「UXデザイン」という領域は、ユーザー体験という目に見えないものをデザインするが故に、人によって解釈もアプローチも微妙に異なってくる、答えのないものです。UXをお仕事にしている方々は日々何を思い、どういったことを実践されているのでしょうか。今回はオンライン英会話サービスを提供するレアジョブのUXデザイナーである向さんにお話を聞いてみました。
向 晃弘(むかいあきひろ)
株式会社レアジョブ、UXデザイナー。新卒で面白法人KAYACにエンジニアとして入社、フルスタックとして活動した後ディレクターに転身。受託案件からソーシャルゲームまで幅広く担当する。その後大手口コミサイトでマーケティングを担当し、現職にジョイン。現在はモバイルのUX設計を中心に活動中。
―まずは、向さんのお仕事について教えて下さい。
株式会社レアジョブはオンライン英会話のサービスを主にやっている会社なのですが、それとは別に新規事業開発部という部署がありまして、僕はそこのモバイル企画のUXデザイナーをしています。Chattyというスタンプ英会話アプリや、最近は「瞬間英単語」という新作アプリの開発と、主に英語関連のプロダクトに携わっています。
今作っている「瞬間英単語」はいわゆるTOEIC受験者に向けた単語帳アプリなのですが、収録されている単語が1.5秒以内に回答できるようになるアプリです。今までの単語帳って結局自分が覚えているかどうか判定出来なかったと思うんですけど、それをきちんと1.5秒以内に回答できたら覚えたことにして、勉強を進めていくアプリです。
新規事業開発部としては僕とブリッジエンジニアの二人でやっていまして、これらの企画・マーケティングからデザインまで、幅広く担当しています。開発は後述しますが、オフショアでやっています。
誰に何を提供するのかを突き詰める
―向さんのお仕事の中で、特に力を入れている部分はありますか?
仕事内容としては幅広いのですが、UXデザインで言うと「誰に提供するのか?」というターゲットやコンセプトメイキングの部分は特に力を入れています。
ユーザーインタビューをしたり、世に出ているアプリから逆算してどういう人が使っているのか考えたり、あとその人たちが使っている別のアプリを見てみたり、彼らが本当に何を求めているのかっていうのをあぶり出すようなことをやっています。ここがずれると一切使われないものを作ることになっちゃうので、最初の段階はかなり時間をかけます。それがわかればあとは発想だけでなんとかいけるので。
それを決めるプロセスに関しては色々試していまして、最近は「上位下位関係分析法」というインタビュー結果から潜在ニーズを洗い出す整理法をやってみたんですけど、これはやっていくうちに必ず答えが出るのでおすすめです。出た答えの妥当性とかは実際にやって検証していくしかないんですけど、決まったら一個ずつやっていく感じですね。
アニメーションまできっちりプロトタイピングする
―向さんの部署はほぼ一人だというお話ですが、アプリの開発はどのように進めているのですか?
開発はオフショアでやっていて、僕の隣のエンジニアがブリッジしながらベトナムのエンジニアが実際に手を動かしています。オフショアだと仕様書をキチンと用意して作ってもらうケースが多いかもしれませんが、僕の場合はそんなに作ってなくて、どちらかというとどれだけ実際のアプリに近いものをプロトタイプとして渡せるかというところを重視しています。
紙に書いた仕様書だと、動きの部分など伝えにくい箇所とかの行間を読んでくれるようなことはしてくれないので、きちんと「こうですよ」っていうのがいかに出せるかがポイントだと思っています。
プロトタイプの作り方としては、まずはペーパープロトをProttに取り込んで画面遷移を作って、大体の確認ができたらそれのデザインをして、デザインをアニメーションで動かす段階ではProto.ioで作って確認する、といったところです。
動きはかなり肝になってくるので、アニメーションが作りやすいProto.ioはもう、かなり使いこなしています。オフショアの場合、最初にプロトを渡す段階で妥協すると後にツケが回ってくるので、ミスが出来ないんですよね。なので最初にしっかり検証して作っていきます。
一人からはじめたUX
―お仕事で苦労したエピソードなどはありますか?
僕はエンジニアからキャリアをはじめて、その後ディレクターに転身するなど、今まで色々な職種に携わってきているんですけど、各職種の成りたての時っていつも一番苦労するんです。どこから始めたらいいのかわからなくて。今も「UXデザイナーって何?」というのがあって。巷のUXの議論ってチームでやるものを前提にされていたりして、でも僕は仲間がたくさんいるわけでもなく、一人で進める事が多くて余計にどうしていいか分からなかったんですよね。
そこでどうしたかというと、ちょうど『一人から始めるユーザーエクスペリエンス』という本を見つけたんです。これだ! と思ってすぐに読みました(笑)。一人でも、いかに周りの人を巻き込んでプロジェクトを進めるかみたいな話があるんですが、これを読んでから僕も自分でデスクじゃなくて、皆が通る道の横で作業する、みたいなことをし始めました(笑)。オフィスの休憩スペースでやったりして。今日もプロトタイプとかを集まってきた人にやってみてもらったりしていました。堅苦しくテストしてないので、辛辣な意見とかもしれっともらえます。
何かを始めるときにどうしていいかわからない時は、一旦基本的な所から従ってみることにしています。よく映画とかで基本を守らないで応用ばかりやりたがるそんな強くない弟子とかいるじゃないですか。でもそういう奴って基本を知った途端強くなる(笑)。基本は大事ですし、そういう意味では『一人で始めるユーザーエクスペリエンス』はすごくいい本だと思います。
ユーザーが本当のことを言うとは限らない
―他におすすめのフレームワークや、実践している手法などありますか?
例えば、お知らせのポップアップを出すときに、ポップアップがパッと出てくるのか、アニメーションでボヨーンってなるのか、どっちにするかって判断するタイミングがあると思うのですが、その答えを見つけるのは結構難しい。
で、本当にその機能がいるかいらないか、ユーザーにアンケートを取ったりすると思うんです。どう取ったら一番効果的か、調べていく中で出会ったのが「狩野法」というものでした。
狩野法のアンケートってすごくわかりやすくて、ユーザーの本当の気持ちがわかるようになっているんです。「この機能があったら満足か」と「この機能が無かったら不満か」のように似たような質問を聞いていき、矛盾が発生すると「懐疑的解答」となって、それは参考にならない解答ということになります。SPIのような適性テストに近い感じです。取ったアンケートの情報整理にすごく役立ちます。
UXデザイナーをやっていて思うのは、人は本当のことを言ってくれるとは限らないので、いかに真実にたどり着くかが大事だということです。人は誰でも矛盾を必ず抱えているものなので、そういう意味では狩野法のアンケートはすごくお世話になっています。
「貴重な時間」をデザインするということ
―向さんにとって、UXデザインとは一言で表すとなんですか?
僕の中ではユーザーの「貴重な時間」をデザインするのがUXデザインと思っています。
UXってユーザーの時間を奪っている訳で、皆限られた時間の中で生きている。なのにその貴重な時間を使って、自分のプロダクトを使ってくれるわけですから、それはきちんとデザインしてあげないといけないと思っています。
逆に「ダメなUX」っていうのは他人の人生を無駄にしているということになるので、常にそれを自分に言い聞かせつつ、より良いデザインを提供できるようにしたいです。
Q.家族や友だちに自分の仕事を説明するとしたら?
「いいものを作ろうとがんばっている人だよ」って言います。もうちょっと深掘りされたら「なんかアプリとか」って言うですけど、だいたい話終わっちゃいますよね(笑)
Q.今注目している技術は?
VRですね。前にOculus Riftを着けた時に没入感がすごくて、自分のイメージを超えた体験ができるってのはとんでもない世界だな、と。うちの事業で言うと、室内でもヘルメットかぶれば外国、みたいな室内留学とか、もう遠くない世界だと思います。
冒頭でご紹介した、向さんの作ったアプリはこちら!