サンフランシスコのUI/UXデザイナー、Jessie Chen氏が母国中国の巨大メッセージングサービスWeChatについて細かく説明しています。国内や米国では別アプリとなるような多くのサービスを統合し、8億人を超えるユーザーに使用されているWeChatのサービス体験とはどういうものなのでしょうか?
この記事ではWeChatの様々な機能などに迫り、中国の生活に根付いているかを紹介します。中国でビジネスを考えている方向けに、WeChat展開が不可欠な理由などにも触れたいと思います。
WeChatとは
WeChatは2011年に中国のインターネット企業のTencentがリリースしたメッセンジャーアプリで、そのユーザーは8億人を超えます。WeChatは、WhatsApp、 Facebook、Skype、Amazonなどが合わさったようなアプリで、とてもユーザーフレンドリーにできていて、生活にまつわるほとんどのことがこれ一つでできてしまいます。
アメリカでは用途に応じてアプリを多数使い分けるのに対して、中国ではその多数のアプリの機能を全てWeChatで済ませることができます。
WeChatが中国ビジネスでの鍵となる理由
1. ユーザー体験重視
WeChatは友達との会話から、日々の出来事の共有、食べものの購入やクレジットカードの支払いまで、ありとあらゆる場面で人々の生活に関わっています。インスタントメッセージ、EC、銀行取引、出会い、ゲーム、マーケットが一つのプラットフォームに統合されているわけです。
人々はそこで、買い物をしたり、食料や本を注文、診療の予約、近くの空きのある駐車場の検索、ホテルの予約、メイドやベビーシッターを雇ったり、タクシーを呼んだりすることができます。さらには、携帯電話端末を振ることで、世界のどこかで同じ瞬間に端末を振っている人々とオンラインで友達になることもできます。左か右にスワイプし、自分に合う人を見つけ出すTinderと似たような出会いです。
個人やグループでのチャット
Facebookのように個人またはグループでのチャット機能があります。テキストやボイスメッセージ、スタンプ、ボイス/ビデオコール、インサイト共有(6秒までライブビデオが録画できる)、レッドパケットの送信(中国のお年玉のようなもの)、送金(PaypalやApplePayなどのような機能)、ロケーションの共有、グループチャットを作成して人を招待するなど、多くの機能があります。
ステッカー
ステッカーギャラリーは、常に最新のトレンドにあわせて更新されています。この時は当時最新だったアニメ映画の”The Secret Life of Pets”が、最新ナンバー1人気のステッカーとして表示されています。
WeChat Moments
WeChat MomentsはFacebookのニュースフィードのようでもありますが、もっと合理的です。 UIが違うだけでなく、WeChatでお互いに繋がっている人だけがコメントにアクセスできます。
また、サードパーティの広告があなたのモーメントの中に直接表示されることはありません。特定の投稿をクリックし、その投稿の中に広告があった場合のみ、表示されます。
レッドパケット
毎日何千万ものユーザーが、レッドパケット(紅包)と呼ばれる中国でいうお年玉のようなものを、電子マネーでWeChatを通して送り合っています。2016の旧正月の間には、80億をも超える「紅包」がWeChatで送られています。
レッドパケットを通して送られたお金は、自動的にユーザーのWeChatウォレットに転送され、WeChatの製品やサービスの支払いに使うことができ、WeChatでの特別なプロモーションやキャンペーンを楽しめるようになっています。
シェイク
携帯電話端末を振ると、同じ瞬間に携帯電話端末を振っている人がすぐに表示され、見知らぬ人からのグリーティングメッセージが表示されます。
メッセージ・イン・ア・ボトル
ボトルを投げてメッセージを録音することができます。それを拾った人は、あなたのメッセージを聞いてレスポンスを送ることができます。また逆に、世界のどこかにいる見知らぬ誰かからのメッセージをあなたが聞いて返事をすることもできます。
ゲーム
私はゲーマーではないですが、WeChat上でゲームもできてしまうのは素敵ですね。もし、あなたが新しいゲームを作ってWeChatでローンチしたとしたら、どれだけ多くのユーザーにリーチできるか想像してみてください。
2. モバイルバンキングと投資サービス
WeChatは、銀行カードとWeChatアカウントを紐付けできるようになっており、ユーザーは給料の貯蓄プランやローンを組んだり、クレジットカードの支払いなどもできます。
2014年にはWeChatは中国のユーザー向けのオンライン個人投資ファンドをローンチしました。WeChatは銀行よりも金利が良いのです。中国の銀行の支払い利息はアメリカの銀行よりも悪いので、これはかなり重要なことです。
3. ビジネス展開のための公式アカウント
もし、中国でビジネスをする計画があれば、 WeChatの公式アカウントを作ることがブランドマーケティングの初めの一歩となります。公式アカウントは、あなたの会社がプラットフォーム上で顧客と対話するために必要です。
公式アカウントのフォームは3種類あり、サブスクリプション(購読)アカウント、サービスアカウント、そしてエンタープライズアカウントがあります。登録するには、中国のIDナンバーを提供するか、登録済みの中国企業である必要があります。
公式アカウント
サブスクリプションアカウント
もしあなたのマーケティング戦略が、ユーザーにコンテンツを読ませることが中心であれば、サブスクリプションアカウントが適しているでしょう。毎日のニュースや情報の配信に使われます。
企業はユーザーを惹きつけ、飽きさせないようにするために多種多様なコンテンツを作ったり、新製品を見せたり、メンバーにお得なキャンペーンをしたりすることができます。
例:Dior China
8月1日にDior(ディオール)は、WeChatで最高級のバッグを販売した初めてのブランドとなりました。彼らは「Lady Dior」という限定品のバッグ を28,000人民元 (4,210ドル)で販売したところ、翌日には完売したのです。
tmogroup.asiaによれば、WeChatで高級バッグが売れたこと自体初めてで、自分たちの最高級の商品を、実店舗より先にWeChatで展開したブランドも、Diorが初めてでした。
WeChatは「WeChat Moments advertising」というサービスを開始し、どのブランドでもターゲティングが利用できるようにしました。ターゲティングは北京や上海など中国全土にある35都市の携帯ネットワークや端末、ロケーション、興味、年齢、性別から絞り込むことができます。Diorのような高級ブランドにとって、このような新しい広告の試みは特定の地域の購買層にターゲットを絞ることができるので、より価値のある広告を作り出すことができるのです。
例: クーポン
WeChat上の友達にクーポンを送ることもできます。
ある友達はQunar.comという中国のオンライン旅行情報サイトから、私に20人民元のクーポンを送ってくれました。私がクーポンをクリックすると、詳細ページに「Official Account」タブがあり、「Follow」ボタンをクリックするように誘導される仕組みになっています。どのようにユーザーを惹きつけ、WeChatで潜在顧客を生み出すかの良い例です。
4. オフライン・オンラインで利用可能なモバイル決済サービス
WeChatウォレットでユーザーは電子マネーを友人や家族に送ったり、ランチやディナーの代金を割り勘することもできます。
ウォレットに紐付いているカードを使って換金したり、ウォレットの残高を増やしたり、電気代や食料品、ホテルの部屋代などもWeChatを通してオンラインで支払うことができます。
WeChatウォレットでは、セブンイレブンのようなコンビニエンスストアや、カルフールのようなスーパーマーケット、マクドナルドのようなファストフードで、現金や銀行カードがなくても支払いすることができるのです。ホテルや駐車場、さらに北京などの都市では交通違反の切符の支払いまでもが可能なのです。
tmogroup.asia.comによれば、
最近開かれたWeChatペイメントパートナーカンファレンスで、WeChatペイメントに統合されたオフラインの小売店舗数の数は300,000を超えることが明らかになりました。オフラインの小売店舗はWeChatペイメントを通じて同様に利益を得ています。
例えば中国マクドナルドは、2015年一番初めにWeChatペイメントシステムに統合しましたが、現在顧客の30%がWeChatを使って支払いをしています。
あなたはFacebookやWhatsApp上でホテルを予約したり、Amazonのショッピングをするのを想像できますか? おそらくそんなことは考えたことがないと思いますが、この機能はWeChatではすでに存在しているのです。
JD.comは中国のEC企業で、取引高や収益において中国で最も大きいBtoC オンライン小売業者ですが、そのアプリプラットフォームはWeChatにうまく統合し、別のアプリを使うことなく、簡単に検索したり購入したりすることができるようにしています。
まとめ
特にWeChat若年層ユーザーに言えることなのですが、中国の消費者は欧米の消費者よりも、友人や同僚などの仲間の影響を受けやすい傾向にあります。このことは、企業がもっと小さな集団やコミュニティに影響を与えたい場合に、WeChatを使用すべき大きな理由になります。
消費者は製品や企業についてのレビューや意見や情報を集めるためにWeChatを使用しています。消費者は情報をいつも検索で見つけることができるわけではないので、QRコードで見つけなくてはなりません。必ずブランドのQRコードを、店頭、パッケージ、もしくはSNSやウェブサイトで表示させるようにしなくてはなりません。
Economist.comではWeChatの世界を説明している記事があります。一部分を抜粋し、ご紹介したいと思います。
あるアメリカの投資家が言うように、「世界中の人とコンタクトにおいてWeChatは昼夜問わず常に介在する」 のです。WeChatはインターネット上の活動の中継点であり、ユーザーが他のサービスにたどり着くためのプラットフォームとして位置付けられています。Facebookを含むシリコンバレーの企業がWeChatに一目置く理由はそこです。中国と西欧の2拠点で生活をするような人々に言わせれば、WeChatのない生活はまるで少し前の時代に戻ったようだと言います。
西欧の会社がWeChatの成功から学べることは、モバイルインターネットにつきまとう数々の問題を解決できるような会社に、消費者も広告会社もついていくということです。
Facebook Messengerを経営するDavid Marcus氏は、WeChatをシンプルで創造性あふれるものだと言っています。メッセンジャーで物を購入したり、企業とコミュニケーションができるプラットフォームを作るという彼のプランは、聞き覚えのある仕組みですね。
- FacebookのWeChat化、Facebookが出遅れた理由(英語)
- FacebookはどうWeChatに影響され、メッセンジャーをプラットフォーム化する計画に至ったのか(英語)
- 中国が西欧の模倣とは程遠い理由。中国全土でイノベーションが起きている。(英語)
また、New York Timesが制作したWeChatのこんな動画もあります。
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この投稿ではWeChatのすべての機能について紹介することはできませんでしたが、みなさんにWeChatのことを知ってもらい、なぜ中国のビジネスにおいて重要で、中国や世界にどんな影響もたらすのかを理解するのに役立てていただければ幸いです。