペルソナ作りはまた違ったものとなってきます。
ペルソナは心象、言語、人種、そしてその周囲の人間によって変わっていきます。インターフェイスなどをデザインするときは、これらのすべての文化的要素が考慮されている必要があります。
この記事では、ペルソナにおいてどのように文化を考慮すればよいのかみていきましょう。
ペルソナとは?
ユーザーペルソナは特定のユーザー層の代表となりうる、理想的な人物像をつくり出すためのツールです。ペルソナは実世界のリアルな要素を含めることで、潜在的な顧客を理解するための重要な役割を果たします。
しかしペルソナはすべての潜在的なユーザーを代表するものではありません。ペルソナは、そのユーザー層の中でも中心となる(そしてもっとも割合の大きい)人たちとの強い関係を築くためにつくられます。
BufferのコンテントクラフターであるKevan Lee氏は、ユーザー層を把握するためには、最大3人から5人のペルソナをつくることを奨励しています。これらのUXペルソナには以下の3点が含まれていなければなりません。
・ペルソナに実在感をもたすための「名前」
・ペルソナの「役割や責任」の詳細と「日々の行動」
・ペルソナをイメージしやすくするための「視覚情報」
なぜ文化を考慮する必要があるのか
文化の違いは、インターフェースのアプローチ手法に大きく影響を与えることがあります。あなたの考えている動作が、他の国で同じ意味をもっているとは限りません。
A Human Factors’ article by Nehal Snahで概要が述べられていますが、私たちは多くの異文化の違いについて考慮する必要があります。例をみていきましょう。
・言語:もっとも大きな文化の違いは言語です。概念や考え方はきちんと伝わるものもあれば、翻訳の過程で意図が抜け落ち、伝わらないものもあります
・メタファー:すでに述べたように、画像や絵などは違う文化圏ではまったく違うものを意味するかもしれません
・色:とある文化圏では情熱を意味する赤色が、別の文化圏では危険や注意を意味します。色の選択は全体の体験に重大な影響を与える可能性があります。色がどのように文化に影響を与えているかについて知りたい方は、Web Designer Depotの記事をチェックしてみるといいでしょう。
文化を形成する4つの要素
Lex Sisney氏の組織の物理学によると、文化とは主に4つの要素によって形成できるとされており、その要素とは「価値観」、「風習」、「物語」、そして「報い」です。Sisney氏の説明の概要は以下です。
・価値観:価値観はこれらの中でも大部分を占める要素です。人は物事に対しての感じ方を変えようとはしません。これは文化の中でもっとも重要で、個人・集団問わず行動規範や目的思考のベースとなっています。
・風習:儀式は価値観を具現化したようなものです。これは大きい祝い事から小さい風習までさまざまで、たとえば「マイルストーンを祝う」などのようなものも含まれます。
・物語:物語は理想的な価値観とそれに付随する風習の目的を説明するためにあります。これによって、価値観を共有し、より強固にします。
・報い:価値観を共有できない人間は報いを受けます。これは文化からはみ出すことは許されないことを表明する行為にもなります。
ペルソナをつくるとき、文化とその価値観は重要な要素です。まず、ユーザー層がもつ価値観、そして彼らがどのようにそれを支えているのか理解する必要があります。その構造にフィットするペルソナを、文字や視覚情報で形成した上で、物語を描くのです。
たとえば、マクドナルドの「ハンバーグラー」というキャラクターは漫画のキャラクターから次第に実写に変わっていきました。この変化はマクドナルドの顧客の文化的変化と求める像の変化を示しています。
さて、文化を考慮したユーザーペルソナのつくり方をさらに深掘りしていきましょう。
文化を考慮したデザイン事例
さて、どのようにしてユーザーを知ればよいのでしょうか? データや分析結果、そしてヒアリングの情報などに基いていくと、理想としているユーザー像に近づくことができます。
Nikeサイトの例
上記のNike SportswearのWebサイトから、どのようにデザインが形成されていったかみていきましょう。このようなデザインになるまでに、開発チームは多く問いかけをしてきました。
ユーザーペルソナを開発するために鍵となる質問について考えてみましょう。
・ペルソナはどのような人物か?(性別、年齢、スタイル、学歴)
・どこに住んでいるか?(何語を話すのか)
・どのような仕事をしていて、どのような職歴か(人生経験を聞く)
・どのような関心をもってあなたのサイトに来るのか
・どのようなクラスタに属しているのか。このペルソナはそこにいる人たちに影響力はあるか
・ペルソナはなにを求めていて、どのような状況で意欲を出すのか
以上を踏まえつつ、上と同じNikeのサイトのフィリピン版において、このような質問がどうデザイナーの判断に関与したかを考えてみましょう。
上記2つのNikeのサイトは同じタイプの商品を売っていますが、商品の特徴は少し違っており、サイトのレイアウトにも変化がみられます。
フィリピンの顧客はアメリカの顧客と同じ関心をもっていないのかもしれません。そこから、顧客はどこに住み、どこのクラスタに所属するのかといったそのほかの質問に左右されます。これらの質問を投げかけ、答えを調査することで、違う文化圏でも適応できるようになります。
ペルソナをビジュアル化する
文化はペルソナを牽引するもっとも大きな要素かもしれません。なぜかというと、文化は顧客がもつ価値の根幹をなすものであるからです。宗教、性別、権力、知名度、ファッションや行動様式など、あらゆる要素が文化を構成します。
ビジュアルを正しく使えばユーザーとよりつながることができます。逆に言えばここで失敗するとユーザーは離れていきます。注意して考える必要がある要素は以下の通りです。
・色:上記でも述べたように、文化圏によって色の意味合いは変わってきます。
・記号:特にジェスチャやサインを示すようなビジュアルには注意を払う必要があります。
・ファッション:とりわけ服装は重要で、ユーザーのスタイルと合っている必要があります。
・環境:ペルソナがどのような状況に置かれているかを考えましょう。
・言語:ペルソナはどの言語を喋りますか? 上記でも述べたように、うまく翻訳されない表現もあります。同じ言語的文脈を使いましょう。
・字体:フォントなども適切なものを選びましょう。文体についてきちんと調べ、特に男性的か、女性的かなど、考慮してみましょう。
・描写:つくるペルソナは実写、イラストもしくは文字のみでも、自由です。
Heinekenのサイトの例
下記の3つのHeinekenのホームページをみてみましょう。それぞれ、国やその文化圏が重要視するものによって違っています。これはそれぞれのユーザー層とつながるためのペルソナ作りの簡単な例です。
アメリカ版のサイトには面白いペルソナが載っています。
ここではクリスマスなどの冬のホリデイシーズンのイメージで、明るい色と前向きなメッセージがみて取れます。ユーザーは小さい小洒落たバーで友人とこのボトルを傾ける様子を思い描くことができます。
男性、女性の区別は強調されていませんが、映画のジェームズ・ボンドとタイアップし、フィーチャーすることで男らしさを強調しています。さらに、このサイトではジェームズ・ボンドのようになりたいペルソナへアピールしています。
オーストラリアでは、Heinekenのペルソナはよりスポーティーなものとなっています。オーストラリアオープンとタイアップすることで、(アイコンのビジュアルとザラザラな背景も相まって)男らしさを醸し出しています。
ここでのペルソナは学生時代、クラスで一番イケているグループにいた、人気者キャラで、スポーツの試合があるときはいつもビアガーデンにいるような人です。ユーザーはその人と絡みたいと思うでしょう。
南アフリカのHeinekenのペルソナもまた男らしさを演出しているもので、こちらはサッカーと結びつけ、サッカーの広告タイアップCMやハイライトをみれるようになっています。
ここで面白いのは一つのペルソナに対して複数のイメージを描写しており、年齢や人生経験問わず、すべてのユーザーがハイネケンを飲むスポーツ選手に自分自身を投影できるようになっています。
Heinekenの3つのデザインをみると、このブランドは全体として男らしいペルソナを思い描いているのがわかります。体育会系で、いかにもビールを飲んでいそうな強い男性です。
しかしそれぞれのペルソナは「有名人」のイメージを通して文化的なの要素と結びつけています。
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ペルソナをつくることはユーザー層とよりよい関係を築くためのプロセスですが、とても骨の折れる作業です。このプロセスにおいて、文化が鍵となるということをまず覚えておいてください。
これは素晴らしいユーザー体験を築くための序章にすぎません。ペルソナや参考文献についてさらに知りたい方は無料のE-Book、『The Guide to UX Design Process and Documentation』もチェックしてください。