UXデザインについて考えるとき、インダストリアルデザイナー達がテーブルを囲んで、ボタンの形や色など様々な要素について議論している光景を思い浮かべる人がいるかもしれません。
確かにUXにおけるビジュアル要素は重要なものであることに変わりはないですが、全ての知覚要素がその製品全体の体験に貢献するのがUXです。
デザイン性に優れたApple Watchなどのウェアラブル製品が人気になったことで、UXデザインが技術製品を成功させるために必要不可欠であることが、改めて証明されました。ウェアラブルの登場によって、考慮すべきデザインの課題が浮き彫りになってきました。
今回はApple Watchを例に、UXデザインがどのような変革の中にあるのか、そしてデザイナーが次のウェアラブル製品に関連するプロジェクトの立ち上げる場合、何に注意を払うべきか見ていきましょう。
縮小された画面サイズ
Apple Watchが小型に開発されたことで、UXデザインにおいて革命が起きました。Apple Watchは小さな画面ながら、多様な機能と軽快な操作感が魅力的です。もしApple Watchが、iPodやiPhoneの普及率に届いたら、確実にウェアラブル製品の時代が来たと言えるでしょう。
小さな画面と、デバイスの装着位置の関係から、Appleのデザイナーは製品の操作を豊かなものにするために、既存の型を壊す必要がありました。例えばメッセージの送受信をするにも、小さな画面内では、表示される要素を効率的に配置しなければならず、またその画面の中で何が起きているのか、簡単に理解できるようにしなければなりません。
更に、一般的に腕時計は邪魔にならないように手首に装着するものなので、そこでのインタラクションは素早く手短に済ませられるようにすべきです。
大きな構想を小さな画面へ
モバイルでのデザイン経験のあるUXデザイナーにとって、時計の構造の中に従来の様々な要素を詰め込むためには、要素の縮小やスリム化が重要となってきます。これは実際、余分なものを最小限にしつつユーザーニーズを基に製品デザインを行う、現行のUXデザイナーの仕事とほぼ同じです。
しかし、ウェアラブルをデザインするとなると、新しい技術を使って何かかっこいいことをしたいと思う人も多いでしょう。アイデアがより大きく肥大していく一方で、実際につくる余地はどんどん小さくなっています。
デザイナーと開発者は今後、「大きな構想を小さな画面に落とし込む」という考え方にシフトしていかなければなりません。もし、このことについてより詳細なアドバイスが必要であれば、ウェアラブルに対するUIデザインという記事を参考にしてください。
制限される操作手段
不快感なく時計を装着するために、操作するための機能は大幅に制限されています。
例えばApple Watchには、デジタルクラウンと呼ばれるコントローラーが付いていますが、これは画面の見え方に影響を与えることなく、画面内をスクロールすることができるように付けられています。
スワイプ及びタップする行為は、小さな画面用に再定義され、別のサイドボタンを使うことで「友達」の画面にすぐにアクセスできるようになっています。
多くの携帯型デバイスを開発して、複数のボタンでデザインすることに慣れているデザイナーは、1つのボタンで様々なことが行えるようにするためのデザイン様式に適応する必要があります。
PCからモバイルへのシフトというトレンドも非常に重要です。ユーザーがよりモバイルを好みPCを見放すようになったため、UXデザイナーはモバイルユーザーの行動を研究するパイオニアとなってきています。
Apple Watchの人気から、これらの研究の必要性はますます増していくことでしょう。
情報の取捨選択
しつこく書きますが、画面内で表示できるものが限られているために、Apple Watchでは表示しているものを有効活用しなければなりません。Apple Watchの優れた機能である「グランス」では、アプリを開くことなく、重要な情報を見ることができます。
UXデザイナーは多くの重要な情報を、小さな場所に凝縮する方法を考える必要がありますが、それが実現不可能な場合、ユーザーにとって関連する情報を伝えるための、他の手段を考えなければなりません。
これは、UXデザイナーが一つのデバイスの中で考えるのではなく、複数のデバイスを通してのやり取りも考慮しなければならないことを意味しています。
インプットのニュアンス
Apple Watchを便利なものにするために、既存のジェスチャー及び動きにより多くの機能を持たせることは非常に重要です。これはApple Watchの新しいタッチ機能についても当てはまります。Apple Watchはタッチしただけで、力や圧力までも感じ取ることができます。
例えば、Apple Watchは盤面を押すと通常のスクリーンメニューを表示します。新たに追加された「フォースタッチ(Force Touch)」という機能は、小さくまとまったデバイスの中で、従来の「タップ」のような働きをします。スマホのインタラクションと比べて、Apple Watchのインタラクションではユーザーの意図を読み取るための手段と要素が増えます。
これはデザイナーにとって新たなインタラクションを考案するチャンスであるとともに、モバイルユーザーの入力を検出するときにはリスクともなります。感圧機能を使いやすくするために、どの位の力だと強すぎて、どの位の力だと弱すぎるのか? といった問題を、UXデザイナーは近い将来、新たに答えを見つけ出していかなければいけません。
つまり、Apple WatchにおけるUXの哲学は、多くのことをより少ない手段で行えるようにするということがほとんどなのです。この目的を達成するために、競合のプロダクトやベンダーが次々と挑戦をしていくことでしょう。
ほぼ間違いなく、機能性に優れた画面を持つウェアラブル機器で、Apple Watchよりも更に小さい製品が出ることはないでしょう。Appleの小さなデバイスに対するUXデザイン方針は非常によく考えられています。
まとめ
次世代のウェアラブルを開発すべくガイドラインを探しているUXデザイナーがいるのなら、まずはApple Watchを研究するところから始めるといいでしょう。AppleのヒューマンインターフェイスガイドラインのApple Watchの項目を参考にし、スマホの場合との違いを比べてみましょう。
上記に挙げた、新たな考慮すべき点を念頭に、ウェアラブルUXデザインの新たな波に乗りましょう。